【感想・ネタバレ】ふぉん・しいほるとの娘(下)のレビュー

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ゴツゴツとした歯ごたえ

作家吉村昭のゴツゴツとした歯ごたえが際立つ作品である。司馬遼太郎が時代小説家歴史小説家なら吉村昭は史談 史劇作家 と感じた。想像力の羽ばたきを意図的に抑え、史実に語らせる、という手法がこの作品にも満ちている。そのような手法で描き出される、時代に置き去りにされる老いたシーボルトや、正式な医学を前にして身を引くお稲を感傷を交えずに書き上げている。

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2023年09月03日

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シーボルトが長崎出島で、遊女のお滝との間にお稲という子をもうけ、その子の話。
シーボルトが鳴滝館で、外科を中心に医学を教えたこと、オランダ政府の命で、生徒を使い、日本の地理、学術等を調べたこと、シーボルトが江戸に呼ばれた際には更に詳しい情報を入手したことなど、知らなかったことばかり。
シーボルトは、幕府に見つかり、国外退去となり、関係生徒も罰せられる。
お稲は、あいの子であり普通の生活ができないこと、シーボルトへの憧れから、学問を目指すこととし、愛媛に行き、シーボルトの弟子の家に居候。
そこで、産科医を目指すように言われて、決意し、基本的医学を身に付けた後は、大阪の産科医でシーボルトの弟子の家に居候。
その医師に襲われ、長崎に戻り、タダを出産。タダ1人の子の意味。
長崎で産科医として働く。
日本が、開国に舵を切り、シーボルトが30年振りに来日し、お稲やタダと会う。シーボルトは本国妻との間にできた子供を連れてくる。
幕府は、アヘン戦争を目の当たりにし、開国に舵を切るという合理的選択をするが、長州と薩摩が反対し、尊王攘夷の機運が高まる。
その後薩摩はイギリスと戦争して、完敗し、攘夷はあり得ず、勤皇倒幕に方針転換。
長州は攘夷を維持し、長州征伐を受けるが、近代兵器を購入していたため、負けず。久坂玄瑞ら急先鋒らが処罰され、落ち着く。
坂本龍馬が間に入り、薩摩と長州が手を組む。
坂本龍馬が船中八策を作り、幕府も江戸が戦火に飲まれることを避けるため、大政奉還。
王政復古の大号令。坂本龍馬死す。
しかし、薩摩の西郷隆盛は、戦争により幕府の主導権を完全に失わせようとし、江戸で掠奪を繰り返し、慶喜は我慢に耐えかね、勤皇派と戦争。大政奉還後の主導権争いで、会津藩や庄内藩が抵抗、榎本武揚は函館五稜郭で抵抗するが、完敗。
タダは、愛媛医師の甥の通訳と婚約するが、甥は来日したシーボルトの通訳をしていたため、幕府勤皇派に捕まり、投獄される。その後結婚し、シーボルトの子に日本語を教えたり、監獄医療改革などに取り組むが、死ぬ。
愛媛にいたお稲は、タダにも医学を学ばせようと考え、知人医師に大阪か江戸への送迎を頼むが、その際襲われ、長崎で出産。子連れで長崎で再婚し、更に子をもうける。
お稲は、東京でも、宮中医師などをし、福澤諭吉らと交遊し、70か80で大往生。
明治維新などの流れも分かり、大満足。

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2019年12月29日

Posted by ブクログ

下巻は、十四歳のイネが長崎の親元から離れ、独り宇和島の二宮敬作を訪ね、医学を学びところから始まる。
イネは、その後、波乱の人生を送り、彼女が76歳で亡くなるまでの、まさに大河ドラマを描く。

イネは二宮敬作の勧めにより、日本で初の女性産科医としてのキャリアを歩む。舞台は幕末から維新にかけての激動の時期と重なり、西欧との接点でもあった医学が政治的に結びつく時代、村田蔵六など登場人物との繋がりも興味深い。(司馬遼太郎の「花神」ほどは登場しないが)

明治に入ると福沢諭吉とも懇親を深め、女性の社会的地位向上に一役を買う。(福沢諭吉の口添えにより宮内省御用掛となる)

一方で未婚のままの出産などイネを取り巻く数奇な運命の数々は、歴史小説としての読み応えを提供しているのだろうか。

幕末維新の歴史小説からは、当時の人々の志の高さに心を打たれ、魅了されるのだが、この小説では、女性で混血、という社会的には弱い立場に置かれながらも、志を強く生きたある意味ではユニークな生涯を知ることができ、今の自分を振り返ると身が引き締まる思いがした。

