【感想・ネタバレ】キンドレッドのレビュー

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感情タグBEST3

Posted by ブクログ

1976年に生きる黒人女性が高祖父の生きる時代にタイムスリップしてしまう。
その時代は人種差別が〝当たり前〟の時代。
自らの祖先からの差別に耐え、元の世界に戻れるのか。
SF作品の枠に収まらない深い含意があちこちに。

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2024年01月08日

Posted by ブクログ

「私は最後の帰還の旅で腕を失った。左腕だ。」こんな衝撃的な一文から始まる、タイムスリップ物のSF小説(著者は、ファンタジーだといっています)。

時は、1976年6月9日のロサンジェルス。新居に引越してきたばかりの、白人を夫に持つ黒人女性。彼女は夫と荷解きをしているとめまいに襲われ、南北戦争のはるか以前、1815年のメリーランド州にタイムスリップしてしまいます。そう、黒人にとって最も生きづらい、過酷な労働や人間の尊厳を踏みにじる人身売買、そして差別と暴虐が当たり前の世界に。

彼女がその世界に踏み入れてすぐ、河で溺れている白人少年を助けたところ、元の時代にびしょ濡れで泥だらけの姿で戻ってきます。後に、この白人少年の来歴、命の危機と助かったという状況が、何度もタイムスリップする事に関係していることがわかってきます。そのタイムスリップ先の19世紀初頭は、白人ですら本を読めない人が多いのに、20世紀に生きる教育ある女性が行けばどうなるか。しかも、それが黒人であったなら…。周りからの風当たりや当人自身の耐え難い苦痛も、察して余りあります。また、当人の意志では現代に戻ることができないという設定が、絶望感に拍車をかけていて、読んでいてとてもハラハラドキドキします。

この小説、書かれたのが1979年と、随分昔に書かれた小説ですが、まったく古さを感じません。奴隷制や人種差別について、改めて考えるきっかけにもなる、もっと知られていい名作だと思いました。

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2023年12月10日

Posted by ブクログ

ネタバレ

“わたし”であるデイナはまだ無名の黒人女性作家。夫のケヴィンは同じ作家で白人。二人は1976年のロサンゼルスに住む若い夫婦。
しかし、突然デイナは目眩を感じ崩れ堕ちる。そして気がつくと見知らぬところにいた。
そこは19世紀のメリーランド州。南北戦争前、黒人奴隷を多く抱えたトム・ウェイリンが経営するあ農園ウェイリン・プランテーションだった。しかも、彼女がタイムスリップする理由は、その農園主の息子ルーファスと関係があるらしい
しかし現代とは違いこの時代のメリーランド州において、黒人は奴隷、すなわち売買する財産、“物”でしかない。しかもトムは黒人奴隷に厳しくあたり、突然現れたデイナにも敵意を抱いているように思われる、、、デイナはこの時代を生き延びることができるのか?

面白い!そして新鮮。
とても70年代に書かれた小説だなんて思えないほど古さを感じさせない。

タイムスリップがテーマのSF小説(作者はもともとSF作家だったそうだ。但し、あとがきによると作者自身はこの作品をSFだはなく、ファンタジーと呼んだらしい)だが、ここには人種差別、奴隷制度の残酷さが描かれている。
そして、それに抵抗する黒人と、抵抗することによって与えられる罰(鞭打ちや、自分自身、もしくは愛する家族が奴隷商人に売られて離散してしまう)を畏れて屈する黒人が描かれる。
瀕死にまで至る鞭打ちを前にして、それに立ち向かうことなどできる人間はいない。
しかし、それを畏れていては本当の自由、自分らしさは得られない。
しかし、反抗する意思を持つ人間がいたらその黒人は生きていられない。
そんな黒人奴隷のアンビヴァレントな状況を描いている。

とにかくグイグイ物語に引き込まれる。

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2022年09月13日

Posted by ブクログ

黒人女性が奴隷制下の19世紀へタイムスリップ。読んでいて辛くもあったが、その中に入り込み漠然としか分からなかったその当時の空気に触れたような感じがした。多くの人に読んでほしいと思う。

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2022年02月02日

Posted by ブクログ

待ち焦がれてた文庫化。
単行本発売時に読んだけど、薄らとしか覚えてなかったので再読。
改めて衝撃!生々しく伝わる奴隷制時代の描写。
歴史的な名著!と再認識。
バトラーの別の作品の翻訳化に更なる期待。

