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火星の荒涼たる大地に刻み込まれた歴史と伝承――はじめて地球人としてその神秘を垣間見た若き詩人と、美しい舞姫との間に芽生えた、悲しくも美しい愛の詩「伝道の書に捧げる薔薇」、金星の大海原に潜む巨大魚竜イッキーとの死闘を詩的に描き、ネビュラ賞を受賞した「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」など、アメリカン・ニュー・ウェーブを代表する作家ゼラズニイによる初期の代表作15篇を収録した珠玉の短篇集
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Posted by ブクログ
ディレイニーと並んで60年代アメリカSF界を代表する作家ロジャー・ゼラズニイの初期中短篇集である。全15篇の中には、ひとつのアイデアのみで成立する超短篇も含まれているが、その持ち味を堪能しようと思えば表題作を含む中篇に読み応えのある作品が多い。きびきびした語り口、当意即妙な会話はハードボイルド探偵小...続きを読む説を思わせる。格闘技好きらしくアクションを描くのが上手い。当今ではどこかの団体からクレームがつきそうなくらい男も女もやたらスパスパやるので作品の書かれた時代が分かる。しかし、ポケットから取り出して口にくわえればその場の雰囲気や人物の気持がさっと切り替わる絶妙の小道具である。持ち運びに面倒な酒類ではこうはいかない。 煙草や酒が気になるのは、飛びぬけた能力を持つ男が誰にも達成不可能思われる難局に挑む話が多いからだろうか。人はとんでもない状況を前にしたとき、何はさておき、まずは一服したくなるものだ。「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」は、十スクエア(一スクエアは百平方フィート)のフットボール競技場大の釣り用筏の上を縦横に移動できるスライダーを操作し、巨大な獲物イクティザウルス・エラスモグナトス(板顎魚竜)を釣り上げる話。どう考えてみてもクレーンゲームから思いついたに決まっていると思うのだが、1970年代のアメリカにはクレーンゲームは存在したのだろうか?舞台は金星の漆黒の海、太古の生物と眼を合わせたときに感じる一口には言い表せない感情に気圧され、一度は失敗した男が再起を賭けて挑む。ちゃちなアーケードゲームに巨大なスケール感をまとわせ痛快なアクションに仕立て直す才能に脱帽。 「この死すべき山」では、知りうる限りの世界で最高の標高を持つ山の初登頂を目指す男たちが出会う不可思議な体験が主題となる。麓から頂上を見ることができない“灰色の乙女”は大気圏より高く突き出たとてつもなく高い山だ。これまで世にある名高い高峰を征服してきたホワイティーにとって唯一登頂していないのが“グレイ・シスター”だった。いつもの仲間とチームを組んで登りはじめたが、頂上が近づくにつれ「帰レ」という声が聞こえ出し、天使のようなものが見え出す。これは高山がもたらす幻覚なのか?高峰を登山する体験をリアルに描いた山岳小説と思って読んでいたものが、最後にとんでもない種明かしが待っている。クライマックスまでの緊張感と謎解き後の緩さのコントラストが絶妙で口あんぐりとなること請け合いの一篇。 「このあらしの瞬間」は、凄まじい嵐のなか凶暴な獣が都市を襲う一大パニックに独り立ち向かう警官の活躍を描くハードボイルド感が強い一篇。冷凍睡眠による星間飛行が可能となった時代。見かけは若くとも実年齢はかなりの高齢者が現役で実力が発揮できる羨ましいような世界だ。監視カメラで空から街をパトロールする「わたし」には、若い女性市長の恋人がいる。長雨が洪水を呼び、水中から恐ろしい怪獣が現れるとパニックに襲われた街は無法地帯と化す。「わたし」の働きもあって災厄は去るが、嵐の後に残されたのは泥濘だけではなかった。人間とは何か、という問いに「わたし」は、かつてこう答えた。「人間は、彼がこれまでにしたこと、したいと思い、あるいはしたくないと思うこと、すればよかったと思い、あるいはしなければよかったと思うこと、それらすべての総体である」と。冒頭に置かれたこの定義が胸にしみる結末が待っている。 表題作は、火星のある一族に残る寺院の記録を解読する仕事を引き受けた詩人と踊り子の恋の顛末を描く。