【感想・ネタバレ】大人になるっておもしろい?のレビュー

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Posted by ブクログ

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清水真砂子
1941年、朝鮮半島に生まれる。児童文学者・翻訳家。青山学院女子短期大学名誉教授。主な著作に、『子どもの本のまなざし』(日本児童文学者協会賞受賞)、訳書にU・K・ル=グウィン『ゲド戦記』全6巻

ただ、私が気がかりなのは、黙っていたいのに、無理をしてでも、しゃべらなくてはいけないと考える人が一〇代の人々の中にますます増えているように見えること、 内容はどうであれ、しゃべるという行為そのものを価値と考える人々が多くなっているように思われることで、こういう状況のもとでは他者の声に耳を傾けたり(小さな声はなおさら)、自分自身の内なる声に耳を澄ますことはむつかしくなってきているのではないかということです。

そうです。生きてごらん、と言ってくれているのです。宇宙は、世界は。人々が遠い昔から生み出してきたたくさんの絵も、音楽も、物語も。そこに自信なんていりません。そんなのは、あったって吹けば飛ぶようなものです。世界を信頼して自らをゆだねればいい。自分で自分を評価する必要もないし、外からの評価に一喜一憂する必要もない。繰り返しになりますが、自分をまるごと受け容れ、丁寧に、省エネしない で、つまりは手を抜かずに、生きてやる、それしかないように思います。そのとき 「自信」は何の意味もなくなるに違いありません。

子どもの育ちのこと、さらには人間の「能力」について、岡本夏木氏が語っていたことばを思い出したのです。岡本氏は『幼児期』(岩波新書)という本の中で「能力主義」にふれ、「ヒトリデデキル」こと、さらには「ヒトリデハヤクデキルコト」という能力主義の一大スロー ガンが持つ危険を指摘し、「「できないこと」こそが人間を結びつける原動力」なのに、と言っているのです。その「原動力」の一角に、質問するということは、もしかすると、位置づけられるかもしれません。 全くのところ、道を尋ねることから始まって、私は質問することで、これまでどれ だけ他人とつながり、新しい世界への扉を開けてもらったか、しれません。中学・ 高校・大学時代、私は超がつくほど無口でしたが、授業のときは質問しました。NHKの朝ドラ「花子とアン」(二〇一四年四月〜九月放映)の中で生徒だった村岡花子が先生に質問するのを見ていて、ああ、私もこうだった、とよく思いました。四〇年ほど前の小さな出来事も、どうしてか、繰り返し思い出します。

私の友人に、いたるところですばらしい人間の物語を聞き取る人がいます。彼は自分分からしゃべる人ではなく、どちらかというと静かな人ですが、他人の話を聴く耳を 持っている。その聴く耳が、質問しなくても相手の話をうながしているように思われ ます。そうです。あのシンガーの『お話を運んだ馬』(マーゴット・ツェマック絵/ 工藤幸雄訳/岩波少年文庫)に登場するレブ・ツェブルンのように。では、その聴く耳はどうしたら持てるのか。一言でいえば、他者への愛と尊敬かなと思います。相手を大切に思い、こちらには踏み込めない厖大な世界があると知ること。そのとき始めて私たちはそっとその人のドアをたたき、かすかな音にも必死に耳を傾けるのではないでしょうか。

今日はこの手紙を結ぶにあたって、関連してもう一つ言っておきたいことがあります。それは、あえて「こわい」人に会いにいってほしいとい うことです。あなたに畏怖を抱かせる人と会う機会を可能なかぎり持つように努めてほしいということです。社会的地位は関係ありません。金持ちか否か、有名か無名かも関係ありません。親切な人、優しい人に私たちは容易になびくものですが、そこで足を止めたきりにしないで、こわい人、きびしい人、とっつきにくい人、わかりにくい人に思い切って近付いていってごらんなさい。これがあなたに言っておきたいことです。身の丈にあったものにばかり安住しないで、たとえ不安でも、どうしても惹かれるならば、あるいは惹かれなくても必要とあらば、飛び込んでいってほしい。だっ て、これも憶えているでしょう? そうあなたには――そして誰にもー傷つく権利 があるのですもの。大丈夫です。 居心地のいいところにだけ身をおくのは、およしなさいって言いたいのです。固いもの、自分をはね返してくれるごつごつしたものに思い切ってぶつかっていってごらんなさい。あなたをして途方に暮れさせるもの、立ち往生させるものに立ち向かって いってごらんなさい。必要なら日本を飛び出してみるのもいい。でも、国内にいたって、いえ、たとえば中学校の同じクラスの中にだって、そういう人はいてくれるかもしれません。そうなのです。私の夫は中学二年の教室でのある日の出来事を六〇年近 くたった今も、あざやかに思い出すといいます。彼のクラスにはきわめてめずらしい、読み方によっては、からかうのに恰好の苗字の生徒がいて、何かというといわゆる悪ガキから大声ではやしたてられていたといいます。しばらくはその生徒も相手にせず、聞き流していました。けれどついにその日、少年は反撃に出て、言ったそうです。

