【感想・ネタバレ】晴天の迷いクジラ(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

4匹の迷いクジラたちのストーリーでした。皆の根本的な問題が解決した訳ではないけど、とりあえず生き抜こうという前向きさが良かったです。

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2023年12月02日

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由人、正子、野乃花それぞれの短編があり、最後の章でそれぞれと関わりある周りの人々との話がある連作短編のような1冊。突拍子もなく登場したクジラが、最終的にはクジラでよかった、クジラくらいの衝撃があったからそれぞれ前に進めたんだなと思えた。
血の繋がりは家族になるのに関係なくて、自分にとって居心地がいい場所が実家になるんだなと感じた

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2023年09月10日

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久々の窪さんの小説。多分17冊目。何故かこの作品は読むタイミングを逃していたようで…。

この小説の主人公3人のように人生に絶望して生きる気力を無くした経験はないけれど、3人の辛さ、孤独感、絶望感がひしひしと伝わって来ました。

1番身近な家族がきっかけだった場合は逃場がなくどうしようもないですね。少しでも早く離れて暮らすことが良いのでしょうが…。この小説のように赤の他人でも心配してくれる人も話を聞いてくれる人もいる。湾に迷い込んだクジラのように生きる事と死ぬ事の間で揺れ動く3人の姿を上手く描いていたと思います。

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2023年08月05日

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死にたい人たちのための希望の本
それぞれ思い悩んで、重い傷を抱えてある日死が身近に見えた時人間はどうやって行動するんだろう

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2023年05月17日

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何でもいいから、とにかく生きてさえいてくれればって残された人の気持ちも、
3人の主人公みたいに、過去の後悔は抱え続けるものなんだろうし、何かある都度思い出されるものなんだろう。
しんどい時に、死ぬなよって言ってくれる人とか、そのままでいいって思える場所とか、これをやりたい!っていう情熱とか、
そういうもので何とか自分を死なせずにやっていこうって思える人が増えますように。

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2023年04月28日

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自殺志願者がクジラを見に行く話し。
読み終わったあとに良かったなあと安心出来た、心温まる作品。
ぜひ皆んなに勧めたい。

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2023年03月04日

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色々なキズがある3人。
誰でも浅いキズはあるが、同じくらい深いキズを持っている人が生についても死についても教えてくれた。
自分の存在意義を確かめたい、守りたい気持ちや、自分のマイナスの沼に落ち続ける気持ち、何からも結局は逃れられない辛い気持ち。
そんな気持ちを表現しつつ生について、生きたいと思う気持ち、死ぬなよ、と伝えたくなる気持ちを心から出してくれる素晴らしい作品だと思います。

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2022年10月14日

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何らかの理由で傷ついてしまった人間に対して、何があってもその生存そのものに価値があることを伝えたいという、執筆への強いモチベーションを感じた。
ただし、窪美澄さんのそれは生半可なものではない。他人の生にかけがえのない価値があることを伝えるためには、自分自身の生のかけがえのない価値こそを理解していなければいけないという、優しさとも厳しさともとれない、窪美澄節あふれる人間讃歌だった。「ベイビー・ドライバー」にも近い問題設定だと感じた。

僕は連作短編というフォーマットがあまり好きではない。本来独立した短編だったものが、連関のない人物の生を描いているのにも関わらず、書籍化される際に取ってつけたように書き下ろされる最終章で、なし崩し的に教訓めいたテーマが与えられてしまう気がするからだ。それは、たとえ優れた短編であったとしても、一本ではマネタイズができないから、出版社が作家の意向を無視して、物語の読まれ方を捻じ曲げて”一冊の商品”として結合してしまっている気さえする。

それがこの本に関しては、(巻末の書誌情報を眺める限りではだけれども)本来関係のなかった複数の人物について書かれた別々の短編が、描き下ろしの2章を付け足すことによって、先述の”窪美澄の人間讃歌”という通奏低音に基づいた、新しい長編になっていると感じる。それが署名になっている”クジラ”という生き物をめぐって結びついていく。
作者にも、編集者にも、そして制作に関わった人間すべてに、深く愛されながら世に問われた本なのだろうと思った。

