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失踪した父と同時に消えた自転車の行方を追う「ぼく」。台湾から戦時下の東南アジアへ、時空を超えて展開する壮大なスケールの物語。 ※この電子書籍は2018年11月に文藝春秋より刊行された単行本の文庫版を底本としています。
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Posted by ブクログ
(私が読んだ)呉明益二作目。 主人公の父の失踪。そして、消えた自転車。 「それらは、どこへ行ったのか?」 その答えを探る中におけるあらゆる人々や歴史、その記憶や悲哀との邂逅の物語。 作中では自転車やゾウといったキーアイテムがあり、それらが人々を出会わせ、自分の人生や歴史について知ることのきっか...続きを読むけを生成していく。 私たちは人間だけでなく、あらゆる事物と共に生きている事を思い出した。 例えば外出に欠かせない靴ひとつ取っても、掘り下げる事で今まで見えてなかった人生について知るきっかけにもなり得るだろう。 いくらでも多角的に切り取ることの出来る人生の複雑さは、ある種狂気じみているなぁと感じた。 脱線したが、本作の人生への切り取り方の多様さには感服するばかりだし、なんといっても終わり方があまりにも秀逸すぎる。 非常に素晴らしい物語でした。
台湾人作家の小説には、ある種ノスタルジーを感じる。 自分自身が体験していないのに、懐かしさを感じてしまう。 甘耀明「鬼殺し」にも感じた、日本統治時代の台湾に、かつての日本を感じる。 それは日本人作家が描く明治期の日本よりも日本らしく感じる。 一台のアンティーク自転車をめぐって、本省人、...続きを読む外省人、日本人、台湾原住民にそれぞれの物語があり、そして太平洋戦争時の銀輪部隊、インパール作戦中のゾウの数奇な運命、が語られていく。 熱を出すと父親は自転車に僕を乗せて小児科医まで走った。 当時は高級品だった自転車はよく盗まれ、我が家の自転車も何台か盗まれた。 幼い頃に最後に見た父の記憶は、自転車に乗って出かけていく姿だった。 そして父親は突然失踪した。 年月が経ち青年期の僕は、入った喫茶店にアンティークとして飾られていた自転車は、間違いなくあの日に父親が乗っていた自転車だった。 どうしてこの自転車がここにあるのか。 その来歴を調べるうちに、一台の自転車がかかわった人たちの話が語られる。 台湾という小さな島に、立場も別々のグループがあり、そういった多様性の成り立ちが日本とはまるで異なっている。 台北の古い街並みに、かつての日本をそこに見る。
2021のベストにするか迷ったくらい。 台湾の博物史や蝶の歴史、戦争,銀輪部隊のことが入り混じって僕の父さんの自転車と絡んでくる。 再読したい。
もう少し単純なオムニバスを想像して読み始めたので、戦争が作品に暗い影を落としているのは予想外だった。 いつの時代も争いを始めるのは人間で、動物はそれに翻弄される。第二次大戦でゾウが戦闘に関わっていたことは知らなかった。動物が何を考えているかはわからないけど、リンワンのように戦争の記憶がトラウマにな...続きを読むって残ることだってありうるだろう。 人間にだって戦争のトラウマが残ることは当然の前提として、でも人間は語ること/語り合うことができるし、あの戦争はなんだったのか、なぜ戦う必要があったのか検証して思慮を巡らせることができるけど、少なくともゾウはあの戦争の背景を知る由もないので、ゾウの心に人間が一方的に傷を負わせたことは尚更酷いと感じた。 だから一層、マーちゃんと動物園の職員の心が通じ合っている様に胸が震えた。 贖罪というわけじゃないけど、上野動物園のゾウをゆっくり見に行きたいと思った。 ムーさんがなぜ木を登るか、戦いの中、木の上で何を見たか、は印象的だった。特に後者は、人間が地球の上で領土を主張して戦いを始めて、敵味方に分かれて争っていても、自然の営みはそれと無縁なもっと大きな流れの中で変わらず続いていくのだと思った。 自転車のパーツを集める人たちがいるのは興味深かった。私の知らない「面白いこと」はまだまだたくさんあるんだなあ。 この本を通じて、日本統治時代の台湾や、台湾人の第二次大戦への関わり方を知ることができた。 (日本によって台湾の運命が翻弄されたことに鑑みれば、これを日本人の私が「歴史」と軽々しく言ってしまうことには少なからず抵抗があるけど、でも他の呼び名が思いつかないので歴史と書くが、)台湾の「歴史」を知ることができて、台湾のことが尚更好きになった。 必ず再読したい。
