水村美苗のレビュー一覧

  • 増補 日本語が亡びるとき ──英語の世紀の中で
    久しぶりに痺れる本に出会った。
    著者の水村美苗は学者であり作家である。名門イェール大学・大学院でフランス文学を専攻し、アメリカの大学で日本近代文学を教えながら日本語で小説を書いた。本書の発刊は2008年。5年をかけて書き上げたことからも著者の情熱が伝わってくる。
    書き出しは著者の体験が小説のように綴...続きを読む
  • 続 明暗
    「一体何処から遣り直しがきかなくなってしまったのだろう」

    単行本が出版されてすぐに読んだ記憶があるので、1990年以来の再読となる。
    黒船的な登場は衝撃だった。
    明暗の続きをそのまま読みたいという願いが叶ってしまった。

    文庫の裏にもあるが、この作品自体がすでに古典。
    奇跡の一冊。

    個人的に集中...続きを読む
  • 続 明暗
    夏目漱石の本歌取りであるが、新人作家がそれにチャレンジした勇気と、その勇気に匹敵する内容の面白さに感服し喝采。
     登場人物のキャラで小林がずいぶん常識人になってしまったのと、妻お延がなんでかうつ性格になってしまったのは、ちょっとしたキズにもみえるけれども、それまでほとんど登場してなかったもと彼女の清...続きを読む
  • 増補 日本語が亡びるとき ──英語の世紀の中で
    言語、普遍語、現地語、国語の歴史・国ごとの違いそして日本が今後どうやって英語と日本語の共存を考えていくかまとめた一冊。

    英語との併用は大いに考えるところ。
    二か国語の取得は難しいと言われているけれども、それを再確認させてくれる。
    その中での国語の重要性そして英語に関してはバイリンガルは特定の人でい...続きを読む
  • 続 明暗
    芸術選奨新人賞受賞。
    「明暗」は絶筆で未完成ですが、水村 美苗さんが「続 明暗 (ちくま文庫) 」で完結させてくれています。私的には納得のいく結末でした。良い着地点と思いました。お薦め。
  • 増補 日本語が亡びるとき ──英語の世紀の中で
    3章まで。ものすごくしっくりと自分の中にあったものを言葉にして読んでいると感じる。自然科学の国語については、ちょっと難しいかなと感じるところはある。
  • 続 明暗
    「日本語が亡びるとき」等の論考でも知られる著者のデビュー作。何と言っても夏目漱石の死によって未完に終わった「明暗」を、その文体を見事なまでに再現した上で、続きを創出するという大胆な作品であるが、これがデビュー作とは思えない恐ろしい完成度に満ちている。

    漱石が「明暗」という作品をどのように終わらせよ...続きを読む
  • 母の遺産 新聞小説(下)
    2012年に単行本で出た際に、読んでいるんです。
    2017年現在からみると、たったの5年前。
    最近、電子書籍で再度購入。

    「母の遺産」水村美苗さん。中公文庫、上下巻。

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    50代の女性がいて、結婚していて子供はいない。
    父はもう亡く、老いた母がいる。
    この母が、色々面倒ばかりかけ、たいへんにし...続きを読む
  • 母の遺産 新聞小説(下)
    下巻です。
    上巻では母の介護が焦点だったのに、下巻では主人公の夫の若い女との浮気話に軸を移した感じで主題が読めず、はじめは少々戸惑いました。
    だってね、箱根のホテルに逗留してから雰囲気ががらっと変わるんですもん。急に夫問題(苦笑)。

    ・・・ではありましたが、通読したらとてもよかったです。
    ここまで...続きを読む
  • 増補 日本語が亡びるとき ──英語の世紀の中で
    「読まれるべき言葉」真に優秀な二重言語者は日本語を捨て、英語を選択する。それはインターネット社会になり英語の有用性が確実となったからだ。そこでは、有益な情報を得るためには英語で読まなければならず、自分の意見を広く知らしめるためには英語で書かなければならない。
  • 増補 日本語が亡びるとき ──英語の世紀の中で
    第七章 英語教育と日本語教育 より
    p364
    思えば、日本人は日本語を実に粗末に扱ってきた。
    日本に日本語があるのは、今まで日本に水があるのがあたりまえであったように、あたりまえのことだとしか思ってこなかった。
    (中略)
    「西洋の衝撃」を受けるとは、西洋人こそが人間の規範に見え、それと連動し、西洋語...続きを読む
  • 続 明暗
    漱石の『明暗』は…ずいぶん以前に読もうとして、挫折してしまったような気がする。
    ずいぶんと難渋して、どこが「則天去私」なのかもさっぱりわからなくて、放擲したような…。
    だから、この本も、正直に言うと、読み切れるとは思えなかった。

    ところが、読み始めると、ぐんぐん引きつけられた。
    津田とお延の間の危...続きを読む
  • 続 明暗
    さすが、ちくま。さすが水村美苗さん。

    1990年に筑摩書房から出版された、水村美苗さんの初小説だそうです。面白い。大好き。

    新潮文庫になっていたんですね。それが絶版になっていた。それをまた、ちくま文庫が出したんですね。まあ、新潮の方がメジャーですからねえ。でも、僕はちくま文庫さん、大好きです。ち...続きを読む
  • 続 明暗
    漱石はお延に対して、もう少し距離のある描き方をしていたし、それに比例して、吉川夫人のヒールぶりは本作で高まっている。
    小説としては面白い。おそらく漱石が完結させていたよりも。
  • 続 明暗
    「漱石未完のあの傑作の続きを書く」という時点で非常に面白いテーマであったし、現代に於ける創作の一つの根幹をついていると思う。それを抜きにしても非常に楽しめた。
    あとがきを読むだけでも漱石文学批評として明晰で興味深かった。それは、自らを漱石として創作するという態度によって獲得される批評であり、その上で...続きを読む
  • 続 明暗
    おのぶと吉川夫人の場面では、本当に自分が侮辱されたかのように、胸がカッとなった。
    清子の津田への怒り、おのぶの津田への失望、
    自分の中にある津田が、えぐられるような思いで読んだ。
  • 続 明暗
    非常に読み応えのある作品だった。
    主人公津田はいつまでも自分の人生を正面からぶつかろうとしない態度、
    素直な感情の発露よりそれと同時に現れる下らない理性による体面ばかりを気にする態度によりどうしようもない人間となってしまう。
    津田の妻であるお延も初めはそんな主人を無理やり信じながら(心のどこかで疑っ...続きを読む
  • 母の遺産 新聞小説(上)
    時々お話が前後するし、読みにくい部分はあったけれど。
    主人公と近い年だし、他人事ではない内容に先が気になり興味深く読めた。
  • 増補 日本語が亡びるとき ──英語の世紀の中で
    帰国子女ベストセラー作家が書いた愛国主義的な片手間エッセイだと本書のことを想像していた。
    実際、執拗に長い前半部分の「若い頃体験記」は軽薄な印象で、本書を途中で投げ出す寸前にまで動揺した。
    しかし中盤ぐらいからの言語学や、果ては文明論まで持ち出した考察は興味深い。
    内容は、英語の言語大流行によっても...続きを読む
  • 母の遺産 新聞小説(上)
    読売新聞にて2010年1月16日から2011年4月2日まで毎週土曜日に連載(全63回)。当日の新聞を保存してあったので、読み通した。
    自分が母の介護に追われているので、このタイミングで読んでみた。主人公の心理描写が素晴らしく、満足できる着地で読後感は期待以上であった。