博物学、民俗学の分野で多大な功績を残した地の巨人である南方熊楠。
本書にもあるように、私自身も含めた多くの人は、水木しげるの「猫楠」での超人的なイメージが強いかもしれません。
「猫楠」でも息子の熊弥との関係は描かれていましたが、本書では父親である弥兵衛との関係や、熊楠が自身を親不孝者と思っていた節が
...続きを読むあること、自身の精神状態への不安など、等身大の人間としての熊楠が描かれています。
熊楠が生きた時代はアメリカやイギリスで神秘主義が流行っていましたが、熊楠は「オッカルチズムごとき腐ったもの」としてオカルトや、宗教を装ったインチキを激しく糾弾していました。その一方で、英国不思議研究会(心霊現象研究協会)には興味を持ち、自身の幽体離脱体験などの不思議体験に対しては分析考察を試みています。
現代においてはコロナ禍における社会的不安もあり、似非科学や陰謀論が蔓延し、一部ではカリスマ的な人が詐欺まがいのビジネスを行うなど、熊楠が生きた時代と空気感が似ている気がします。スペイン風邪やペスト、コレラなどの流行り病があったことも現代と似ています。
「オッカルチズムごとき腐ったもの」が流行っている中で、流行に流されずに、冷静に自分に起こっていることを分析する熊楠の態度は、現代社会を生き抜くうえで参考になる部分があるように感じました。
熊楠は決して超人ではなく、家族との関係や、自分自身の健康や精神状態に不安を持つ、等身大の人間です。本書ではそんな一人の人間の生きざまについて知ることができる、読みごたえのあるとても面白い一冊です。
そして、ろくろ首や河童、幽霊や心霊現象などに対する熊楠の考察も知ることができて二度おいしい一冊でした。