【感想・ネタバレ】歴史学者という病のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

購入済み

歴史学者の偽らざる『告白』。

2023年11月04日

2023年11月読了。

著者は最近、テレビ等の媒体でもよくお見掛けするし、著作や連載等も楽しんできた一読者であった。
だから本書も「何か歴史学のトリビアが…?」くらいの気安さで読み始めたのだが、読んでビックリ!
これは、一人の日本史の歴史学者の嘘偽りない懺悔であり告白であり、尚且つ『このままでは歴...続きを読む史学が形骸化してしまう!』と云う告発の書ではないか!!

「歴史」特に「日本史」と云うものは、小説や漫画で読む分には楽しいものの、「学校の教科」として見れば《年号の暗記ばかりでちっとも楽しくない科目》であるのは、誰一人として否定しないと思う。実際「古文書等を調べて、コツコツと実証していく地味な学問」だと、自分も思っていた。
「司馬遼太郎らが書いてるのは大衆文学」等と研究者は背を向け、更に世の若者の探究心を削いでいる現状を見れば、一般市民が「研究者に期待すること」等も全く無いと思っていた。

しかし本書を読んで、著者の、いや本郷先生の《本気度》に触れて、いつの日か「日本の歴史観」がしっかりと地に根を張る日が来るのではないかと、心躍る様な気分で読み終えた。

本書は歴史書ではなく、歴史学者に依る「歴史観への挑戦布告」の書であると言いたい。

システマティックに予算配分したり、上の意向に沿って「英語とIT」を日本史研究のテーマに据えようと思っている文科官僚は、本書を読んで《自分達は国の税金を使って、一体何をしようとしているのか》を国民に正々堂々と説明出来るのか、良〜く考えて欲しい。

本書は『自分の国の歴史』への責任感を、しっかりと感じ取れる良書である。特に、若い人達には読んでいただきたい、

#笑える #アツい #共感する

0

Posted by ブクログ 2023年01月22日

歴史学者、本郷和人氏の自伝的エッセイ。

庶民の私から見たら本郷氏もどうみてもエリートなんだけれど、東大及び史料編纂所にはそれ以上の天才が数多いるらしく雲の上を垣間見ることができて面白い。

佐藤進一、網野義彦、石井進など20世紀を代表する歴史学者に対する本郷氏の印象や彼らとのエピソードも面白い。特...続きを読むに本郷氏が恩師であると自認している石井進氏に対する愛憎が入り混じったようなお話は面白く、名前しか知らなかった歴史学の権威の人間臭さを知れて良かった。

皇国史観を代表する歴史学者、平泉澄の名言「豚に歴史はありますか?」はとても衝撃的であり、歴史に対する考え方は世相や時代に反映されているというくだりを読んだときは、E.H.カーの『歴史とは何か』を想起した。史料編纂所の所員でありながら「実証への疑念」「史料への疑念」を呈する本郷氏の姿勢も同様にそれを想起させる。

歴史及び歴史学に対して興味をそそらせる良い本だった。

0

Posted by ブクログ 2022年12月04日

本郷和人さんは「世界一受けたい授業」で初めて拝見した時にアイドルの高城亜樹さん推しという妙なキャラで軽く引いていた(アイドル推しに引いたのではなく番組見たらわかるよ)のだが、東大教授なのだから当たり前だがガチ中のガチの人だな

高校歴史教科書を変えようとしたり

引用
「非常勤残酷物語」とか言うが、...続きを読む私から言わせれば、学問の一定のレベルに達していない人間が大学に残ろうとしてもそれはうまくいくはずがないよ、ということであり
本来は、指導する先生が研究者として見込みがない人間に対してはリスクについて説明した上で「君は実社会で頑張ったほうがいい」などと引導を渡すべきなのだ。大学の方針だからといって、自分の可愛い教え子を貧困のどん底に落としてどうする。
引用終わり

言うねー帯にある「ぜんぶ、言っちゃうね。」って大抵こけおどしなのだけど本書は言っちゃってる。上記は序の口で歴史学の根本についても言っちゃってる。
目の離せない人だ。

0

Posted by ブクログ 2022年11月17日

見城徹の「編集者という病」を想起させるタイトル。

日本の文系の学問というと師弟関係や学会の定説にがんじがらめ、というイメージだがその例にもれない歴史学について「そこまで言っていいのか」というところまで踏み込んだ一書。

