【感想・ネタバレ】疫病と世界史(上)のレビュー

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 人類の世界共同体化と西洋の興隆において、疫病と免疫が果たした役割の重要性を指摘した著述。これまで世界史というと武器・農機具・移動と生産に関する技術の発展の観点から語られることが多かったけれど、実は生物学的なプロセス、具体的には病原体と人間の免疫の共進化が強い影響力を持っていたという話。
 現代の文明化された人類の共同体ではただの小児病とされていたり生活習慣によってレア・ケースとなった感染症の多くが、古代においては死に至る病だった。あまりに迅速に感染者を殺し、未感染者をほとんど残さない病原体は、子孫を残すことができない。よって、新たに人類に寄生するようになった病原体は、最初は激甚な症状を表すものの、次第に弱毒化していくように進化する。また、人類の側でも共同体内に一定の免疫を維持した状態が保たれるようになっていく。確かに、生物学を学んだものとしては、そういったとこだろうなと理解できる。その理解の単品と、人類の歴史という壮大なプロセスを組み合わせて新たな発見を発見・提唱できるというところがマクニールのすごいところだと思う。
 上述の理解と世界史を組み合わせた場合、それまで交流のなかった人間集団同士が交流するようになった時には一種の無自覚の細菌戦争が行われることが分かる。その時点までにより多くの集団と交流してより多くの病原体と出会っていた方の集団の成員が、他方のインタクトな集団に対して病原体をばらまくことになるからだ。スペイン人がアメリカ大陸に進出した際にインディオを壊滅させた仕組みだ。
 マクニールのすごいところは、上記の仕組みに気がつくことに加えてさらに、膨大な量の史料をあたり、各分野の専門家と議論して、着想への裏付けを取る努力をすること。また、その内容を大著として書き上げる能力。着想・裏どり・記述という一連をこなし、何冊も本を書いている。本当に偉大な学者だ。

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2018年02月14日

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天然痘等の人類にとっては突発的に表れたミクロの病魔との戦いの歴史。
文明の興亡に深く、絡んでいることに驚いた。

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2015年10月06日

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(途中 2014年11月6日)
疑問1「中南米大陸特有の病原菌がピサロやコルテス等ヨーロッパ人に感染しなかったのか」→病原菌の数や歴史の長さ、多様性が違う?
疑問2「なぜアメリカ大陸の熱帯地方はアフリカと違い、人類の居住を妨げる程ではなかったのか」

2019/5/27
#感染症は食物連鎖に組み込まれた一部であり、バランサー
#技術の発展がバランスを一時的に破壊したが、近年感染症の逆襲が始まった
#感染症の根絶は難しいし、被害をコントロールするのも難しい。被害を最小限に抑えるには過大なコストが必要。
#感染症と宿主は持ちつ持たれつで、絶滅させると感染症側も絶滅してしまう可能性がある。だがそれを考えてやるのではなく、失敗を繰り返しトライエラーで結果的にバランス状態となる。

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2019年05月27日

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歴史を理解する上で、気候変動と人口動態は考慮しなきゃならんと思っていたが、そこに疫病も追加せねば。。。

疫病は身体的にだけでなく、精神的にも人、社会を打ちのめす。(だから、南米の古代帝国はスペイン人に屈した)

日本では、人口が十分になり、疫病が風土病として固定されるまでは、社会に免疫がつかず、1世代ごとに疫病が流行した(平安頃)が、これを乗り越えると、人口が倍増した(平安末期~鎌倉)

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2013年08月09日

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ネタバレ

疫病の発生過程の説明にまず驚かされた。初期の人間は、生態系の中に組み込まれており、自然な疫病による人口統制がなされていた。しかし、狩猟や農耕を始めることによって生態系を壊し、ミクロな病原菌の生態系をも壊すことによって細菌の繁殖力を増強することによって都市病等の病気にかかるようになっていった。このように自業自得的な過程があったということに非常に驚いた。

そして、このように周期的に訪れる疫病からの死の恐怖が、キリスト教を発展させていった。というのが面白かった。キリスト教では死は幸福であり、ほかの宗教では不幸であるというはっきりとした違いを再確認させられた。

また、このような疫病が数々の戦争の原因となったり、勝敗を決する要因となったりしていることに驚かされた。さらに、戦争の原因となっているにもかかわらず、その戦争の衛生部隊によって衛生観念が広まっていったという逆説的なことにも驚かされた。