自分の人生に投げやりになってしまいそうになったときに、折に振りて読み返したいと思える本にまた一つ出会えて、幸せな読書体験だった。

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2022年10月13日

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ネタバレ

家族
これは、人が生まれながらにして得られる初めての人間関係である。

この物語は3人の主人公を軸に展開されていく。
3人に共通して言えるのは、家族に関する問題や喪失感を抱えていること。
本作において特に印象的だったのは、「家族の問題」。
「親ガチャ」という言葉があるように、その人の今後の人生を左右するのは家族の存在だと考えている。
親ガチャを失敗した人にしか分からないだろうが、親の言動は、子が生涯抱き続ける「価値観」に影響するのである。
私自身、親ガチャに失敗した身である。
20歳になると同時に連絡を遮断し、今や両親は私がどこに住んでいるのかでさえ知らない状態なのだ。
距離を置くまで、20年間悩み続けた。
正子や由人がそうであったように、親は子にとっての「世界」そのものであり、無条件の愛を求めてしまうのである。
大人になるにつれてその魔法はとけるが、親と離れることを決断するのは、それまでの自分の時間を否定するのと同じことなのである。
さらに、例え距離が離れたとしても、親が自分に植え付けた価値観や思い出は決して離れてはくれない。
私たちは生涯これと共に生きていかねばならない。

とはいえ、考えに考え抜いて魔法がとけたときには、自分の自由さや身軽さを知るのである。
初めて本作を読んだ、中学生の自分に教えてあげたい。
もうすぐで魔法はとけるよ、と。

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2022年08月04日

購入済み

迷える者、含む私

いくら頑張ってもかなわないこともある。
都会でも田舎でもそれぞれに苦しみがある。
クジラもたとえ海に戻っても
生き延びられるかはわからない。
人間も遅かれ早かれ死ぬともいえる。

でも、たとえ死がすぐそこに近づいていても
別の生き物でも、
見知らぬ人でも
誰かが少しでも自分がいることを
ほんとに少しでも認めてくれたり
ちょっとでも意義を感じてくれたら
しのげる。
誰かに自分を否定されても
また誰かが自分の何らかの面の
良さに気づいてくれることもあって
しのげることがある。

人間は弱くて正しくないから
自分や他人を不幸にするけれど
そのくせ、また自分や他人を求めたり
気にしたりする。

それに
その肩に乗っているとも思える
すでに死んでしまったり
別れてしまった人たちを感じながら
自分たちの弱さに
本当に怒りを覚えて
生きている者の役割を
思い出したりする。

短絡的な性や生の描写には
そんなに馬鹿ではないとも思うが
といっても自分もそんなに正しくない、
違った種類の似た効果の失策を
したりされたりしている
とも思えるから
この迷える人たちと
自分は同じ面を持っていると
思う。
迷える者、含む私、だ。

#切ない #タメになる

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2022年04月29日

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総じて面白い作品だったのですが、あまりに登場人物の苦悩が生々しく描かれているのでちょっとネガティブな印象は受けるかもしれません、その意味でやや好みが分かれる作品かと思いますがとにかく文章がきれいで引き込まれました。
少し長いですがガッツリとした読み応えを求める人にはおすすめの一冊です。

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2024年02月23日

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ネタバレ

不器用ながらも一生懸命に生きて、過ちを犯して、傷つけられて、傷つけた、察するに余りあるほどの3人(本当はおばあちゃんと雅治の2人も入れたい)が出会い迷いクジラを見に行く。
ク、クジラ、、?!?!

なんとも意表をつく展開で唯一無二のストーリー。そこをすんなり受け入れてしまえるのは、全てにおいてリアリティがすごいからだと思う。全ての登場人物が本当に実在するかのような、温度と痛みを抱えている。

もうダメかと思ったクジラが、もがきながらもう一度海へ帰っていく。その後、どれだけ生きるか、そんなことは分からない。クジラを人間と同じように考えてはいけないという、身近にいたらめんどくさそうなクジラ博士の言葉が真理である気がして胸に残った、けど。それでも、人間だから人間としての心でクジラを見た時に、やっぱり希望をもらうんだよね。重ねてしまっていいじゃない。クジラに勇気をもらった人たちが少し日が差し始めた明日へと進んでいく。それぞれにまだまだ課題は山積みのままで。なんなら何も現状は変わっていないのもしれないけど、それでも一つ大切なものを握りしめた3人が!さわやかな読後感。後書きも素晴らしかったです。

一つお願いが。↓
若本先生に連絡してあげてほしい・・・今もきっと心配しているだろうから!

