【感想・ネタバレ】ムギと王さま 本の小べや1のレビュー

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Posted by ブクログ

本に囲まれて育った著者による児童文学短編集。
静かで豊かな語り口です。

『ムギと王さま』
”わたし”がその村に行ったとき、村の人たちがたいそう可愛がっている「村のあほう」と呼ばれる若者がおりました。ふだんはただ畑に座って笑っているだけですが、なにかの拍子でとめどなく話をしつづけるのです。
そして”わたし”が畑にいたときに、彼はお話を始めたのです。
それは彼が昔むかしエジプトにいたころの話でした。彼は自分のお父さんのムギ畑をとても好きでした。しかしそこへ通りかかったエジプトの王さまは、自分こそがこの国一番の金持ちだということを示すためにそのムギ畑を焼いてしまったのです。
彼は焼け残った数粒のムギを蒔きました。やがて王さまが死んだとき、彼のムギも王さまの捧げものとして一緒に埋められたのです。
長い年月が経ち、エジプトの王さまのお墓が発掘されたときにも彼のムギはまだ残っていました。
若者は言います。あの時の種から蒔いたムギが、いまこの畑で実っている。ほら、ほかのどの穂よりも高く、どの穂よりも輝いて。

###これこそ豊かな精神の語りというような物語。
このようにその場でその相手に語れる人を”語り部”というのでしょう。

『月がほしいと王女さまが泣いた』
小さな王女さまはベッドから抜け出して空を見ていたのです。そしてきれいなお月さまを見てほしいと思ったのです。しかし月は手に届きません。そして王女さまはしくしくと泣きました。
その様子を見た昼と夜の動物は、王女様に付きを上げるべきだと仲間に声をかけました。
翌朝お城は、王女さまが誘拐されたと大騒動です。
料理番は料理をやめ、それにならって女たちが仕事をやめ、だから男たちも仕事をやめ、その様子を見た近所の国は戦争の準備をして、そして昼と夜も役目を放棄してしまったのです。
この騒動は王女さまが戻って収まったのですけどね。

『ヤング・ケート』
まだケートが若い娘で女中をしていたころ、ケートを雇っていた家では危険だからと外出を禁止していたのです。
川には『川の王さま』がいるし、牧場には『みどりの女』がいるし、森には『おどる若衆』がいます。
やがてケートが自分の家を持つときに、彼らの全員にあったけれど、それはとても楽しく気の合う人たちでした。
だからケートは自分の子どもたちには外出を勧めて育てたんです。

『名のない花』
小さな娘の見つけたきれいなお花。だれもその名前を知りません。
花は両親から、農場管理人の手に、それから学者さんの手に渡ってしまいました。
そのまま名前のない花は忘れられてしまいました。
でも娘さんは、大きくなってからも決してその花がどんなに綺麗だったかを忘れませんでしたよ。

『金魚』
小さな金魚が海の中で嘆きます。だって自分は月と結婚できなくて、太陽より偉くなれなくて、世界が自分のものにならないのですから。
それを聞いた海のネプチューン王は笑っていいます、それではお前の望みを叶えてやろう。
小さな金魚は、その小ささにふさわしい小さな世界で、その小ささにふさわしい小さな幸せを叶えました。それを見てネプチューン王は笑ったということです。

『レモン色の子犬』
殿さまの木こりのジョーが持っていたのは、母親の形見の指輪と、父親が作った椅子と、最後の小銭と取り替えたレモン色の子犬だけでした。
そのころお城では王女さまが、どうしてもほしいものが有ると泣いていたのです。
ジョーにはわかりました。その望みを自分がきっと叶えられることを。

『貧しい島の奇跡』
たいそう貧しい島がありました。その島の宝物は美しい一株の薔薇の花でした。
ある時女王様がその貧しい島を訪ねてくることになりました。
島ではこの美しいバラを見てもらおうと思いました。
しかしそのバラは、女王様のために別のことに使われたのです。
島には宝物がなくなってしまいました。
しかし何年か経ち、島が洪水に襲われたときに、女王様はその島に自分に示した心遣に対して奇跡で応えたのでした。

『モモの木をたすけた女の子』
マリエッタは自分のモモの木をとても大事にして、まるで友達のように思っていました。
マリエッタにはモモの木の声が聞こえたし、モモの木の話す山の様子も知ることができたのです。
やがて山が噴火し、恐ろしい火が村に向かってきます。
マリエッタは自分のモモにさよならのキスをしに戻ります。そしてモモの木の声を聞いたのです。

