【感想・ネタバレ】夜想曲集のレビュー

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副題から分かるように全ての短編に音楽の要素が出てきますが、もうひとつの「夕暮れ」はどういうことだろうと思いながら読んでいました。訳者あとがきにも書かれていましたが、音楽以外にももうひとつ男女関係・夫婦関係の危機というモチーフも全ての短編に共通しています。登場人物皆もう若くなく、ある人は結婚した時の状況とはお互いの関係や自分の感情や人生に求めるものが変わっていたり…。こういう人生の盛りを過ぎてそれでも残りの人生を生きていく人々を「夕暮れ」という言葉で表現しているのでしょうかね。思えば『日の名残り』もそのような意味合いでしたか。
ひとつひとつ心にしんみりとした感覚を残す短編でおすすめです。

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2024年04月23日

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短編集。笑って、しみじみして、唸って、ため息ついてまた笑って。
一番好きなのは「降っても晴れても」。
どれもラストは僕好みだった。

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2022年09月19日

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カズオ・イシグロ(1954-)は、『日の名残り』(1989年)で、イギリスで最も権威ある賞「ブッカー賞」を受賞した、世界的作家。長崎県長崎市で、日本人の両親の元に生まれましたが、5歳でイギリスに移住。成人までは日本国籍、その後、イギリスに帰化しています。2010年に映画化された『わたしを離さないで』で、また、2012年4月に、NHKで「カズオ・イシグロを探して」と題したドキュメンタリーが放送され、日本でもより知られるようになりました。
『夜想曲集』(2009年)は、「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」という副題が付いた、初の短編連作集。どの物語も、人生の後半や終盤にある人物が、自らの過去(=夕暮れ)を、ジャズ、クラシック、ポピュラーなどの音楽とともに振り返ります。
この連作短編集を読んで私は、自分が若い頃にこの本に出会ったならば、今とは違い、ストーリーの展開や場面設定の巧妙さにばかり感嘆しただろうと思います。しかし、人生も優に半ばを過ぎ、振り返る時間が堆積した今、私がこの短編集から読み得たのは、感情の渦に巻かれ、愚かしい選択を繰り返してきた人間の、それでも肯定する他ない人生への愛着でした。
いずれにせよ、これが私の人生だった。そしてこれからもそれは同じ――。作家と出身地を同じくする私は、身勝手にも、遠いイギリスからそんな激励をもらった気持ちなのです。(K)

紫雲国語塾通信〈紫のゆかり〉2012年1月号掲載。

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2022年09月05日

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なんかこう切ない雰囲気がとても好き。

イシグロさんって、淡々と進む情景描写に、綺麗な色の哀愁を乗せるのがとても上手な作家なんだと思う。たぶん、情景と感情の絵をいつも思い描いている人。うまく色が溶け合わさせて、読者を癒してくれる。
この本はそれがすごく出てる。

サンマルコでいつかこんな音楽家に会えますように。

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2020年03月28日

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過ぎ去りし時代の音楽は知らない曲ばかり、YouTubeで探し聴きながら読んだ。格調高い文章は行間に時間の狭間が織り込まれる。情景を空想し登場人物に自分を重ね合わせて読む。すると今日一日疲れた体、心が癒される、不思議な文体である。

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2018年04月15日

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4冊目のカズオ・イシグロの作品である。
カメレオンのように作風を変えられる、“ひとり映画配給会社”と私は彼を呼んでいる。
そのイシグロは、実は音楽にも精通していて、シンガーソングライターを目指していたこともあったとか。そんなところから生まれているのがこの短編集で、5篇をひとつとして味わうように求められており、すべてミュージシャン(もしくは音楽愛好家)を題材としている。
今まで読んだ中で、最も読みやすい、ムード漂う作品集である。ドラマ性や落ちはなく、人生の一瞬を描く趣向となっている。長編小説とは全く異なる素顔のイシグロの感性が垣間見られた。
主人公は皆、才能はあるが認められておらず、たゆたゆと人生を彷徨っている。読み手も、物思いに耽りながら、カフェで頁をめくるのにうってつけの良書ではなかろうか。
私のお薦めは、コメディタッチの強い中盤3作品よりも、コリッとした読後感のほろ苦さ(これが著者の本領)がある「老歌手」、「チェリスト」。
ヘンな言い方だが、カズオ・イシグロって大家のように思って見てたけど、現代作家なんだよね。