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2024年02月19日

Posted by ブクログ

2023/12/29

死のうかなと思った由人。死にたくなってしまった野乃花と、死なせたくない由人。死にたくなってしまった正子と、死なせたくない野乃花。
自分が死にたくても、死んで欲しく無い人はいるんだよね。
鯨を見に行く3人。

野乃花の人生がやり切れなかった。高校生に手を出す成人は総じてダメ男。

正子の人生も涙が滲んだし、リストカットの描写が胸が痛かった。かまってちゃんで切ってるわけじゃ無い。

人の人生、何があったかなんて外からはわからない。

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2023年12月29日

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生きる意味を失い、生きる気力を無くした三人それぞれの苦悶に胸が苦しくなったが、クジラを見に行くというきっかけで三人が行動を共にし、現地の人々のやさしさのなかで三人の絆が強まっていく様子と、もう一度前に進んでみようという心の動きに感動した。生きることで失う悲しみや苦しみも味わうはめになるけれど、新たな光を見出し大切な何かを得ることができる。生きることが許される限り強く生き続けていこうと思わされる作品だった。

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2023年11月25日

Posted by ブクログ

再読本。
生きづらさを抱えた主人公3人の半生と、その3人が一緒にクジラを見に行く旅を描いた小説。

3人それぞれが生まれ育った環境や日々の生活で感じる息苦しさの描写が詳細でリアリティがあり、一度読んだことがあっても、読みながらこちらまで息苦しいような感覚になる。
浅瀬に迷い込んで弱っていく傷だらけのクジラの描写が、傷つき途方に暮れる3人と重なるように思えた。
明確な希望や救いがあったわけではないけれど、とにかく生きてほしいという強いメッセージを感じる、清々しい終わりだった。

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2023年09月17日

Posted by ブクログ

様々な理由で生きることを止めようとした3人が、一緒に過ごすことでそれぞれが生きる意味を見つけて行く。
触れ合った人達がくれる優しさの大切さを感じさせてくれる作品。

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2023年08月31日

Posted by ブクログ

はじめにほのぼの系のストーリーが読みたくてタイトルからこの本を手に取ったが、全く想像と違ったストーリーでしたが、凄く面白かったです
三人の主人公がそれぞれに悩みを抱えて生きてきて、もうどうにもならなくなった時に奇跡的に出会う、それから良い方向にやっと話が進み始める
どうしようもなくなった時に安易に自死を選ばずになんとか踏ん張って欲しいと願った
最近大阪でもマッコウ頑張って迷い込んで死んでしまったので特に印象に残った

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2023年06月03日

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出版が2012年!そんなに昔だったか。
有給の穏やかな朝、ぐいぐい読み進めて充実した休日となった。
双子の部分がすごく好き。

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2023年05月25日

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あなたは、『迷いクジラ』を見たことがあるでしょうか?

かつて給食に当たり前のように登場したとも言われるクジラ肉。しかし、今の世でクジラは、”捕鯨は是か?否か?”という問題と背中合わせに語られる存在となってもいます。調査の名の下に続けられる捕鯨、その一方でそんなクジラが泳ぐ姿を見ることを楽しみとする”ホエールウォッチング”を観光の目玉とする場所もあるなど、私たちがクジラとどのように接していくべきかは国によっても、そして人によってもさまざまな意見の中にあるのだと思います。

そんな中で時々ニュース報道に登場するのが座礁したクジラの存在です。”何らかの理由により、クジラ類が浅瀬や岩場などの海浜に乗り上げ、自力で泳いで脱出できない状態になること”を指す”座礁鯨”という言葉。映像や”ホエールウォッチング”でしか見ることの叶わないそんな巨体をまさかの身近に見るその機会。動物一頭の話にも関わらず、テレビのニュース報道に大きく話題が割かれるのは、非日常の存在が日常の中に現れる違和感、そのことによる興奮、そんなところもあるのかも知れません。

