【感想・ネタバレ】つみびとのレビュー

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Posted by ブクログ

【大阪2児餓死事件】(Wikipedia)
大阪2児餓死事件とは、2010年7月30日に発生した大阪府・大阪市西区のマンションで2児(3歳女児と1歳9カ月男児)が母親の育児放棄によって餓死した事件。

本作品は、この事件を基に描かれたフィクションである。
タイトルは『つみびと』
表紙に大きくそう書かれたひらがなの隣に、英語で『sinners』と並ぶ。
日本語のタイトルだけでは伝わりきれないものが、英語に含まれている。
そう、複数形になっているのだ。
2児のいる部屋に粘着テープを張り、夏の暑い中50日子どもを放置し、餓死させた母親は、懲役30年という有期刑の中で最長の刑に処された。これだけ見ると、つみびとは2児の母親なのかもしれない。
しかし、本当にそうだろうか。本当に、彼女だけが悪いのだろうか。
そう思いながら、必死に読む、読む、読む、読む。
胸の奥のほうで流れている血液が、切り裂けた表面からずっと、とろとろと、まるで止め方を知らないように流れ続けていくような、そんな読書の時間を過ごした。
つみびとは誰か。誰と誰なのか。誰と誰と誰が、彼女だけをつみびとに仕立てあげたのか。なぜ彼女以外は、つみびととして裁かれないのか。なぜ彼女だけが、ぜんぶの罪を被ることになったのか。
事件の全容はたぶん、『ルポ 虐待:大阪二児置き去り死事件(杉山春)』に描かれているのだろう。あくまでこの作品は、実際の事件を基にした、フィクションである。

読みながら時々分からなくなる。これは、2児の母親である蓮音の章なのか、蓮音の母・琴音の章なのか。
しかし、それは入念に仕込まれていた。
二人が育った環境は、あまりに酷似していたのだ。
「虐待の連鎖」という言葉は、好きじゃない。
だけど、蓮音も琴音も、父親からの暴力というものに、親和性があった。

重なり合っていた二人の物語が、ページを重ねていくにつれ、気付かされること。
それぞれの見ていた景色が、異なってくる。
琴音から見た夫(隆史)の描写に、暴力はそれほどないものの、蓮音から見た父(隆史)の描写には、暴力が溢れている。

いったい、つみびととは誰なのか。
家の中で暴力を振るい、権力を行使し、その家族が病んでいくことは、何らかの罪に問われないのだろうか。
何がその人を、暴力に搔き立てるのか。

巻末の、著者である山田詠美さんと精神科医で作家の春日武彦さんの対談によると、人間が不幸になる理由として、以下の二つがあげられるそうだ。
①大間違いな工夫(本質的な問題を見ないようにして、日常を過ごすために気持ちを工夫する)
②痛々しい見当違い(なんでも自分のせいだと思い込む)
蓮音だけではない。彼女が生まれ育った家族、母である琴音が育った家族、そこで日々隠されてきた罪が雪だるま式に膨らんでいった結果が、この事件だ。

P93「困っているのは父じゃない。私たちなんだ。そう訴えたいのだが言葉にならない」
P123「一度で良いから、こう慰められたかったよ。お前だけが悪いんじゃない、と」
P322「結局、普通ではない自分自身に我慢がならず、罰を与えようと行動に移してしまう」
P345「ただ、なりふりかまわず叫べばよかったではないか。助けて!と。でも出来なかった。だって、幼いころから助けを求めたことがないのだもの。彼女のその声は、いつも封じられてきた」

子どもたちは、いつだって助けを求めてる。
その声に、耳を傾けることができるか否かだ。
その人が、子どもの声に耳を傾けきれなかったら、その人は、別の人に助けを求めてほしい。
この「助けを求める」を、適切な助けをしてくれる人のところまで、運ばなくちゃいけない。
直接的な援助をできない大人にできることは、これだけだ。

この作品は、一人で懲役30年という処罰を一身で背負うことになった蓮音の、罰に至るまでの物語であり、蓮音をとりまく、彼女のSOSに手を差し伸べなかった大人の、大きな罪の物語である。