 皇国史観主義が敗戦により一挙にマルクス主義的な視点にふれた。著者は「どちらで...続きを読むもない、新たな分析主観が必要、もうその時期に差し掛かっている」とする。

 著者は東大史料編纂所の本郷和人氏。

 東大史料編纂所は国学者の塙保己一により設立された組織で日本の国試編纂を100年以上続けている。日本書紀など六国史以来編纂されていない、日本国史編纂を目的とし地道な作業を続けている。一部刊行されたものがあるがこのペースだと完成まであと800年かかる、という。こんな大事業が静かに進んでいたことに驚愕。

 崩し字を読み、現代文に直すことが歴史学ではない、と明確に切り捨てる。埋もれていた古文書を読み解き、その時代に光を当てる、磯田道史氏のような活動も無意味とは思わないが、本郷氏から見れば、

 「古文書を読み、読み解き、それらを再構成して歴史の本当の姿を浮かび上がらせる」ことこそが本来の、そしてこれからの歴史学。

 歴史学の泰斗たちの短評が散りばめられ、本書は歴史学会に大きな影響を及ぼしたのではないか。

0

Posted by ブクログ 2022年09月04日

個人的には大変面白い。
誰もが面白いと感じられるかは疑問符がつく。

興味を持って面白いと思う人は以下のような方であろうか。

・歴史に興味があり、これから歴史学を志す人
・大学で歴史をかじった人
・過去、歴史学を履修したことがある人
・蛸壺のような学会政治に興味がある人

まず、歴史学と歴史は全く...続きを読む別物と認識する必要がある。

歴史学科に入った時の違和感は以下に代表される。
三国志、戦国時代、幕末が好きなのに自分の好きな○○は研究対象にならないと
いうことである。

歴史は物語であり、歴史学は実証を元に構造化するということである。

とはいえ、歴史学も物語主義と実証主義かという2つの軸のバランスで学会は成り立っている。
学会は古文書などを元にした実証主義が大勢をしめ、実証主義もただ資料を現代語訳するだけ
となっているという実勢に批判が入っている。

現代までの歴史学の流れは以下になっているという。

1皇国史観の歴史学 (主な学者 平泉澄) 
2マルクス主義、唯物史観の歴史学 (主な学者 石母田正) 
3社会学史的アプローチの歴史学(主な学者 網野善彦 佐藤進 勝俣鎮夫 笠松宏至)

90年代の歴史学は唯物史観は影を潜め、網野史学を代表とするアナール学派が評判となっていた。
歴史学は抽象化、構造化が苦手な性質をもっており、社会学のフレームワークを持ってきて結論ありき
実証は後回しの状況には危惧をしていた。
網野史学への違和感は民衆は平和や自由を追い求めるという面をクローズアップするあまり、
結論に実証を紐づけるきらいがあった。
(極端な話 学会の趨勢がマルクス主義が社会学史に置き換わったような印象もあった)

歴史学は資料をもとにした実証的すぎる立場(物語性なし)、ある立場にしたがった物語的歴史学(実証少なめ)
どちらかに偏っていたように思う。

筆者は以下の手順を取って歴史学を論じるべきといっているように思う。

資料を元にした事実の確認→事実を元にした他の資料との整合性の確認→抽象化・帰納化→解釈

上記のような考えであれば統一理論的な解決はできないと思われる。
ボトムアップ的な考えで、「この条件であればこうという」「この考えは全体の一部」という
歯切れの悪い結論となると思われる。
しかし、ビジネス界隈では当然用いられる手法であり、歴史学でも取り入れられてしかるべきである。

0

Posted by ブクログ 2023年10月30日

著者の自伝として読みながら、歴史を扱うとはどういう事かを知ることができる。
時代が変われば歴史も変わるという話は、イギリスの産業革命の有無がイギリスの景気で変わるという話と近い物があって面白い。
歴史において真実の情報だけを集めること、そこからつなげて叙述を作り出すこと。このせめぎ合いがとても難しい...続きを読むバランスで安易に新しい発見や面白い解釈を信じてしまう自分としては気をつけねばと思った。

0

Posted by ブクログ 2023年05月16日

すごく面白い。

いつのまにか学問は、「研究」ではなく「仕事」になっている。実証にこだわるあまり、考えなくなっている。あらゆるところで、アレントが言う「行為」の空間は削られているのだ!

