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ソクラテスは国家の名において処刑された。それを契機としてプラトンは、師が説きつづけた正義の徳の実現には人間の魂の在り方だけでなく、国家そのものを原理的に問わねばならぬと考えるに至る。この課題の追求の末に提示されるのが、本書の中心テーゼをなすあの哲人統治の思想に他ならなかった。プラトン対話篇中の最高峰。
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Posted by ブクログ
現代にも通用する政治思想のエッセンスに加え、価値の原理のルーツともいえる「善のイデア」に関して解説した壮大なる古典。これが2400年前に書かれたという驚愕の名著。
「洞窟の喩え」の出典でもある「国家」下巻。 正しいものごとを理解していない人、そしてそういった人々へ真実を伝えることの難しさ、その中でどう振る舞うべきなのか。 そういった困難を比喩の力で見事に表現しきっている。 画家、詩人について喩えるくだりで語られる、使う人と作る人、そして真似る人。 ここでは何...続きを読むにも増して、使う人の考えこそが重要であると語られる。 これは現代社会においてもUXの重視という形で語られるものであり、普遍的な価値が語られていることの証左でもあろう。 人物から国家に飛躍し、様々な形態の国家について吟味する。 そして国家という粒度での議論から、当初の問題であった正義と不正、正義「のようにみえる」ものと正義そのものについて帰着する。 現代のまなざしでは粗く感じる部分も多分に存在するが、それ以上に現代にも通底する本質が宿っている。 難解な部分がないといえば嘘になるし、上下巻あわせたボリュームは人を尻込みさせるのに十分だ。 それでも、手に取る価値のある、いや手に取るべき名著であるのは間違いない。
ソクラテス先生「正義」の話をしようの巻 「国家」という邦題が付けられているが、 最後まで読めば解説に書かれている通り 「正義」がこの本のメインテーマで有り、 国家論に関しては、その一部だと分かる。 多くの人が指摘しているが、洞窟の比喩や 国家論の「民主制から独裁制が生まれる」 という指摘は現代人...続きを読むも舌を巻く観察眼である。 最後のエルの物語はプラトンの師への想いが感じられ、 輪廻転生の概念がギリシアにも存在することが分かって興味深かった。
下巻もサラッと読み終わる。翻訳は読みやすい。しかしきっと原著がまだるっこしい。 知的探索の方法としてプラトンが対話を選んだことには理解を示しつつ、それが上手く機能しているのか、というと、どうだろう。 1人に1つの役割、というプラトンの想定では、1人が自分の中で複数の意見を対立させる、ということが考え...続きを読むにくかったのか。 もしくは、自分の中で対話をするにも、その仮想の対話をシミュレーションするにはいくつかの人格を置く必要があり、自己のなかのそれぞれの立場にソクラテスやそれ以外の名をつけたのだろうか。 プラトンは実際には1人で本著を書いているわけだから、後者なのだろう。しかし、その前提になるのは前者、1人に1つの役割、という考えがあったのだろう。でなければ、自問自答でもこのように議論を進められるはずだ。 廣松渉の四肢的構造などを考えると、1人に1つの役割というプラトンの考え方がいかに素朴であるかは言うまでもないことだが、ではやはり完全に無視すべきか、というと、人にとってのアイデンティティは、究極にはやはり1つのものに結実する場合もあるだろう。特に男性はそうなりやすいのではないか。 女性は、よくいわれるように、女としての自分、母としての自分、妻としての自分と、いくつものペルソナを有することの自覚があると思う。男性は、割と、俺は俺だ、となりやすい。 これにはなんら裏付けはなく、個人的な感覚的な話だ。もちろん、今の社会では多くの場合、という程度の条件をつけての感覚だが。 というわけで、プラトンの考える方法が、まさにここで想定する「国家」の基本構造にもなっており、「正義」になっている。 大きな理想的な構造を個人が描くとそうならざるを得ないが、描かれるものは自然と自分の精神構造の相似形になる。 ホワイトヘッドが、「西洋哲学はすべてプラトンの注釈に過ぎない」というときには、(原文読んだことはない。引用で知ってるのみ。そのうち読む。)