【感想・ネタバレ】カウントダウンのレビュー

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年05月17日

お笑い好きだし読んでみよーって軽い気持ちで読み始めたらものすごい心に響いちゃって何回も泣けるところがあってめちゃくちゃ好きな本に出会ってしまった!。(疲れてんのかな…笑)

特に無関心に見えた小春のお父さんが実は愛に満ち溢れていて獅子のように力強い人だと気づいたところは泣けた。そしてラストの漫才シー...続きを読むンは胸熱。多くの人に認められて、くみの厳しい親父も素直ではないけど小春たちの漫才を認めてくれて本当に良かったし、何よりも小春が父とよく行っていた寄席にスカウトされてそこで漫才できることになり、そこにお父さんをさらっと招待するという完璧な流れ。最高だった〜。これからも頑張れ大春小春。

人生いろいろあるけど、やっぱり夢を追って努力し続けることが大事。ほんとつらいこといっぱいだし夢だったはずの今の仕事が小春とウメほど本気になれることなのかわかんなくなっちゃってるけど。
それでも夢を叶えることができるからこそ人生だ。

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Posted by ブクログ 2024年03月13日

あなたは、友だちに『俺もお笑いやりたいんだ。な、漫才のコンビ組まないか?』と誘われたらどうするでしょうか?

1980年代にこの国を席巻したという空前の漫才ブーム。そんな時代から40年もの年月が経過した現代社会。ブームというものは過ぎ去ると見向きもされなくなるものですが、この国には今も漫才をはじめと...続きを読むする『お笑い』は当たり前に存在しています。テレビのバラエティ番組には、必ずと言って良いほどに『お笑い』芸人の皆さんが出演されてもいます。

一方でそんな芸人の皆さんもそれぞれの人生のどこかの段階で『お笑い』の道に生きると決められたのだと思います。”人を笑わせる仕事”というものを大切に思い、一生を捧げていく『お笑い』の世界の人たち。そんな彼らはどんな思いの先に今を生きていらっしゃるのでしょうか?

さてここに、『僕の夢は、漫才師になることだ』と語る一人の高校生が主人公となる物語があります。クラスメイトとコンビを組む主人公を描くこの作品。そんな主人公が思春期の中に悩み苦しむ様を見るこの作品。そしてそれは、当時二十代の山本文緒さんが深い思いを込めて書かれた”ある高校生がお笑い芸人になるという夢の最初の一歩を踏み出す物語”です。

