『ロウソクの科学』を読んだので、こちらも読んでみた。1962年初版ということは、角川文庫の『ロウソクの科学』が出たのと同じ年なので、こちらも「あります」調なのだけど、読み手を子どもに設定しているので、文章は読みやすい。「目方」とか今の子どもは知らないかもな、という言葉もあるが、読めば意味は分かるので
...続きを読む、特に問題ないと思う。こういう本を読む子どもは、知的能力や好奇心は高いだろうし。
これは「空気とは何か」がわかる過程を少しずつ時代を追って科学者とその実験を中心に描いている。『ロウソクの科学』では、実験を目の前で行って、推理していく方式なので、実験が上手くイメージできないとよく分からないところもあるのだが、これはそういうこともないので、ハードルはかなり低い。
何よりいいのは、著者が科学と科学者に深い尊敬の念を抱いていることがわかる表現が随所にあること。
「どんなりっぱな学者がいったことでも、多くの人が信じこんでいることにでも、自分がなっとくのいかないことはないでしょうか。学問は、なっとくのいかないことを、そのままうのみにする人々の間では、けっして進歩しません。なっとくのいかないことは、どんなことでも、大きいうたがいをもって、それを、自分自身の力で解決しようとする人々によってのみ、学問は進み、多くの人々の考えを、正しい方向に導くことができるのです。」(P41)
「みなさん、私は、きみたちの中から、第二のラヴォアジェ、第二のドールトンの生まれることをどんなにか、たのしみにまちのぞんでいることでしょう。しかし、私が、もっときみたちにのぞみたいことは、たとえ、むくいられることがなくとも、また、たとえ、めざましい研究ではなくとも、科学の巨大な殿堂のかたすみに、ただ一つでも誠実のこもった石をおく人に、なってもらいたいということです。」(P97)
「自然界には、ふしぎなことが、たくさんあります。いつの時代でも、このようなふしぎなことを、ふしぎなものとして、どこまでも正面からとりくまないで、あれは、神さまの力によるものだとか、なにか妖怪変化の力によるものだなどと、かんたんにかたづけてしまう人があります。しかし、自然のふしぎに、ほんとうにおどろくのは、科学者であり、また、そのふしぎを、どこまでも追究して、なっとくのいくまでしらべ、私たちにおしえてくれるのも科学者だということができます。」(P129)
この熱さ、志の高さ。なんだか泣ける。こんなに熱い心で科学教育に取り組んでいる人がどれだけいるのかと思うと。科学を教える人間は読むべき。
あとがきに、この本を書いた動機が書かれているが、その動機はクリスマスレクチャーを行ったファラデーと相通じるものがある。
化学史の入門書として中学生に読んでほしい。