【感想・ネタバレ】八甲田山死の彷徨のレビュー

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Posted by ブクログ 2024年04月26日

何ですか、この既視感というか、無能さというか、自意識の欠如は。
うろ覚えの映画のイメージとはかけ離れていて、あまりに酷過ぎる話を濃厚に飲み込まされる。
色々な立場からの見方はあるんでしょうが、とにかくどんなことがあろうと謙虚さは不可欠ですなぁ。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2024年04月12日

1902年におきた八甲田雪中行軍遭難事件をモデルにした小説。
八甲田雪中行軍遭難事件とは、210人中199人が死ぬという、日本山岳史上最悪の遭難事故です。
遭難の描写は壮絶。
明治時代の日本軍の話なので、理不尽さも凄い。
吹雪の中、部下にラッパを吹かせるなど正気とは思えないですし、そのせいで唇が剥が...続きを読むれ凍死してしまった兵士が本当に可哀想です。

本作の主人公、神田大尉は、遭難中に現地解散を指示し、リーダーとしての責任を放棄してしまった人です。

しかし悪役には描かれていません。
責任は神田大尉が負っているのに、上官の山田少佐が同行し、あれこれ指示をだす。
平民出の引け目もあり山田少佐に逆らえず、次第に窮地に陥っていく。
読者が共感し、思わず同情してしまう人物像になっています。

平民から大尉の栄光を手にした神田大尉が、尽力虚しく無能指揮官の誹りを背負い死んでいく。 
壮絶な遭難描写だけでなく、神田大尉の悲哀もこの小説の見所です。

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Posted by ブクログ 2024年03月22日

組織論やリスク管理などのビジネスの視点でも興味深い本でした。

参加者ほぼ全滅という結果になってしまった無謀な八甲田山の冬季軍事訓練。
メディアで見たことがある「ほぼ全滅」したのは青森の5聯隊であり、5聯隊と逆ルートで八甲田山越えを目指した弘前の31聯隊は「全員生還」したといいます。
この事実を知っ...続きを読むている人は少ないのかもしれません。
最近読んでいた『ゴールデンカムイ』で、八甲田山の生存者といわれるアイヌの兵士が出てくるのですが、きっと31聯隊だったんだなあ...

この本は、八甲田山越えを成功させた31聯隊のストーリーのあとに5聯隊が描かれており、いわゆる「成功と失敗」の対比のようでわかりやすかったです。とはいえ31聯隊の徳島大尉の傲慢とも思える行動に違和感を感じることもあり、成功と言われている31聯隊にも組織の体質など問題があることがわかります。
5聯隊は、読者としては結末を知っていることもあり、読んでいて感情を揺さぶられます。

この遭難事件の失敗の原因は複数あるけれど、どうしても感じてしまうのは階級型組織の闇。
『失敗の本質』を読んで、日本の組織の体質は現代にも色濃く残っていると感じましたが、それ以前に八甲田山の失敗は大東亜戦争で生かされなかったということに虚しさを感じてしまいました。

