誰もが何者かになりたがる現代社会に於いて、何者かになろうとするのではなく、何者かであることを辞めることでしか救われない人間を描く。児童ポルノは主題ではない。
社会や大人に無責任に消費され、名前というアイデンティティを為す術も無く蹂躙された少女達が互いを呼び合った渾名には、それこそ救済を渇仰す
...続きを読むるかのような祈りが込められている。
夢小説の名前を空欄のままで読み耽る行為は、彼女の何を満たしたか。本名という生身のままで切り刻まれたもう一人の少女の苦しみは彼女の比ではなかったのだろう。
当人の思いなどお構い無しに、ポルノの被害者というレッテルは半身たる名前に烙き付けられている。そうして無責任な世間は被害者なら怒れと被害者らしい振る舞いを強要する。物事を単純化して理解した気になっている。単純化できることが高尚なことだと安易に思い込んで。
何者かであることが災いし、何者かであることを辞めることで自己の回復を図る。こういった逆説的な構造によって個の実存を抉るというのは、今までありそうで無かった。少なくとも自分は寡聞にして知らない。