講談社ブルーバックスの1冊。
但し、狭いテーマを取り上げて解説したものではありませんし、けっして軽い読み物ではありません。
総302頁に書かれている内容は簡潔にして高度で充分に網羅的です。
基礎的な内容、物性物理の成果、研究の最前線のテーマいづれも盛り込まれてます。
これは入門する人用
...続きを読むの書。
これ読んで簡単に薀蓄が語れるといった類の本ではないです。ザ・「最初の1冊目(総論)」。
「物性物理学」「固体物理学」「材料学」「固体化学」...など、この世界に興味を持った、或いはこの世界(学部?製造業界?)に
足を突っ込む覚悟の決まった若者(+もちろん年配も!)が最初に自分でお金を出して購入することをお勧めする素晴らしい入門書です。
これから自分の前に広がってくる世界を見渡せる最初の高台。
これでお値段1040円(税別)!
コストパフォーマンスも最高です。ブルーバックス侮りがたし!
選択されている各章のテーマ(下記目次参照)はオーソドックスな固体物理学入門と同様の構成になっている。
目次
第1章 物性物理学の誕生
第2章 物質の起源
第3章 物性の出発点
3-1 電子の素顔
3-2 原子の構造
第4章 物質の構造
4-1 原子の結合
4-2 構造を決める
第5章 電気伝導の世界
5-1 半導体
5-2 超伝導
第6章 磁気の世界
6-1 磁気学序説
6-2 磁性体
6-3 磁気の応用
第7章 物性の新局面
7-1 ナノ科学の世界
7-2 カーボン科学の台頭
7-3 物質からみた生物
第8章 極限科学
序説 自然科学の定石
8-1 温度の世界
8-2 圧力の世界
8-3 磁場の世界
第1章にて物性物理の歴史と本分野における我が国の強さの文化的必然性に軽く触れた後、
第2章で本書の最初の特徴である、電子からではなく、物質の起源としての素粒子(クォークとレプトン、ゲージ粒子)
に関する記述から始まる。研究の最前線の紹介も盛り込む本書の意図を反映している。
第3章にて量子論(3-1 電子、3-2 水素原子→軌道→原子の構造→元素)、
第4章にてイオン結合、共有結合、金属結合等と結晶構造の記述、続いて、構造決定(観測)手法の紹介と
標準的なテーマの進み方をする。手堅く本格的である。
第5章、第6章でそれぞれ物性物理学が20-21世紀に多大な成功を収めた「半導体物理」と「磁性体物理」の成果
を章の前半に記述し、後半において、現代の課題である超伝導(5章)、磁気の応用、スピントロ二クスへの展望(6章)を描く。
基礎(1-3章)、現在までの成果(5-6章)を入門書の体裁の中で記述して、第7章 物性の新局面と題して、最新のテーマとして、ナノ科学、カーボン科学、生化学ならぬ生物理のトピックスを取り上げている。
最期の第8章は、極低温(ヘリウム3、希釈冷凍、断熱消磁など)、超高圧、強磁場(パルス、超伝導磁石、磁場濃縮法)
と3つの基本的な物理変数である温度、圧力、磁場の制御範囲の拡大と極限物性を描き、
同著者の手になるブルーバックス「極限の科学」へも繋がる。
~前著「物性物理学の世界」と私の思い出~
私(管理人)は、1980年代に大学(工学部)に入学しました。
既に材料物性工学科へ進むことが決まっておりましたが、
「はて?物性って何だろう??電子工学科や建築学科、化学科ならなんとかイメージが湧くが...。」というお粗末なものでした。
そこで出会ったのが、同著者の手になるブルーバックス「改訂新版 物性物理学の世界」でした。
「新しい物性物理」はこの旧著の単なる改訂版では無く、ほぼ新構成の本でありますが、入門書(もしくはプレ入門書)としての影響力を今でも持っているかと思う。
どちらかというと旧著の方がブルーパックスっぽい感じ。新著の方がより本格的(やや硬めになった)かな。