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Posted by ブクログ 2023年05月04日

新田次郎氏の特長が活かされたノンフィクションの傑作。雪中彷徨の表現の迫力に引き込まれた。事実と描写のマッチに圧倒された。

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Posted by ブクログ 2022年06月20日

リーダーシップや組織のあり方ついての研修中に事例研究として取り上げられた本。神田・徳島各大尉について、じっくり議論・検討して解説を受けた後に読んでみるとそれぞれの背景や思考の原点をより深く理解できた気がする。研修ではあくまで雪中行軍の捉え方、向き合い方、準備・覚悟・実行など、目的や目標、仕事への取り...続きを読む組みについての神田と徳島の違いに焦点を当てた内容だった。研修を通じて徳島ができていて神田ができていない点ばかりが強調されて記憶に残っていた。しかし実際に読み進める中で、徳島も決してあらゆる面で完ぺきなリーダーではないことも見えてきた。雪中行軍に向けて徹底的に準備をして完遂しきるという点において優れていたことは間違いない。ただ、軍人と民間人の関係性など時代背景的にそれが必然的な部分もあったのかもしれないが、現代的な感覚では大きな違和感を覚えるところもある。そもそも、雪中行軍という名の人体実験が行われてしまった原因としては結局上官の何気ない一言や思いつきに起因してしまっている。「トップがこう言ったから」、「トップがこう考えている」、「トップはこのように思っているはずだ」と、誰も上司が言った本当の意図や背景を確認しないまま、確認できないまま、その下で曲解されて無理難題を実行せざるを得なくなってしまっている。これってこの時代の軍の話だけではないよね。こんなこと、程度の差はあれ会社の中にあふれている。心理的に不安全で忖度がはびこっているコミュニケーション。誰も問い返しができない。そんな組織や関係性が健全であるはずがない。変われない、変えられないってこういうことなんだろうな。不祥事があっても変われない。それが結局その組織の実力なのだと思う。そんな会社や組織は、日本陸軍と同じ道をたどってしまう気がしてならない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年05月07日

R4.4.29~5.3

面白かった!
新田次郎のエンタメ文章力は凄い。迫力の山中描写です。
フィクションが含まれているようなので理解しながら楽しみました。お勧めの一冊です。

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Posted by ブクログ 2022年04月23日

史実を基にしたフィクション作品ですが、行軍の様子や雪山の厳しさ、備えの大切さ、リーダーの資質など様々なものがリアルに迫り、物語に引き込まれていきました。読後感はおおいに学びになった、そんな印象です。オススメ!

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Posted by ブクログ 2022年02月26日

しばしば雪山に行くので、行軍の描写がリアルに迫ってきて、心に突き刺さった。
第五連隊の兵卒たちが、気力尽きてバタバタと倒れていく様子、狂気に陥って川に飛び込む士官たち。自然相手だが、戦争と同じような恐ろしい地獄が展開されている。

当時の装備なども興味深いし、案内人となる村人たちの視点も面白く読める...続きを読む。案内人を買って出た嫁さわがスイスイと雪の中を進んでいき、兵隊たちを圧倒するシーンが好きだ。

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Posted by ブクログ 2022年02月12日

1902年に発生した八甲田山雪中行軍遭難事件を元にした作品。

本作はフィクションですが、全員生還した第31連隊と210名中199名が死亡した第5連隊の命運を分けたのは何か。最悪の遭難事件が克明に描かれており、胸が苦しくなりましたが…後世に残し、私達が読むべき作品だと。そう感じました。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年01月07日

声の大きい無能上司のせいで散々な目に合う優秀な部下、という設定だけで泣けてくる。ちゃんと生存した方が何も成果が得られなかったかのように扱われ、失敗した方が褒め称えられるのに、組織の異常さを感じて怖くなった。戦争なんてものがなければ、こんな実験をしなくてよかったのに。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年11月14日

今の会社に入って選抜研修に参加した時の課題図書でしたが、研修終了後も何度も読み返した一冊。

研修ではリーダーとして神田大尉と徳島大尉を比較し、違いを理解しながら目指すべきリーダー像を討議していきました。

著者の読み終えた作品の中ではぶっちぎりに好きな作品です。

明治時代の悲しき史実。

日露戦...続きを読む争を目前にし、真冬の八甲田山で行われた雪中行軍は199名もの死者を出してしまいます。

真冬の八甲田山、死の足音を聞きながら軍隊という環境の中で行われる指揮命令はまさに隊員の命を左右します。

息づかいや、風の音、人々が倒れる音、活字から音を感じた作品としては本書が初めてだった気がします。

その位にリアルな描写はお見事としか言いようがありません。

辛く、悲しい歴史と共に未読の方は是非!!

