【感想・ネタバレ】RCT大全――ランダム化比較試験は世界をどう変えたのかのレビュー

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Posted by ブクログ

RCTの破壊力、政策担当者・一般には受け付けられにくい難しさなどが具体例で分かりやすい
政策担当者、ジャーナリストには必読書としてほしいが、相関と因果を混同して他人を罵倒するような日本では難しいかないやそんな日本だからこそ本書が重要なのだろう

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2020年12月13日

Posted by ブクログ

ある意味、ファクトフルネス以上にファクトに迫る本だ。
Webの世界にいる人ならおなじみのA/Bテストは、このRCTに基づいたものだったりする。
そしてそのRCTがいかに「直感に反する」事実を詳らかにしてきたか、またその真実を浮き彫りにする性質ゆえ抵抗にあってきたかということがよくわかる一冊。
それにしても「倫理」の問題は深淵で難しい。

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2020年11月27日

Posted by ブクログ

ネタバレ

RCTと言えば臨床医学の分野がすぐ思い浮かぶ。本書の中でも長く信じられてきた医学上の「常識」がRCTによって否定された例がたくさん挙げられている。

・閉経後の女性に対するホルモン補充療法は心筋梗塞のリスクを低下させるとされており、21世紀の始まりころまでにアメリカ人女性9000万人がこの治療を受けた。しかし、RCTによってホルモン治療は脳卒中のリスクと血栓による静脈閉塞のリスクが高まるだけの負の効果しかないことが明らかになった。

・2000年代初期まで、重度の頭部外傷にはステロイド注射が普通だったが、ステロイドとプラセボの無作為割付試験によって、ステロイド注射群の死亡率21%はプラセボ群の18%よりも明らかに高いことが判明した。

・乳がん検診をうけた女性2000人のうち一人が乳がんによる死亡を回避するが、健康な女性10人が検診を受けなければ告知されなかったがんの宣告を受けて不必要な治療を受ける、されに200人以上が偽陽性の所見により心理的な苦痛を受ける。(CochraneDatabaseofSystematicReviews2013,Issue6,2013,articleno.CD001877)

・ビタミン剤をサプリとして摂っても寿命が延びるというエビデンスはない(JAMA p842-57,2007)し、オメガ3脂肪酸の心臓病予防効果も否定されている(JAMA p1024-33, 2012)

RCTは社会学などの領域でも用いられるようになっている。実際、貧困層に対する放課後プログラムの提供やマイクロクレジットなど、絶賛されてはいるがRCTで評価するとその効果がほとんどないようなものが多いことなどがあきらかになっているし、行政からはナッジという形で市民の行動をより望ましい方向に変える方策が日々模索されている。

ちなみに本書が発行される直前に、「RCT」などの検索語をGoogleで入力した人に対して本書の広告が3パターン表示されるようにして、クリック率の高かったタイトルに本書は設定されているそうだ。(邦訳版はおそらくそのような配慮はない)。一週間で4000回広告が表示され、一番反応がよかったタイトルにしているのだとか。

・経験談の寄せ集めはデータではない

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2022年01月03日

Posted by ブクログ

「エビデンスに基づく」というフレーズが流行り言葉になって久しい。政策や意思決定の効果を数量的に検証して得られた結果が「エビデンス」だが、数量的な検証と言ってもさまざまだ。本書のタイトルにもある「RCT」はランダム化比較試験の略で、良質なエビデンスを得るためにはRCTが欠かせないというのが著者の立場だ

RCTを使ってエビデンスを得るとはどういうことか。こんな例を考えてみよう。職業訓練プログラムに参加しなかった求職者と比べて、参加者の就職率が有意に高かったことが分かったとする。さて、このプログラムには就職率を高める効果があったと言えるだろうか。必ずしもそうは言えない、というのが答えである。そもそも職探しに熱心な求職者だからこそ、職業訓練プログラムに参加したのかもしれないからだ。ではプログラムの効果を正しく測定するにはどうすればよいか。プログラムに参加するかどうかを求職者にえらばせるのではなくランダムに割り当てる。そのうえで参加者(介入群)と不参加者(対照群)について就職率の違いをみればよい。これがRCTを用いた評価の基本的なアイデアである。

医療の分野にルーツをもつRCTだが、これを活用できる領域は広い。医療・教育・経済についての政策や、ビジネスにおける意思決定を評価することもできる。実際、著者が本書で紹介するRCTは多岐にわたる分野で実施されている。

先ほどの例から分かるように、RCTを使うと単なる相関関係ではなく因果関係を知ることができる。これは得られるエビデンスの質が高いことを意味する。またRCT評価の強みとして、著者はシンプルさを強調する。ここで引くのは経済学者ジュディス・ゲロンのことばである。曰く、「分析の基本は誰でも理解できます。小難しい統計処理はありません」(69ページ)。RCTによって「堅固かつシンプルなエビデンス」を引き出せるのだ。

