【感想・ネタバレ】そこから青い闇がささやき ──ベオグラード、戦争と言葉のレビュー

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Posted by ブクログ

『何のために、私たちは異国の言葉を勉強しているのだろうか。』

セルビア在住の詩人で翻訳家の山崎佳代子さんが、1990年代のユーゴスラビア内戦と、NATOによる空爆について、ご自身の体験を書いた本である。

山崎佳代子さんはその著書の中で、「言葉が戦争を作り、人を殺す」ということを訴え続けているが、これはユーゴスラビア内戦の民族間の対立を、西側メディアがセルビアだけを悪者にして報じ、経済制裁と空爆で国家を追い込んだことを指している。

冒頭の言葉は本書からの引用であるが、セルビアという国に惹かれ、留学・移住し、日本語・セルビア語両方で詩作を重ねてこられた上でのその言葉はとても重い。
言葉を知るということは、同時にその国の文化や歴史、思想を知ることであり、同じ言葉を知る者同士で会話できるということである。
その素晴らしさを伝えてくれる短く力強い一節に圧倒された。

巻末には、文庫版出版に当たって2022年5月に書かれたメッセージがある。
ご自身の体験を踏まえた上で、現在の世界情勢について言及されている。
一人でも多くの人に今読まれることを願ってやまない本です。

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2023年12月18日

Posted by ブクログ

最初に載っている詩「階段、ふたりの天使」でいっきに引きこまれる。戦争の悲しさをこんなふうに表現するのは、すぐれた詩人にしかできないのだろうと思う。

国と国の戦争といっても、そこに暮らす大多数の人は戦争を望んでいない。具体的な誰かをこらしめたくて攻撃しても、実際に傷ついているのは名もない知らない誰か

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2023年04月24日

Posted by ブクログ

ユーゴスラヴィアが解体し悲惨な内戦に突入する時代に、ベオグラードで生きた日本人の詩人の綴った言葉。世界から悪者にされたセルビアの中でどういった人たちが生きていたのか、制裁が、空爆が何をもたらしていたのかが描かれる。それとともに、そのような極限の状況の中で、言葉が何をつたえられるのか、ということにも著者は意識的にならざるを得なかったのだと思う。「言葉」の力を信じる信念にあふれていると思った。

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2024年06月06日

Posted by ブクログ

 1990年代、ユーゴスラビア内戦、それがあったことはニュース等で知っていた。民族間の対立により血が流され多くの人の命が失われたことや、その結果として構成国が次々に独立し旧ユーゴ連邦が解体してしまったことなど。

 一人ひとりのかけがえのない命が失われること、それまで隣人として共存していたのが突然◯◯人として敵扱いされ、家も仕事も失い“難民“となることの悲惨。そうした戦争によって人の人生がいかに変わってしまうのか、そしてそんな中、人はどうやって生きていけば良いのか、などについて、本書は実に沢山のことを教えてくれる。決して声高にではなく、人と人とを繋ぐ言葉を丁寧に紡ぐことによって。

 著者は大学卒業後、1979年ユーゴに留学し、その後ユーゴの大学で日本学科の教師をすらなどして滞在、91年のクロアチア内戦から始まるユーゴ内戦下、難民支援活動にも従事するなどし、99年のNATOによる空爆が始まってからもベオグラードに留まり続けた。
 その間に著者が出会った人たち、難民の人々、同僚、著者と同じユーゴの詩人、あるいは同じアパートに住む隣人たちと話したこと、感じたこと、出会いと別れが綴られる。

 当時のニュース等で知る限りでは、セルビアが完全に悪者になっていて、だからこそ経済制裁や空爆まで行われたのだなと思っていた。しかし、経済制裁により現実に困るのは市井の人々や治療を受けられなくなる病人であり、空襲は軍事関連施設をピンポイントで狙うとはいえ、普通の生活者だれもが等しく命を奪われる恐れがある。

 しかし、そのような厳しい現実であっても、人は生きていかなければならない。著者も決して悲観ばかりを語ることはない。たくさんの印象的な言葉や文章。

 「乱暴に踏みにじられ刈り取られ、火を放たれ毒薬を撒かれても、いつかまた種を落として根を張り、目立たない花を咲かせて実を結ぶ。」(115ページ)
 「大きな声、激しい音には、新しい命を生む力はない。…小さな声、かすかな音にこそ、力は潜んでいる」(174ページ)
 空爆のため亡くなってしまった隣人の二人の子どもたちを悼んで作られた「階段、二人の天使」の一節。(3ページ、179ページ)

 とりあえずユーゴ内戦は終わったが、世界では今も戦火が続いている。戦火の中で暮らす人々に思いを馳せ、何かできることを考えるために、重みの詰まった一冊。



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2023年03月06日

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