最後にもう一度問いたい。
つみびととは、いったい誰なのか。
そして、わたしのような児童福祉に関わる専門家は、どうしたらこのような事件を防げるのか。

対談P422「援助者としては『どうしようもないから見守っていた』、しかし傍から見れば、『放置していただけ』」
児童福祉問わず、対人援助をしていると誰もが経験する、こういった「どうしようもない」ケース。支援者は自身の何もできなさに落ち込み、自分を責め、心を病むことだってある。
これに対する春日武彦さんの言葉は、全対人援助業務をしている人の救いになるだろう。

今月の残りの有給休暇:あと8日

1
2023年04月06日

Posted by ブクログ

辛い時、周りを見渡せば助けてくれる人はたくさんいるのに、
当の本人はそれに気付かない。気付けない。
何とか自分の心を保とうと、妄想や逃避してしまう。
とても身に覚えのある状況で苦しくなった。

0
2024年01月21日

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お正月に読む本ではありませんでした。
どこからがフィクションなのか分かりませんが、これが現実の話だとしたら救いがありません。母も子も、余りにも可哀想すぎます。不幸な生い立ちがまた不幸を呼ぶだけではないのは母の兄を見れば分かりますが、そこから抜け出すのは相当の覚悟と運も必要。そして、一旦落ち始めると止められるのは最初のうちだけ、直ぐに勢いが付きそうなると這い上がるのはもう難しい。このような境遇から救うために社会保障や福祉とかってあるのではないのでしょうか。

0
2024年01月03日

Posted by ブクログ

大阪二児餓死事件を元にした小説。マンションに残された子供達のパートは読んでいてなんともたまらない気持ちになった。母親を鬼母と責めるだけではこの事件から何の教訓も得られないと思い知らされる。

0
2023年08月16日

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もっと周りが手を差し伸べられていたら…。いや、その手に気付けなかっただけなのかもしれない。気付こうとしなかったのか。やっと気付けた母のように娘もいつか救われるかもしれない。生きていれば。小さき者たちにはその日はやってこないけど。こんな過去があったらそうなるか…と同情しそうになる度、小さき者たちの叫びがどんな過去があってもそうなってはいけなかったことを思い出させる。

0
2023年03月26日

Posted by ブクログ

実際にあった大阪二児餓死事件を題材にした作品で、
当時かなりセンセーショナルで忘れられない事件。

山田詠美さんがこの事件を『つみびと』という作品にしていることを最近知り、読んでみた。
亡くなった子供の視点、事件の犯人である母親の視点、そして犯人を育てた母親の視点の3つの立場が
順番に繰り返される構成で
この事件を客観的に多角的に捉える事ができる作品。

あなたが同じ環境だった場合、どこまでその抱えている問題をクリアしていけますか?
という世の中に一石を投じたい著者の強い気持ちを
感じた作品でした。

同じ事件を題材にした映画『子宮に沈める』も
見ておいてほしい。特に、子供をこれから持つ
若い世代の方に。

0
2023年01月13日

Posted by ブクログ

傷つき続けた子どもたちの物語。

誰か助けてと、
読みながらずっと思った。



学生時代以来、
とても久しぶり読んだ山田詠美は、
読みやすさと説得力を強化していた。

専門家として日常的出会う、
傷ついた心を、
ここまで表現してくれてありがとうとさえ思った。

だからこそ巻末の、
対談の不思議な軽さが棘のように残る。

あと、
PTSDと診断してあげて・・・。

0
2022年12月16日

Posted by ブクログ

山田詠美さんの「書く力」にただただ感心するばかり。これを小説にした意図が見えない、という感想も散見されるが、ひとまずは、この重たい事件を、複数視点から、このボリューム感で書ききったという点が賞賛されるべきだと思う。最後の対談でご本人もおっしゃるように「いちいち言わなきゃわかんない」一つ一つの出来事、心情を。
読んでいておぞましい気持ちのする箇所が多々。と同時に、どこか他人事で、自分の身には決して起こらない出来事であるかのように傍観している自分に何よりもゾッとする。誰もがみな最初から自身の不幸を願うことなんてなくて、むしろ幸せになりたくて、それは自分も例外ではない…それなのに、物語の主人公たちはどうしてか気付いた時には奈落の底へ転落している。彼らと自分とを断絶された存在として捉えてはいけないと感じる。