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2022年01月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

長らく絶版で古書価格が高騰していた本作。河出書房さんのお陰でようやく読むことができた。1976年のロスに白人の夫ケヴィンと住む黒人の主人公デイナが、1800年代初頭の過去へタイムスリップし、自分の祖先であるルーファス少年を救うところから始まる。ルーファスが命の危険に晒されるとデイナが過去へ呼ばれ、逆にデイナが危機を感じると現在へと戻る。これを何度か繰り返し、彼女は黒人奴隷制を身を持って体験することとなる。当時の黒人奴隷制と言えば絶対的なものであったろうが、ルーファスはデイナに単なる黒人としてではなく、特別で複雑な感情を抱いていた。最後まで相容れなかったのは残念だが。隠れた黒人差別が再び表面化しつつある現在、読む価値のある一冊。

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2021年12月24日

Posted by ブクログ

19世紀初頭へのタイムスリップを70年代に描いたSFということで、現代を生きるわたしにとっては二重の新鮮さがあった。

冒頭思わず惹き込まれる設定から続くのは、予想よりはるかに辛くままならない旅路。命を助ける未来の存在なのだから…と甘い期待をしたが、事態は変わらずハードな展開を見せる。人の希望を打ち砕き服従させる方法が読者にも沁み込んでいく。
一方で、現代に戻ってくるとどこか生の実感を得られず、過去で愛憎入り混じる濃い絆が生まれてしまうのは、まさに戦争体験のように感じられる物語だった。

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2024年01月03日

Posted by ブクログ

人が人を買うという、圧倒的に非常識な常識が存在していた時代。その時代に現代より強制タイムスリップ。それも自分は買われる側のリスクを持つ人種として……。

今も根深く存在する人種差別。どうしたらなくせるのか? それを考えてしまう時点でもうダメなのだろう。いつの日か差別と言う言葉が死語になることを切に願う。

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2023年01月13日

Posted by ブクログ

1976年アメリカに生きる黒人女性が、奴隷制が存在していた1819年へとタイムスリップします。それも何度も現代に戻ってきては、いつともわからない瞬間にタイムスリップをくり返します。

いかに黒人といえど、20世紀後半に生きていれば奴隷制は学習するだけの過去の制度。それを想像を絶するほどの痛みをともなって実体験し、加えて現代に無事に戻れるのかわからないという不安も絶えずおぼえるというのは、SFということがわかっていても読んでいてつらいです。すなわち、主人公のデイナに同情以上の気もちをおぼえることもあるでしょう。

本書を通じて登場する、白人であり奴隷所有主の息子(のちに主人)であるルーファス。彼の幼稚さや未熟さに対するデイナの感情は、一様ではないです。どんなに彼が横暴にふるまおうと、彼を亡き者にしてしまえば、それは彼女の系譜となる祖先をひとり失うというだけでなく、自らを亡き者にすることにもなるからです。それゆえに最後まで読ませます。

たとえば、かつては命を救ってあげたにもかかわらず、ルーファスについに鞭を打たれたデイナは、奴隷としての実感を次のように述べます。

「顔が汗ばみ、欲求不満と怒りで無言の涙があふれ、汗と混じった。背中の痛みの感覚はすでに麻痺し始めた。恥ずかしいという感覚も麻痺しかけていた。奴隷制とは感覚を麻痺させる長いゆっくりした過程なのだ」

このように感覚を鈍麻させる奴隷制において、デイナは同じく奴隷である黒人女性に次のように言います。

「どうしてだか、私はあの男が私にすることをいつも許してしまうみたい。あの男が他の人々にすることを見るまでは、当然憎むべきなのに憎むことはできないの」。

このように、あるべき感情が失われていく様子に、読者は一喜一憂します。すなわち、ハラハラし、イライラもするでしょう。現代の視点を持ち込んで読んでしまうと、こうすればいいのに、ああすればいいのにと、どうしても思ってしまうからです。そして、これこそが奴隷制の文献資料を読み込んで本作を書いた作者の意図なのでしょう。作者の分身といってよいデイナという一人の黒人は、当時を生きた黒人たちの経験と感情を一身に引き受けるべくして創造されたのでしょうから。

最後のページに至るまで、ほんとうに気を抜けない、そしてほんとうに先が読めない作品でした。

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2022年04月30日

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