『西ノ森』
アクセク王の若い王さまに、そろそろお妃さまを迎えるころになりました。
王さまは詩を書いたのに、女中のシライナがそれをどこかにやってしまったのです!
お妃さまを迎えるために、北、南、東の国に行く王さまですが、どうにもこうにも当てはまらないのです。
そして壁で隔たった西の国に行ってみることにしました…。

『手まわしオルガン』
くらい道をゆく旅人の耳にはいった手まわしオルガンの音楽。
旅人はうれしくなりました、そして一緒に踊りました。
オルガン弾きは言います。オルガンはどこでも弾けるし、踊り手だってどこだっているもんさ。
そう、森の中は、上から下まで音楽と踊りでいっぱいになりました。

『巨人と小人』
知恵も心も持たない巨人は世界を割るだけの力を持っていました。
考える力と心を持つ小さな小人は世界を作り変えるだけの知恵を持っていました。
天使たちは彼らが一緒になることを恐れていたのです。
しかしその日が来てしまったのです…。

『小さな仕立て屋さん』
王さまのお妃選びが行われます。
ドレスを仕立てた仕立て屋さんは、モデルとして自分がドレスを着てみせます。
王さまの従卒の若者は、仕立て屋さんにダンスを申し込むのでした。

『おくさまの部屋』
「ああ、ああ、私はこの部屋に飽きてしまった!」次々に望みを変える若い奥さん。妖精さんは最後に彼女に自分の言葉の意味を分からせるのでした。

『七ばんめの王女』
お妃さまは王さまにたいそう大事にされていました。大事にされすぎて、御殿から出してもらえなかったのです。
お妃さまはやがて七人の王女さまを産みました。
王さまは「一番神の長い娘を跡継ぎにする」と言ったのです。
お妃さまは、最後に産まれた王女さまだけは、自分の手で自分の本当に欲しかったものを手に入れられるように育てたのでした。

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2020年04月18日

Posted by ブクログ

子供の頃、友だちと分厚い本を読む競争をしていて、気付けば競争を忘れて引き込まれていました。競争をしていた時読んでいたのは「ファージョン作品集」ですが、本棚の幅を取るという大人の事情で、こちらが今手元にあります。
子供の頃こんな物語に触れられるなんて、今思えばとても贅沢なことでした。
お気に入りは「ヤングケート」「レモン色の子犬」「西ノ森」です。どれも本当と空想が混ざりあったような、不思議な味わいのある物語です。アーティーゾーニの描く挿し絵が、その不思議さにリアリティーを足しています。
何よりも心を惹き付けてやまないのが、石井桃子による訳です。こんなに自由でいいんだろうか?というくらい楽しげで不思議な節回しで、ひらがなとカタカナの入り乱れた世界が広がっています。
何度も繰り返し読む本があるのも、実はとても贅沢なことなのかもしれません。

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2019年12月12日

Posted by ブクログ

 子供に読ませたい本・小説との決めつけは厳密にいうと誤りだろう。

本物のファンタジーストーリーは大人“も”ではなく、

大人“を”心底感動させ、

「子供に読ませるべきものだ」と彼らに

信じ込ませるだけの魅力に満ち満ちているからだ。


 この物語たちのなんと愛らしいこと、

なんとロマンチックでスリリングで

先を読む楽しみを掻き立てる想像力の強いこと。

この本は私の人生一のそんな物語集です。

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2016年09月27日

Posted by ブクログ

色んなタイプの話があったけど、どれも良かった。
どの話も登場人物たちのやりとりが面白い。

『ヤング・ケート』『レモン色の犬』『貧しい島の奇跡』『モモの木をたすけた女の子』『西ノ森』『小さな仕立て屋さん』が特に好き。

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2012年10月28日

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短編集。子どもができたら、毎晩少しずつ読んであげたい。声に出して、耳から聞きたいおはなしばかりでした。

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2012年08月22日

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この本、一つ一つの物語もキラキラしていてとっても素敵なんだけど、それよりなにより惹かれてしまうのは挿絵です。  どれ1つをとってもため息ものなんですよね~。  モノクロ(表紙は彩色されているけれど、それでも色数をぐっとおさえてある)なのに、色が浮かび上がり、静止画なのに空気や風が香り立つような感じ・・・・・とでもいいましょうか。