「伝道の書」によく似た色調を漂わせたその聖なる書物とは別に、一族には予言が伝えられていた。予言の成就と詩人の恋が二律背反になっている。リルケの『ドゥイノの悲歌』とサン・テグジュペリの『星の王子様』を風味づけに使ったところが洒落ている。ラブ・ストーリーなのだが、主人公の詩人はなんと東京大学東洋語学科の学生で講道館一級の腕前。当て身を使った格闘シーンもちゃんと用意されている。サービス満点の逸品。 冷凍睡眠によって想像を絶する時間を生きることが可能となった人間はイモータルな存在となり、ある意味神に近づくことになる。不死性を主題にし、神話、伝説を再構成したような作品も多い。どれをとっても神的存在や超人的なヒーローばかりのちょっと気恥ずかしくなりそうな英雄冒険譚が無理なく読めるのはヒーローが活躍する舞台となる世界の、SFならではのスケールの大きさにある。嘘くさい話をいかにも本当らしく読ませるのではなく、その愁いを喩えるのに白髪三千丈の比喩をもってした李白の美学にも似て、途方もなく大きなスケールを前にした時、ちっぽけな疑念などすっ飛んでしまい、人はある種の悲壮美にただ酔うのかもしれない。
ゼラズニイ珠玉の短編集 薔薇がいい 表紙 6点角田 純男 展開 8点1971年著作 文章 7点 内容 800点 合計 821点
バラードの「時の声」とならぶ、個人的SF短篇集オールタイム・ベスト。1976年初版でいまは絶版になってるらしい。残念なことである。時の声は幸いな事に間隔をおいて再販されているようでやはりこの点については創元エライ、ハヤカワイマイチと言わざるを得ないだろう。どれも傑作だが個人的オススメは表題作ではなく...続きを読む、また、アメリカで出版された時の表題作「その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯」ではなく「このあらしの瞬間」を押しておきたい。引用するのも野暮なのでしないが、あれ以上に格好良い結句を見たことがない。
情緒と哀愁漂い、そしてかっこいい名作SF短編集。60年代作品ですが古臭さを全く感じさせません。面白いです。イマジネーションが刺激されます。 【各作品メモ】 「その顔はあまたの扉、その顔はあまたの灯」 巨大生物イッキーを釣る話。 「12月の鍵」 壮大なテラフォーミングの話。面白い。冷凍睡眠を繰り...続きを読む返しながら、3千年かけて惑星の変化を待つうちに、原住生物の知性化が進む。彼らの絶滅を放っておくのか、彼らを守る神となるのか。一番お気に入りです。 「悪魔の車」 意思を持つ未来の車。なかなかシンプルでスリリングな話。人工知能の哀愁がいい感じ。 「伝道の書に捧げる薔薇」 これも面白いね。言語学者かつ詩人が地球人代表として異星人の言語と歴史を学ぶ傍ら、異星人の娘に恋に落ちる。主人公がかわいそうで。 「怪物と処女」 短い。寓話? 「収集熱」 意思を持つ鉱物と地球人の会話劇。けっこう好き。 「この死すべき山」 山登りに命をかける男たち。ちゃんとSFでした。 「このあらしの瞬間」 冷凍睡眠で星を旅し孤独になった男のある都市での生活 「超緩慢な国王たち」 ゆっくりな王様二人。ちょっと考えてる間に文明一つ滅びたりとか。これ好きだなぁ。 「重要美術品」 ギャグ 「聖なる狂気」 時間の繰り返しの牢獄の話かと思ったら救いが。 「コリーダ」 よくわからない。闘牛の牛役にさせられた男。理不尽。 「愛は虚数」 プロメテウスの話だったらしい。 「ファイオリを愛した男」 生者しか見えない死の女神と、機械により生と死の狭間に身を置いた男のラブストーリー。幻想的で寂寥感が半端ない。 「ルシファー」 死んだ都市を一瞬だけでも生き返らせようとする男
