クリスティの戯曲は中々手を出せずにいたがほとんど作品を読み尽くしてしまい、いよいよ戯曲を読むに至る。
今作「検察側の証人」は法廷ミステリーになる訳だが、1953年から全く色褪せる事なくあまりにも面白い作品で衝撃的だ。小説よりも短いため読みやすく、戯曲でも傑作と言われる様に起承転結が丁寧で完成度が
...続きを読む高い。更にはクリスティ得意のどんでん返しと読者(観劇者)を騙す為のトリックが見事に作用している。
若いハンサムなレナード・ボウルは中年のフレンチという女性をとある事故から救った事により親しくなる。ある日、フレンチ婦人が自宅で殺害されており、レナードに疑いがかかってしまう。レナードの潔白を証明できるのは妻であるローマインの証言のみ。一方でフレンチ婦人はレナードに多額の財産を残しており、明らかに彼の不利になる材料が出揃っている。レナードは有罪か無罪か。弁護士のロバーツ卿はどの様に立ち向かうのか。そして結末は如何様になるのか。
この作品は法廷ミステリーというよりもサスペンスミステリといった方がイメージが湧きやすい作品で、間違い無く小説でも面白い作品だったであろう。間違いなくストーリーテリングは現在でも通用するし、ここまでの強烈な結末は久しく記憶にないと言える。
単純にロバーツ卿とマイアーズ検事の法廷対決かと思いきや、別の時間軸が設定されており予想外の進行で結末まで進んでいく。
今から70年以上前の作品の為、法廷の仕組み等現代では読み取れない部分もあるが、本筋に流れる「人間関係」については全く変わる事はない。一方でレナードとローマイン夫婦の関係性を今作を通じて体験していく事となり、人を信頼したり愛したりする事の脆さや危うさ、恐ろしさには共感してしまうのではないだろうか。
最後、この様な結末かと口を開けたまま呆然としてしまった。それぞれの物語には相応しい結末が必ずあるのだが、今作は正しく納得のいく道筋でありこういう結末を描けてしまうクリスティに脱帽した一冊だ。