0
2022年05月08日

Posted by ブクログ

珍しく文庫を待たずにハードカバーで購入したもの。山田詠美のファンだけど、これは良い意味で山田詠美らしくない作品。でも、山田詠美にしか書けなかったとも思う。

それだけ大切に、出来るだけ事実に基づいて書かれたのかと推測した。女性として、母として生きることの難しさ、子育てが容易に女性を孤立させてしまう怖さ、母親を愛を求める子どもの純朴さ。

彼女は十字架を背負って生きていく。少しでもその重荷を一緒に背負ってくれる人たちに出会えるよう祈るばかり。

0
2023年09月25日

Posted by ブクログ

血か、連鎖か、環境か。
体の奥底に固く積み重なってきたものを、一枚一枚針で突っつくようにしてめくってゆく。
どうして自分はこうなってしまったのだろう。
助けを求めるというのはそう簡単ではなかった。わかっているのに止められない。
吹き出す痛み、苦しみ、叫ぶ声。当事者では、あるいは当事者であればこそ、表現しきれないようなこの渦巻く感情を、それでも説明の付かないもどかしさごと作者は言葉にしてみせる。
二人の子どもたちの本当のところの声、それが聞けたなら、そしてそれを蓮音に伝えられたなら、と思う。

0
2023年03月27日

Posted by ブクログ

わたしは子供がいないし、子供が欲しいと全く思わないから感情移入が苦手なジャンルの話だった。でも、子供たちは本当に可哀想。
言葉足らずながらも母に気に入られようと必死に話しかける5歳の子の言動には涙がこらえられない。

そもそもこの本は、虐待や子育て福祉、教育の欠如に興味があるから読んだ。
あと山田詠美さんの他の作品が好きだったから。山田詠美さんが得意とする、恋愛関係や性生活に現れるひとの欲望や心持ちの汚らしさ、稚拙さ、愚劣さの表現を各所に感じる。

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2022年12月29日

Posted by ブクログ

これは小説だが、育児放棄(ネグレクト)で二人の子供が亡くなった実際の事件をもとにしている。どうしてこのような事件が起きてしまったのか、母である蓮音とその母の琴音の生い立ち、それに並行して、真夏の室内に置き去りにされた幼い子たちが死に至るまでの思いを代弁するような描写が優しく、読んでいて何ともやり切れない気持ちになった。

蓮音は幼い頃、母琴音が家を出てしまい、幼い弟妹の世話を強いられる。好きな男性と幸せな家庭を築くが、それは長くは続かない。
蓮音はどうすれば良かったか。周囲に助けを求めれば良かったのに、と言うのは簡単だが、なぜ母親だけが当たり前のように育児の一切を追わなければならなかったのか。蓮音の夫も父も蓮音の意思を尊重したといえばそうだが、あまりに無責任に思える。

琴音の人生もまた壮絶である。義父に性的虐待を受け、やがて精神を病んでいく。生き延びるため何度か「逃げる」という選択をするが、後に彼女を受け入れてくれる存在に支えられ、再生していく。
ラストでは、罪を犯した娘から逃げずに向き合おうとする。

逃げても逃げても最後は自分の背負ったものと向き合うことでしか、変わらない。でも、琴音の兄や信次郎さんのような存在が琴音を回復させ、さらに蓮音の再起をも想起させる希望が見える結末が良かった。

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2022年06月25日

Posted by ブクログ

2010年に起きた「大阪2児放置餓死事件」がモチーフとなった物語。
この事件は記憶には残っていたものの、詳細を知らなかったので読み終えたあとに少し調べた。事件を起こした若い母親については、生い立ちや職業など、かなり事実と近づけて書かれていることが分かった。

