久々に、文句なしに面白い海外ミステリでした。
海外ミステリのボトルネックは、訳者の技量で作品の良し悪しが左右されてしまうところにあります。
本書の訳者である大谷瑠璃子さんはとても良い翻訳者だと思いました。
読書中、翻訳書であることを忘れてしまうぐらいに、こなれた日本語に翻訳がなされています。
それ
...続きを読むから、海外ミステリに付きものの「登場人物の名前の煩雑さ」が、本書にはありません。
海外ミステリといえば、ファーストネームとファミリーネームが、会話の中や地の文で規則性も無しに散らかってることが多いです。地の文でずっとファーストネームで呼んでたのに突然ファミリーネームで呼ばれることもあり、「あれ?誰だっけ?」となることが度々あります。
本書ではファーストネームとファミリーネームの両方を記憶しておくべき人物は、主要登場人物の2人だけであり、それ以外の登場人物はひとつの名前だけで呼ばれることになります。しかも登場人物が少ないので名前を覚えることに気を煩わされることなく、物語のみに集中できます。
海外ミステリの名前の煩雑さを苦手としている方には、ぜひオススメです。
さて本書は、匿名作家をめぐってゴタゴタが起きる話になります。
あらすじとしては、ひょんなことから匿名作家のアシスタンをすることになった主人公が、ある出来事をきっかけに匿名作家に成り代わろうとする物語です。
著者は女性であり、主要登場人物の2人も女性なのですが、すごく骨太で論理的な小説に仕上がっています。
著者が女性で主要登場人物の2人までもが女性ともなると、全体的にフワっとした小説になることが多いです。(それはそれで魅力的です)
そういう小説を男性が読むと、まるで間違えて女性専用車両に乗り込んでしまったかのようで落ち着かなさを感じるものですが、
この小説はさながらハードボイルドのような、男の汗が滴り落ちる活気あふれたものになっています。
登場人物の心理もとてもよく描けており、
とある人物が、嘘を吐き続けてその場しのぎの危うい綱渡りを繰り返してる時は、「こんなウソは絶対にバレる。もう正直に言っちゃおうよ、頼むから」って懇願するような気持ちでページをめくっていました。
ミステリ小説の要素としては、「一体なにが起きようとしているのか?」という部分が謎要素になります。
終盤になるまで何が起きようとしているのか本当に分からないのですが、終わりに向けて加速していくカタルシスは圧巻であり、ミステリならではの終盤の快楽を存分に味わうことが出来ます。
これだからミステリを読むのは止められない、そう思わせてくれる逸品。