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2023年08月20日

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常に音楽が流れている短編集。
冷めきった関係を復元しようとする老歌手や、メジャーデビューのために整形手術を受けるミュージシャンとか、設定が微妙に現実離れしているところに面白さがあって、すぐ読めてしまいます。
面白くて品のある短編集です。

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2022年12月02日

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副題は「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」。

全盛期を過ぎた歌手が再起を目指して愛する妻と別れようとする「老歌手」。

音楽の趣味でつながった大学時代の友人夫妻との、今となっては埋めようもない価値観の溝をコミカルに描く「降っても晴れても」。

メジャーデビューに目指し作曲にいそしむ主人公が旅回りの音楽家の夫妻とのわずかな交流の中に、人生のままならなさを感じる「モーバンヒルズ」。

「夜想曲」は、「老歌手」で出てきたリンディが再び登場する。
風采の上がらないサックス奏者が整形手術を受けさせられ、術後を過ごすホテルの隣室に彼女がいる。
二人とも顔を包帯でぐるぐる巻きにされている中で、退屈しのぎに深夜の高級ホテルの中を歩き回る。
なんとなく『ローマの休日』のような、昔の映画にあるロマンチックコメディ風のドタバタ。
が、結末はちょっとほろ苦い。

最終話は、音楽院を出たものの、その後の演奏活動で行き詰っている若手のチェリスト、ティボールの物語。
広場で出会い、彼にレッスンをする謎の女性。
彼女はいったい何者なのか。
才能と教育の問題を考えさせられる。

どの話も、主人公は天才的な音楽家というわけではない。
音楽に関わりながら、時にままならぬ人生を生きる人々だ。
割とドライな筆致でありながら、どこかにこうした人々の哀感がにじんでくる。
すばらしい短編集だった。

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2022年09月23日

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短編。男女の関わりと、音楽を絡めた作品群。一作目の老歌手が好き。相手への気持ちと自分の有りたい姿を切り離して、違う道に進むのが哀愁ただよいつつも気持ちが良い。

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2022年08月07日

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チェロの師匠の話が衝撃で面白かった。

船と歌のシーンは、ロマンティックなムードの情景が頭に浮かび、印象に残っている。
素敵だった。

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2022年06月02日

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カズオ・イシグロ氏の初短編集。「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」は、どれも夫婦や男女の微妙な関係や人生における変化を音楽をキーワードに綴られた、個性と雰囲気あふれる作品ばかり。著者の「五篇を一つのものとして味わってほしい」という言葉にも納得、シングルカットではなく、アルバムとして美しく秀逸なCDを聴いたような読後感があった。それぞれに異なる都市の映像も目に浮かぶよう。個人的には冒頭の「老歌手」が印象深かった。ちなみにここに出てくる人物が他の一篇に出てきて「おっ!」と思うのも楽しかった。

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2022年01月22日

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音楽とすれ違う男女の仲をモチーフにした短編5編。
特にオチがあるわけでなく、各主人公の人生のうちの少しを覗く。
細かく計算し尽くされた描写が続く(描写の謎解きをしているサイトもいくつも)ので、自分的には読み取るのが苦手。
解説を読んで、また今度2回目読もうかな。

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2021年08月07日

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ヨーロッパ・アメリカが舞台の話。
音楽をやっているというのは自分と同じ共通点だが、あまり自分が知らない世界感を覗かせていただいた。
後書きを書かれた作家さんも言っていたが、真面目な文章の中に、ユーモアな発言や行動が沢山散りばめられていたため、こんな素敵な情景が思い浮かぶ大人な話の中なのだけど、その中に楽しさがあった。
最後の「チェリスト」は、結果どうなったとか結論とかはっきりとしたものがないんだけど、その謎めいたものに全くイライラせずむしろしっくりきた。

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2021年05月17日

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全体的に充たされざる者のようなシュールな雰囲気がある不思議な短編集。やっぱりカズオイシグロの小説は結末の曖昧さが良いですね。中では老歌手が一番好き。

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2020年06月17日

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個人的には、私を離さないでに続く2作目のカズオイシグロさん。なんだか突拍子もない背景やイベントの中で人間性を描くのが上手だな、という印象を抱いた。読んでいて間違いなく面白い。