レビューを書きながら、又、読みたい気持ちがフツフツと。

年末年始休暇には2年振りの帰省をしようと思っているので、帰ったら探してみよう!!


説明
内容紹介
明治35年、青森・八甲田山で起きた大規模遭難事件。
陸軍によって隠蔽されていた、199名の死者が出た実際の悲劇を発掘、小説化した。
高倉健、北大路欣也主演の映画原作としても知られる。北大路の台詞「天は我々を見放した」は流行語となった。

日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験が強いられた。神田大尉が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき、大隊長が突然“前進”の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。徳島大尉が率いる少数精鋭の弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。2隊を対比して、組織とリーダーのあり方を問い、自然と人間の闘いを描いた名作。

【目次】
序章
第一章 雪地獄
第二章 彷徨
第三章 奇蹟の生還
終章
解説:山本健吉

【大ヒット映画原作】
1977年、東宝。監督:森谷司郎、脚本:橋本忍。出演: 高倉健(徳島大尉)、北大路欣也(神田大尉)、丹波哲郎(児島大佐)、三國連太郎(山田少佐)、加山雄三(倉田大尉)、秋吉久美子(滝口さわ)ほか超豪華キャスト!

本文より
「救助隊だ!救助隊だ!」
と叫ぶ声が続いた。
「お母(が)さんに会えるぞ」
と叫んだ兵隊がいた。一声誰かが母に会えると叫ぶと兵たちは、口々に母の名を連呼した。(略)兵たちは、救助隊を見て、すぐ母を思った。いま彼等の心には母しかなかった。母が居たら必ず助けてくれるだろうし、生きることは母に会えることであった。
倉田大尉には救助隊は見えなかった。神田大尉にも見えなかった。二人は顔を見合せてから、兵たちが指さす方向に眼をやった。風の中に疎林の枝が揺れ動いていた。飛雪の幕が、横に動いて行くのを見ながら、ふと眼を飛雪に固定すると、今度は木が動くように見えることがあった。……(第二章「彷徨」)

本書「解説」より
八甲田山の事件の真相は、長く国民には知らされないままになっていた。日露の風雲が切迫していたということもあったろうし、その上に陸軍の秘密主義ということがあったろう。軍の責任に触れ、その恥部を国民に知らしめることを怖れたのだ。(略)
徳島大尉始め、雪中行軍に加わった第三十一聯隊の士卒の半数は、二年あとの日露戦争には、黒溝台の激戦で戦死または戦傷している。成功者も失敗者も、死の訪れには二年の遅速があったに過ぎなかった。それは、日露の戦いの準備行動で死んだか、戦いそのもので死んだかの違いに過ぎなかった。
――山本健吉(文芸評論家)

新田次郎(1912-1980)
1912(明治45)年、長野県上諏訪生れ。無線電信講習所(現在の電気通信大学)を卒業後、中央気象台に就職し、富士山測候所勤務等を経験する。1956(昭和31)年『強力伝』で直木賞を受賞。『縦走路』『孤高の人』『八甲田山死の彷徨』など山岳小説の分野を拓く。次いで歴史小説にも力を注ぎ、1974年『武田信玄』等で吉川英治文学賞を受ける。1980年、心筋梗塞で急逝。没後、その遺志により新田次郎文学賞が設けられた。実際の出来事を下敷きに、我欲・偏執等人間の本質を深く掘り下げたドラマチックな作風で時代を超えて読み継がれている。


メディア掲載レビューほか
この世の地獄! 日本陸軍史に残る悲惨な事件を味わう

日露戦争前夜の1902年、一つの壮大な人体実験が行われた。厳寒の積雪期において軍の移動が可能であるかを、八甲田山中において検証すべし。青森第五聯隊の神田大尉と弘前第三十一聯隊の徳島大尉は、それぞれ特命を受けて過酷な雪中行軍に挑むことになる。この世の地獄が前途に待ち受けているとも知らずに。

