井戸川射子のレビュー一覧

  • この世の喜びよ
    Audibleにて

    「やって貰う喜びもあるけど、やってやれる喜びもある」
     かつて親父が言った言葉だが、そのことを体現していたのはじいちゃんとばあちゃんだろう。戦争を経験し、家族を含め多くを失う中でそれでも何かを与えることを惜しみなくしてくれた人達だった。感謝しかない。

     与えられたものは、後の...続きを読む
  • ここはとても速い川
    これはすごい。
    井戸川射子、詩人の姿を見た。

    表題作「ここはとても速い川」は、集の発する言葉から彼の生命力と危うさと素朴さに満ちた目つきを想像させられる。嘘なんて存在しない集の世界に入り込むと、気づいたら泣き出しそうになっている

    「膨張」は、ラストにかけてが物凄く良い。
    速度のある文章から吹き付...続きを読む
  • 共に明るい
    これまでの2作より更に詩的に。
    情景の切り取り方、リズム、グルーブは詩。
    この文体はクセになる。
  • この世の喜びよ
    あなたがこの世の喜びを結婚でも出産でもないところで感じたところにとても生々しさを感じ、ほっとした気持ちになれました。

    あなたは老いていくなかでも新しい人と出会ってお互いの話をし、その人に伝えたいことを伝えることにこの世の喜びを感じている
    昔からあるショッピングモールという調整された居心地の良い空間...続きを読む
  • ここはとても速い川
    「ここはとても速い川」「膨張」の2作品が収められている。

    「ここはとても速い川」は児童養護施設に住むこども「集」の語りで物語が進む。子供がそうであるように、目に映るものを次々言葉にしていく。だから、話は突然方向を変えるし、句読点もあえてずらしているのかと思う。それが子どもっぽい揺らぎを感じさせる。...続きを読む
  • ここはとても速い川
    井戸川作品2冊目。
    文章のリズム感、グルーブに浸る。
    人が記憶の隙間に落っことしてしまっているような、ディテールを丁寧に掬い上げる作風はとても好き。
    これはいい。
  • ここはとても速い川
    井戸川射子さんは詩人だそうだ。
    詩はまだ読んでおらず、この小説が凄いと、石井千湖さんの紹介をきいて、手に取った。

    なんという繊細にして大胆な子どもらの描写。
    ワンパラグラフが長いように思う。そして、あまりに息継ぎもなく、流れるように、日常の中で意識が止まらないのと全く同じように、主語、語り手である...続きを読む
  • この世の喜びよ
    句点の繋ぎ方や人称の不安定さが、揺らぎ、揺蕩い、戸惑いみたいなものを感じさせる。女性性みたいなものの表象がすごく上手で、はっとさせられる。
  • この世の喜びよ
    小さきものから小さきものへ伝えられる、引き算の人生の、しかし確かにある喜び。ショッピングモールの見え方も変わる。
  • この世の喜びよ
    この本を読んで母の事が頭に浮かんだ。

    家事をほぼ一人で背負い、私と姉を育て、私達が巣立ってからは祖母の世話をし、父の用事もこなし、人の世話ばかりの人生でつまらなくないんだろうか、もっと自分自身の人生を生きたいと思わないんだろうか。
    母が私を産んだ年齢くらいになってから、そんな風に母を見るようになっ...続きを読む
  • ここはとても速い川
    『とても速い川』と『膨張』の2つの話。
    決して読みやすい文章ではない。がとても惹かれる。
    主人公は養護施設の少年。感動的なことは何も起こらない展開に心が揺れた。
  • ここはとても速い川
    詩人の書く小説らしく、表現が詩的で描写力が素晴らしい。
    井戸川射子さんの小説は、「詩人出身の感じ」が読みにくいという意見を見たことがあるけど、個人的にはこういう、趣向を凝らした美しい描写は好きなので楽しく読めた。
    表題作ももう一作も、人生の一場面を切り取ったような小説だった。良かったです。
  • この世の喜びよ
    子育てが終わり喪服売り場でパートする女性を描いた『この世の喜びよ』『モデルルーム』に一人でお試し一泊する主婦と叔父に連れらキャンプに行く『キャンプ』の3編。
    淡々とした文体、選ばれた言葉に魅せられた。長い長い詩のよう。
  • この世の喜びよ
    冒頭から泣いてしまう。泣かせることを狙いとしたフレーズではないだろうに。多分、それはわたしが育児の真っ只中だからだ。わたし自身は「愛おしい」とか「大好き」とか「大切」とかそういう風に湧き出る感情を名づけることとしてきたそれが。『日なたの黄色い芝生』をわたしは見たことがある。わたしはそこにいたことがあ...続きを読む
  • この世の喜びよ
    じっと読み進めていくと、じんわり胸が熱くなる小説
    細部まで表現が練られている気がする
    冷たい文章なのにあたたかい
  • この世の喜びよ
    主人公の「あなた」が、ショッピングモールで出会った「少女」との交流、少女との交流が途絶えてしまったのち、少女に居場所として自分の過去を伝えようとする。伝えられること、伝えたいものがあることが、人生における喜びということ。

    二人称である「あなた」を主語に、呼びかけているような文体は、有島武郎の「生ま...続きを読む
  • この世の喜びよ
    ただ暗いおばさんじゃなかった。
    細かい描写の中に共感を幾度も覚える。
    初めて読む作家だけれど、言語化の仕方が好み。

    「キャンプ」の大人たちより大人っぽい子供たちが良い。

  • この世の喜びよ
    日常生活の、地味だけど小さな感動。
    子育ての難しさ、それは子供心の難しさ。
    この世の喜びってなんだろう?と思いながら読んだ。
  • この世の喜びよ
    何気ない人の心のうちが描かれた、静かな雰囲気が良かった。

    「この世の喜びよ」の登場人物たちはちょっとした社会の縮図のような気もしたし、展示住宅に一泊体験宿泊をする妻の話「マイホーム」も、こういう心境や日常って多分あるよな〜と想像ができた。「キャンプ」ではお漏らしをしたり、学校に行きたくない男の子に...続きを読む
  • ここはとても速い川
    ポリタスで石井千湖さんが本書を紹介した時、初めて著者の名前を知った直後『この世の喜びよ』が芥川賞を受賞したタイミングで読んでみることに。
    一見すると薄い文庫本だし少年が主人公とのことなので、サクッと読めるかと思いきや予想外の展開で侮れない。水の流れに足を取られないよう足元を確かめながらゆっくり読ませ...続きを読む