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2020年02月19日

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音楽をなりわいにする人達を題材にしたちょっと切ない5篇のお話。この作者は、どこかが噛み合わない違和感にも似た不穏な感覚と人情味溢れる哀愁を同時進行で、自然な文体の中で感じさせてくれる。マイナスな感情が溢れる中でも、あくまで柔らかな表情の中でスーっと受け入れられるような、そんな作品です。

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2019年10月28日

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音楽とその才能、そして夫婦の危機という共通のキーワードを持つ作品集。会話などでの心の襞を納得感のある繊細な表現で描写してくれるところが好きです。
降っても晴れても、夜想曲は現実にはありえないようなとんでもない方向に展開していて、それでもその先に興味も持ち続けたまま読ませてくれます。老歌手と夜想曲は繋がりがあり、作者もこのキャラクターをもう少し描きたいと思うことがありそうだと考えながら楽しめました。
いずれも味わい深い短編、その先をもう少し読みたいと思うところで終わるところも余韻と想像力を掻き立てます。

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2019年09月22日

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読みやすかったです。
イシグロもこんな短編集を書いていたんだなぁと。
チェリストという話が1番不思議だったけどどのお話も心地良い余韻が残っていてよかった。
一日の最後に枕元で読んでみてほしいです。

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2019年08月19日

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老歌手
この短いテキストでこれほどに芳醇なストーリーが編めるのかと驚きます。まあ、この老歌手に共感できるようになってこそはじめて、一端の大人、なのかもしれません。

降っても晴れても
この作家の作品をそれほどたくさん読んだことがあるわけではありませんが、こういうコメディタッチもありなんですね。小説というよりもドラマ脚本という感じがしますが、それでもどこかに詩的な雰囲気が漂っていて入り込めました。

モールバンヒルズ
人間というのはなかなかまっすぐに伸びていくことはできないものですね。節を作りながらそのたびに少しずつ曲がっていくので、それがその人のその人らしさを形づくっていくんですね。

夜想曲
ひょんなことから顔の整形手術を受けることになった男のコミカルなショートストーリーです。現状と未来との間にプライドがとぐろを巻いていて、あるセレブリティがそれを解きほぐすために突然目の前に現れる。シンプルな筋なのに、読み手側で色々な解釈ができるエンディングです。

チェリスト
他の作品とは少し違った趣があります。ある意味では、最も他の長編小説に近いものがあるような気もしました。コメディタッチは鳴りを潜め、どこか深刻な苦しさが表れているような気がしました。

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2019年04月30日

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副題「音楽と夕暮れをめぐる五つの物語」
を描いた短編集。

物語によってしんみりしたりクスッとできたり
なかなか面白かったです。「降っても晴れても」の
主人公の友人たちのなかなか下衆さに呆れたり
「夜想曲」のホテル探検はいい歳した大人でも
ハラハラドキドキしてしまいました。

なんとなく50~60歳になったときに
また読みたい。

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2019年01月31日

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うまいな、といった感じの短編集。ササッと読めてしまった。

「老歌手」
「まるで国語のテストの問題文みたいだ」という謎の感想がアタマをよぎった。なぜだ?
オチはなんだか取って付けたみたいだが、実は後のほうの短編への伏線になっている。

「降っても晴れても」
まるでコメディ映画。テンポが良いね。

モールバンヒルズ」
イシグロみたいな一人称の手法を指して「信用できない語り手」と呼ぶとどこかで読んだ。この短編集ではその手法が前面に出るではないが、やはり語り手が、ひねくれた自意識やコンプレックスを抱えていて素直には語っていない気がする。この短編ではクラウト夫妻も素直でない。

「夜想曲」
これもコメディ映画風。老歌手では脇に近かったリンディが前面に。

「チェリスト」
この短編は珍しく語り手が素直で存在感が薄い。その代わりか女がミステリアス。

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2018年11月05日

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音楽が関わる5つの短話。それぞれの話の流れが個々の音楽を聴いているような印象を受けた。全体的に静かな感じで心地良く、時折アップテンポになる感じで飽きが来なくとても楽しめた。

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2018年08月12日

Posted by ブクログ

カズオ・イシグロの短編5編。
どの作品も印象的な音楽をバックに、夫婦の危機であったり男女の微妙な距離感を底辺に据えて、時にはユーモア全開に、あるいはポール・オースター風の不条理な謎かけで、あるいは哀愁あふれる物語であったりと、作者の自在な構想力を楽しめる作品集に仕上がっている。
中でも自分がいいなと思った作品は『老歌手』と『降っても晴れても』だったかな。