親子関係の問題は連鎖する、とはよく言われる。必ずしもそうではないけれど、虐待を受けて育った人間がまたその子を虐待してしまう確率が、そうでない人と比べると高めになるという意味で。
物語は、事件(自宅に子どもを残したまま放置して餓死させた)を起こした20代である若い母親の蓮音と、その母親である40代の琴音の語りが中心になって進んでいく。そしてその合間に、犠牲となった2児の描写が挟まれる。
蓮音は複雑な家庭環境で育っているのだけど、その母である琴音もまた、幼い頃から家庭内で苦痛を受けて育っている。あくまでも小説なのでその親子関係までが事実をモデルにしているのかは分からないけれど、こういう連鎖はきっと現実にも…というか、身の回りにもたくさんあるのだと思う。

逃げた琴音と、逃げられなかった蓮音の対比。
そして結果的には逃げてしまった蓮音と、逃げることをやめた琴音の対比。
そしていちばん罪深いのはその「母親たち」ではなくて、それを周りで見ているだけだった「父親たち」なのかもしれないとも思った。
鈍感で人の気持ちを解ろうともしない父親たちの姿が、恐らくは極端な姿で描かれている。善良そうに見せて実は不干渉な人間が、いちばん罪深いのかもしれない。

「生きたいのに生きられなかった人」や「子どもが欲しいのに授かれなかった人」の叫びも端々に感じる。世の中はつくづく不平等だと思う。
事実がモチーフだと知っているだけに読んでいて苦しい物語だったけれど、山田詠美さん特有の文章の美しさも感じられて、とても読み応えがあった。

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2022年05月18日

Posted by ブクログ

 蓮音は、やはり解離性障害だったんでしょう。小さいころから、過酷な環境に自分を合わせるしか術がなく、心の中の自我を奥に奥に追いやることで、なんとか耐えてきた・・・なんて思ったところで何の意味もないかもしれないけど。
 巻末の対談の中で、作者が『でも、間違いちゃいけないのは、「親がああだから、どうせあの家はこどもも・・・」っていう安易な偏見でものを言うこと。そういうステレオタイプな意見を聞くと私のセンサーが反応してしまうんです。』と言われたことに対して、精神科医の対談者が『確かにその通りなんだけれど。でも、見ていると、じたばたしているのに、やっぱりいつの間にか親の生き方を反復しちゃうケースが多いんですよね。』と述べられています。その後、精神科の先生は、ご専門の経験上、このように事件化された案件の場合、周囲の援助者の心にも深く影響が及ぶ話をされていて、端から見ていると、もちろんそれが事件化された結果を事後に見ているので、誰かが止められたのではないかと言いたくなりますが、実際は『公式に「どうしようもない」ことが確定することで、援助者の迷いが払拭されるし、責任もシェアしてもらえる。』というのが現実なんでしょうね。
 やはり対談の中で『「被害者意識」。蓮音が、四歳の息子の桃太に、「モモも、ママの邪魔すんの!?」って言う。あれは決定的な一言だよね。全員、自分が被害者だと思っている。被害者意識って、とんでもないことをするときのゴーサインになるから。怖いものです。』というくだりは私もプーチンも同感です。
 「親がああだから、あの家の子どもも」という安易な偏見はいけないと思います。きっと、そうじゃなく育った子どももいるでしょうから。でも、「ああいうことをしてしまった人の親は、やはりああなんだ」ということは成立すると思います。
 とか言っている自分は、今更ながら子どもにとってどんな親だったんだろうか、そして、子どもたちはどんな親になっているんだろうか、ちょっと不安にはなりますが・・・
 余談ですが、本書を読む直前に、川上未映子さんの「夏物語」を読んでおりまして、実はこの2冊、どんな内容かも確かめもせずに同時に購入したのですが、偶然この2冊の内容が、方向性は全然違うのですが、人の親としての責任について考えさせられるお話で、同時期に出会うことができたよかったなと思っています。
 「夏物語」はけっこうきつい環境で育った主人公の夏子が未婚ですが自分の子どもがほしいと思い、人工授精で子どもを授かるというお話なのですが、もちろんこんな単純なお話ではなく、いろいろな経緯があってのことで、とてもいい小説だったので、ぜひ読んでみてください。

