呉明益のレビュー一覧

  • 自転車泥棒
    (私が読んだ)呉明益二作目。

    主人公の父の失踪。そして、消えた自転車。

    「それらは、どこへ行ったのか?」
    その答えを探る中におけるあらゆる人々や歴史、その記憶や悲哀との邂逅の物語。

    作中では自転車やゾウといったキーアイテムがあり、それらが人々を出会わせ、自分の人生や歴史について知ることのきっか...続きを読む
  • 複眼人
    呉明益の小説は、『歩道橋の魔術師』『自転車泥棒』を読み、これで3冊目。今まで読んだ2冊が、中華商場や、第二次大戦といった、台湾の歴史的な記憶を拠り所にした物語だったのに対して、『複眼人』は、ファンタジー要素が強く、印象がかなり違う作品だった。

    世界中の人間が捨てたゴミが太平洋沖に集まってできた「ゴ...続きを読む
  • 歩道橋の魔術師
    『光は流れる水のように』が綺麗にまとまっていて好き。
    それから訳者あとがきの「今、中年にさしかかった商場の子供たちは魔術師のことを思い出し、そしてあのとき、自分の人生がすでに決まっていたのだと気づくのだ。」子どもの頃に住んでいた集合住宅のことを思い出した。一緒に遊んだ子、その親、出稼ぎに来ていた外国...続きを読む
  • 自転車泥棒
     台湾人作家の小説には、ある種ノスタルジーを感じる。
     自分自身が体験していないのに、懐かしさを感じてしまう。
     甘耀明「鬼殺し」にも感じた、日本統治時代の台湾に、かつての日本を感じる。
     それは日本人作家が描く明治期の日本よりも日本らしく感じる。
     
     一台のアンティーク自転車をめぐって、本省人、...続きを読む
  • 歩道橋の魔術師
    台北に実際にあった大型商業施設「中華商場」を舞台に、1980年代を振り返りながら進む台湾の小説なんだけど、とてもノスタルジックで、切なく、あたたかな作品だった。台北の熱気や喧噪に没入しながら、あっという間に読み終えた。
    天野さんの翻訳は助詞や句読点にまで心配りがあって読みやすく、現実と夢の空間を心地...続きを読む
  • 歩道橋の魔術師
    1992年まで台北に実在した繁華街「中華商場」を舞台にした連作短編10作と、文庫本で追加された短編1作が入っている。それぞれの物語は、商場で育った少年が、大人になってから、かつての友人に歩道橋にいた魔術師について聞き取った話を基にしたという体で語られる。

    中華商場の歩道橋にいた魔術師は、商場の子ど...続きを読む
  • 自転車泥棒
    2021のベストにするか迷ったくらい。
    台湾の博物史や蝶の歴史、戦争,銀輪部隊のことが入り混じって僕の父さんの自転車と絡んでくる。
    再読したい。
  • 歩道橋の魔術師
    一九九二年に解体された台北の中華商場。
    そこに住んでいた人たちの不思議な記憶の物語。

    かつて中華商場に住んでいた作家が、当時の同級生や友人、関係者へ「歩道橋にいた魔術師」のことを覚えているか尋ねていくという連作短編集。
    マジック・リアリズムというのはよく分からないが、過去の出来事を回顧しているよう...続きを読む
  • 歩道橋の魔術師
    恐らく初の台湾文学
    エドワードヤン作品といい、
    歴史的な背景やその街並みからか、台湾には魅せられる何かがある。

    記憶の曖昧な部分や余白、
    そこに物語の源泉がある。

    初めは村上春樹チックな死生観が香ばしく、
    その既視感であまり乗れなかったのだが、
    徐々にこの世界観に魅了されてくるようになった。

    ...続きを読む
  • 歩道橋の魔術師
    台湾作家による幻想文学。
    作者はガルシア=マルケスが好きなようで本の最初に言葉が引用されている。

    この短編集は、実際に台湾にあった「中華商場」という商業施設にに住む人々の人生の喜怒哀楽が書き記されている。商場には八つの棟があり、歩道橋で繋がっていた。歩道橋にはマジックを見せていた「歩道橋の魔術師」...続きを読む
  • 雨の島
    私が今まで読んできた小説とは違う、新しいもの、知らない感覚に触れた、という読後感があった。これは読書において私がとても大切にしていることだったのでとても嬉しかった。