ごく最近になって、私は精神科医の中井久夫氏が一〇代の人たちに向かって、「一目をおく同級生を宝とせよ」と語りかけていることを知りました。ああ、これは本当だと夫と話しています。

自らの精神の自立なくして、他者と本当の意味でつながることはできないし、他者の内面を侵さずにいることもできないと考えるからです。それにしても今や退屈を埋めるもの、退屈を奪うものは、巷に溢れています。幼い子どもにおもちゃを与えすぎると創造性が育たなくなるとよく言われますが、大人たちもまた次々と生産される"おもちゃ"の洪水の中で、自ら考えることを放棄し始めているようにも見受けられます。

前にもちょっと書きましたが、私たちの多くは小さいときから、一人で何でもできることこそ大事な、疑いようのない価値だという思い込みの中で育ってきました。学校の確たるものさしは、その時代時代の大人たちがつくる社会が要求してくることが、そこにいる子どもにできるか、できないか、でした。できる子はいい子とされ、 できない子はだめな子とされました。それ以外にたくさんのものさしがあるなんて、 子どもの私は知りませんでした。後になって思い返せば、本当はそのときそのときの支配的な価値観からはずれたところをだって子どもはちゃんと生きているし、一〇代のときだって二〇歳を過ぎたって、あたりまえのように、そうした瞬間瞬間を生きてきたのに。ただ、そうはさせまいとする圧力は強く、気が付けば、私たちはいつのまにか、自らその圧力の一部になってしまっていたりするのですね。そして、動かない 人、何かをしない人だけでなく、動こうにも動けない人まで追い詰めてしまってい る。人としてゆたかに賢く生きることのなんとむつかしいことかと思いますが、でも 一方で、よく見れば、人はとうに思いのほかゆたかに賢く生きていることに気付かさ れ、楽しくなってもきます。

では、その大変な子ども時代をどうやって生き延びたのか。先日も近しい友人とそれぞれの子ども時代を語らっていて、ふたりの口から同時に出たのが「本があってくれてよかった」でした。もちろん本のかわりに音楽がくる人もあれば、美術がくる人もあり、昆虫採集がくる人もあれば、何かスポーツがくる人もありましょう。本を読むなどということは、もはやごく少数の人々の行為になっているかもしれません。 今のインターネットの時代に、本などいちいち開かなくても手に入れたい情報はすぐに出てくるというのに。でも、本って情報を得るためだけのもの?本をこう詠った(たぶん)若い娘さんがいます。

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2023年10月23日

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いやぁ
いい本だった...

学ぶことが多すぎて、とてもまとめられませんが

誤魔化さなくていい
褒められようとしなくていい
分かったふりをしなくていい
馴れ合わなくていい

自分自身に正直に生きることの大切さを伝えようとする著者の態度はとても誠実で
数少ない〝本当のこと〟を言ってくれる大人だと思います。

大人の自分にもグサッと来る言葉が非常に多く
自分も「かわいい」という言葉で子どもを無意識に閉じ込めていたのかと反省しました。


大人が子どもにしてあげられることは
本当はそんなに多くないんでしょうね。


表題は、現代の大人達への問いかけのようにも感じました。

「大人になるっておもしろい?」と
子どもに聞かれたら、自分は何と答えるだろう...