そういう、プラトンという1人の人間の相似形である構造が、そのまま1人の人間と人類一般との(西洋の)精神構造の相似形ともなるので、然るべくしてその注釈という形を持たざるを得なくなるのであろう。 逸れたが、本著でプラトンの言おうとしていることを把握するのは、この対話構造によって少しわかりにくくなる。対話のために必要な不要な文章が出てくるからだ。もちろん、それを不要とするかどうかは受取手の精神構造に由来するのであって、プラトンにしっかりそれを重ねることができる人には、必要なものなのだろう、が、僕はせっかちなのだ。「、、、っていう論理が成り立つと思うけど、どう?違う?」「いえ、まさしくその通りです」みたいなのは邪魔くさい。今日的合理主義なのだろうか、もう少し数論的に幾何学的に整えたくなる。でも、それがプラトンの論理方法なのだ。 で、それを気持ちよく整理してくれてるのがこの岩波文庫の解説等だ。すごくよくできてる。何が書いてあったのか、をまとめるには素晴らしい出来だと思う。 構造化してくれる。 まだるっこしかった気持ちをすっきり整理してくれた。 さて、次は、ティマイオスにいこうと思う。ティマイオスの始めが国家の一部要約のようなところから始まるのもいい。 プラトンを知るには国家は最適な主著のようだが、プラトンの与えた影響、新プラトン主義をみるには、国家よりもティマイオスなのだろう。哲学史で勉強する限りにおいては新プラトン主義のどの辺りが新プラトンなのかよくわからかかったけども、ティマイオスがそこをつないでくれると思ってる。
プラトン最大の対話篇。 正義から始まり、国家、真実在、教育、芸術、魂を対話によって哲学する。 2000年以上たっても何も変わっていないのだなあとつくづく感じる。イデアはどこか天上界にあるのではない。洞窟の比喩が間違って解釈されてしまっている。イデアは、見るー見られるの関係と同じく、知るー知られるの関...続きを読む係によるものなのだから、ほかでもない、自分自身の思推の力によってしかたどり着けないもの。 優れた芸術は常に感覚による模倣だから、真実在へ思考する力を養う教育において大きな役割を果たすが、模倣であることからは逃れられない。ワイルドのいう「芸術は人生そのものではない」や「外観で判断できないような人間」「善良さとは自身との調和状態」といった言葉の意味がよりクリアに入り込んできた。 特に話題としては上がっていないが、一巻初めの、年を取ることについてのさりげない言葉もとても味わい深いものがある。 本編で語られているように、真実は単調かつ素朴に語られるものだから、読んでいて一部の逃げる隙もなく、ストレートに言葉が伝わってきた。池田さんが「プラトンは素直すぎる」というのを肌身で感じた。 自らの力で、真実を求めることをこれからも決してやめない。
「その国において支配者となるべき人たちが、支配権力を積極的に求めることの最も少ない人間であるような国家、そういう国家こそが、最もよく、内部的な抗争の最も少ない状態で、治まるのであり、これと反対の人間を支配者としてもった国家は、その反対であるというのが、動かぬ必然なのだ」(p109-110) ・この...続きを読む認識を土台として、支配者となるべき者は、金銭や名誉に関心がなく、かつ優れた人間でなければならないとする。すなわち、哲学者が支配者となるか、支配者が哲学するかのいずれかでなければ、国家はうまく統治されない。 ・この哲人王が支配する極度に理想的な国家との対比として論じられる、他の政体(寡頭制→民主制→僭主独裁制の変遷)についての記述は、不気味なほどその後の歴史と符合している。富を寡占する支配者への反発から民主制が生じ、自由が秩序を崩壊させた結果として僭主独裁制が生じるというプラトンの予言は、市民革命と全体主義によって見事に的中した。 ・まさに西洋思想の源流とも言うべき一冊。詭弁のオンパレードに辟易するところはあるが、それも人間社会の基本的諸要素の全てが合理化を経ないで未整理のまま抱合されているがゆえのこと。そこから救い出すべきものは決して少なくはない。