新田次郎『八甲田山死の彷徨』は日本陸軍史に残る悲惨な事件を題材とした山岳小説である。気象学を修め、登山家でもあった新田の描く雪山の情景は、恐ろしいほどの現実感をもって読者の胸に迫る。雪地獄の中に呑み込まれていく兵士たちの姿は余りにも卑小であり、大自然の脅威を改めて認識させられる。

2つの部隊は明暗がはっきりと分かれる。深雪の対策を行った三十一聯隊が1人の犠牲者も出さずに任務を完遂したのに対して、気象の苛烈さを侮り、精神論で行軍に挑んだ五聯隊は199名もの死者を出してしまうのだ。組織が自壊するプロセスを描いた小説でもある。雪の中で絶望した神田大尉は「天はわれ等を見放した」と呻くがそうではない。合理性よりも軍人としての面子を優先して行動を開始したその時、彼らにはすでに死の影が忍び寄っていたのだ。兵士たちを殺したのは軍が抱えていた病理そのものだったといえる。終章で語られる二挺の小銃を巡るエピソードに、その異常さが集約されている。

新田の筆致は冷徹を極める。不可避の運命へと向けて行軍していく者たちの姿が眼前に浮かび上がるが、押し止めることは不可能なのである。読者は、一つ、また一つと命が失われていくさまを、ひたすら見つめ続けなければいけない。(恋)

評者:徹夜本研究会

(週刊文春 2017.3.16号掲載)

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Posted by ブクログ 2021年11月07日

安易な指示、不充分な計画、指揮系統の混乱が招いた事故。現代の会社組織にも当てはまることが多く考えさせらる本。描写がとてもリアル。
生き残った聯隊も遭難した聯隊もどちらも切ない。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2021年09月02日

リーダーの判断の責任と重さ、日本の軍隊の恐ろしさを感じる話だった。

神田大尉がなんとか助かる道を見出しても、上層部の圧により、じわじわと死に近づいていく無念さが辛い。

雪山の恐ろしさ。
あまりにもの疲労と寒さと過酷な環境により、幻覚を見たり、正常な判断力ができくなっていく恐ろしさを感じた。

2...続きを読む021年9月1日

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Posted by ブクログ 2021年07月14日

 もう40年以上経ちますが映画化もされた有名な作品で、私も以前から気にはなっていたのですが、ようやく手に取ってみました。
 壮絶です。まさに、「失敗の本質」で取り上げられた太平洋戦争時の日本陸軍の救いようのない思考スタイルが、このころにすでに軍幹部・将校はもとより下士官から兵卒に至るまで軍隊という特...続きを読む殊集団の根底に巣食っていました。
 機会があれば映画も観てみたいです。

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Posted by ブクログ 2021年07月08日

二つの隊の壮絶な雪の軍事訓練の話しだが、序章でのやんわりとした話しが終わって第一章の雪地獄からが凄い。ニ隊の対比で話しは進むが容赦のない自然の猛威が恐ろしい。
リーダーとしてどういう行動が正解かとか村人や上官との人間関係等も当時の状況が詳しく書かれているので、こういう状況では人はこうなるのか、と思う...続きを読むことができる。

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購入済み

感想

2018年08月26日

指揮官はどうあるべきかを学びました。

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Posted by ブクログ 2023年08月10日

 青森旅行で八甲田山雪中行軍遭難資料館に寄ることになったので、その予習として読んだ本。資料館やその周辺に行った際、「あぁ、ここがあのシーンの場所かぁ」と感慨に浸ることができて、よかった。

 雪山の進軍という異常な行為において露見する、階級社会や身分制度。成功・失敗という結果と、それによって得た成果...続きを読む。何が正しくて何が間違っていたかも、吹雪の中で見失ってしまう。分かりやすさのない、面白い小説だった。