でも、こうして自分をガツンと壊してくれるような本に何冊も出会えたこと。
これは自分にとって、子どもの頃ハマっていたゲームやマンガよりも遥かに大きな喜びであることは間違いなく
今後もそんな出会いが待っているかと思うと

「大人になるって、捨てたもんじゃないかもよ...」と
ポツリと言えかな...w


大人たちの生きる態度を
子どもたちは見ているんでしょうね。

その割に大人たちは
一方的に子ども達にあれこれ求め過ぎているかもしれません。

子どもたちに求める前に
大人たちこそ、ちゃんと自分の人生と向き合っているのか。

〝分かったふりをしない〟というのは
本当にグサッとくる言葉です。

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2022年03月09日

Posted by ブクログ

作者は温かく包み込んでくれるような包容力があるなと思った。読んでいてとても心が温まった。
また、人に秘密にしていることも良いということや、1人でいることも良いと教えてくれた本でもあり、これから大人になっていく人には為になる本だと思う。

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2021年08月05日

Posted by ブクログ

ネタバレ

怒る、議論する、自己開示しないという選択をもっと堂々としていいし我慢してはいけない。しめんどくさくなっていた大事な部分をさくっと切り込んでくれる

大人にも刺さる。引用されている本も豊富で飽きない。

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2020年11月14日

Posted by ブクログ

思春期に読みたかったけれど、それでも今、出逢えてよかったと思う本。何箇所かポロポロと涙がこぼれてしまいました。これは手元に置いて、何度も読み返したい本。

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2020年02月24日

Posted by ブクログ

今までの子育て関連の本で、一番じっくり読んだ。勉強になった◎

心に響いたことをざっと書く。

・怒りの感情を大切に…
怒りの底には、自分自身を大切にし、人間としての尊厳を手放すまいとする意志とともに、相手に対する期待なり信頼感がある。

・子供の素直さとは…
大人の言うことに逆らわず、疑問を持つ持たずにいること=素直さ、ならそれは危ない

・家族とは…
「結婚して家庭を持ったら、毎日帰りたくなるような家庭を作るべき」なのか?人間、子供はそんなひ弱ではない。何かしら問題を抱えながらも共に生きていくのが家族

・尊敬する人は…
「尊敬する人は?」と聞かれて「親だ」と答えるのではなく、今すぐ親など飛び越して、物理的であれ、精神的であれ、こんな親をこえる存在に出会ってほしい

・動かずにいることはダメなこと?
活発に動くこと、他者に働きかけることが良いことと言われがちだが、黙ってじっとしている人の存在に救われる場面もある。空気が読めることが評価されるが、それにより場に緊張を生じさせ、周囲を疲れさせる。

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2018年02月06日

Posted by ブクログ

素晴らしい本です!
「我が意を得たり!」と思ったり「なるほどねー」と唸ったり。
今の日本の空気とか常識とかをひっくり返して、堂々と歩いて行ってほしい、若い人への応援歌。
一人でも多くの人に読んでほしいな。

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2016年02月12日

Posted by ブクログ

うわー、久しぶりにこんないい本に出会った。内容はもちろん、文体から人柄がにじみでてくるような本。自分がこれまで考えてきたこととかを、一つひとつ言い当てられていくような感覚。いや、参りました。本とか映画も豊富に紹介してくれて、ぜんぶ読みたいし、ぜんぶ観たくなる。読んでよかった。

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2015年10月25日

Posted by ブクログ

これまでいくつも清水真砂子の文章を読んできた。その度に自分の頑ななものの見方が変わってきた。今回はKさんへの書簡という形式をとりながら、違和感と向き合い、さらにその先へ進んでいく。人間が本来個として持っている強靭さ、ワイルドネスに目覚めていく。四十代のわたしもまだまだだなあ、と感じいった、「鋭さ」が健在でした。