さて、ここに湾内に紛れ込んだ一頭のクジラが物語を象徴的に演出していく作品があります。『クジラの座礁なんて、はるか太古の昔から起きていたこと』と説明される事象が目の前に起きる中に人々の興奮冷めやらぬ様を見るこの作品。そんなクジラを見る主人公たちのそれぞれの人生に、この世を生きることの悩み苦しみを見るこの作品。そしてそれは、そんな物語の中に、『生きる』ということに想いを馳せ、それでも『生き』ていく人たちの姿を見る物語です。

『二階の部屋のベランダから飛び込めるほどの近さに釣り堀が見えたから』という理由で『築三十年以上は経っている古ぼけた』アパートに暮らすのは主人公の一人・田宮由人(たみや ゆうと)。『水のそばに住むこと』が『精神状態にいくらかの安定をもたら』してくれると思う由人が『日曜日。午前〇時』という時間に釣り堀を見ていると『携帯が光』ります。『野乃花ちゃん行方不明。連絡つかない』というメールは『会社の先輩である溝口から』でした。『携帯をベッドに放り投げ』、『ベッドの上に体を投げ出』す由人は、『最後に見たミカの顔や、もうこの世にはいない祖母の顔』を思い浮かべます。そして、『ソラナックスとルボックス』、『由人の心を支え』る『二つの錠剤』を飲む由人は、『去年の十二月』にベッドの上でミカに告げられた『星占い』を思い出します。『来年は由人にとってショッキングな出来事がいろいろ起こる』、『最終的にはぜんぜんまったく大丈夫』、そして『その体験を糧にして、ひとまわり大きく成長していく』というその占い。『どんなことが起こってもミカさえいれば大丈夫』と思う由人でしたが、『年明け早々』『祖母が亡くな』りました。『三人兄妹のなかで』『由人を、いちばん可愛がってくれた』という祖母の葬儀に出た由人は『疲れと哀しさと緊張と、胸のあたりを大砲で吹き飛ばされたような喪失感』を抱きます。そして、『喪服を着たまま』『ミカのマンションに向かった』由人は、『緊急のとき以外、勝手に部屋には入らないでほしい』と言われて渡されていた『合い鍵』で中へと入りました。電気が消えた室内で、『寝室のほうから、かすかに音がし』、向かうと『子猫のような声が聞こえ』ます。そこには、『それぞれにイヤフォンを装着し』てつながりあうミカと男の姿がありました。『ビニール袋が由人の手からすべり落ち』た音で『ミカが驚いた顔をして』振り返ります。『なんで』と『やっとの思いで言葉を発した由人』。その日以降、『仕事の合間を縫って、何度もミカの携帯に電話』をするも連絡がつかないために待ち伏せした由人に『合い鍵を返して』と言うミカは『仕事、仕事って、あたしのこと、いっつも一人にして放っておいて…』と言い、『今度は浮気じゃないからね』と言うと扉の向こうに消えました。主人公の一人を務める中島野々花(なかしま ののか)が社長を務める『デザイン会社』で働く由人。迷いの中に生きる由人が思い悩みながらも生きていく日々が描かれていきます。

2023年1月、大阪にある淀川の河口付近にクジラが迷い込んだというニュースが流れました。潮を吹いている様子がテレビでも大きく報道された体長8メートルにもなるというクジラ。そんな中に、新年五冊目の作品を探していた私は、これまた全くの偶然に「晴天の迷いクジラ」という作品があることを知りました。あまりに運命的なものを感じてしまい、大急ぎで手にしたというのがこの作品の読書&レビューまでの経緯です。私の選書は女性作家さんの作品を三冊セットで選んでから読み始めます。そんな選書はその作家さんの作品リストをじっと眺めて、書名とページ数(笑)から直感で決めるため、今までになかった選書パターンとなりました。今後、私にとって、この作品のことを思い出すたびに大阪・淀川のクジラのことをセットで思い出すことになるだろう、そんな印象深い作品となりました。

