【感想・ネタバレ】死の枝のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

以前、『オカルトクロニクル(サイトの方)』で「青ゲット事件」を読んだ時、松本清張がその事件を元に「家紋」という短編を書いてあると知り、読んでみたかった本。
ただ、「家紋」はややイマイチだったかな?
雰囲気等はいいんだけどなぁー。
というのも、雪代の思うその人が犯人だったとすると、市之助も美奈子も、そして隣家のお房もその人をおそらく知っているわけだ。
だとすると、いくら街灯がない暗い中に頭巾をかぶっていたとしても、ちょっと無理があるような?
確かに明治のこと(「家紋」ではいつの事か書かれていない)だから、いくら廃仏毀釈の世とはいえ、寺の権威はまだまだ相当あったとは思う。とはいえ、2人殺され(実際は3人だったらしい)、子供も殺されるところだったというとんでもない事件で口をつぐんじゃうものかなぁーと思ってしまうのだ。
冒頭の“信仰のために信徒の間に共同防衛意識が強く、聞き込みが困難だからである”という地域の状況は理解できる。でも、そういう地域なら、そういう地域ならではの自浄力みたいなものがあるんじゃないのかなぁ…。
ま、その時代もその地域の状況も知らない現代の人が現代の常識であれこれ言っても意味のないことなのかもしれないが。

この『死の枝』には11の短編が収められているが、いずれもひょんなことで事件が発覚したり証拠が現れたりという話になっている。
意外な面白さだったのが「史疑」。
ある地方の古文書収集家が持っているという、幻の古文書「史疑」。
それを見て論文を書きたい学者がその収集家の元に訪れるものの、収集家は偏屈なのか決して見せようとしないという前半。
後半は、若手の学者がそこを訪れるのだが、ひょんな流れで事件が起きてしまう。
ひょんな流れで起きた事件は、さらにひょんな展開へと進み。そのひょんな展開で起きた出来事が数年後、やっぱりひょんな事をきっかけにある人にひょんな疑惑を抱かせる…という、いわゆる「偶然が多すぎ!」と嫌う人も多そうな話なんだけどさ(笑)
とはいえ、世の中って、実際にはこの手の偶然で出来事が成り立っていることが多いわけで、これは長編で読んでみたかったなーと思った。
(名探偵…、といっても探偵は実際にはいないから名刑事というのはそういう偶然を引き寄せる執念を持った人なんじゃないのかな?)

偶然といえば、最後の「土偶」も偶然(たまたま?)が起こしてしまう事件だが、これは怖いなぁー。
このパターンで起きている事件って、実は世の中の事件のかなりの割合を占めているんじゃないだろうか?
そういう意味でも怖いんだけど、事件を思い起こさせる土偶がなぜか犯人の元に集まってくるその状況は、ある意味死者の祟りのようで、そっちの意味でも怖かったと(笑)

松本清張って、愛想のカケラもないみたいなところがあるんだけど、読みながら想像を膨らませていくと妙なユーモアが滲みだしてくるところがあるような気がする。
ブツ切りでぶっきら棒な文章のくせして、所々やけに鮮やかに情景を浮かばせる点とか(「家紋」の最後の方、向こう岸を真典が歩いていく様子を雪代が見ている描写なんて、もお…!)いい、こういうのを「巧い」と言うんだろうなぁー。

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2019年02月24日

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