 また、私も少しだけ雪山登山の経験があり、雪山登山で必要な装備やノウハウ等は最低限備えている。そうした視点から見ると、壊滅した青森5聯隊の装備がいかに貧弱だかがひしひしと伝わってくるし、逆に言えば現代の装備があれば遭難なんてしなかったのかなとも思わないでもない。(まぁ進軍なんだから登山と比較してもしかたないのだが)
 どんなに装備を固めても怖いものは怖い。まさに壮大な人体実験であり、頭の下がる思いがする。

 青森の八甲田山雪中行軍遭難資料館の裏手には犠牲者のお墓が静かに並んでいるが、そこには軍隊という階級社会ならではの厳然たる階級の差があった。並び順であるとか、墓石の大きさであるとか。そんなところにも軍の規律的なものが入り込むのは現代に生きる私には理解が難しいけれど、現代的な価値観による安易な解釈を拒んでいるようにも見えた。
(これ、本の感想じゃないな……)

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2023年02月25日

これまたトラウマ作品です。
極限の寒さと疲労のため精神に異常をきたして、吹雪のなか着ている服を脱いで裸になってそのまま凍死する兵士。
子供の頃、テレビで見たワンシーンが強烈でした。
小説では雪山と、それに翻弄されながら生死を分ける二つの部隊の描写は、気象学者でもある新田次郎でなければ書けなかったと思...続きを読むいます。
組織の在り方とか、明治という時代の暗さとかいろいろ考えさせられる作品でした。
映画もちゃんと観ないといけないな。

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Posted by ブクログ 2022年12月20日

登山が趣味なので読んでみました。雪山の怖さも感じましたが1番印象に残っているのは男社会の組織です。縦社会、男のプライド、仲間。それを守るためならどんなに冷徹にもなれる男性社会そのものだと感じました。

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Posted by ブクログ 2022年12月15日

1902年、青森県十和田市で起きた世界最悪の山岳事故、当時の陸軍雪中行軍を描いた事実に基づいたフィクション。今では道路が通る峠道だけど、当時まだ道のない、ましてやヒートテックも無い時代の話しだから、当時の惨状が痛ましい。

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Posted by ブクログ 2022年11月14日

悲惨。明治時代の軍隊の雪山訓練で199名が遭難、死亡した話。遭難した第5連隊も悲惨だけど、第31連隊の案内人たちの扱いのひどさが哀れ。怖かった。

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Posted by ブクログ 2022年10月31日

日露戦争前に青森で起こった陸軍の大規模遭難の話。

遭難して極限状態まで衰弱すると、最後は手が動かなくなり用がたせなくなったり、発狂したり、雪山で遭難する悲惨さが描かれている。
組織における指揮系統の乱れ、危機管理の甘さ、根性論による状況判断ミスが大惨事を引き起こしたことが分かり、これらの大切さを改...続きを読むめて認識させられる。

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Posted by ブクログ 2022年10月25日

無鉄砲な雪山の行軍演習で、寒さ地獄に襲われるほんとにおそろしいお話。

でも現代社会でもいまだに根性論優勢。
教訓が活かされてませんよね。


名著「失敗の本質」と併せて楽しめます。

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Posted by ブクログ 2022年07月20日

「新田次郎」の山岳小説『八甲田山死の彷徨』を読みました。
先日、映画版の『八甲田山』を観て、原作を読みたくなったんですよね。

-----story-------------
愚かだとわらうのはたやすい。
だが、男たちは懸命に自然と闘ったのだ。

日露戦争前夜、厳寒の八甲田山中で過酷な人体実験が強い...続きを読むられた。
「神田大尉」が率いる青森5聯隊は雪中で進退を協議しているとき、大隊長が突然“前進"の命令を下し、指揮系統の混乱から、ついには199名の死者を出す。
少数精鋭の「徳島大尉」が率いる弘前31聯隊は210余キロ、11日間にわたる全行程を完全に踏破する。
両隊を対比して、自然と人間の闘いを迫真の筆で描く長編小説。
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明治35年に起きた青森5聯隊の八甲田山での遭難事件を、以下の構成でドキュメンタリー風に綴った作品です。