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2015年05月20日

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目次にまず目をやると、”第1信 「かわいい」を疑ってみない?、第2信 怒れ!怒れ!怒れ!、第3信 ひとりでいるっていけないこと?”と気になるタイトルが続きます。周囲の目を必要以上に意識し、それに雁字搦めになって”自分らしさ”を見つけることのできない若い世代に向かって『ゲド戦記』の翻訳者であり児童文学者である清水真砂子さんの直球勝負の手紙です。「おとなになるっておもしろい?うん、だんぜん‼でも焦らないで。現在をていねいに生きてほしい。自分をごまかさず、はぐらかさず、スマホからも解放された独り居の時間を確保して。孤独と孤立が全く違うことは、ここまで読んできてくださったあなたには、もう十分おわかりでしょう。人は個が確立してこそ、初めて他者とつながることができる。そして個の確立には独り居の時間の確保は不可欠だと思います。人と人がつながるのではなく、ただ群れているにすぎないとしたら、それこそさびしすぎませんか。」(あとがきより p224)教育者として40年以上若い世代と向き合って来られた清水真砂子さんの力強い言葉は、悩める10代に希望の灯火を点けてくれることでしょう。巻末に本文で引用された本や、「●他人の悪意にうれたとき ●心惹かれる他人の支配下にとりこまれそうになったとき」など、さまざまな気持ちや状況になった時に手にしてほしい本のリストが掲載されていて、この本から次の読書へとつなげていくきっかけにもなります。ぜひYA世代向けにおすすめしたい1冊です。でも、まずおとなのあなたが手に取って読んでみてください!

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2015年04月28日

Posted by ブクログ

子供向けの本だと思っていたが、子供の可能性を引き出す接し方や考え方が書かれていている。なるほどと言う気づきもあり、オススメの本。

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2023年09月11日

Posted by ブクログ

買ったまま、いわゆる積読状態でしたが
ひょいと 手に取って
読み進めていくと
いゃあ 面白いこと 面白いこと
結局 最後まで
読まされてしまいました

随分前に 読んだままになっていた
清水さんの快著「日常を散策する」Ⅰ~Ⅲ
を 再読、再再読したくなりました。

それと 同時に
ゲド戦記が清水眞砂子さんによって
訳されていることに
感謝の念を再び
思いました。

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2023年09月06日

Posted by ブクログ

若い人達に読んで欲しい。著者の言葉に対する鋭い感性にハッとさせられる事多数。例えば‘可愛い’という言葉は日常で良く使う便利な言葉だが、その中身について考えるなど。
高校教諭として、また、大学で幼児教育に携わる学生達とのやりとりを例に、怒ること、議論すること、話さないこと、親に反発することなどをタブーとせず、一つ一つ丁寧に考える中で、自分らしく生きるヒントを探せそうです。

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2019年08月25日

Posted by ブクログ

「かわいい」を疑ってみない?/ひとりでいるっていけないこと?/ルールとモラルがぶつかったら/生意気っていけないこと?/斜に構えるってかっこいい? 
など、さまざまな「常識」に疑いを投げかけ、自分を自由にすることが呼びかけられている。明快な語り口が気持ちよい。

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2016年10月06日

Posted by ブクログ

著者・清水真砂子が、教師として出会った若い学生たちを見ていて感じた思いをわかりやすく、そして厳しく指摘する。自分自身は、学生よりは清水氏に近い年齢なので、同じように感じる若い人たちとの違和感に共感する。そして、違和感を感じながらも、その違和感がどこから来ていて、どういうことなのかをキチンと言い表せない自分が歯がゆいのだけれども、そんな気持ちをスッと書いてくれている。いろいろ腑に落ちる本だった。

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2018年06月28日

Posted by ブクログ

そりゃあ極論だろうってところと、そうそうその通りってところに分かれた。
全体としては文章がうまいってこともあるし、現代の価値観のカウンターパートの提示としてはなかなか良書だと思う。高校生が本書を真に受けてしまって、妙にひねくれられると困るんだけど。

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2016年04月17日

Posted by ブクログ

清水真砂子さんの本は全て読んだので、特に目新しさはなかった。
昔にくらべると随分丸くはなったものの、その切れ味の鋭さは変わらない。
この本で紹介された本も、結構読んでいて、知らず知らず清水真砂子的思考が自分のものとなり、好みが似てきたのかもしれない。だとしたらやっぱり清水真砂子さんすごい。
個人的には岩瀬成子の評価が高いのが嬉しい。岩瀬成子は出来不出来の波はあるが、いいものは本当に素晴らしいので、もっと読まれてほしい。
岩波ジュニア新書だから中高生向けだろうけど、読んで楽しめるのは大人の女性で、児童文学に関心のある人という気はする。

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2015年08月13日

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