小説家のゆすらは物腰柔らかで優しく、料理上手な主夫の木崎さんと父の残した古民家でゆるやかな二人暮らし。
タイトルと装画の印象からはほのぼのほっこりスローライフに見えるかもしれませんが、生きていくことにひどく不器用で、喪失の悲しみに心を囚われたままのゆすらの目線で紡がれる物語には息苦しさと不穏な空気が
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偉大な小説家である「島田仁」の娘であり、同じく小説家になった「島田ゆすら」はあくまで二世扱いからは逃れられない。
あたかも「島田仁」の作品のひとつとして筋書きを与えられたかのような人生を生きるゆすらは、物語の書き手である父を亡くし(おそらく自殺であったことがほのめかされる)、ひとり取り残された家という名の舞台に立ち尽くす。
社会から置き去りにされたかのような彼女に手を差し伸べてくれたのは、後に夫となる木崎でーー
ばらばらになった家族に取り残され、書き手が去った後も「島田ゆすら」の役割を期待され続けるゆすらの新しい家族となり、臆することなく古くからの彼女を知る面々の懐へと、美味しいご飯とともにすっと入っていく木崎の存在は揺らぐゆすらを繫ぎ止める唯一無二の役割を果たしてくれる優しさに溢れている。
ふたりで作りあげた「家族」の再生は小説家島田ゆすらが自らの人生を「島田仁」の小説の登場人物としてではなく、「木崎ゆすら」が切り開く物語として歩むことへと続いていき、その結果が小説家としての次のステージにも繋がっていたのかな。
物語ることへの息苦しさと真摯さ、生きることの苦しさ、それでも、だからこそそこにまっすぐに向き合いながら自分の人生を、そこに寄り添ってくれる大切な人とともに生きていくことへの希望に満ちているかのような結末がとてもあたたかでした。