    この作品だけでなく過去のさまざまな作品も、自分の内部や世界を見つめるために実験的に書いているのかもしれない。著者の後記を読んでそう思...続きを読む
  • 雨の島
    『「経験の中にないんだ。 前に読んだ哲学書に書いてあった」 阿賢は言った。 「人間は自分の経験の中でしか生きられない。でも今朝の俺たちは自分の経験の中にはいない」 小鉄は自分には永遠に阿賢のようなことは言えないと思った』―『// // アイスシールドの森』

    六つ(プロローグも数えれば七つ)の、バラ...続きを読む
  • 自転車泥棒
    もう少し単純なオムニバスを想像して読み始めたので、戦争が作品に暗い影を落としているのは予想外だった。

    いつの時代も争いを始めるのは人間で、動物はそれに翻弄される。第二次大戦でゾウが戦闘に関わっていたことは知らなかった。動物が何を考えているかはわからないけど、リンワンのように戦争の記憶がトラウマにな...続きを読む
  • 歩道橋の魔術師
    なんか難しいなと思ったような気がして、読後、パラパラ捲ってみたが、読み終えた今となっては、そんなことはなかったなと思う。

    魔術師のマジックはマジックかもしれないけれど、やはり、全て本物、それは記憶についてもそうだよ…と語りかけられた。

    商場に住んでいた訳でもないし、実際見たこともないけれど、自分...続きを読む
  • 自転車泥棒
    21世紀、台湾。小説家の「ぼく」はヴィンテージ自転車の愛好家でもある。古道具屋のアブーを経由して自転車コレクターのナツさんから「貴方が探しているのに似ている自転車を見つけた」と連絡を受けて駆けつけると、そこにあったのは20年前失踪した父と共に消えた〈幸福印〉の自転車だった。自転車をディスプレイしてい...続きを読む
  • 雨の島
    短編に出てくる人々はそれぞれに欠けているものを抱えているが、それは身体的なものだったり、家族だったり。物語を経て、その欠損は埋まっていく訳でもないのだが、筆者の描くそれぞれの答えは、自然や人間がその欠損に向き合い辿るひとつの姿だと思えた。

    しかし、挿絵も作者、裏表紙の写真も作者撮影。どんだけ才能あ...続きを読む
  • 複眼人
    海に浮かぶワヨワヨ島、迫り来るゴミの島、クジラ、台湾の先住民族、娘と母、娘と父、猫、母と息子、地震と津波、小説、山、森、海。
  • 雨の島
    『伊与原新 + 恒川光太郎 = 呉明益:えっ、マジ!!』

    ミミズ、野鳥、森、雲豹、クロマグロ、鷹などを題材としたネイチャーライティング小説。自然科学に根ざした細かな描写と独特な世界観は、まるで、台湾版 伊与原新+恒川光太郎 かと思いました!
  • 歩道橋の魔術師
    台北に1961年から1992年まで存在した長さ1kmのショッピングモール「中華商場」を舞台にし,そこで暮らす子供たちを主人公とした10の短篇(と1編のオマケ)からなる.多くの話に「歩道橋の魔術師」が狂言回しとして登場し,また,ある話の主人公は別の話にエキストラとして登場する.
    日本に売り込む際には「...続きを読む
  • 雨の島
    自然や生き物に触れたとき、心が沸き立つ感覚がある。
    “Sense of Wonder”

    今振り返れば、あの時の経験が自分をこの道に進ませた、自分をまた生きることに戻らせた、そう感じる瞬間と、様々な物語が出会い、入り組み、紡がれる短編6編。

    コーマックマッカーシーから言葉を一部引用した著者曰く、“...続きを読む