『どーも、みなさん、大春でーす』、『小春でーす』、『ふたり合わせて、大春小春でーす』と始まった二人のかけあいに、『よっ、待ってましたっ!』と声がかかります。そして二人のかけあいが続きますが『だけど、僕が小さいハムちゃんだから、この女の子油断してるわ、しめしめって』、『ひまわりの種食いながら、悪い顔すんなっ』と盛り上がったきたところで、『コラッ!何を騒いでいるんだっ!』と『自習時間の教室のドアが、突然バンと開』き、担任が入ってきました。『またおまえかっ。岡花小春っ』、『俺は自習をしてろと言ったんだっ。誰が演芸大会をしろと言ったっ!』と叱る担任。そして、『小春、ちょっと来い』と言う担任に、『お説教なら俺も行きます』と『相方の大春こと、梅太郎が手を上げ』ますが、それは却下され結局小春だけが連れて行かれます。『おまえが漫才師になろうが何になろうが勝手だが、ほかの生徒まで巻きこむな』と叱られた小春。『僕の夢は、漫才師になることだ』という小春は高校二年、『僕の行くべき道は、お笑いだけだ』と思う中に日々を過ごしています。そんな小春の元に梅太郎がやってきて小春は先生に言われたことを説明します。『ウメと漫才のコンビを組むことになるとは思わなかった』と振り返る小春は『女の子にモテること』を大切に考えている梅太郎のことを思います。『「大春小春」というコンビ名をつけて、自習時間に教室でデビュー漫才をやった』二人。そんな時、『クラスの仲の良い連中』に話しかけられます。『例のお笑いコンテストに出るんだって?』、『おう。一月三日だから、みんなで見に来てくれよ』と返す小春は、『優勝すれば、東京ローカルではあるが即テレビに出ることができる』という『関東テレビの新人のお笑いコンテスト』のことを思います。そんな中、『何もコンテストに出なくても、小春の姉ちゃんのコネで、テレビぐらい出れるんじゃねえの?』と言われ『グラビアアイドル』をしている姉のサクラのことを思う小春は、一方で『姉の仕事のせいで我が家の空気はぎしぎししたままだ』と考えます。『次は僕が漫才師になったら完全に家庭崩壊かもしれない』とも思う小春。そして、『運命の日はやってき』ました。会場となる『渋谷の外れにあるライブハウス』で『八組あるうちの四番め』を待つ小春と梅太郎。『では一組めお願いします』と始まったコンテストは高得点が続きます。『あんなモンでけっこう点が取れちゃうんだな』と思う中に『次は現役高校生の二人組「大春小春」です』と順番が回ってきました。しかし、『はーいみなさん。大春でーす』、『小春でーす』と始まったものの『会場はしーんと静まりかえったまま』です。そして、そのまま『静まった会場』のままに終わった二人。一人の審査員が『マイナス十点』をつけたこともあり『八点』という『過去最低点』がつけられてしまいました。『まだ十六歳だし、これから精進してまた来てくれな』と司会者に『肩を叩かれ』た二人。『僕らの野望は、あっけなく崩れ去った』という二人のそれからが描かれていきます。

“岡花小春16歳。梅太郎とコンビでお笑いコンテストに挑戦したけれど、高飛車な美少女にけなされ散々な結果に。彼女は大手芸能プロ社長の娘だった!お笑いの世界を目指す高校生の奮闘を描く青春小説!”と内容紹介にうたわれるこの作品。2021年10月13日に58歳でこの世を後にされた山本文緒さん。そんな山本さんのデビュー作は1992年1月刊行の「パイナップルの彼方」とされていますが、実はそれ以前にジュニア向けの作品を相当数刊行されていらっしゃいます。この作品もそんな中の一冊として「シェイクダンスを踊れ」という書名で1991年1月に刊行されています。そして、この作品はそんな元となる作品を加筆・修正、書名を「カウントダウン」と変更した上で単行本、そして文庫として2016年12月に刊行されたという経緯を辿ります。そんな経緯もあってこの作品は、他の山本さんの作品には見られない新鮮な香りに満ち溢れています。私はこれまでに山本さんの作品を15冊読んできましたが、正直なところ、えっ?これって山本さんの作品なの?というくらいの衝撃を受けました。

では、そんな作品の特徴を二つの側面から見てみたいと思います。まず一つ目は、この作品が”お笑いの世界を目指す高校生の奮闘を描く”という点から文章表現に『お笑い』を指向する一捻り入った表現がたくさん登場するところです。三つほど抜き出してみましょう。

 ・『好きな女の子の父親は、大蛇よりも心霊写真よりも一か月前の牛乳よりもこわい存在だ』

 ・『怒りで燃えあがった顔は、もし僕が大魔神だったとしても走って逃げそうな恐ろしい顔だ』

 ・『渡る世間に鬼はナシ、入る便所に紙はナシっていうじゃんか』

三つ目のみ会話の中の表現で、他の二つは主人公・小春の内面描写です。こういった抜き出しだけでは面白さがなかなか伝わりにくいと思いますが、まさしく一捻り入った表現であることはお分かりいただけると思います。こういった文体が特徴の作家さんは他にもいらっしゃると思いますが、一方でこれが山本文緒さんの作品であることに驚きます。ジュニア向けを意識したこういった表現を捨てられた先に直木賞受賞作「プラナリア」など、山本文緒さんということで思い浮かぶ作品群が生み出されていったことを思うとなんとも複雑な思いも過ぎります。一方で、この作品はジュニア向けに書かれた作品を加筆・修正、改題してまで後年に刊行されたことを思うとこの作品に対する山本さんの特別な思いというものもあるのだと思います。いずれにしても山本さんが亡くなられた今となっては新作を期待することはできません。そういう意味でもこの世に残されたジュニア向けの作品の中にも埋もれた傑作があるのではないか、そんな風にも思いました。