『老歌手』は東欧から来たしがないギター弾きがヴェネツィアの地で、昔、母が好きだった有名老歌手と出会い、彼のためにゴンドラからホテルの一室にいるその老歌手の妻に歌声を捧げるという企画に参加する物語。
物語全体に漂う哀愁とラストの愛情のすれ違いが何とも堪らない余韻を残す作品となっている。

『降っても晴れても』はいまや人生の成功者となっている学生時代の友人夫妻のもとを訪れた男の視線から、夫婦間の危機をドタバタに描き出すブラック・コメディー。
もともといろいろな作品で時折見せていたカズオ・イシグロ流のユーモアであったが、今回はタガを外したかのように全開で炸裂させていて、普段とは違う不条理なギャグセンスを見せてくれる作品。

『モールバンヒルズ』は音楽界の最前線から少し離れ、力を溜めこむために姉夫婦のいる田舎のカフェに転がり込んだギタリストの青年と、たまたまそのカフェを訪れたスイス人夫婦とが織りなす音楽を通じた対話の物語。
物語全体につんつんとした感じがあって、青年とスイス人夫婦とのその接触と距離感とを自然の雄大さと対照させており、そうしたヴィジュアル的にも面白い構図のまま迎えたラストが印象的であった。

『夜想曲』はこれまたポール・オースターを思わせるような不条理で謎に満ちた突拍子もない展開が魅力の物語。
何といっても顔面を整形手術して包帯でぐるぐると顔を覆い隠した男女二人が、深夜のホテルの中を歩きまわる姿が滑稽でもあり、さらには物哀しさも感じさせる微妙なバランスが面白かった。

『チェリスト』は東欧からきたチェリストが、自分を有名チェリストであると名乗る美女から日々チェロの特訓をすることになった話。
これも謎が先行する話だが、チェロの特訓を通じてお互いを理解できるようになった男女の物語でもあり、ラストの思いがけない別れは夢から覚めた昔話の感覚を思わせる。

全体として、男女の別れをテーマにしながらも、カズオ・イシグロのお茶目ぶりとチャレンジが味わえる短編集だったのではないか。
『夜想曲』や『チェリスト』はさらに後ろを広げて、長編にしても良かったかもしれない。

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2018年06月18日

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カズオ・イシグロ氏の本を初めてよんだ。
英文学の翻訳と言うこともあると思うけれど、村上春樹から性的なところと狂気さを少なくした感じを受けた。

音楽に纏わる短編集であるこの作品は、とても良かった。
二話目の終わり方が好き。

また、社会主義経済圏出身の登場人物の描写が、興味深かった。

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2018年05月29日

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Nocturnes(2009年、英)。
音楽をメインテーマとした短編集。チェーホフを彷彿とさせる哀切感漂う3編(奇数章)と、アメリカンコメディーのような2編(偶数章)で構成されている。

「降っても晴れても」が一番好きだ。著者の作品としては例外的に軽妙に笑える。とはいえ、根源にあるのはやはり哀愁なのだが…。全編を通して私が最も好きな登場人物が、この物語の主人公、レイモンドなのである。他の人々が自分の才能を人に認めさせようと躍起になる中、彼だけは自分のアドバンテージを自ら放棄して、親友夫妻のために道化役を演じるのだ。それが本人の意図を超えて、何もそこまでやらんでも、というほど必要以上に道化になってしまうところが笑えるのだが。「イシグロ史上最も冴えない語り手(解説者談)」は、「最も心優しき語り手」でもあると思う。素っ頓狂な友人チャーリー(そもそもこいつが全ての元凶だ)とのやり取りも絶妙で、ベストコンビ賞を贈りたい。それにしてもチャーリー、最終試験のあと泥酔して何をやったんだろう?