そこに危機感を持って、素朴に社会へ発信しようとする著者の公共精神にしびれる。現代の知識人とは、大学の研究者のこと...続きを読むではない。著者のような「社会のために」をしっかりと考えてきた知の担い手のことである。

東京・亀有の大家族に生まれたという生い立ちの振り返りからして面白い。戦後歴史学のおよその流れとして、第〇世代「皇国史観の歴史学」、第一世代「マルクス主義史観の歴史学」、第二世代「社会史「四人組の時代」」、第四世代「現在」というまとめも、実に分かりやすい。著者の歩んだ研究者人生と、戦後歴史学とがクロスして、実感として頭に入ってくる。

ある程度やり遂げた40代。仲間作りを始めるといったくだり。実によく分かる。業界のマウント取りが、ばからしくなるころだ。気づくと周りは、その特定の業界や組織の論理を反復するだけで、考えなくなっている。くだらない。著者の怒りはよく分かる。京都定点観測の歴史像、エリートの押し付ける歴史への批判(p183)なんかも、実に共感できる。

著者が体験した教科書づくり。「暗記」の脱却を目指す試みは見事に挫折。結局は先例にならったものができあがる。なぜか? ことはそう簡単ではないからだ。教科書は高校の先生が扱う。高校の先生には生徒を合格させるというミッションがある。そして大学受験は「暗記」でできている。そう、戦う相手は日本の教育システム全体だったのだ!

実証をめぐる著者の思い。ただ上から下へ自動的に落ちるような作業を「牛のよだれ」(p196)と痛烈に批判するが、結局、研究という知的行為も、いつのまにか自動的な「労働」に成り下がっている!!調べるだけで「考える」がないのだ(p202)

といって網野史観への指摘もバランスがいい(p210)。神聖視するのも間違っているが、民衆を持ち上げすぎるのもどうか、と。

最後。「あなたが居座ろうと思っている今の歴史学界隈はこのまま存続できると思ってますか?」)(p220)この指摘は重い。
いつのまにか、居座っている人たちが多い。その人たちはいつまでも更新しない。外とつながろうとしない。だからこそ、著者のような存在が際立つ。研究者や、あるいは、ある程度年を重ねた社会人は、本書を読んで、自らの行為がここでいう「研究」ではなく「仕事」に置き換わっていないか、自問すべきだろう。名著。

0

Posted by ブクログ 2023年01月19日

「半生記にして反省の記」という帯のノリにどれくらい乗っかって良いものか・・・
前半はご自分の生い立ちや学生時代などをユーモアを交えて書かれているが、終盤に近づくにつれてマジになり、専門的な話になり、私の頭脳では消化できなくなってくる。
(まあ、頭脳は消化器官ではないわけだが)

本郷先生は、時々テレ...続きを読むビにも出演されているから顔と名前が一致する学者さんで、とても面白い方だということも分かっている。
「東京大学資料編纂室」という肩書きも知っていたが、そこが何をするところなのか知らなかった。
たとえば誰もが知っている「日本書紀」みたいな歴史書を編纂しているのだという。
驚いた。
そして、そこでの上司が奥様であり、本郷先生がどれだけ奥様を尊敬していらっしゃるのかも分かった。

歴史は、理系のように答えがはっきり出るものではなく、時代や研究者によって考え方が違ってしまうのだという。
例えば、戦前までの「皇国史観」
印象的だったのは、皇国史観ゴリゴリのとある先生が、農民一揆をテーマに卒論を書きたいと言って来た教え子に「豚に歴史はありますか」と言い放ったということ。
歴史はエリートのものだというのだ。
逆に、歴史は名もなき人々のものだという考えの先生もいる。
なかなか難しい。
いろんな先生たちのことを書きすぎている気がするが大丈夫なのか(笑)

資料があって、それを研究して、「考える」ということが必要なのに、試験で良い点を取るためには「暗記さえすればいい」と言われ、つまらない科目だと思われているのが悔しいという。
歴史学はどんどん研究予算も削られている。
テレビに出たりするのは、歴史学の魅力をもっと広く知らしめたい、という動機らしい。
私たち市井の歴史好きは、十分楽しませていただいているけれど、もっと上つ方にアピールできないと、予算にはつながらないんでしょうねえ・・・

0

Posted by ブクログ 2023年01月09日

大学で歴史学を学んでいた者にとって、歴史学の奥深さ、闇深さを感じて面白かった。物語ではない科学としての歴史、実証史学とはなにか。歴史を研究するということの意味について考えることができる。①一つの国家としての日本は本当だろうか、②実証への疑念、③唯物史観を超えていく。の3つの柱は興味深い。

