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Posted by ブクログ
貞子で有名な『リング』シリーズ二作目『らせん』の主人公である安藤満男の長男、安藤孝則を新たな主人公とした続編。ファンならめちゃくちゃ面白い。
本質的な魅力は時代の変化に伴う「呪いの変容」にある。かつてはビデオテープだった呪いの媒体が、今回は自殺動画へとアップデートされている。メディアの変化とともに、呪いも抽象化され複層化する。その変容のさせ方が鈴木光司らしく巧い。もはや「見たら死ぬ」ではなく、「逃れられない宿命」そのものが呪いの本質になりつつある。それでも、どのような形に変わっても根底には「意志」や「運命」という主題が通底している。この作家は常にそれを描いてきたし、それこそがシリーズの根幹だとも言える。
特に印象的だったのは、安藤孝則と丸山茜の関係性に潜む「呪いの遺伝子」とも呼ぶべき設定だ。みんなが心底面白いと思っているシリーズだからこそ、「その後」としてしか描けない人間の継承が、ここでは描かれている。呪いの媒体だけでなく、人間の持つ宿命さえもまた、次世代に受け継がれていく。
この「継承」には代償もある。『ループ』以降の設定に依存するため、『リング』の持っていた初期の直接的な「怖さ」はどうしても希薄になる。貞子という存在も、だんだん抽象化され、もはや「哲学的な呪い」みたいなものに近づいている。その変化を前進とみなすか、後退とみなすかは人それぞれだろう。僕としては、このシリーズが「恐怖とは何か」という問いそのものに進化しているのだと感じる。そもそもこのシリーズの本質は最初からそこにあり、それを僕らが最初はホラーの枠組みで受け止めていたに過ぎないのだろう。
そして、ある人物の扱いが抜群にうまい。キャラクターというより、シリーズを駆動するトリックスター的存在として機能していて、読み手を惹きつけてやまない。この人物がどうなるのかを知りたいという気持ちが、僕をまたこのシリーズに引き寄せる。
その面白さを十分に味わうには、シリーズ既読であることが前提になるかもしれない。
『リング』『らせん』『ループ』までを通読していないと、何が面白いのかさえピンと来ないと思う。実際、そう感じる読者の方が多いのではないか。シリーズを通じて描かれてきた出来事の時系列や人物関係が、頭の中で自然に接続されること。そして『ループ』で示唆された「多様性」の感覚を受け入れられること。そこが本作を楽しめるかどうかの分水嶺になっている。『バースデイ』で提示された世界線との齟齬も含めて、「リング・ユニバース」を広く捉えているかどうかが問われる。
総じて、『エス』は「単体で楽しめる本」ではなく、「進化し続けるシリーズの必然的なステップ」として読むべき一冊。現代的な「どうしようもなさ」や「運命の不可逆性」を描きながらも、家族という最小単位の物語に「あの時代の恐怖」の残した消せない痕跡を落とし込んでいる。シリーズファンには必読の一冊だけど、逆に言えば、ここから入る人にはまったく優しくない作品。「えっ、続編があったの?」とでも思ってシリーズを読み返すきっかけになれば、それだけでも嬉しい。
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