 ■序章
 ■第一章 雪地獄
 ■第二章 彷徨
 ■第三章 奇跡の生還
 ■終章
 ■解説 山本健吉

雪中行軍に成功して11日間に亘って200km以上を踏破した弘前31聯隊と、失敗して遭難した青森5聯隊の行動を対比しながら、その経緯を克明に描いた作品、、、

兵隊が次々と凍死する陰惨な場面に、気持ちが落ち込みそうになりながら、雪山の厳しさを再確認した一冊でした。


原因は様々ですが、、、

指揮系統の混乱や準備(装備)不足が大きな要因でしょうね。

これって、仕事にも通じることですよね… 改めて意思統一や準備の大切さを感じました。


案内役の村人や、生き残った兵士の後日譚は、映画では描かれていなかった部分なので、興味を持って読めました。

村人たちは、五十銭銀貨一枚で放り出され、脅されたうえに、あわや遭難という状況に陥っていたり、生き残った兵士は日露戦争で戦死・戦傷したり、英雄視された後に忘れ去られたり… 波乱の人生を歩んだようです。

そして、責任者であるべき師団長等は199名の死者を出しながら、一切の責任を問われていないようです… この隠蔽体質が続いた結果が第二次世界大戦に繋がったのかもしれませんね。


以下、主な登場人物です。

≪青森歩兵第5聯隊≫

「神田大尉」
 青森歩兵第5聯隊の中隊長で、雪中行軍の責任者。
 神成文吉大尉がモデル。
 将校に士族や華族が多い中、平民出身の彼は自らの努力により、聯隊屈指の有能な将校と認められていた。
 責任感ある聡明な軍人であり、徳島大尉との約束を非常に大切に思っていた。
 が、大隊の上官である山田少佐の不適切な干渉に抵抗することができず、悲劇を防げなかった。
 中隊が散開した最後には江藤伍長を送り出し、雪原で孤立。
 万一生還したとしても軍を追われるであろうことに絶望し、舌を噛み切る。
 直接の死因ではなかったが、そのまま凍死した。

「山田少佐」
 大隊長。
 山口彎�瓦�皀妊襦」
 行軍計画を立てた神田大尉に対して指導的立場から助言を行うが、最終的には指揮権を奪取したも同然の形になってしまった。
 行軍前には第31聯隊を意識するあまり、神田大尉を急かし、充分に計画が練りこまれないまま出発させた。
 行軍中の命令には不適切なものが多く、深夜に突然の行軍再開を発する、進藤特務曹長の妄言を信じきって行路を間違えるなどして、中隊を遭難させることとなる。
 部下の犠牲によって生き残ったものの、自責の念から収容された病院で自決した。

「倉田大尉」
 中隊長。
 山田少佐以下の教導将校団の一員として雪中行軍に参加。
 毛糸の手袋やゴム長靴など恵まれた装備を所持していたため体力の消耗が抑えられ、神田大尉や山田少佐が正常な判断ができなくなった後も冷静さを保ち、残された数少ない兵を率いて生き残った。
 モデルの倉石一大尉は黒溝台会戦で戦死。

「三上少尉」
 最初に編成された救助隊の指揮を務める。
 雪に埋まっている江藤伍長を救出するが、自分も含め多数の隊員が凍傷に罹患し撤収を余儀なくされ、大規模な編成による捜索に切り替えることを強硬に主張する。
 モデルは三神定之助少尉。

「江藤伍長」
 神田大尉と最後まで行動を共にしたが、自分はもう動けないと悟った神田大尉によって斥候を命じられる(=自分を置いて進み、生き残れということ)。
 直立したまま凍りついた仮死状態で発見されるが、辛うじて意識を取り戻し、救助隊に惨劇の第一報を伝えた。
 村山伍長と共に山間部出身の1人であり、互いに会話する場面がいくつか見られる。
 結果としては村山も共に生還しており、知恵を活かしてさまざまな防寒対策を行ったことが、2人の命を救ったと言える。
 モデルとなった後藤房之助伍長は故郷に帰って村会議員を務め、1924年に死去。