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2022年04月16日

Posted by ブクログ

一気に読むとかなり疲れるが1日でも空けるともう読めなくなりそうで息継ぎしながら読み切った。

主に3人の目線がかわるがわる描かれていくが、息子・桃太の章では突如として「ですます調」になる。母・蓮音と過ごす哀しい日々が子どもの目線を通すとおとぎ話のようなきらきらしたもののように思える。
蓮音のしたことは赦されない償いきれない罪。
しかし罪を犯した人物は蓮音だけではない。

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2022年04月14日

Posted by ブクログ

難解な文章でもなく、何なら非常に読みやすいのにページを捲るのが辛かった。ネグレクトを題材にした話は多いが、そこに田舎の疎外感、女同士の争い等、目も当てられないくらい酷い展開が加わる。でも決して他人事ではないと思った。

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2022年03月05日

Posted by ブクログ

ネグレクト。たった一言で表していいのかと疑問に思うほどの痛ましさ。何をどう選択するかしないのか、その選択肢を増やしてあげるのが大人の役目。これが実際に起きた痛ましい事件だったという事に抉られるほどの痛みと私自身が母親であるということに恐怖すら感じてしまう1冊。

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2022年02月11日

Posted by ブクログ

2010年に大阪で起きたネグレクトによる二児餓死事件をもとにした小説。

母親、祖母、子供たちの視点から繰り返し語られるので、それぞれの事情やその時の気持ちがすれ違う様子がわかり、苦しく、読むのが辛かったです。

今もどこかで助けを求められない母親や虐待に苦しんでいても声をあげられない子供達がいるかと思うと本当に辛いです。
母親一人が処罰され責められるけれど、一人の問題ではないということを理解し、助けを求めたり助けやすい社会の仕組みがもっとできることを願うばかりです。
家庭のことだから介入が難しいことも想像できるので、そのためにはどうすればいいのだろう。
この事件から12年経つけれど、同様のネグレクトや虐待による死亡事件は無くならないのが悲しいです。

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2024年03月20日

Posted by ブクログ

実際にあった悲しい事件をもとにしたものなので、分かってはいたけれど一切救いはなくて読後感は辛い思いになった。

地獄の歯車には抗えないものなのかな、人間って。大小なりとも皆あるんじゃないかな、負の歯車が。どこかしら錆びてたり、軋んでたり。でもきっとこの人たちの歯車はもうどうしようもなく壊れ切っていて回るたびに阿鼻叫喚を轟かせてたはずなのに。色々と深く考えてしまう、否応なしに考えさせられてしまう。

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2023年09月19日

Posted by ブクログ

ネタバレ

大阪で起こった幼児二人を部屋に置き去りにしたまま若い母親が放置して餓死した事件ーー
ここから構想を得たフィクション作品、だが重すぎる。


事件を起こしたのは娘 蓮音。
厳格で真面目な父、でも家庭より自身の立場や理想を優先する。
母の琴音は小さい子どもを置いて逃げた。
父は仕事はすれども家のことはなにもしない。親の代わりに、小学生のころから幼い子二人の世話をした。
歪みはじめる蓮音。自分を自分で大切にできない。

母親 琴音。彼女もまた愛のない家庭だった。
つねに暴力をふるう父親。それを耐える母、怒る兄、怯える自分…
やっと父親から解放されて現れた継父から性的虐待…
守ってくれるはずの母親も壊れていき、琴音の精神が蝕まれていく。精神病院にもかかったがあまりにも深い傷は人格すら壊していく。
そういう彼女が家庭から、子育てから逃げてしまうのも仕方のないことと思えてくる。

この本は幼児置き去り事件にとどまらず、蓮音の幼少期〜事件に至るまでの経緯、そして母 琴音の子ども時代〜結婚、家庭、家を出てからの生活、と二人の母娘の人生がつづられている。
しかも交互に語られる話が、しだいにどちらのことが区別がつかなくなっていく。


「母親不適合」と世間から烙印をおされる琴音だが、彼女なりにどうすればよかったのかを何度も自身に問いかける。
自分が逃げたから、自分が置いて行ったから

琴音は何回も心の中でつぶやく
「虐待は連鎖する」と。
では、虐待された自分が娘のまえから消えたのに、なぜ娘は虐待するのか?
置いて行った娘と縁がきれたのに、なぜ?
遠目に一度見た娘家族は幸せそうに見えたのに、なぜ?