ということで、まずはそんな選書の起点ともなったクジラに関することから触れていきたいと思います。たまたま大きくニュース報道されるタイミングだったこともあって、クジラが河口に迷い込むということの背景事情について図らずもニュースでさまざまに知ることができた私。この珍しいタイミングの読書ということもあって、この作品のクジラ登場の記述がやたらリアルに感じられるという予想外の演出効果の中に読み進めることができました。『東京からずっと離れた南の半島で、クジラが小さな湾に迷い込んだ』というこの作品の背景。そんな中で、このような浅瀬にクジラが現れることの意味、クジラにとってのそのことの危険性がこんな風に説明されます。

『クジラには人間のような皮膚の角質層がないから、浅瀬に座礁して空気中にさらされると、火傷をして剝がれてしまう』

魚ではなく、私たちと同じ哺乳類にも関わらず海に暮らす生き物であるクジラならではの、私たちとも違う側面に驚かされます。また、こんな風に迷い込む理由について、いろんな説の中からこの作品ではこんな説明がなされます。

『マッコウクジラとかのハクジラ類は、自分から超音波を発して、反響してきた音を聞き分けて、海と陸の区別をつけ』る。『どこまでが海でどこからが陸なのか』。しかし、『内耳っていうところに寄生虫が入り込んでしまうことがあって、それで反響した音を聞けなくなって、座礁してしまうといわれている』。

なるほど、海に帰りたくても帰れない、そんな可能性もあるのかと納得感のある説明です。であれば、素人考えとして『ロープとかくくりつけて引っ張』るということが思い浮かびます。しかし、

『クジラにロープをかけて小型船で引っ張っ』た、『だけど、途中でクジラが暴れて転覆して』、『それで亡くなった人もいた』

自然界の生き物、そんな生き物を、人の安易な発想で簡単にコントロールできるほど甘くはないのだと思います。また、この作品ではこんな視点も語られます。

『一頭や二頭のクジラ助けて、海に帰したところで、生態系にはなんの影響もないもの。クジラが感謝するわけでも、ましてや地球が感謝するわけでもない』。

なるほど、このように『迷いクジラ』として感傷的になること自体、人間の思い上がりとも言える行為なのかもしれません。ちょうどリアルにクジラが迷い込んだというニュースが大々的に報道されている中にこの作品を読めたことで、一方的に流れてくるニュースに別の視点を加味することができたように思います。結果、この作品の『迷いクジラ』登場のシーンをとても感慨深く読むことができ、読書にもタイミングというものがとても重要だと改めて思いました。

また、この作品には読み進めていく中で印象的な幾つかの文章が登場します。二つご紹介します。

・『自分が見ていたのはライチの、あの茶色い、ゴジラみたいに硬い皮の部分だけだったのか。そのごつい皮の下に白い実があることなんて、ちっとも知らなかった』。
→ 『デザイン会社』の社長としての野々花の姿しか見てこなかった由人が、彼女が見せる全く別人のような側面を垣間見る中にこの比喩が登場します。そんな由人はこんな風にも思います。『自分はミカが持っているかもしれないその実の部分にたどり着いたのだろうか』。恋人だったミカの全ての側面を見れていたのかと由人が振り返るなんとも印象的なワンシーンです。

・『あじさいの葉の上にいるかたつむりの歩みを、野乃花は連想した』
→ すみません。引用する場面は濡れ場シーンからです。『ひんやりとした○○の鼻先と、それとは正反対の熱い舌先が、ゆっくりと股の間を移動した』という場面で登場するこの表現。窪美澄さんと言うとデビュー作「ふがいない僕は空を見た」の激しい性描写に度肝を抜かれました(笑)が、この作品はそういう方向性ではありませんので、ご安心ください(何を?笑)

このようにサラッと登場する比喩表現にも魅せられながら読み進めることのできるこの作品。そんな作品は、四つの章が連作短編のように構成されており、第一章から第三章までに、三人の主人公が一章ずつ、視点が移りながら登場していきます。そんな三人の主人公をご紹介しましょう。

・田宮由人: 24歳。『北関東の農家の次男』として、看護婦をしていた母親の元に誕生。『体の弱いお兄ちゃんと小さな妹』を大切にする『お母さんチーム』に対して、三人兄妹の中で唯一『おばあちゃんチーム』で育つ。追われるようにして上京。専門学校時代に『親が金持ち』のミカと出会い付き合うも不穏な気配が…。『デザイン会社』で『下っ端』として働くも暗雲立ち込め…。

