【感想・ネタバレ】迷走する帝国──ローマ人の物語[電子版]XIIのレビュー

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アイデンティティクライシス

一部ご紹介します。
・歴史は現象としては繰り返さない。だが、この現象に際して露になる人間心理ならば繰り返す。それ故、人間の心理への深く鋭い洞察と、自分の体験していないことでも理解するのに欠かせない想像力と感受性、このうちの一つでも欠ければ、かつては成功した例も、失敗例となり得る。
・三世紀のローマの特質の一つは、政略面での継続性を失ったことにある。最早、ローマ帝国は、持てる力の無駄遣いに神経を払わないようになってしまった。ローマ人が、大帝国を築き上げ、しかも長期にわたって、その維持に成功できた最大の理由は、持てる力の合理的で徹底した活用への執着にあったのだ。「継続は力なり」は、やはり真理なのである。持てる力の有効な活用に利する、という一点においても。
・かつてのローマ人には、アイデンティティクライシスは存在しなかった。自分たちローマ人は、世のため人のために役に立つものを作っている、という自負があったからだ。
・それが、三世紀になると、ローマ人は自分たちの存在意義に自信が持てなくなってしまった。度重なる蛮族の来襲による、殺戮と略奪と焼き討ち。その結果としての農耕地帯の荒廃と過疎化。生産力が落ちているにもかかわらず、防衛費の増大を理由にした度重なる増税。それらを避けようとして、住み慣れた土地を捨て、都市に流れてきたものの、過密化した都市では仕事も見つからず、家族を抱えて途方にくれる毎日。これらに加えて、社会福祉政策の弱体化。結果としての希望の喪失。
・「神々はローマを見放した」
・ローマ帝国の弱体化と疲弊化が、キリスト教のローマ乗っ取りに成功した要因であった。ローマ帝国は、自分自身への信頼という、活力を維持するには最も重要な要素である気概までも失ってしまったのである。

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2022年09月30日

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