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温暖化が進み、過酷な環境となった未来世界。火星へ強制移住させられた人々は、ドラッグと模型によって、過去の地球を再現した仮想空間へダイブすることで心を支えている。やがて遥か遠い星系からもたらされた新種ドラッグが現実崩壊の恐怖を引き起こすが……。
現実と幻想の狭間を描く、ディックの真骨頂。今はどっちの世界にいるんだっけ?という感覚を本書でも味わえる。ラスボスのような圧倒的な力を持った存在との対峙。人間くさい登場人物の意外な決断。全編通して読ませる力が強く、面白かった。ラスト付近は意図的にわかりにくくしているのか、読んでいる方も混乱してきて、トリップを疑似体験しているかのようだった。
毎回ディック作品には魅力的な女性が登場するが、今回は特に恋愛や性描写も色濃く、パンクしそうな急展開の連続に華を添えてくれた。
しかしこの作家はドラッグと壺が好きだな。
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火星や金星に殖民するため、国連によって地球を追われ、過酷な環境下に強制移住させられた人々にとって、ドラッグ・キャンDは必需品であった。キャンDは目の前の模型セットに精神を投影させ、あたかも地球に居るかのごとくトリップすることができるのだ。P・P・レイアウト社の社長レオ・ビュレロは、流行予測コンサルタントとして働く優秀な予知能力者(プレコグ)バーニイ・メイヤスンらとともに順調にキャンDを売りさばいていたが、懸念すべきニュースが舞い込む。遥かプロキシマ星系から、謎の星間実業家パーマー・エルドリッチが新種のドラッグ・チューZを携えて太陽系に帰還したのだ!レオはパーマー・エルドリッチに対抗すべくバーニイの力を借りるが…
うーん、傑作。今回もディックお得意の現実崩壊。
「『さあ、これで現実の世界へもどれたぞ』と思った瞬間に、とつぜん幻覚世界からきた怪物が目の前を横切り、自分がまだもとの世界に帰っていないのに気づく、その恐怖だ」とは、訳者あとがきで引用されるディックの言葉ですが、本書では、この恐怖が迫真の筆致で描かれます。しかし、そんな恐怖で満たされた作品であるものの、決して救いのない物語ではなく、絶望にとらわれた主人公が、それでも暗闇の中で希望を捨てずに生きのびようと悪戦苦闘する物語です。なんといっても、冒頭で紹介される一文がそれを如実に表しています(というより、この一文を物語にしたのが、本書のようですね)。
「つまりこうなんだ結局。人間が塵から作られたことを、諸君はよく考えてみなくちゃいかん。たしかに、元がこれではたかが知れとるし、それを忘れるべきじゃない。しかしだな、そんなみじめな出だしのわりに、人間はまずまずうまくやってきたじゃないか。だから、われわれがいま直面しているこのひどい状況も、きっと切りぬけられるというのが、わたしの個人的信念だ。わかるか?」
うーん、よくよく考えると、ディックの長篇作品はそんな作品が多いかも。現実を疑い続けるディックの楽観とは少し異なる大雑把さに、なんだか励まされた気がします。
壮大な悪夢
こんな未来には住みたくない!と思わされるような陰鬱な惑星植民地にもたらされる違法ドラッグ!という感じの、とても40年以上前の作品とは思えない面白さ!とはいえディック濃度200%なので、『ブレードランナー』くらいのつもりで読むと面食らうかも。
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PKDの「ユービック」と並ぶ代表作の一つ。「ユービック」に時間の逆行というプロットの中の破綻があるというマイナスポイントを考えると、本作をPKDナンバー1に推す人も多いかも知れない。
謎に包まれ、カリスマも感じさせるパーマー・エルドリッチという存在、そして惑星開拓に伴う移民たちとドラッグ「キャンD」&パーキー・パットの模型セット、更にはエルドリッチが持ち込む新ドラッグ「チューZ]・・・、まさにサイケデリックSF。何度も読み返したくなる異常なまでの名作。
(ハヤカワ・オンライン 書籍紹介から)
謎につつまれた人物パーマー・エルドリッチが宇宙から持ち帰ったドラッグは、苦悶に喘ぐ人々に不死と安寧をもたらした。
だが、幻影にのめりこんで、酔い痴れる彼らを待ちうけていたのは、死よりも恐るべき陥穽だった!
ディックが、現実と白昼夢が交錯する戦慄の魔界を卓抜な着想と斬新な手法で描く傑作長篇!