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2022年09月06日

Posted by ブクログ

なんかお洒落な感じの短編集だった。人生の黄昏的なところを描く人なのかな。ちょっと沁みるところもある。夫婦関係が悪化する様子とか。
若いとき読んだ「日の名残り」はものすごい退屈だったけど、今読んだら面白いのかな。クララ~は面白かったし。

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2024年01月22日

Posted by ブクログ

カズオイシグロの短編集。タイトルにある「夕暮れ」とは、サンセットタイムだけではなく、人生の夕暮れ(中年から初老の世代)とか男女関係の夕暮れ(別れの予感がある状態)を指しているようだ。熟年離婚、旅先での喧嘩、不安を感じる結婚相手など、何かしら影を感じる設定である。
登場人物はいずれも「若さ」「付き合いたての頃」「才能」への憧れを持っており、やるせなさを織り交ぜながら切ないストーリーが展開する。それでも、コメディの要素が含まれる話も2話入っていて、ユーモアたっぷりの登場人物とぶっ飛んだ展開に驚かされ、思わずクスッと笑ってしまう場面もあった。切ないストーリーでテンションが下がった読み手としては救われる。

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2022年11月23日

Posted by ブクログ

短編集。‥‥の割に情報量が多い。一気に読むと疲れるかもしれない。ユーモアは感じたが、いつものすっとぼけたような趣きは感じられなかった。

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2022年08月20日

Posted by ブクログ

音楽と夕暮れをめぐる五つの短編集
相変わらず靴の中に小石が入ったような
微妙な違和感は相変わらず
音楽のオチがついてるのはそのうちの二編

長年連れ添った妻にヴェネツィアで唄を捧げる
『老歌手』、不思議な才能をもつ美女との
レッスンを繰り返す『チェリスト』が好き

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2022年06月05日

Posted by ブクログ

「日の名残り」「わたしを離さないで」のカズオ・イシグロによる、音楽をテーマにした5作の短編集。著者の言う通り、5作は個別の作品でありながらも根底に流れているテーマのようなものは繋がっている。

それは主人公らしき人物の描写に表れている。皆一様に招かざる人か、あるいは本人が望んでないのにこの場所にいる人である。さらに独り身であり、社会的立場が不安定で自分の才能に懐疑的である。

対して彼らが出会う人々の大半は夫婦であり、野心家で社会的に成功することに価値を置いている。しかもある程度自分の才能について確信がある。しかし成功に対するアプローチはバラバラで、それが基になって人間関係が不安定になっている。夫婦という本来安定した関係性が崩れることでその悲惨さがより鮮明になる。そして物語の最後に彼らは変化の瀬戸際に立たされる。この先上手くいくのか、いかないのかは明示されない。ただ彼らが変化するために主人公たちは存在した。そう考えると、主人公たちはただのキッカケだったとも言える。

カズオ・イシグロの作品はあらゆるところに引っ掛かる部分が用意してあり、素直に読ませてはくれない。時には語り手が本当のことを語ってないんじゃないかと疑う場面もある。それは短編になっても同じで、短編だからこそ気になった箇所を何度も読み返せる面白さがあった。

作中にある音楽についてたとえ知らなくても、サブスクですぐに調べて聞ける現代って良いね。

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2022年01月12日

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副題のとおり、音楽と夕暮れがモチーフとなる5つの短編集。ぼく、として語られる主人公は音楽家だったり、音楽好きだったり。そして主人公に関係するカップルが登場するがどれも関係が危うくなっている。話の進行には音楽が介在し、物語は進む。5つの短編それぞれが一つの曲が流れるように、一つの曲を聴き終わるように、そんな読後感だ。

「老歌手」はベネチアでバンドを掛け持ちするギター弾きが、ある老歌手が妻のためにホテルの窓下の水路で歌う伴奏をする。なぜそういうシチュエーションが起きたのかがミソ。

「降っても晴れても」は、雲行きが怪しくなった、ロンドンに住む大学時代のクラスメイト夫婦の家に訪問した47歳の主人公の話。その妻と主人公とは音楽の好みで共通点があったが・・・

「モールバンヒルズ」は、ひと夏、姉夫婦の営むイギリスのモールバンヒルのカフェで働くギターで身を立てようとする若い男性が、客として訪れた音楽家夫婦に自分の作った曲を聴いてもらうと・・。

「夜想曲」。これはなにかとんでもなく突飛な設定。売れないサックス吹きが、「整形をしたら売れるんじゃない?」というマネージャーの言に従い手術をしたが、その術後の部屋の隣に有名な女性スターがいて・・

「チェリスト」。これもなんとも不思議な話。イタリアのアドリア海に面した町で、若いチェリストがやってきて町のバンドに在籍するが、天才チェリストと名乗る女性と出会い、自身の演奏を指導してもらうが、女性は決して自分では演奏して見せない。実は・・

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2018年08月30日

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