本書で著者はRCTの魅力を伝えると同時に、まだまだRCTが活用されていない現状を憂いてもいる。著者によれば、印象的な逸話や人間の直感を頼りに政策が導入されたり、表面的な比較に終始する質の低い評価に基づいて効果を判断されたりすることが多い。人間の直感は大してあてにならないと著者は警鐘を鳴らす。実際に「世間一般に受け入れられた常識をRCTが覆した例」は多い。長年、犯罪率の低下に寄与していると思われていた米国の「刑務所見学プログラム」によって、犯罪発生数がむしろ増えていたという事実が発覚したのはその一例だ。あるいは、途上国で貧困を減らすのにマイクロクレジットがさほど効果的ではないことも、RCTを実施して分かった。効果の低い政策を実行するための予算にはもっと別の使い道がある。RCTを用いた高品質の評価によって政策をふるい分けていくことが、より良い社会の実現につながる、そう著者は述べる。

本書の主眼はRCTの魅力を読者へ伝えることにある。しかし当然、RCTには欠点も批判もある。本書を読む限り、RCTを実施するために大きなコストがかかること、RCTを実施できる範囲が限られていること、この2点を著者はRCTの主なデメリットと考えているようだ。

過去に実施されたRCTには多くの被験者、多額の費用、長い期間といったコストを伴う大規模なものも多い。しかし常にこれらが必要というわけではないし、RCTによる評価によって無駄な政策への支出が減らせるのであれば、RCTにかかるコストは十分に報われる。著者は2つめの欠点をより大きな問題だと考えている。限られた範囲の被験者を対象としたRCTの結果は、類似するほかのどんな状況にも当てはまるというわけではない。例えば米国で効果を認められた政策が日本でも効果を発揮するとは限らない。また対象者の規模が大きくなると、思ったような成果が得られないこともある。一方で「結果の解釈には慎重に臨むべし」と述べつつ、他方で経済学者アンガス・ディートンのことばを引いて「他の状況に一般化可能な仮説」が見つかる「最善の実験」を行なうのが望ましいという。

著者によれば、「対照群を設けるRCTは非倫理的である」「対照群をくじでえらぶのは不公平である」という批判が最も多いようだ。これらに対して著者はこう反論する。

評価の対象となるプログラムに効果があるのかどうかは分からない。そもそも効果を知るためにRCTを行なうわけであり、(プログラムからもれた)対照群が必ずしも損な役回りを演じるとは限らない。また、時期をずらして導入するようなプログラムでは全員がいずれは対象となるので、「倫理的でない」という批判は当たらない。さらに「公平性を欠くという理由でRCTを拒否するのは、先進諸国で教育機関への入学や、住宅バウチャーや医療保険の割り当て、さらに投票順序や徴兵の決定にくじが利用されている現実と矛盾する」(204ページ)。どちらも妥当な反論だと私には思える。

政府が税金を投入して実施する政策の背後には説得力のあるエビデンスがあるべきだ。そして良質なエビデンスを提供する手段としてRCTはとても強力い。本書の重要なメッセージである。より多くの政策がRCTによって評価される世の中は、著者の言うように「より良い社会」だろうと私も思う。RCTの有用性を伝える本書をぜひ多くの人に読んでもらいたい。他方で本書がはらむ、RCTが万能に近いと錯覚させる危うさには注意も必要だろう。RCTを実施できない状況も存在するし、またRCTの結果をどこまで一般化できるのかという外的妥当性は、本書で言及されている以上に実は複雑な問題だ。本書では触れられていないが、RCTに対する批判はほかにもある。こうした論点については例えば、経済セミナー編集部による『新版 進化する経済学の実証分析』(日本評論社)などを合わせて読むことを勧める。

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2021年08月18日

Posted by ブクログ

公共経済学者であり現在はオーストラリアの連邦議員を務める著者が、RCT(ランダム化比較試験)がいかにシンプルでありながら、世界を少しずつ良くしてくために不可欠なツールであるかを多様な分野での実用例と共に示す良書。

対象となるのはもちろん医療をはじめ、教育、犯罪防止、新興国における開発援助のあり方、ITサービスにおけるA/Bテストなど多岐に渡る。また、ある施策の効果を測定するためにランダムに選定された介入群(施策を行う)と対照群(施策を行わない)に分けることから、RCTは”対照群に対する倫理的な問題を孕んでいるのではないか”という批判が常につきまとう。

本書ではRCT批判派から寄せられるこの問題について極めて真摯に議論を進め、
・そもそも介入群の方が確実にベネフィットを得られるという確証はなく、施策が有害なものであった場合は対照群の方こそ(結果的にではあれ)ベネフィットを得ることになる
・RCTの設計次第で、「実験終了後に対照群にも介入群と同じ施策を追加提供する」、「抽選で決まるアメリカ永住権のように、抽選・くじなどで決定されるものをRCTの対象とする(RCTのために抽選を行うのではなく、RCTがなくても勝者・敗者が出る抽選を利用するのだから倫理的な問題はない)」
などの考え方から、倫理の問題を当然考える必要はあるにせよ、むしろその問題を過度に捉えすぎてRCTを行わずに、真にベネフィットがあるかどうかわからない施策を決めることこそ、社会に対する不正義である、という結論づけている。

RCTは、限られた財源を有効に使うために重視されてきているEBPM(Evidence-Based Policy Making)のような公共政策において、一丁目一番地とも言うべき有用なツールである。本書を通じて、RCTの豊富な事例や陥りがちなミスとその防止方法なども含めて、その社会的意義を再確認できた。

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2021年05月22日

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