・中島野々花: 48歳。漁師の父親と、『心臓病を抱え』ながらも缶詰工場で働く母親の元、『掘っ立て小屋のような』家で育つ。『物心ついたころから』『絵を描くことが好き』なものの大学進学はままならない中に、学校教師の紹介で『絵画教室』に通うようになる。さまざまな展開を経た後に上京。『デザイン会社』を興し社長を務める。由人を雇うが、経営に暗雲立ち込め…。

・篠田正子: 16歳。全国転勤を繰り返す家庭の次女として誕生。『細菌性髄膜炎で生後七カ月で死』んだ姉がいた。母親はその死にいつまでも囚われ、正子に『良い子にならないとだめなのよ』と言い、『お母さんを大事にしてあげないと』と繰り返し正子を諭す父親の元に育つ。『午後五時という門限』の中に高校生活を送る正子は、その生活自体に違和感を感じていきます。

三人の主人公たちは、男性一人、女性二人、そして十代、二十代、四十代と、全く異なる世界をそれぞれに生きています。そんな三人の接点は、上記の通り、野々花と由人は社長と社員という繋がりがあります。一方で、三人目の正子との繋がりですが、これを書くのはネタバレ?なのか?と一瞬思いましたが、内容紹介にこんな風に説明されていますので、そのまま触れておきます。

“デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う”。

図らずもクジラとの接点までもが内容紹介に語られていますが、だからといってこの情報を事前に知ったとしてもこの作品を読む醍醐味は全く薄れません。それよりも三人目の主人公と正子が出会う、その運命の出会い、内容紹介で”拾う”とサラッと触れられる場面を逆にワクワクした感情の中に読むことができます。三人の主人公たちが行動を共にし、クライマックスのクジラを見る場面が登場する第四章へと繋がってるいく物語展開は、それまで鬱屈とした読書を強いられた読者にとっても、まさしく光を見る展開です。

『ぐるぐるとした同じ迷路。迷っているのはクジラと同じだ、と正子は思う』。

生きることに後ろ向きになる三人の主人公たち。
浅瀬へと迷い込み命の危機と紙一重な状況に陥るクジラ。この両者は一見なんの関係もない存在です。窪さんはそんな両者を巧みに重ね合わせていきます。そんなこの作品に込められた想いを“みんな精一杯やっているんですよね...。 でも、なんとなく歯車が合わなくて、上手くいかないことも多くて”と語る窪さん。そんな窪さんは、”もし自分が辛いのであれば、どう生きようかと難しく考えるよりは、とりあえず明日まで頑張ろうと感じられたら、それが良いかなと思います”とこの作品に込められた想いを続けられます。内容紹介からは決して見えない奥深いドラマがそこに描かれるこの作品。『迷いクジラ』という象徴的な存在を物語に登場させた窪さんの深い思いがそこには描かれていたように思いました。

『私たちクジラ見に行くんだけど、いっしょに行かない?』

そんな言葉の先に、それまでそれぞれに死と対峙していた三人の主人公たちが『クジラを見に行く』という行動を共にする様が描かれるこの作品。そこには、三人の主人公それぞれが抱える人生のドラマが丁寧に描かれていました。年代も境遇も全く異なるそれぞれの主人公が生きてきた人生が描かれる中、あまりの閉塞感に鬱屈とした思いに苛まれるこの作品。ニュース報道もされる『迷いクジラ』という存在についてさまざまな思いが去来するこの作品。

