【感想・ネタバレ】チャップリンとヒトラー メディアとイメージの世界大戦のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

 録画したまま放置していたNHK歴史秘話ヒストリア「五・一五事件 チャップリン暗殺計画」を視る。コメントを述べる大野裕之氏の背後に本書の背表紙が見える。俄然 読みたくなる。
 長らくチャップリンはユダヤ人だと誤解していた。それは異父兄シドニーの方で、彼本人はロマ系だった。
 もう一つ、ヒトラーは小柄だと思い込んでいた。少し前にフランコと並んだ写真を見て、意外に長身だと思っていた。175センチだから、欧米人なら普通の部類だろう。
 上記二つの誤解は一にかかって「チャップリンの独裁者」に拠るものだ。
 他の大野氏の著書などで、我らが黒澤明をしのぐチャップリンの完全主義に接していたが、改めて思い知る。ここまで妥協しない姿勢は空前にして絶後だろう。
 わずか4日違いで生まれた喜劇王と独裁者は、ともに映像と音声の新興メディアを活用し、頂点へ駆け上がってゆく。そして前者は後者に致命傷を負わせる。
 当初の構想では、独裁者に間違えられた床屋の演説に感動した兵士らのリアクションが描かれ、撮影もされている。そのままでは物語は閉じてしまう。演説は映画的構成の破綻を怖れず、第四の壁を超え、観客に向けて語られる。
 「独裁者」の公開後、ヒトラーが人前で演説する回数が激減したのは数字の上で明らか。「笑い」の勝利だ。

 兄シドニーが撮影したという撮影風景のカラー映像、いつか観てみたいものである。

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2019年12月25日

Posted by ブクログ

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チャップリンとヒトラー
メディアとイメージの世界大戦

著者 大野裕之
岩波書店
2015年6月25日 発行


9月ごろに読んだ本。
著者は1974年生まれで、10年以上前に仕事でお会いした時にはすでに、若くして世界屈指のチャップリン研究家と言われていた。京都でミュージカル劇団も主宰している。
初に著者は「本書は二人の伝記ではない。本書は、チャップリンとヒトラーの〈闘い〉を描く。」と宣言している。1889年に4日違いで生まれた2人は、20世紀でもっとも愛された男ともっとも憎まれた男になった。この本を読むまで、チャップリンの「独裁者」は喜劇というビジネスと多少の正義感で作られたように思っていたが、実は違った。ヒトラーはチャップリンという存在を警戒し、妨害をはかっていったことが読んでわかった。相当やばい状況まで追い込まれたが、決して屈せず、独裁者を作り抜いたチャップリンの姿が描き出されている。それにしても、反ヒトラーのアメリカですら、チャップリンを邪魔し、「赤」扱いするというのは示唆するところが多い。
非常にすぐれた本だった。

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2021年03月17日

Posted by ブクログ

ネタバレ

フォトリーディング後、高速を交えて熟読。
良書。

ただ、私が考えていたチャップリン=ユダヤ人が冒頭で否定されたので、当初予定していた情報収集を軌道修正させられてしまい、そんな個人的な理由で気分が乗らない読書であった。他の人が読めば、チャップリンとヒトラーの奇妙な運命の偶然に目を見張ることと思う。

(チャップリンはイギリス人。母にはジプシーの血が混ざっている。異母兄弟の兄は、彼らが信じるところでは、ユダヤ人の血が混ざっている。チャップリンはナチスから激しくユダヤ人差別を受けるが、それを意図的に無視。相手の土壌で戦うことは、ユダヤ人差別に荷担すると考えたため。)

下記に付箋を貼った箇所の要約をのせる:

9-10:第一次大戦中のフランスの野戦病院では、寝たきりの患者が鑑賞できるようにと床に映写機をセットし、チャップリンの喜劇を見せていた。戦後多くの人がチャップリンに感謝を伝える。

16:ヒトラーのちょび髭はチャップリンのまねという説があるが、記録からそれは否定できる。どちらも同じ時期に自発的にちょび髭をつける。生まれも4日違い。(後にヒトラーのパリ凱旋と、「独裁者」撮影開始がほとんど同慈悲である事を、著者は運命的な者と指摘。)

39:515事件で犬養毅が暗殺されたがそれは実行犯による、チャップリン歓迎の食事会への参加者とチャップリン本人を狙った犯行であった。すんでの所でチャップリンは参加をキャンセル。

76:フランスの映画雑誌にチャップリンは「リズム」という短編小説を発表。1938年四月。ここの思想信条や政体よりも、リズムが時代の流れや人の行動を決めるという示唆的、暗示的小説。(著者は他にもチャップリンの予言的指摘として、「ユダヤ人の強制収容」などを記す。:86)

124-126:戦前のアメリカはヒットラーを好意的に捉え、ユダヤ人に対する感情は厳しかった。チャップリンに対する批難も高まる。

128:一方ヨーロッパではチャップリンに対して希望を抱いていた。

138:「独裁者」撮影時、衣装がチャップリンの言動を変えた。チャップリン自身も尊大な、イライラした言動を、独裁者の衣装のせいであると自覚。運転手を怒鳴りつけて反省する。

180-181:チャップリンとヒトラーの戦いのクライマックスは、独裁者の最後の演説のシーンにきわまる。

210-211:独裁者はアメリカ参戦前に公開。米国批評家は酷評するも民衆は大喝采。またヨーロッパでは官民が諸手を挙げて公開を大歓迎。(参戦したい米国首脳部による民衆操作が、米国批評家の酷評になったのかも?しかし民衆は正直)。

230:チャップリンの独裁者ラストシーンの演説が、世界中に行き渡った時期に、ヒトラーの演説が急速になりを潜める。かつて精力的に演説活動をした独裁者は、実権を握り敵をユダヤ人と定め、戦争を開始したが、全てをユダヤのせいにする彼の政策は、戦争の配色もユダヤの性にする苦しい状況になる。演説がもう出来なくなっていたヒトラー。

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2018年01月09日

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