ライターであり漫画原作も手掛ける稲田豊史さんの著。
Z世代を中心に、「映像作品を早送りで観る」という視聴層の心理や、彼(女)らを取り巻く状況について考察する本です。
私自身はほぼ1.5倍速や2倍速をしない人間ですが、
この本を読み終えてみて思ったこととして、確かに傾向としてはZ世代が該当し
...続きを読むますが、「Z世代=こうだ」というと語弊がありそう(該当しない人もきっといるし、世代は違ってもこういう傾向のある人はいる)です。著者も世代が違っても該当する人はいる、と書いていた通りですね。新書の傾向として系統立った構成になっているため、意識せずに読んでいるとそっちに傾いてしまいそうな感じを受けました。
ですから、これを単なるZ世代の傾向として読むのはちょっと危険です。
この本を読んで私が感じたZ世代象を試しに、ここに挙げてみたいと思います:
・オタクをリスペクトしている、と言いながら実際にやっているのはオタクの努力を(自分は対価を払わずに)横流ししてもらうこと
・(伏線について)思考すること、(面白いアニメを発掘しようと)努力することは「コスパが悪い」というひと言で敬遠する
・ストレス耐性0だから辛い描写は見ない。予想外の展開はストレスだから先にネタバレサイト見る。どんでん返し要らない。
・「タイパがよくて合理的」は本当に自分達の頭で考えて答えを出したことなのか”怪しい”(=実はタイパ悪そうなことを堂々としている)
・身内大切。仲間大切。でも、それ以外はどうでもいい
・ハッキリ言われないと相手の気持ちが分からないのに、相手にハッキリ言われると「傷ついた」と言ってコミュニケーションを遮断(OR相手を敵認定)する
・一つの群れの一員であって、個ではない。かとおもえば個であって、他の人には興味がない
この本に書いてあること、そして私が感じ取ったことが
現実でなければいいな、と思いました。
余りにも稚拙で、考えることに乏しく、誰かのいいなりにそのままなってしまいそうな、”ある人たち”について書かれています。
著者は実際に倍速視聴を(仕事の都合上)する立場にあったからこそ、この話を書いたそうです。それは「制作側からすれば、やっぱりそんなことをされたら悲しい」ということなのかもしれません。
一方で、これから何世代も経た先に、「昔は倍速視聴で目くじらを立てる人がいたんだって」と笑われる時代が来るかもしれない、とも書いています。
これについては、「オーケストラの生演奏、映画館での視聴が本来の形」とされた言説と少し違って、倍速視聴は「同じ映像を自分でカスタマイズして視聴する」といったほうがしっくりきます。現代にも「やっぱりライブコンサートは配信よりホールで聴いたほうがいいね」という価値観が残っているのと同じで、生演奏や演劇、映画館などに赴く人たちがいるのと同様、「等倍が時代遅れ」になるのではなくて「等倍で観られる=贅沢」という価値観にスイッチしていくのではないかな、と思いました。
量を求めるか質を求めるか、ということは悩ましい問題で、この問題は解決策がなかなか見つからないものですから、時代背景が変われば、バランスが変わって倍速視聴が廃れる日がくるかもしれない、と個人的には思います。
ツッコミどころもありましたが、(「倍速視聴の経験」以外の数字データに乏しい、など)読み物・著者の考え方を知るものとしてとても面白かったです。
でも、なんとなくですが、Z世代への風評被害がすごいような気もします……。
全員が全員「結末を知らないとアニメが見れない」「ネタバレを見て安心したい」のではなく「お勧めされたから一応見よう。等倍だとタイパ悪いから2倍速。でも大事なところは後から話せるようにしないと」ということで、「ネタバレを見た後で倍速視聴」を選択しているんじゃないかと思います。
クラスメイトにハブられるシーンがネックになって売れなかった小説については、どういうものか確かめられなかったので推測ですが、(昭和世代と比べて)いじめが身近なものとなったZ世代にとっては、いじめ描写が耐えがたい(当事者であった読者が多い)ということなのではないでしょうか(ハブ=いじめかどうかは不明ですが)。
どちらにせよ、「こういう分析があって、この人はこういう風に世界を捉えているんだなあ」ということを知れて面白かったですし、これを機に自分の考えも改めて確かめることが出来て良かったなと思います。
このお値段でこんなにもいろいろと考えることが出来る本なんて「コスパがいい」ですね。