0

Posted by ブクログ 2023年01月09日

ブタに歴史はありますか? なんたるパワーワード!
平泉澄、ヤベェな。
それはさて置き、本筋は以下。
まるで熱血実証史学者群雄伝だね。
戦前の皇国史観との抗争と敗北から始まり、戦後の唯物史観の隆盛と崩壊、そして今も続く訓詁学的実証史学原理主義者との内ゲバ的な闘争が、魅力的な史学者達のキャラクターととも...続きを読むに物語られる。
私達の愛読する歴史小説や歴史本の参考文献に列記されてる、名前だけはお馴染みの、あの学術書群の著者達の、歴史です。
歴史好きのキミ!面白いから読んどきな♪
今までと違う角度で読書が進むこと間違いないから。

そして、何者でも無かった私達と同じような歴ヲタ少年が、いかにして実証史学のプロフェッショナル(プロフェッサーともいふ)を志し、惑い躓き、それでも歩み続け、ついに己の天命(←ヒストリカルコミュニケーター)を知るに至ったか。
そんな素敵なビルドゥングスロマンにもなってる。
一粒で2度美味しくコスパ最高ね。
あの石井進教授との愛憎半ばする師弟関係なんて、雑魚からすると『あんな先生、いなかったなぁ』と羨ましい限り。

ところで、本書の著者の本郷和人教授は 逃げ上手の若君(松井優征:暗殺教室) や 新九郎奔る(ゆうきまさみ:究極超人あ~る) や 雪花の虎(東村アキコ:海月姫) の監修をされてる事を今さっき知りまして、もちろん雑魚も愛読してまして、もしや昨今のメジャー誌界隈での歴史漫画のプチブームの仕掛け人は本郷教授であったかと思い至った訳で。
史学復興計画、順調みたいですね♪

0

Posted by ブクログ 2022年12月26日

実証の位置付け等から考える、本郷版の「歴史とは何か」。

筆者の自伝的な内容。生い立ちから歴史との関わり合い、そして現在に至るまで。日本史学界を時に強く批判しつつ、筆者の思想の遍歴から、歴史とは何かを考える。

ちょっと筆者の他の作品と毛色が違うので、単なる歴史マニア受けはしないかもしれない。

0

Posted by ブクログ 2022年10月31日

「歴史学ほど時代に流されやすい学問はない」「実証主義と単純実証主義は断じて違う」・・・・人気歴史学者の半生記にして反省の記。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年10月09日

「第二章 『大好きな歴史』との訣別」pp.93-94より
 学説を大切にしながら、ものの見方というものは非常に純粋でなければならない。ブレてはいけないし、不純物が混じってはいけない。その一事を肝に銘じ、自分はその一点をきちんと踏まえられる人間だ、自分に詰め腹を切らせることができる人間だ、という一点に...続きを読む自信を持てた人間こそ、「私はこう思う」と伝える資格をもつ。

0

Posted by ブクログ 2022年10月07日

著者は、磯田道史と同様によくTVに出演する東大史料編纂所の教授で、東大教授らしからぬヌーボーとした雰囲気で人気があるようだ。
「歴史学者という病」という仰々しいタイトルや、表紙の深刻そうな著者の顔とは裏腹に比較的軽い感じで読み進められる。

内容は著者の半生記とそれに絡めて、東大(というか日本の)歴...続きを読む史学の流れが述べられている。その中でのメインテーマは、「歴史を研究するということの意味について考える」という硬派のものであるが、そこへ時おり、大学院時代に奥さんに惚れ込んだ話や、現在の自分の上司が奥さんという自虐ネタを織り込んだりして、硬軟織り交ぜ内容を柔らかくもみほぐして読みやすい内容に仕上げている。

日本では、飛鳥・奈良・平安の3時代にかけ、時の律令政府の手によって「日本書紀(720年)」を始め、6つの国史が編纂・作成された。
その後の日本ではずっと国史の編纂が行われなかった。具体的には、宇多天皇が即位する887年から、幕末の1867年までを対象とする約980年間の国史はなく、明治34年以降、東大ではその間の日本の歴史をまとめようという壮大なプロジェクトが行われている。それを行っているのが、著者の所属する東大史料編纂所である。

その東大の歴史編纂の中で、時代により歴史の見方の変遷があり、著者は明治以降の歴史学の流れを四つの世代に分けている。  
第0世代 皇国史観の歴史学  
第一世代 マルクス主義史観の歴史学  
第二世代 社会史「四人組」の時代(網野善彦・石井進・笠松宏至・勝俣鎭夫)
第三世代 現在
そして第三世代の現代では、「実証主義」オンリーで、思考停止になっているとの批判が渦巻いている。