次にもう一点は、この作品が”お笑いの世界を目指す高校生の奮闘を描く”というところです。『お笑い』というとまずは漫才が思い浮かびます。漫才の説明は改めてする必要はないと思いますが、そんな漫才を小説の中に描いた作品もそれなりにあります。私が読んできた中では、”芸人になりたいと思った。あの舞台にオレも立ちたい”という主人公の姿が描かれる畑野智美さん「南部芸能事務所」、”漫才やコントは生き物で、活きのいい日もあればぐったりしている日もある”と舞台に立つ主を追う主人公が描かれる一穂ミチさん「パラソルでパラシュート」などがあります。いずれも作品中には舞台に立つ漫才師の姿が描かれますが、畑野さんの作品が漫才師自身が主人公であるのに対して、一穂さんの作品ではそんな舞台を見る女性が主人公という違いがあります。そして、山本さんのこの作品では畑野さん同様、舞台に立つ側が主人公となるもののそんな二人はまだ高校生だという点が大きな特徴です。では、そんな二人のかけあいを少し見てみましょう。

 ー『どーも、みなさん、大春でーす』
 ー『小春でーす』
 ー『ふたり合わせて、大春小春でーす』

これは舞台に登場した二人の定番の入り方です。そんな後にかけあいが始まります。

 ー『大きいボクが、大春で』
 ー『小さいボクが、ハムスターです』
 ー『ハムスターだったんかい。はじめて知ったわ』
 ー『もぐもぐ、ほら』
 ー『ひまわりの種、ほっぺたに入れてたんかい』
 ー『食べないの?』
 ー『食べませんよ、人間ですからね』
 ー『そんならいいよ、もぐもぐ』
 ー『戻すなや、汚いなあ』

どうでしょうか?作品中では、ここで『アハハハハハ。なんだそれーっ』と観客から声がかかります。可笑しいというより微笑ましいという感想を抱きます。主人公二人は一般人の高校二年生であり、観客というのはクラスメイト、しかも自習時間中の行為というのがこの場面です。畑野さんの作品も一穂さんの作品もそこに登場するのは大人なプロの漫才師です。それに対してなんとも初々しいとしか言いようのない高校二年生がいつか舞台に立つことを夢見てさまざまに行動を起こしていく様を見るこの作品。”お笑い” × “青春小説”というのがこの作品なのだと思います。

さて、そんな作品は主人公の小春と梅太郎、『大春小春』というコンビを組む高校二年生の二人が冒頭に『関東テレビの新人のお笑いコンテスト』に出場し、まさかの『八点』という『過去最低点』を受けてしまうある意味どん底からスタートします。そんな作品には”青春小説”らしくヒロインが登場します。同級生の斉藤紅実(さいとう くみ)の存在です。『シシャモのようなふくらはぎに、八重歯がかわいい』という紅実のことを強く意識していく小春の行動と内面描写の温度感はまさしく”青春小説”そのものです。物語は、そんな小春と紅実の恋の行方に光が当たります。この描かれ具合も一般向けの小説に移行された後の山本さんの作品には見られないものでありとても貴重だと思います。この点にも是非注目したいと思います。

そして、なんと言ってもこの作品の中軸をなすのが漫才の舞台を夢見る小春と梅太郎を描く物語です。主人公の小春は『僕の夢は、漫才師になることだ』という漫才への想いをこんな風に語ります。