さまざまなことが起こる人生の中で、私たちは何を大切にすべきなのか?光差すその結末に一つの大きな示唆を与えてくれた、そんな作品でした。

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2023年05月13日

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ネタバレ

いい話
こういう救いのある話は好き
欲を言えば野々花は娘と再会してほしいし、ミカがもうちょい優しくてもいいけど、そこまでいくと都合良すぎだからちょうどいいのかも

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2023年04月22日

Posted by ブクログ

だいぶ前になるけれど、当時の職場のそれなりの年齢の女性たちの(しかも離婚率やや高め)ランチタイムの時、人生いつからやり直したいかという話題になり、「卵から」と答えて爆笑されたことがある。ウケを狙った訳でなく、本気だったんですけどね。読んでいて、そんな懐かしい事を思い出しました。
主人公は三人。一人目は、母親が長男を溺愛するあまり、家族が崩れていった次男の由人。二人目は、海辺の貧困家庭に生まれ、絵の才能を持て余しながら、絵画教室の教師の子供を18歳で出産し、育児放棄して家出した野々花。三人目は、長女を乳児で突然亡くた母親から異常な愛情と管理を受ける女子高生正子。
東京という都会に飲み込まれながら三人は格闘してきた。彼らは限界を感じ都会の迷子になる。そして、入江に迷い込んだクジラに会いに行く。
格別不幸そうな三人でありながら、自分に友人に近しい誰かに重なってくる。その誰かのどこかに感情移入しながら読ませてくれる。
入る事は容易でも、抜け出す事は難しい。
迷ったクジラを助けようとする人がいるように、彼らの出口も見えてくる。
いろんな事を思い出して、残像が残る様な作品でした。

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2022年10月24日

Posted by ブクログ

ネタバレ

初窪美澄。
全体の3分の2が登場人物3人の辛い人生を描く事に費やされて読んでるこちらも辛くてしょうがない。最終章でカタルシスが得られるんだと自分に言い聞かせながら読み進めて…
最後、あぁよかった、みんな生きてた。読み終えたらちょっと悲しくて、でも元気がもらえたいい小説でした。

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2022年09月16日

Posted by ブクログ

初美澄。デザイナーの由人、その社長・野乃花、そしてJK正子。構成としては在り来たりだが、各章一人づつ丁寧に描写(主に絶望)されていくので、巧く物語に引き込まれた。最後の章ではそんな三人が鯨を見に行くという——。自殺を通し、"生"そして命について描いた作品だろうか。正子の母が一番狂気じみていて怖かった…。暗くなりがちな題材だが、鯨のおかげか(?)読後感は良い。星四つ半。

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2022年06月11日

Posted by ブクログ

まず、私たちはよく見た目で判断しているけれど、その人のことを見た目と話した感じだけで判断するのは違うと思った。
幸せそうにしてる人だって本人は幸せじゃないかもしれないし、辛そうにしてる人がほんとに辛いかも分からない。
人間誰しも人に簡単に話せない闇を持って生きていると思う…
でも、ほんとに辛いなら今の現状から逃げたらいいし、急にクジラを見に行ってもいい
何か変わるのかもって期待を持って行動して、辛い日々を少しでも忘れる瞬間があるのならそれでいいと思いました

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2022年05月15日

Posted by ブクログ

ネタバレ

人は人生の長短に関わらず生きているのが嫌になる瞬間がある。エアポケットのように唐突にはまってしまっった、社長と従業員、道端で拾った女子高生。この3人の再生の物語。家族というのは期待や心配という鎖で縛ってみたり、血の繋がりしかない放棄や放置してみたりと中々厄介な存在ではある。理解して欲しい、理解したい。だけど、理解なんてできないのは家族で、人生の迷路に迷い込んだ3人の出口はどこにある。「あいつもなんか、迷っちゃってんですかね」

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2023年11月19日

Posted by ブクログ

誰が誰を助けたとかそういうことじゃなく
人は結局は自分で行動して少し先の未来を変えていくんだと思った。

それぞれが辛い思いをしてここまでやって来た。
どこにもぶつけられない気持ちを抱えて。

クジラが海に帰れたとしても、生き延びることができるかどうかはわからないのと同じで
その選択をしたからと言って、いい未来が待っているかどうかは誰にもわからない。
でも、ほんのちょっと先の未来がよくなりそうなら
やってみてもいいんじゃないかなと思う。

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2024年04月21日

Posted by ブクログ

絶対に死ぬな。生きてるだけでいいんだ

セリフとしては月並みなひと言かなと、
抜き書きして今思うけど、小説の中でこの一節を読んだ時、涙出そうになった。

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2023年10月23日

Posted by ブクログ

ネタバレ

うーん、残念。何だか合わないなあ。

3人の自殺願望者がすんでのところで思いとどまり、ひょんなことから一緒になり、遠方の浅瀬に迷い込んだクジラを見に行くという話。自死を思いとどまり、何とかやっていこうという光明を見出して終わり、という感じ。