ロジャー・ゼラズニイの1960年代中盤までに発表した中短編15作を収録した短編集。 すごく良かった。 40年以上昔の作品なのに、古臭さを感じさせずなんとも言えないカッコよさと深い余韻に浸れるSF短編集でした。この本が今は絶版であるのは勿体無い。 アイデアやプロットや登場人物、シチュエーション等は...続きを読む面白かったり驚かされたりするのに、文章が野暮ったいなあ、回りくどいなあと感じて中身にあまり引き込まれなかったり、その結果友人に勧め難かったりする小説があります。 この短編集は、そのような小説とは異なり、アイデアやプロットは50年代のSF小説にもありそうな古い設定のものもありますが、兎に角カッコよく、一気に引き込まれ、読み終わった後更に含みがあるのではとあれこれ想像しながら心地良い余韻に浸れ、友人にも自信を持って勧められると思いました。 ただカッコよさも、クールさや淡々としているだけというのでは無く、コミカルさや逆にシリアスな状況、深い情感も文章でちゃんと表現されているので、ただのスタイリッシュなだけの小説とは違う味わい深いカッコよさが伝わるのだろうと想像します。 私のこの感想が、野暮ったくて、回りくどいので伝わり難いのですが、私にとってゼラズニイは、クールすぎずホットすぎず”ちょうどいいカッコよさ”を伝えてくれる貴重な作家だなあということです。 この短編集の作品は、どれもカッコよさの中に深い情感とコミカルさまたは哀愁を味わえる、私にとっては傑作ばかりでした。 その中でも特に好きなのは、『その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯』『この死すべき山』、『十二月の鍵』、『伝道の書に捧げる薔薇』、『このあらしの瞬間』です。 <備忘録> ●この死すべき山 惑星ディースルにある誰も征服したことが無い山の登攀にまつわる話。 ●十二月の鍵 極寒惑星に適応するため猫形態に改造された人間たちが、新生爆発の影響で目指すはずだった惑星が消滅したところから始まる話。 ●その顔はあまたの扉、その口はあまたの灯 金星の海に棲息する巨大魚竜(通称イッキー)捉えることに命を賭する人々の熱くしかしコミカルにも感じる話。 ●伝道の書に捧げる薔薇 探検隊の一員として火星にやってきた詩人(言語学の専門家でもある)が、火星人の歴史的・宗教的文書を読み解いていくことろから始まる話。火星の美しい娘との恋愛も絡んでくる。 ●このあらしの瞬間 「白鳥の国」と呼ばれる辺境の惑星で、害獣から市民を守る仕事につく男の話。
村上春樹の文を読む感覚で読むなら、この本は噛めば噛むほど味の出るメタファーのスルメ。 デニスルヘインの文を読む感覚で読むなら、この本は圧倒的文章美。カッコ良ければヨシ。 後者の読み方をすすめる
SF。短編集。 初めての作家。 以前からタイトルだけは知っていたが、本当にセンスの良いタイトル。 作品としては、面白い作品も、よく分からない作品もあり、雰囲気も様々。裏表紙の説明通りバラエティ豊か。 長めの作品の方が面白かった印象。 表題作、「十二月の鍵」「この死すべき山」「超緩慢な国王たち」が好き...続きを読む。☆3.5。
ゼラズニイ再発見! 長編読んで、いままでピンとこなかったゼラズニイの60年代短編集。 実はおもしろかったんだな。サイエンスはないけれど、詩的で神話的な題材が多い感じです。というとファンタジーに流れるのは必然なのかもしれません。アンバー・シリーズに挑戦してみるか? その前にコンラッド再挑戦かな。
あまりSF文学には馴染みが無かったのでこれがほぼ初挑戦。海外文学も文体が苦手な事が多いのだけど読みやすかった。視点、状況設定、モチーフ等ユニークなものが多い。表題の伝道の書に捧げる薔薇も、SFでありながら古典文学や神話の雰囲気を出しながらロマンチックで切ない話でとても良かった。個人的にとても好きだっ...続きを読むたのはファイオリを愛した男。死に近くあるほど命は輝くのか
本書は、60年代に登場したニューウェーブSFを代表するロジャー・ゼラズニイの中・短篇集です。 スランギーで若々しい文体に目を向けがちですが、全編を通じて詩的な表現がみられ、粗くも繊細な二面性を感じられる文章でした。 なかでも「聖なる狂気」は、物語自体は時間の逆行をモチーフにした平凡な内容なのですが、...続きを読むその時間が逆行する様を見事なまでに表現しており、その巧みな表現だけで楽しめる一作です。 その他面白かったのは、「伝道の書に捧げる薔薇」と「この死すべき山」。 特に前者は、やはり最後がねぇ…この作品に限らず「十二月の鍵」や「このあらしの瞬間」も終盤のどんでん返しが印象に残ってます。
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ロジャー ゼラズニイ
浅倉久志
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