また現在の学者に必要な資質とは何かというと、研究者としての実力はもちろんだが、それだけでは駄目だめで、必要なのは、文部科学省を始めとして各方面から「競争的研究資金を得る」能力だという。
これは歴史学だけの問題ではなく、どの分野の研究者にも関係することだろうけど、歴史学は、古文書を隈なく調べ「正解がない」地道な学問で、成果の見えにくさはやはりあるのだろう。
それにしても近年目にするのは、歴史学者の呉座勇一や與那覇潤等がSNS上で炎上したり、それが元で呉座は職場から追放されたりと(個人的な資質かも知れないが)、ストレスの多い仕事なのかなとも思ってしまう。

0

Posted by ブクログ 2022年10月01日

遠藤誠という白髪混じりの豊かな黒髪を無造作に撫でつけた文士然とした弁護士がいた。帝銀事件の弁護団長や『ゆきゆきて、進軍』の奥崎謙三の弁護人、山口組の顧問弁護士を務めた。その遠藤氏が〈右翼と左翼の違い〉について語った記事を、確か『噂の真相』で読んだ記憶がある。

〈右翼は先の戦争を聖戦と見なし、左翼は...続きを読む侵略戦争とみなす〉。明快な見解を述べるご本人はバリバリのマルクス主義者。またイデオロギーの対極にあるヤクザや右翼団体の弁護も請負った。その理由は『同じ反体制だから…』。渾沌と信念が同居してるような方だった。

…そんなことを、ページを繰りながら古い記憶が蘇った。自国の歴史についての見解についてもしかり。学者の立ち位置によって異なる。日本史教科書の近現代史の記述なんて、その最たるもの。必ず自虐史観か否かが議論され、そもそもニュートラルがどこにあるかさえ定めきれずの状態で、どちらかに偏るのは致し方ないにもかかわらず、右派は口角泡飛ばし、しばらく不毛な議論が展開される。

私見を述べるなら、近現代史においては右派と左派の教科書を見比べながら学ぶのがいいんでは。どう判断するかは学ぶ側が決める。

まぁ、現代史は大学受験にほとんど出題されないし、相変わらず卑弥呼から順番に辿り、タイムオーバーは必至。こと〈受験の日本史〉であれば山川の教科書1冊で事足りる。

〈教養としての日本史〉教育に重きを置くのなら見解の相違をありのままに提示し、歴史学の複雑さを知る上でもプラスだと思う。

さて、本書。
学者というのは、研究する分野において膨大な資料を渉漁し、フィールドワークや実験を行い、その一連の行為を通して浮かび上がった事実を繋ぎ合わせ、ある仮説を立てる…というのが理系文系問わず共通する姿と思っていた。

しかしながら、本書で語られる『歴史学者』は、必ずしもそうとは限らないんですな。

このことが、本書の主題『歴史学者という病』に繋がる。現在では〈歴史学は科学〉と認識され、資料をひたすら読み込み、事実のみを拾い出す『実証』がメインストリーム。

ただ、そこに至るまで日本の歴史学は時代の波に翻弄され続けてきた。戦前は皇国史観オンリー、敗戦後は唯物史観(マルクス主義史観)がニューウェーブ。そんな変遷を経て実証史学主観に至る。

それだけあちこちにうつろう史観に学者たちも浮沈の憂き目に遭う。国史って実体がありそうでいて、 その実、かなり相対的で振り幅の大きい不安定な学問であることを知り、驚く。

著者は実証史学に対し疑問を目を向ける。資料資料と言うが、そもそも恣意的に作られたものが多く、そこに解釈に様々な考えが入り交じる現実から、著者は事実から仮説を導く演繹的解析を行う手法を採用。

また実証主義学者は『司馬遼太郎はバカだ!』と宣う。理由は司馬遼太郎は資料に基づいておらず実証がまったくわかっていないから。

確かに司馬史観については意見は分かれるが、司馬遼太郎は執筆となれば、神保町の古書店からある特定分野の書物が払底すると言われるぐらい資料収集は徹底。

作家は集めた材料を発酵熟成させ、歴史小説に仕立て上げるのが仕事…と、学者は見なさず偏狭な意見を垂れる。このあたり『象牙の塔』と揶揄される所以ですな。司馬遼太郎や山岡荘八らの数多の作品は冒険活劇の匂いを放つものもあるが、それが歴史好きを産んだのは紛れない事実。