そしてそれにさらに輪をかけて素晴らしいのが石井桃子さんの美しい日本語です。  これにはもちろん著者であるファージョン自身の持っている品格・・・・のようなものも大いに寄与しているとは思うのですが、それを石井さんの甘すぎず、かと言って淡々とはしすぎない絶妙なバランス感覚で選び抜かれた日本語がさらに素敵なものにしてくれている・・・・・そんな素敵な短編集だと思います。

(全文はブログにて)

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2011年12月27日

Posted by ブクログ

挿絵も何もかもたまらんです。
特に好きなお話は「ムギと王さま」「 月がほしいと王女さまが泣いた」「 金魚」「 西ノ森」「 七ばんめの王女」…って全部ええなあ。

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2011年12月23日

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「わたくしが子どものころ住んでいた家には、わたくしたちが『本の小部屋』とよんでいた部屋がありました。…」こう始まるこの前書きの挿絵は、独特で繊細な味わいのあるペン画のエドワード・アーディゾーニによるもの。壁一面の本棚から溢れた本がうず高く周囲に積みあがられた中で、一心に本に読みふける小さな女の子の姿。可憐で美しいファージョンの短編集の世界は、小さくともきらめく宝のようです。

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2009年10月07日

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2年生の娘には味わい深すぎるのかまだわからない話が多い。私が愛してやまない『小さな仕立て屋さん』を読んでやったらやっと目をきらきらさせて聴いていた。1年前には途中で飽きちゃったのにね。『小さい仕立て屋さん』はどんでん返し、のまたどんでん返し、が素敵。貧しい少女が王妃さま・・・にはならない素敵さが大人になってようやくわかった。娘もきっと、ひとつひとつこの本の素敵さを見つけてくれると思う。

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2009年10月04日

Posted by ブクログ

短編集。
中にはピンとこないものもありましたが、面白いものもたくさんあったので、ぜひ全部読んでもらいたいと思います。
4年生ぐらいから。
隙間時間に読むにもおすすめです。

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2023年04月16日

Posted by ブクログ

民話とは一味違う、シュールさやシニカルさが面白い。シンプルで短いながら、ひとひねりあり、「読んだ!」感があるお話というのか、濃密なエッセンスのようなお話集だと感じた。比較的幅広い年代が楽しめる内容だと思うが、大人に踏み入れる頃に読んで欲しい1冊かな。

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2019年10月11日

Posted by ブクログ

易しい言葉、でも深く心に響く調べ。まるでモーツァルトのよう。これを読んでいる時、家族がたまたまモーツァルトのロンドを練習していた。とりわけ「西の森」は本当にこの曲そのもののように感じられた。
好きなのは、「金魚」「レモン色の子犬」「西ノ森」
連想するのは、モーツァルト。そして、ワーグナーのモチーフにでてくる「聖愚」という概念。

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2018年02月03日

Posted by ブクログ

前書き「本の小部屋」は私の永遠のあこがれだなぁ
そして、ファージョンにはやっぱり、アーディゾーニのイラストがいい
C.S.ルイスやトールキンにポーリン-ベインズが似合うように。

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2014年09月10日

Posted by ブクログ

本が大好きな著者の童話は、喧騒の都会とおとぎの瞬間が地続きで融け合って不思議なキラキラした読み心地です。表題作が好きです。レモン色の仔犬が可愛い!伝統的なお姫様の童話に意表をつくラスト。結構煙に巻かれたような。

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2011年07月28日

Posted by ブクログ

新しいおとぎ話という印象をもった。
繰り返しの技法など、昔話が持つ特徴をいかしつつも、型にはまりきってはいないように思う。
また、登場人物たちの感情も書かれているところが多々あり、昔話よりも個性があり生き生きとしている。
いくつもの異なった話が一冊の中に入っているので、いろんな雰囲気を楽しむことができた。

<小学校上級から中学校向き>

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リストに入っていたのは、文庫の方ではないのですが……!
よくよく考えるとどれも深い話ばかりでした。でも、あっさりと読んだ方が楽しめる気がします。
「小さな仕立て屋さん」が特にかわいかったです。ただ単に結婚してハッピーエンドではなくて、その過程できちんと恋をしてるなーという。おとぎ話チックな話しながらも、さみしさとかがにじみ出てて好きでした。人間っぽいのです。
でも印象的だったのは「七ばんめの王女」と「名のない花」