以下引用~
・「私は、女医者になります。多くの妊婦の命を救いとうございます」
・シーボルトは帰国後、オランダ政府の植民省に日本に関する報告をおこない、イギリス、アメリカの関心が日本に向けられていることを憂慮し、即位前のウイリアム二世に謁見して日本とオランダの貿易の現状と将来、鎖国政策を堅持する日本の国際的位置などに対して意見を申し述べた。
・宇和島藩の財政建直しは産業の奨励によるが、その中心は製蝋業であった。・・・宇和島藩の蝋は品質が良く、蝋燭、鬢つけ油として需要もさかんであった。そのため藩の収入は増大し、窮乏していた財政は好転した。

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2012年08月11日

Posted by ブクログ

下巻は、お稲の話よりも激動の幕末の話が大きな割合を占めています。新しく明治政府が出来て、医療制度も変わってきます。日本初の女医のお稲ですが、江戸時代はこれといった医師免許の試験はなかったのです。明治になり試験に受かった者が医師として認められるようになり、その試験には別の女性が受かっています(お稲は受けていない)。こうして新しい日本は女性の社会進出をどんどん認める時代となり、時代の流れとお稲の年齢からくるギャップに共感せざるをえません。

原発事故で、シーベルトについて調べようかと思い、ふと、シーボルトを思い出して読み始めた大作でしたが、学校で習う年表歴史ではない息遣いを感じることができ、大変有意義な読書タイムだった。

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2011年04月17日

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シーボルトの娘「いね」の波乱の生涯
あるいは
女性自立ものがたり&教養小説
とみてもいいのであるが

事実上スパイだった医師シーボルトと遊女の間に生まれ
江戸時代末期、女でありハーフがゆえに辛酸刻苦して
女医第一号になったという
それはそう強調してなくて淡々

吉村さんの筆は
末と維新後の歴史事実にものすごく詳細に詳細に
書かれてあったので、その雰囲気にのまれた

つまり、その裏打ちがあるからこそ
おいねさんがぴかりと光った女性だったのね
との読後感なのである

なるほどね、思うには思うが

すっかり維新前夜維新後の歴史事実に目を覚まされた
そりゃそうでしょ、港にゃ、外国軍艦押し寄せ
大砲ガンガン、略奪や乱暴狼藉もあった
つまり侵略
対して日本の中は喧々諤々、まとまりゃしない
長い鎖国の平和ボケ、陰謀あり、暗殺あり
時代の急激な波に右往左往する人々
(まったく、今もってしてないか)

吉村氏の調べて書くという魅力にはまってしまい
ちょうど教科書のようにも読めたわたしだった
今後この辺のものを読むのが楽しいかもしれない

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2020年05月08日

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幕末の激動の時代と「あいのこ」の数奇な人生と。この時代の女性ならではの苦労に思いを馳せ、生まれたばかりの我が子の幸多かれを心から祈る。

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2020年04月13日

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シーボルトの娘お稲が医師となり、明治維新を経て紆余曲折ありながらも日本初の産科医として働く姿を描く大河ドラマ。NHKも意味不明なヒロインやめて、こういうしっかりした原作使えばいいのに。

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2015年12月22日

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難しい時代に、女性として、しかもハーフとして生きたイネ。子どもができたくだり以外は、それほど大きな「事件」は起きないが、時代背景やシーボルトとの関係を見るに、壮大な人生という形容が似合う。史実に忠実な小説なのかもしれないが、実際にはいろいろな男性との恋愛関係もあったのでは?あってほしい、と願う。たとえフィクションであっても、そういう記述も欲しかったかな。

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2014年03月09日

Posted by ブクログ

小説の枠にしてますが、フィクションとしてしまっても好いんだと思う。それぐらい、史実を緻密に描き、その中で登場人物たちがどのような生を送っていったのかが生き生きと描写されてます。

幕末をちょっと勉強すれば出てくる戦争や策謀、日本人なら誰でも知っているような超有名人たちの躍動の背後には、この小説に書かれているようなごくごく平凡な、一般的な人々の人生が織り成されていたんだということに、改めて気づかされます。
この本を読んでも学校の歴史の点数は大して上がらないとは思いますし、その意味で勉強目的で読む必要はまったく感じません。が、この時代に生きた人々の空気感、息遣いを感じられるという意味で、学校の勉強以上に自分の糧になる作品だと思います。

しかし、この幕末から明治にかけての女性は強い。肉体的にも精神的にも。そして、とにかく簡単に人が死ぬ。戦いによってではなく、単純に風邪とか感染症とか、今であれば考えられないような理由で、本当にあっけなく、コロっと死んでしまう。
これが小説なら、「何でこのタイミングでこの登場人物を殺しちゃうんだよ!」ということになるんでしょうが、この作品に書かれているのはほぼすべてが事実。

だとすると、やはり「事実は小説より奇なり」ということになるんですね。

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2012年12月18日

Posted by ブクログ

やー長かった。やっと読み終えました。読み応え十分!