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いや〜めくるめくディックの世界を堪能した。特に終盤は「幻影か現実か」「エルドリッチかメイヤスンか」で、エンドレスなマトリョーシカ状態。短編の方も読んでみたい。
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フィリップ・キンドレッド・ディック作、浅倉久志訳のSF長編。
ディックの名短編『パーキー・パットの日々』を下敷きに、架空のドラッグによる、共同幻想への没入、過去への回帰、物質への転生、それら幻覚の現実世界への侵食…といったトリップ体験を融合させている。
ディストピア小説でありながら、ドライな筆致、零れるユーモア、そして登場人物たちの見せる人間らしさによって、物語は陰鬱さを免れている。
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フィリップ・K・ディックは、麻薬をテーマに扱った作品が多いけれど、この作品はその代表作。
「麻薬でトリップ→ひどい悪夢→やっと目が覚める→と思ったらまだ悪夢の中」という恐怖を、しつこいほどに描いています。人間の意識なんてあやふやなものだと思わされます。
麻薬による、人びとのそれぞれの夢の中に普遍的な神として君臨するパーマー・エルドリッチ。人間が己の瑣末な意識から逃れられない存在なら、神はその幻想さえ支配すれば神たり得るのかもしれません。
途中まで、主人公をバーニー・メイヤスンだと思っていました。公式の主人公はレオ・ビュレロなんですね。
タイトルは良いですね。美しいです。同じ作者の「流れよわが涙、と警官は言った」にも陶器の壺をつくる職業の女性が登場しますが、作者は陶芸する女性が好みなのかな。
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まさにPKD、そして分けわからん。
パーマー・エルドリッチって一体。あれが聖痕?
そして、結局異星人の媒体かよ。。。
あとがきに書かれているのは、本文の前に書かれている、人間は塵から生まれたからたかが知れてるけど、まぁまぁうまくやっている。今回の困難にもうまく対処できるんじゃないかな。っていう分かりやすいメッセージ
毎度のこれって現実?神って実はたいしたことないんじゃね?的な物語かと思いきや、こんな話だったらしい。
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初めてディックの作品を読む。
思った以上に、大変面白い。
複雑な構造の時間軸。
今なのか未来なのか過去なのか。
現実なのか、悪夢なのか。
ドラッグのフラッシュバックに乗っ取られる自己。
幻想的な、神性と悪魔性のカオスの狭間で苦悩するも、
希望は失わない…。
かつて、安部公房にハマった時のワクワク感を思い出した。
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P.K.ディック 1965年作品。
ドラッグによるトリップ具合といい、
ぐだぐだな主人公の心象風景といい、まさにディック節炸裂!
ハリウッド映画のような展開にワクワクしつつ、
ラスト間際の不可解でわけのわからない描写は独特。
それでも一気に読める面白さはさすが!の一言。
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相変わらずディックらしい悪夢的な世界だった。
しかし、自分の読み方が浅かったというかよみこめなかったので☆は作品に対してというより自分の読書態度に対して。
ぜひ、も一度読み返したい。
Posted by ブクログ
温暖化が進み、命に危険が及ぶほど住みづらくなってしまった地球。人類は生き残り策として火星への強制移住計画を進めていたが、開拓地の火星は何の楽しみもない荒涼たる砂漠が広がるだけだった。強制的に移住させられた貧民が心の支えとするのは、地球での暮らしを再現できるドラッグ「キャンD」。このドラッグを非合法に、且つ独占的に販売していたP・P・レイアウト社の社長レオ・ビュレロに最大の危機が訪れる。謎に包まれた実業家パーマー・エルドリッチが、新種のドラッグ「チューZ」を携えて外宇宙から帰還したのだ。エルドリッチの販路拡大を阻止すべく、レオの意を汲む予知能力者バーニー・メイヤスンが火星に乗り込むが・・・。
これがねぇ。毎年必ずある「読んだけどどうしてもレビューできない一作」に早くも該当するかと思ってしまったぐらい、鴨的には読者としての立ち位置に悩む作品でありました。
鴨がディックの長編を読むのは、「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」「虚空の眼」「ユービック」に続いての4作目。これまで読んだ中では、一番ディック臭が強い作品だと感じました。ストーリーはディックの超定番、「現実崩壊」に他なりません。中でもこの作品は、現実を崩壊させた張本人であるところのパーマー・エルドリッチの描写がユニークです。独特の風貌(大きな特徴が3カ所にあるため、「三つの聖痕」と呼ばれる)を持つ彼が現実を支配した後、いや、それを現実と見なすかどうかも読者にゆだねられているのですけれども、パーマー・エルドリッチであるところのその存在は、全人類の世界に遍在するようになるのです。でも、偏在するのだけれども、世界に絶対的な影響力を及ぼすほどのパワーは彼にはない。まさに、現代的な「神」そのものです。
「神」って、実はこの程度のモノなんじゃないの?
そんな冒涜的な、同時に根源的な問いにディックが出した回答が、この作品なのではないかと鴨は思います。「神」に徹底的に抗戦することを誓うレオの問いかけでこの物語は始まり、そして終わります。作中で起こった問題は、何も解決していないのに。絶望的だけど、とても前向きなラスト・シーンです。
ディックって、実はとってもポジティブな人だったんじゃないのかなぁ。そんなことも感じさせてしまう、不思議な作品でした。