著者も偉人たちに通底する歴史ロマンを愛し、偉人伝に心を揺さぶられてきたひとりであるが、東大で国史を専攻するうちに、自身が信奉してきた『物語の歴史』と訣別しなければならず、科学としての実証史学を突きつけられ、葛藤と懊悩の結果、『正統な歴史学のメソッドを体得する!』という方向に大きく舵を切る。

具体的には、こつこつと『史実』を復元し、復元された史実をいくつも並べ、俯瞰する『史像』を導き集積した史像からの『史観』という歴史の見方を生み出していく。史実という土台が堅固であれば、史像や史観ならば、それは実証史学の範疇であると。

著者は3年後に東大資料編纂所教授の定年を迎える。現在の心境は、歴史学は今やダサい学問になり下り、依然として、受験の日本史が数多くの歴史嫌いを大量生産していると嘆き、憂う。

はたして、自分に出来ることは?
その命題に対し歴史学という学問の魅力をわかりやすく伝える、『ヒストリカル・コミュニケーター』になろうと誓い、次々と歴史解説本を上梓し、テレビに出演し、すでに活動を開始。

本書は私家版『私の履歴書』である。大好きな歴史学に身を置いたものの、現実との乖離を思い知らされ、自意識をかなぐり捨て、正統な歴史学のメソッドを体得するまでの長い旅路を描く。

半生記でありながら反省記でもあり、軋轢・衝突・失態を通して得た成長物語としても読める好著。

0

Posted by ブクログ 2022年08月28日

<目次>
はじめに
第1章  「無用者」にあこがれて
第2章  「大好きな歴史」との訣別
第3章  ホラ吹きと実証主義
第4章  歴史学者になるということ
おわりに

<内容>
歴史学者・本郷和人の半生記。彼は近年やたらと教養書を書いている(一方で研究書は少ない、というかかなり少ない)。まあ、東大教...続きを読む授と言っても史料編纂所の教授なので、通常の学者とは少し違うのだろうが、異端と言ってよい。「なんで?」という疑問も含めて読んでみた。自分も歴史好きから文学部史学科に入った口なので、大学入学時の話はうなずけた。彼はとても優秀な感じなので、そこを乗り越えられたわけだが、今の異端の位置に就くまでの過程も面白かった。学界の様子も垣間見られ、どこも役立たずがのさばっている様子が分かった。その職場で生きていくに必要な能力のある者は少なく、意外とそういう人がその職場を引っ張ることもない。彼のような強心臓?ならば、意に関せず(たぶん結構のストレスだと思うが)に我が道を行けるのだろうが…。歴史学界の「実証主義」の行き過ぎ(むろんきちんとした史料の読み解きは必須なのだが、そこから先が「歴史」なのだと自分も思う)の弊害を説いている。こうした本を書かざろうえないところに、歴史学界のみならず、日本全体の衰退が感じられた。

0
ネタバレ

Posted by ブクログ 2022年08月19日

学問的な新書ではないから、こんなことを言うのもどうかと思うが、オビのような要約は果たして意味があるのだろうか。これは「奥も闇も深い」ことを支えているのか?
 
 史学の学者の回想記といえば良いのだろうが、できれば最後に示されている3点について、新たな新書を一冊と望む。
 ①「一つの国家としての日本」...続きを読むは本当だろうか。
 ②実証への疑念
 ③唯物史観を超えていく

 第四章が一番学ぶところが大きい。 
 調べることと、考えることは違うということも再認識する。

0

Posted by ブクログ 2023年05月28日

今回は歴史の話もあったけど、学者としての裏話というか業界に入った経緯も含めた1冊で、それなりに面白かった。この手の道を選択しなくてよかった。真理の追求は「面白い」だけではやっていけない。

0

Posted by ブクログ 2023年04月30日

筆者自身の経験から語っているので、さらっと読めるし、面白い。しかし、内容は実は深い。物語としての歴史と、科学としての歴史。歴史における実証とは。恥ずかしながら初めて理解できた。大学で学問としての歴史をしたいと志す高校生が読むのにも適しているのではないか。

0

Posted by ブクログ 2022年12月14日

本郷先生の個人史かつ戦後の日本史学の流れの概観といった趣の本だが、歴史好き(物語好き)と歴史学(実証主義)との違いなど、意外に知らないプロとアマの違いなども分かり、面白かった。

0

「ビジネス・経済」ランキング