お滝の娘、お稲さんは宇和島の二宮敬作→石井宗謙と父の門下生に師事して産科医としての力をつけていく。
しかし何と石井宗謙に犯され娘タカを産む。タカもまた結婚した三瀬周三(諸淵)と死に別れ、片桐重明に犯され男の子を産む(周三と名づけた)。

お稲さんは東京に行って産科医として開業し最後は長崎へ。
その間、シーボルトが再び来日し再会したり、異父弟のアレクサンデルに助けられたり、江戸後期~明治初期までの激動の歴史を背景に、じつに起伏にとんだ人生が描かれます。

この辺の歴史って、どの藩が尊王なのか攘夷なのか、頭がごちゃごちゃになってくる。
攘夷、開国と、日本が揺れに揺れた時代だもんな。もちょっとこのあたりの歴史を学びなおしたいと思った。
吉村氏の「桜田門外の変」も読みたいな。

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2012年06月23日

Posted by ブクログ

幕末から明治にかけての混乱期、男たち、女たちの生き様がリアルに描かれている。
シーボルトの孫、高の「つくづく男運のない女」というのが印象的だった。その後の彼ら彼女らの未来に栄光があったことを心より祈る。

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2011年12月14日

Posted by ブクログ

江戸鎖国時代の長崎にオランダ船でやってきた医学者シーボルト。出島に出入りする遊女其扇(お滝)との間に生まれたお稲は、偉大な父と同じ医学、産科医として自立していく。職業を持った女などいない時代に医者としての道を志し、教えをうけた石井宗謙に犯され女児を生みながらも幕末、明治維新を生き抜いていく。

国ってすごかったんだ。武力を見せしめにして開国を迫って中国を植民地化したイギリスを筆頭にアメリカ・ロシア・フランス。開国か鎖国を続けるかで日本国内も争いが激しいし、暗殺、切り捨て、切腹、投獄、拷問も日常茶飯事。男が妾をもつのは当たり前、女がてごめにされても仕方がない。すごい時代。シーボルトが最初に来た時は経験、知識豊かで相当に尊敬もされたみたいだけど、日本地図を国外に持ち出そうとして永久追放された後、何十年後に再来日した時はうとまれたみたい。

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2010年08月15日

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この一家は絶世つーほど美しいのにもかかわらず男運がなかったですね・・・産科を学んでいた師に無理矢理犯され女児を出産。一度はやる気を失ったものの、再び産科医をめざし、ついに独立。バリバリ働きだした稲。この人の熱心さ、すごい。

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

久々の吉村先生。シーボルトの娘である楠本イネを主人公とする長編。いや、久々に疲れました。緻密な調査を元に、そこに自らのインタープリテーションを加えた吉村歴史ノンフィクション、基本的には好きでよく読んだのですが、このところちょっと離れてたせいもあってか肩が凝った(苦笑)。それと、イネの母でシーボルトの愛妾であったお瀧、イネの望まぬ子であった高子の女3人が時代に合わせて独白していくのだが、果たして昭和の男である吉村センセが理解する女心の描写が本当に本人の気持ちに近かったかな?とちょっと思った部分も少なく無かった。幕末をメインストリームとは違う観点から理解すると言う点では面白かったけど、出来れば同じテーマで有吉佐和子センセあたりに書いて欲しかった、かも?(笑)

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2016年03月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

 結局、タイトルはあくまでも象徴であったのだろう、と思う。
 「ふぉん・しいほるとの娘」とあるが、シーボルトに関わってしまった男たちがメインだと感じた。

 シーボルトの子を産む滝、娘の稲、孫のタダが出てくるが、稲以外の女たちの扱いは、男たちに比べると弱い。
 群像劇として読むのならば、男たちと同じようにシーボルトの娘の客観的な立ち位置が知りたかった。

 恐らく、タイトルから察した私の読みたい話とは異なった……ということなんだろうなぁ。
 長かったです。

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2011年11月03日

Posted by ブクログ

所謂オランダお稲の話。江戸時代、しかも幕末から明治維新のただでさえ動乱の時代に日蘭のハーフで生きるってどんなに大変だったんだろう。

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2011年10月29日

Posted by ブクログ

ようやく読破。。
シーボルトが出島に来ていた頃、遊女との間にできた娘の一生の話。

う~ん。シーボルトって偉いお医者様だったんだよね、
くらいの知識しかなかったから、
遊女との恋物語とか、その後、お手伝いの女性に手を出すとか、
そういうものか。。と思ってしまった(^_^;)
まぁ、それ以上に、日本のことをオランダに伝えたい、という意欲に圧倒される。
そこまでする?!ということが多々あり。

小説としては面白いけど、
日本史の弱い私には行き詰る箇所が結構ありました。。

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2011年10月10日

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