「村山伍長」
 最後に発見された“生存者”である。
 江藤と同じく山間部出身者であり、防寒対策を心得ていた。
 出発前に、他隊員の冬山に対する警戒心の低さを見て、江藤伍長と共に危惧していた。
 田代元湯で発見された唯一の生存者であり、四肢を切断しつつも生還した。
 モデルは村松文哉伍長である。
 実際の事件においても最後の生存者で、一時危篤に陥ったが生還しており、小説においては比較的忠実な描写が為されたことがわかる。

「進藤特務曹長」
 行軍中に現地出身ということに由来する誤った情報(「このブナの木には見覚えがある、この木からこう進めば田代へたどり着く」というような妄言)を振りまいてしまう。
 神田大尉は地図を見てそれが誤りだと気づくものの、山田少佐が信用してしまったため、隊はさらに迷走することとなる。
 中隊散開後は山田少佐と共に駒込川のほとりで救出を待つことになったが、最後は錯乱の果てに川に飛び込んで凍死。
 モデルは佐藤特務曹長だが、実際の佐藤が遭難にどう影響したのかは不明。
 出身は岩手。

「長谷部一等卒」
 神田大尉の従卒で、弘前歩兵第31聯隊所属に所属する斉藤伍長の弟。
 幼いうちに養子に出されたため兄と違い雪山の知識が無かった。
 神田大尉の絶望の叫びを聞くと力尽きて凍死した。


≪弘前歩兵第31聯隊≫

「徳島大尉」
 弘前歩兵第31聯隊の責任者。
 慎重かつ毅然とした指揮で、神田大尉との約束を守るために切り詰めた日程の中での八甲田山縦走を、無事に成功させる。
 神田大尉ならびに第5聯隊の失敗、遭難死を嘆いた。
 福島泰蔵大尉がモデルとなっている。
 ちなみに福島は日露戦争の黒溝台会戦で戦死している。

「倉持見習士官」
 雪中の路上測図の研究を担当。
 行軍中、徳島大尉に何かと批判の眼を向けている。

「松尾伍長」
 白地山からの下山時に転倒し足を負傷。
 隊の進行に支障をきたしたため、三本木集落で行軍から外され汽車で弘前に帰された。

「斉藤伍長」
 青森歩兵第5聯隊に所属する長谷部一等卒の兄。
 行軍前から雪山経験の少ない弟に対し遭難の予感を抱き不吉な発言を繰り返す。
 行軍中は倉持見習士官の部下として歩測を担当。
 第5聯隊の日程を知らないにも関わらず行軍中に遭難死を確信した上、実際に弟の凍死体を発見してしまう。

「小山二等卒」
 行軍の経路の中間地にある三本木集落の出身。
 生家での宿泊を許され、三本木から増沢までの案内人を務めた。

「西海勇次郎」
 東奥日報の従軍記者。
 弘前歩兵第31聯隊の行軍に帯同し、青森歩兵第5聯隊の事故に遭遇。
 遭難死した長谷部一等卒の銃を持ち帰る。
 モデルは実際に雪中行軍に随行した東奥日報記者の東海勇三郎。


≪民間人≫

「相馬徳之助」
 小国村村長。
 猟師の弥兵衛と共に唐竹村から小国村まで弘前歩兵第31聯隊の案内人を務める。
 「夜になっても吹雪になっても案じることはございません」と自信を見せた。

「滝口さわ」
 宇樽部の開拓農民。
 宇樽部から戸来村まで弘前歩兵第31聯隊の案内人を務める。
 兵隊もひるむほどの猛吹雪にもかかわらず余裕綽々で先導を完遂し隊員の心を掴んだ。