 『僕の快感は、人の笑い声によって起こされる。僕は人様に笑ってもらうことが大好きなのだ…教えてもらわなくても、僕は知っている。僕の行くべき道は、お笑いだけだ』。

高校二年生にしてそんな強い想いを抱く小春。そんな小春は小さい頃好きだったはずの父親に対して、『希望がない、大志がない、野望がない』と失望を抱くようにもなります。『ああいう大人にだけはなりたくない』とさえ感じていく小春は、その想いをこんな風に自身の力にしてもいきます。

 『人生のステージに立つことなど、あの人には思いつきもしなかったんだろう。僕はいやだ。人生の観客になるのはいやだった』。

『人生の観客』という表現は絶妙だと思いますが、自分の親というものが良くも悪くも子どもの未来の糧になっていく様が描かれているという言い方もできなくはないと思います。いずれにしてもこの作品で見せていく小春という一人の高校生の背景がよくわかる表現です。そんな小春が相方の梅太郎とプロを目指して、プロになる思いを強めていく中に物語は読者の全く予想もつかない方向へと展開していきます。しかし、そんな中でも上記した紅実への想い、そして『僕の夢は、漫才師になることだ』という小春の想いは一切揺らぎません。ここが、”青春小説”としての爽やかな感動を呼び起こしてもいきます。そして、物語は、高校生主人公・小春の未来を垣間見る中に清々しい余韻を残して終わりを告げます。そんなこの作品の〈あとがき〉に山本さんは”お笑い芸人を目指す男の子の話”を書いた理由をこんな風に説明されています。

 “それはやはり、お笑いを職業にしている人をとても尊敬しているからだと思います。だって、人を笑わせるってものすごく難しいことですよ…お笑いという職業に就いている人は何があっても常に面白いことを提案する側、発信する側にいる、だから私はとても尊敬するのです”

作者の山本さんがこの作品を描かれたのは空前の漫才ブームが落ち着きを見せつつあった1990年という時代です。そんな時代に極めて冷静にその存在、役割を認識されていた山本さん。”荒っぽく未熟な作品ですが、その当時の私が一生懸命作ったものです”とこの作品への想いを語られる山本さん。この作品にはそんな初々しさの残る山本さんのこの作品に込めた深い愛情をたっぷりと感じる物語が描かれていました。

 『おもしろいと言われることは、僕にとって最高の讃辞なのだ』。

『漫才師』になることを夢見て高校生の青春を駆けていく主人公の小春。この作品にはそんな小春の泣き笑いの高校生としての日常が描かれていました。再出版にあたり、古くささを見事に消し去った山本さんの手腕に驚くこの作品。そんな作品に良い意味で残る朴訥さに強く魅かれるこの作品。

起承転結のはっきりした、極めて読みやすく、爽快感の残る物語の中に、高校生たちの青春の煌めきを見た素晴らしい作品でした。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2017年10月25日

 漫才師を目指す高校生のお話だったが、芸に取り組んでいる場面があまりなくて、期待はずれだろうかと読み進んでいたらクライマックスが素晴らしかった。ちょっと目が潤むほどよかった。

 90年代の初め頃に書かれた小説を現代風に修正したそうで、常識が今とは少し違う。好きな女の子のお父さんが、非常に暴力的で今...続きを読むなら大問題のレベルなのだが、しかしそんなところも微笑ましかった。

 主人公のお姉さんがグラビアアイドルで、それがひどく後ろめたい仕事のような扱いで、今ならAVになるのかなと思って読んだ。

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Posted by ブクログ 2024年01月13日

文緒さんらしからぬ高校男子主人公、しかも芸人を目指すという設定。大分初期の作品なんだろう。
私は大のお笑い好きで、芸人さんの著書も結構読んでいるから物語としては軽い感じは否めなかった。でも優しく、微笑ましい青春物語。

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Posted by ブクログ 2022年09月24日

 著者の初期のころの青春小説が装いも新たに登場。漫才師になることを夢見た高校二年生の男子の成長を描く。
 すべてがこの生徒の視点で描かれてり、全体的に読みやすい印象を受ける。いろいろなものに触れ、ぶつかり成長してく姿がコミカルに描かれており、心地よい作品である。

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