そんな琴音に声をかける音吉の容赦ない言葉が刺さる。
「そもそも置いて出て行ったあなたは言える立場にない」
完全に遮断してしまうほどの強い言葉…
でも琴音はそうしないと精神がまた壊れてしまう。

子どものころに音吉のような、理解ある大人がいて受け止めてくれたなら、なにかが変わっていたかもしれない。いや、変わっていてほしい。

救いのない話で苦しい、、


2010年の事件からすでに10年以上。
いまだに育児や家事は女性の側に負担を強いられている。
母子で孤立している女性の叫びは届かない。

衝撃的な内容だが、学校教育で教えるべきことだと思う。
子どもを産み育てるには覚悟がいることを。
途中で放棄はできない。放棄した行く末のことを。

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2023年08月29日

Posted by ブクログ

賢者の愛を読んだ時のことを思い出した。
山田詠美は、感情の憎悪の部分を細かく描写するのが上手いなあと過去にも思ったんだっけ。
一応フィクションだそうだが、数年前に取り立たされた事故(事件)だったし
どこかで聞いた犯人の生い立ちだったし、
なんなら東京の足◯とか兵庫の尼◯とかでよく見聞きするような生々しい内容だった。

生い立ちが凄惨だった場合、そこから打破するのって難しい。親を反面教師に強い気持ちで勉学に励めればいいけど(琴音の兄、勝みたいに)
どうしても負の連鎖は続くし、多くの人は脱却する術を知らない。「人生こんなもんだ」って嘆きながら同じような境遇の人と結婚して他の世界を知らないまま親になり、子どもにも伝播していくんだと思う。

一言で言えば親ガチャの末端。
幼児を育てる親として、身につまされる思いで読んだ。

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2023年08月10日

Posted by ブクログ

ヨハネによる福音の「あなたたちの中で罪を犯したことのない者が、まず、この女に石を投げなさい」を思う。
13年前、マンションに置き去りにされ、餓死した子どもたちがモチーフの物語。子どもたちの母・蓮音、母の母・琴音、そして子ども、語り手をかえながら、その日に至るまでが描かれるのだけれど、蓮音と琴音の物語は、どちらのそれを読んでいるのか曖昧になるくらい、ふしあわせの質が似ている。ぞんざいに扱われ、それを受け入れざるをえない暮らしからくるもの。蓮音が「つみびと」になり、琴音がならずに済んだのは、誰と出会えたのか、という違いだけ。
子どもたちの命を消したのは、決して蓮音1人じゃない。
これは小説だからもちろんフィクションなんだけど、罪の背後に導いてくれる。

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2023年06月29日

Posted by ブクログ

誰を視点にするかで評価が変わってくる作品。母なのか、子なのか、そのまた子なのか。誰でもいいのなら他の人の行動が理解できないのだろう。血が連鎖しているとはいえ、全くの別人なのだから。
ってのは建前で、伸夫がキモすぎた。

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2023年06月09日

Posted by ブクログ

ネタバレ

ほぼノンフィクションのお話だったんですね。
母の琴音、娘の蓮音、小さきもの(蓮音の子供、被害者)のそれぞれの視点で描かれています。
琴音と蓮音がたまにごちゃごちゃになって少し読むのに苦労しましたが、後半からはサクサク読めました。どの立場でも絶望的に酷くて読むのが辛かった。特にモモとモネに関しては何でこんなに純粋で幼気な子供が…と胸が痛みます。蓮音だって十分に子供を愛していて、宝物とか大好きとか言ってるのにどうしてああなってしまったのか。もちろんモネとモモが一番可哀想なのですが、蓮音も辛い。小さい時から頑張りすぎていた。ちゃんと愛情を受けていなかった。自分自身を大切にできていなかった。現実逃避するしかどうしようもなかったんだなと悲しくなりました。殺したのはもちろん許せない事ですが、そうならない社会であってほしいと切に願う作品でした。