「福沢鉄太郎」
 熊ノ沢の農民。
 他の6人と共に増沢から田茂木野まで弘前歩兵第31聯隊の案内人を務める。
 第5聯隊の遭難現場に遭遇した際に徳島大尉から秘密厳守を言い渡されたため、ろくな休息をとらないまま帰り道の強行軍を強いられ、凍死寸前の消耗状態で帰宅する。

「作右衛門」
 田茂木野村の老爺。
 自分の子が真冬の八甲田山で遭難死しており、行軍前の調査で訪れた神田大尉に冬山の危険を警告する。
 第5聯隊の通過時にも案内を申し出るが山田少佐に拒否され、これが第5聯隊全滅のきっかけとなる。

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Posted by ブクログ 2022年07月21日

結末をほぼ知ったうえで読んだ一冊。
組織論の題材として、戦時中の指揮命令系統や兵站は常に話題に挙がるけど、なんといっても自然の厳しさを感じた。
当時の記録などをもとに淡々と記されるドキュメンタリー風な内容で、小説らしい絶望的な状況の脚色は抑えられているので、読み手に様々な思いを喚起させる。

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Posted by ブクログ 2022年06月02日

面白かった。新田次郎の作品は初めて読む。というか、こういう作品を読むこと自体が初めてだった。実際あった事故を元にした半虚構小説。描写がとても分かりやすく、ぐいぐいと読み進めさせられる力があったように感じる。ドラマチックにものを描かないことが余計にその哀愁や虚無感を際立たせる気がした。登場人物が少し多...続きを読むくて多少誰が誰だか分からなかったのは別に良いかという気持ちになった。

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Posted by ブクログ 2022年04月30日

明治35年、日露戦争を前に、
陸軍の二つの聯隊が冬の八甲田山をそれぞれ逆ルートで登るという研究的雪中行軍が行われる。

雪と吹雪と氷の死の世界。
ばたばた倒れゆく兵たち。

乾いてあったかな布団に寝られるこの普通の日常に感謝の念がふつふつ。

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Posted by ブクログ 2022年03月01日

指揮命令系統の崩れが全ての崩壊にもなり得る。
実際に起きた事を元にしているという事もありとても衝撃的でした。

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Posted by ブクログ 2023年06月02日

面白かったけど、孤高の人の方が好きかな。長さの割に登場人物が多く、あれこの人既に出てたっけなという事が何回かあった。もう一回丁寧に読めばもっと楽しめるかも。

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Posted by ブクログ 2022年10月28日

近代の登山史における最大の遭難事故がテーマなので、読み進めるごとに引き込まれていく。
軍が、明治が、ただただ暗い。

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Posted by ブクログ 2021年08月12日

20210812
日露戦争前に寒冷装備が不十分だという理由で雪中行軍を強いられた。階級意識と、軍隊の理不尽さ。人間模様が描かれてた。雪怖い。弟を思う兄に涙。

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飽くまでも「フィクション」

2014年12月28日

未だ「リーダー論」とやらのテキストにされている様だが、その異なった目的を持った両隊を比較するのは如何なものかと思う。

況して五連隊側を「敗者」呼ばわりし、「悪役」として描かれた山田少佐のモデルになった山口少佐の御子孫は肩身を狭くしておられた。

神田大尉のモデルになった神成大尉もまた浮かば...続きを読むれないと思う。

一方、徳島大尉のモデルになった福島大尉は、猛吹雪の中を命懸けで案内してくれた民間人七名を暗闇の山中に取り残してきた。
それを「勝者」「理想のリーダー」として讃えるのには甚だ腑に落ちない。

この「史実を基にしたフィクション」を、あたかも史実の如く描いた新田氏は流石である。
然しその裏で、遺族や生き証人(元伍長)相手に取材を敢行した小笠原孤酒氏の奔走を忘れてはいけない。

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