21世紀、台湾。小説家の「ぼく」はヴィンテージ自転車の愛好家でもある。古道具屋のアブーを経由して自転車コレクターのナツさんから「貴方が探しているのに似ている自転車を見つけた」と連絡を受けて駆けつけると、そこにあったのは20年前失踪した父と共に消えた〈幸福印〉の自転車だった。自転車をディスプレイしてい...続きを読むた喫茶店の元オーナーで写真家のアッバスと親しくなった「ぼく」は、彼もまた自転車にまつわる物語を持っていると知る。自伝を装ったフィクションと戦地を舞台にしたマジックリアリズム、台湾自転車史の雑学などが渾然一体となった、とある自転車の一代記。 とにかく盛りだくさんの小説である。第1章の中華商場でのにぎやかな家族史は東山彰良『流』を思いださずにいられないし、章ごとに挟まる「ノート」には著者自身の手による"ヴィンテージ自転車の博物画"(と呼びたくなる)がついている。父の自転車自体は第2章の終わりですんなりと戻ってくるのに、その自転車が消えていたあいだの物語はくねくねと複雑に折れまがり、関わった人それぞれの物語と入れ子になってなかなか本命が立ち現れてこない。 廃墟のなかにある地下水路の物語、雄蝶のフェロモンを嗅ぎとる蝶の貼り絵師の物語、自分の手すら見えない霧に包まれたジャングルの物語、戦争に連れていかれたゾウの物語、小学校で飼われていたオランウータンと戦時下の動物園の物語。人はみな自分の物語を抱えて「ぼく」の元へやってくる。フェティッシュとは物語への愛着なのだと、古道具屋のアブーと自転車コレクターのナツさんが語るとおりに。 一見、雑多にすら感じられるほど物語の出入りが激しいのだが、それぞれは細部で呼応しあい、対比されている。そのなかでも「ぼく」の家族史と並んで縦軸を担うのが、アッバスとその父バスアの物語だ。バスアもまた戦争の記憶を抱えたまま、自転車と共に消えた父の一人だった。アッバスは"父の自転車さがし"の先達だったのだ。 結局なぜお父さんは失踪し、どこへ行ってしまったのかは全くわからない。七人きょうだいの末っ子で、一番年の近い兄とすら14歳も離れている「ぼく」と日本の台湾統治時代を生きた父では、完全に世代が断絶してしまっているせいでもある。「ぼく」が書く自転車史の「ノート」は、その断絶を埋める努力の跡とも言えるのかもしれない。そして〈不在の父〉にかまけていた「ぼく」の虚を突くように、母親の幼少期のエピソードがラストに明かされる。これはプロローグとして置かれたのと同じ物語で、この小説は父の自転車さがしが母を救った自転車の話に挟まれているという全体構成になっている。 おどけたところもある一人称の軽妙な語り口には『雨の島』にはなかった熱があり、虚と実がいくつものレイヤー状になった文章には時折クラクラしつつも、そのクラクラこそが独特のグルーヴを生みだしてクライマックスまで盛り上げる。単純に自転車の文化史を知れるという意味でもめちゃ楽しい。登場人物たちが語る戦争記憶には極限状態ゆえの超現実的な体験が杭のように深く打ち込まれていて、コンラッドから連綿と続く戦地のマジックリアリズムの系譜にこの小説も連なるものだとわかるが、その体験を後代の人間が「ぼく」の物語として掘りだし、「レスキュー」する。それが本作のアツさのキモだろう。
自転車、家族、戦争、ゾウ、チョウ。 古い自転車を探すことと、歴史を学び直すこと。 自転車を探すことと、誰かの人生を追いかけること。 アジア現代史を背景に様々なことを想起しつつ、幻想文学として読んだ。
不思議な小説だ. 主人公は古い台湾製の自転車の収集マニアである.彼が自転車に執着するのは,どうやら父親の失踪に関係するようだ.父とともに失われた自転車を追い求める物語なのだが,自転車は不思議な運命を辿り,それを追い求める過程で出会う多くの人々の自転車をめぐる物語が積み重ねられる大河小説である. 「百...続きを読む年の孤独」のようだ,というのは言いすぎかもしれないが,大傑作である.
失踪した父と共に消えた自転車はどこへいったのか?そんな棘のように消えない記憶を抱え、古い自転車コレクターとなった作者。そこから始まる台湾自転車史から家族と台湾の歴史の壮大な物語。 父の自転車が作者の手に戻るまでに経てきた持ち主たち、その過程で知り合う台湾先住民族の青年カメラマンのもう一台の自転車、さ...続きを読むらにそのカメラマンの父の自転車と第二次世界大戦における銀輪部隊…と自転車を軸として展開される物語りが素晴らしい。 「古いものを愛するのは時間を愛すること」、たった一台の自転車からでも人は過去を見出すことができる。
無くなった自転車を探す旅が、時空を超えて様々な語り口で紡がれていく。 幻想とノスタルジーが心地よく、見たことの無い台湾の風景が浮かんできた。 たまに何を意味しているのかわからない部分もあったが、それも含めて美しい小説だった。
小説家をしている「ぼく」は、父と一緒に失踪した「幸福」印の自転車を探す。自転車コレクターである「ナツさん」のところで、ついに見つけたその自転車は、父の手を離れたのち、多くの人の手を渡って、「ぼく」のところへと戻ってきた。 物語は、父の「幸福」印の自転車が巡ってきた人たちの物語をまとめたものである。彼...続きを読むらは、自転車の来歴を知ろうとする「ぼく」に、従軍時代に出会った老人やチョウ捕りの思い出、第二次対戦中の銀輪部隊やビルマの森での戦争の記憶を語る。
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