上巻の終盤で放たれた超弩級の思想(哲人統治、イデア論など)に引き続き、下巻も読みどころ満載である。有名な《善のイデア》や《洞窟の比喩》は、下巻の割と早い段階で語られる。下巻の中盤では、国家の諸形態の分析がなされる。名誉支配制国家、寡頭制国家、民主制国家、独裁制国家のそれぞれの特徴を論じたこの部分は、...続きを読むある意味、最大の読みどころかもしれない。特に、「民主制国家が堕落したらどんな現象がみられるようになるか」「民主制から独裁制への移行はどのようにして達成されるか」を論じた部分は圧巻。下巻の最後は、正義の報酬として有名な《エルの物語》で締めくくられる。ここは哲学というより物語(神話)として興味深い。 ・《哲人王》による《善のイデア》を希求する政治(≒ユートピア思想) ・エリート層による大衆の統制(≒民主主義の否定) ・エリート層における私有財産の禁止(≒共産主義) ・エリート層における妻女と子供の共有(≒優生学的思想) …など、私には容認しがたい極論も多いのだが、「衆愚政治へと堕落した民主主義への批判」や「僭主独裁政治への批判」など、現代人必読の警告と思われる箇所も多い。その主張の是非はともかく、形而上学的にも政治学的にも西洋思想の原点となった著作である。
正義とは何か、正しい国家とは何かについて語られる。哲人王の統治や有名な洞窟の比喩もコンテクストの文脈で語られると意義深い。広範に渡って語られるため全貌を掴むにも何度も読み込む必要がありそうだ。理想の国家から堕落していく国家のあり方はアテネだけでなく、古代ローマ、フランス革命などと照らし合わせても正し...続きを読むいと感じられ洞察力には舌を巻いた。また、魂の不死を説いたエルの物語は現代人にも説得力を持つように感じられた。
内容に入る前に一言…「長いんじゃ、ボケ!」 そして、対話のテーマが、柱である「国家論」「正義論」に留まらず、あらゆる方向に伸びてるのに巻数ごとのテーマ別の分類などが一切無いため、非常に読みづらい。まぁ、解釈書じゃないから原典に忠実でなければならないのはわかるけど…苦しかった。 さて、下巻では上...続きを読む巻の最後で登場した「哲人統治」の続きから。結局は真理や実在を愛する哲学者が、国を守る…というか支配するのに相応しいということでファイナルアンサー。トラシュマコスさんが陥落した今となっては、誰もソクラテスの意見に異を唱えません。「アナタノイウコトハタダシイデス」…そんな言葉ばかり繰り返してないでもっと食い付いていかないと対話篇とした意味が無いような…。 そして、出ましたイデア論。哲学的な素質を育てるために必要な「善」のイデアについて、有名な洞窟の比喩などを用いての説明。個人的にはこのイデア論の考え方、「(元々は良い素質を持っているはずの)魂の向く方向を変えればいいんだ!」的な発想は大好き。 また、国家の五種類の形態・国制の話をとても面白く感じた。まずはソクラテス達が上巻で作り上げた完璧な国家「優秀者支配制」。そして、そこから生じてくる不完全な四種類の国家、すなわち「名誉支配制」「寡頭制」「民主制」「僭主独裁制」。これらの国制について、そこに存在する人間の性格をも検討しながら語り出す。ちなみに幸福という観点から見て順位をつけると、ここに挙げた順に素晴らしい国家であるそうだ。…民主制がやたら低い順位にあるのをソクラテスが(直接)民主制国家の下で殺されたことを受けてのプラトンの情報操作かと疑ったり、優秀者支配制と僭主独裁制を対極に位置するものとしているけど両者は非常に紙一重の関係…というかほとんど同じでは?なんて批判的に見てしまったりもしたが、まぁ面白かった。 締めくくりは、イデア論と密接な関係を持つ「魂の不死」について説いた後、「エルの物語」という話で魂の行く先について語ってお終い。だんだん普段自分達が認識できる範囲の世界から離れるようにして語られてきた、国家篇の最後としては綺麗な形で終われてる気がする。 読み終えて…自分はどうもこの本を批判的に見てしまったことに気付き、反省した。「法は国家全体に幸福を行き渡らせるように存在すべき」としながらも「正しい人は望むなら国を支配し、どこからでもすきなところから妻を貰い、誰でも好きな者と子供達を結婚させることができる・・・」云々、ソクラテスの基準での「徳のある者」「善い魂を持つ者」…すなわち「哲学者」がほとんど独裁者と化すことを喜ばしいことだとしている(ようにも思える)下りがどうも現代人たる自分にはマッチしなかったみたいで…。 もう少し大人になったら読み返したい一冊。…これ以上歳をとってからだと、こんな長い本は読む気力が無くなりそうだと不安に思いながらも、今はそう思いながらこの本を本棚にしまうことにしよう。
単に政治論、政体論などと一言で片付ける事の出来ない、哲学の歴史的名著。一人の人間として、どう生きるべきか、ということを考えさせられる。哲学的思考法のお手本。
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