・・・
この3人のそれぞれの話があり、独立して章が設けられています。これらはディテールに富んでおり、ドラマあり、読み物として面白かったと思います。

由人。田舎出身・三人兄弟の真ん中、母親からの半ネグレクトの末、東京で道を見つけるも自らをすり減らすデザイナー。ちなみに素敵な彼女に振られる。

野乃花。絵の天才と持て囃されるも赤貧の幼少時。高校の教師にすすめられた絵画の先生と関係を持ち18で妊娠、絵画の先生は政治家となるも、家と育児に馴染めず東京へ出奔。必死で生きてデザイン会社を興すも、最終的に倒産。

正子。死んだ姉を持つが、その死が母を過保護な毒親にしてしまう。生活のほぼすべてが母親の管理下にあり、正子の鬱屈した気持ちは高校で爆発。気持ちを理解してくれた同級生の双子の兄妹の忍は病気でなくなり、その同級生も忍の死後引っ越してしまう。自分を理解する人はいなくなる。

・・・
ここから、おそらく鹿児島県辺り?と目される地方へ浅瀬に迷い込んだクジラを見に行く、そしてそのことで由人が理性のかけらで自殺をしてはいけないということから、先ずは野乃花と寄り添い、そして偶然にその後正子と遭遇します。

なんだろう。このあたりの出来すぎ感・偶然を装う必然のような展開が、個人的には今一つに感じました。
地方の人が偶然家に招待してくれる、そこのオバアさんの暖かい歓待、その家の抱えた悲劇、そして3人の回復。

そんなにうまくいくのか?仲間も地方の方も人が好過ぎやしないか。都合よくできていないか。毒親の元に正子は帰れるのか。等々考えてしまいました。

人の可塑性が高いのはよくよくわかりますが、何だか感動させようとした?みたいな疑念すらすこし湧いてきてしまいました。

もちろん、心を病んだことのある方にとってはビビッドでリアルなのかもしれません。第一章のタイトルは「ソラナックスルボックス」で、これは解説で白石一文さんも指摘していますがうつ病のクスリらしいです。その苦難を通ってきた方は首肯しながら読めるのかもしれません。
ただ私は残念ながらでは無かったです。

・・・
ということで、初の窪美澄さんの作品でした。

個人的には今一つ合わなかったのですが、『52ヘルツのクジラたち』のように、陰→陽への回復、他社理解、絆、みたいなテーマが好きな方には合うのかもしれません。あとはYA系を読みたい方にはお勧めできるかもしれません。

他意はありませんが、偶然にもクジラつながり。

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2023年07月23日

Posted by ブクログ

正確に書くと星3.3。
暗めの、人間を描いた作品。三人の主人公が登場するのだが、どの人物の人生も波乱で前の3篇はご都合主義じゃない感じ。
どの話も、そこで終わりか…となった。
もうちょっと明るい作品だと思っていた。

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2023年04月28日

Posted by ブクログ

苦しくて暗い話だけど最後は希望や元気をもらえる作品。

親が押し付ける歪んだ理想や、家庭内の不和などから居場所が得られず生きてきた3人。

違う生き方を模索しても親友の死や倒産、恋人との別れなどで再び孤独になり、心が折れてしまう。

希望を失うには十分すぎる体験を読んでいると胸が苦しくなる。

全てが好転するわけではなく、この物語のあともどうなるかはわからないが、

それぞれの孤独がやわらぎ背筋を伸ばしてリスタートを切る姿で終わったのでよかった。

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2023年04月22日

Posted by ブクログ

なんかあんまり覚えてない。印象に残らないお話だったのかな。でも、読み終わったあとは、曇った空が少しずつ明るくなってくるような気持ちになる(空は曇ったままだけど)、なんかそれが窪美澄さんの作品だよなぁ

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2022年03月05日

匿名

購入済み

読みやすいです

窪さんの作品は読みやすく、本の苦手な私でも本の中の世界に引き込まれます。
途中まで丁寧に描かれていますが、結末があっさりしていて、少しガッカリします。

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2020年09月04日

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