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2009年10月07日

Posted by ブクログ

エリナー・ファージョンのムギと王さまを途中まで読みました。mixiで面白いと紹介している日記があったので注文して買って読んでみましたが、二つ目の短編を読んでいる途中で飽きてしまいました。ストーリーがいい加減で、子ども向けとは言え、全く面白くありませんでした。日記で紹介されていたのが、7番目の王女の話だったので、これだけはあとで拾い読みしてみましたが、何を言いたいのかわからない物語で、子供にこんなしょうもない内容を読ませるから本に興味を持たなくなるのではないか、と思ってしまいました。

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2011年07月18日

Posted by ブクログ

ネタバレ

あなたも小部屋で物語を読み耽った日を思い出す。

子どもの頃に読んだものの再読。気に入ったお話は覚えていた。それまでに読んでいたグリムやペローの童話と少し違った着地点だったことが印象的で、その印象は今でも変わらない。しかし、今ならばもっと新しい童話が出てくるのではないかと思う。それはきっと本の小部屋でファージョンを読み耽った人が生み出すのだ。

「西ノ森」ちょっとヘタレキャラの若い王さまと、気の強い小間使いのシライナのやりとりが楽しい。思ったことが素直に出てしまった王さまの詩でくすりと笑ってしまう。とても失礼なことを言っているけれど、戦争にはならないところが、またひとつのおとぎ話。

「小さな仕立屋さん」腕の良い仕立屋のロタは若い王さまのお妃選びの仮面舞踏会に出席することになった令嬢たちのドレスを作る。令嬢にドレスの説明をするために、そのドレスを着て王家の馬車に乗る。控えの間で若い従僕と仲良くなり一緒に踊ったロタだったが——。こういうお話は王さまが従僕に変装していたというのが定石だが、従僕は従僕であった。そこがまた味わい深い。

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2021年08月14日

Posted by ブクログ

岩波少年文庫2071~ムギと王様,次がほしいと王女様が泣いた,ヤング・ケート,金魚,レモン色の子犬,モモの木をたすけた女の子,小さな仕立屋さん,天国を出ていく,ティム一家,十円ぶん,《ねんねこはおどる》~ 一番わからないのが最初の「ムギと王様」,次が2番目に出てくる「月がほしいと王女様が泣いた」,最後の短編に《》が付いているのかもよくわからないし「こ」が小さい理由も分からない。表紙の絵の説明も原本である"The Little Bookroom"にしないと理解できないぞ。自選短編集でカーネギー賞と第1回クリスチャン・アンデルセン賞をとったものらしいけど,良さが理解できません。何しろ,その頃生まれた赤ん坊がおじいさんになるくらいの年月を経ていますのでね。おっと,作者まえがきを読むのを忘れていたから,理解に苦しんだのかも知れないね

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2012年02月13日

Posted by ブクログ

おとぎ話の日常
 児童文学にはあまり縁が無いが、良い児童文学は説教くささを隠した美しい物語のことだろうと勝手に思っていた。でも、その抽象的な「児童文学」が実際のものになったときどのような物語になるのか考えたことはなかった。実際どんなものであっただろう? エリナー・ファージョンの物語は、確かに王さまや王女さまがでて来て、木こりや言葉をしゃべる鳥達のいる世界を描いていて、おとぎ話の枠に入っている。しかしその物語自体は、村外れの忘れられた納屋にある秘密基地のように、楽しい場所である一方で何か見えないものが隠れているような不安感を与える。物語は密やかで無邪気なきれいさを持っているのだが、それは目をそらした隙にどこかに消えてしまいそうな気がするのだ。おとぎ話の日常、と言えばいいだろうか。不思議な世界の一日を切り取ったかのような短編なのだ。
 あるいは、私のような大人にとっては、おとぎ話は昔の思い出を想起させるトリガーであり、この感覚はその思い出自体の儚さのせいなのかもしれない。懐かしい祖母のテーブルにのった紙風船や、父と馬に揺られて歩いた不思議な山道は、もはや何処とも知れない。つまり、子ども達のものは子ども達のところにあるべきであって、大人が紐解くものでは無いということだろう。

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2010年04月29日

「児童書」ランキング