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2023年03月05日

Posted by ブクログ

2児置き去り事件をモチーフとした小説。

「つみびと」というタイトルだが、つみは個人に紐づくものではないと感じた。
罪の元となるウイルスが人に感染する中で変異していき、環境により様々な罪として発症するように見えた。
第三者が介入することで、この元となるウイルスを駆除したり、発症しない環境を整えられたら、このような悲劇は起こらなかったかもしれない。

山田詠美さんの他作「マグネット」を再読したくなった。「マグネット」では、罪と罰が等価ではない事が書かれていたが、罪を負うまでの経緯にも着目したい。

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2022年08月23日

Posted by ブクログ

胸が苦しくなる小説。誰でも、幼い子供がアパートの部屋に置き去りにされ亡くなるというニュースを耳にすると、亡くなった子供の冥福を祈ると共に、その子供の親の身勝手さに強烈に腹が立つだろう。その親自身も幼少期にネグレクトの被害者だったとしても子供をこんな形で死なせた言い訳にはならない、多くの人がそう思うだろうし私も同感。
でもこの本で、登場人物それぞれの心の叫びを知ると、私たち外野の怒りの矛先は親だけに向けるべきではないのかもとも思えてくる。

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2022年05月24日

Posted by ブクログ

暴力、虐待、ネグレスト、親から十分な愛情を与えられずに育つと、自己中心的な行動をとる大人になるの?この行動の結果がどうなるのか想像力に乏しくなるの?とても、重たい内容でした。読み終わってホッとしながらも疲れがどっとくる。途中で投げ出すことのできない本でした。

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2022年05月15日

Posted by ブクログ

ネグレクトの本人周りの感覚を含めた
ストーリー
何が悪いのか
ネグレクト自体も悪いが周りの援助も十分に得れずに助けの求めどころが分からなかった主人公を見ていると本当に本人だけがダメなのか。
色々も考えさせる物語。

もちろんネグレクトはダメだし
親としての責任がない
ただ本当に当事者だけが悪いのか

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2022年02月09日

Posted by ブクログ

電車の中で幼い女の子と母親のやりとりを見て、大阪で起きた二児置き去り事件を思い出した。
すごくこの事件が気になって、事件をモチーフに書かれた本書を衝動的に購入。
モチーフというだけなので、フィクションですし、事件のことを深く知りたい方には向かないかもしれません。
親子3代にわたるストーリーは簡単に変えられるものではなく、根深い。
不幸を生まないためには、産まないことなのかも、という結論に至りました。

心に残った言葉、
『人にニ種類あるんじゃないかって思うのよ。親にしてもらえなかったことは自分の子にもしてやれないってタイプと、親にしてもらえなかったからこそ、その分、自分の子にはしてやろうと思うタイプと』

親にしてもらえなかったことをしてあげるには、親以外の別の人間との信頼できる関係構築が必要なわけで。それもできない人はしてあげたくてもしてあげられないという状況があると思うのです。

虐待の連鎖について深く考えさせられる作品です。

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2022年02月06日

Posted by ブクログ

文庫王国の斎藤美奈子チョイスから。”彼女は頭が~”より上位で、かつ同系統と言われると、それを読まない手はないですわな。読み終えて、もちろん刺さるものは大いにあったんだけど、自分的には姫野作品に軍配。亡くなった子、その親、さらにその親世代まで、3世代のそれぞれを視点人物に、各人の心情を綴っていく書き方は有効で、読者は必然的に、独りよがりにならない考察を促される。でもどうしても、一番立場が弱く、声も上げられないところに感情移入してしまいますわな。そういう、自らの思考回路のクセとも向き合わされる一冊。

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2022年01月27日

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