最後に筆者が述べていた、「過去に何があったかだけでなく、未来には何があるのかを考えようとするときには常に、感染症の果たす役割を無視することは決してできない。創意と知識と組織がいかに進歩しようとも、規制する形の生物の侵入に対して人類がきわめて脆弱な存在であるという事実は覆い隠せるものではない。人類の出現以前から存在した感染症は人類と同じだけ生き続けるに違いない。」という文章は、この先も真実であり続けるだろうと思った。技術が発展するにつれて菌の繁殖力が強まっているという背景にはこのようなものがあるのだろうと考えさせられ、技術の発展も一概に良いことといえないのではないかと思った。

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2012年09月24日

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世界史の大家であるウィリアム・H・マクニール先生による、疾病が及ぼした影響から世界史を読み解こうとする野心作。大変ざっくりした展開で驚くが、古今東西の具体例がふんだんに盛り込まれているので、納得できる。

「マクロ寄生」と「ミクロ寄生」に挟まれる「宿主」。バランスをうまくとることで、この三者は存在し続けられる。この平衡状態の網目は、環境によって変化する。例えば、熱帯では密度が高いため、外来種や資源以上の生命を養うことができない。反対に、より寒冷乾燥な気候になればなるほど、密度が低いため、外来種が入る余地がうまれる。

宿主と寄生体の間には、緊張した関係がある。寄生体に対して免疫を持たない宿主は、寄生体から破滅的な攻撃を喰らうことになる。しかし、攻撃が激しすぎて宿主を完全に絶滅させてしまえば、寄生体の生存に関わる。何世代も(本書内では四~五世代とある)かけて、両者が和解しようとするプロセスをたどる。結果、宿主は免疫をもち、寄生体の暴力性はマイルドになる。

これらの仮説を駆使して、上巻では原始時代~モンゴル帝国勃興以前の世界史を読み解いている。

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2012年03月04日

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世界史を疫病の面から考察していて面白い。ぱっと思い付いたのは中世ヨーロッパのペストと新大陸の疫病くらいだったけど、至る所で病気の流行と人口減少は発生していたのだろうと考えさせられた。
ジャレド・ダイヤモンドの『銃・病原菌・鉄』と合わせて読むとより面白いかも。

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2023年05月11日

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ネタバレ

疫病からみた人類史の考察。病原体によるミクロ寄生だけでなく、文明によるマクロ寄生という視点。人口増加にはマクロ寄生とミクロ寄生の両方の克服があったとする。科学技術の発達で予防接種の行われる時代に生きることがなんとありがたいことか。ただ、ツエツエバエは怖い。

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2021年02月14日

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原書が執筆されたのは1970年代の半ばで加筆されたのは1998年。新型コロナウィルスが猛威をふるう20年以上も前のことだが、「序」で述べられる、グローバルな社会では感染症が一瞬で世界中に広がるだろうとの記述は、コロナで苦しむ現代社会を予言しているかのよう。
著者は感染症が及ぼす破滅的な影響の例として、生き残った者たちが精神的打ちのめされることを挙げている。新しい感染症が、特に社会の青年層に対して最大の威力を振るう場合が多く、感染症に続けて何度も襲われると共同社会は崩壊してしまう。また、死と隣り合わせの住民たちが精神的な救いを求めるため宗教が広がっていく理由にもなる。
天然痘やはしかなどの前代未聞の疫病が人間社会に与える大きな影響、人口密度の大きいエリアで小児病として定着していく過程がたいへん興味深かった。

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2020年10月20日

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疫病・感染症との関わりという視点でみたW.マクニール先生の世界史講義。コロナウィルスが拡大を続けているから、ということではないけれど、なんとなく手にとった一冊。上巻は、原人たちの存在した時代、歴史時代から、モンゴル帝国の勃興の前頃までを扱っている。

上巻では、私たちが文明を持つずっと昔から、私たちの先祖は感染症とともにあり、まるで人類の歴史のすぐそばを伴走するように、感染症も種類や姿を変えながら、脈々と時を刻んでいたことがよくわかる。

全体として巨視的な記述というか、抽象的な記述が多いが、大昔のことで記録も十分に残っていない時期のことであり、致し方なかろうと思われる。しかしそれだけに、感染症が都市から周辺地域へ広がっていく様子や、国を越えてユーラシア大陸をダイナミックに拡散していく様子をみることができ、極めて興味深い。マクロ寄生とミクロ寄生の間で、私たち人類がいかに生き延び、発展してきたかをみることができ、興味は尽きない。

歴史は流れ、マクニール先生の世界史講義も下巻に突入していく。

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2020年08月10日

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ネタバレ

書かれてのが、エイズが流行してた時代という古いのはともかく、なんか文章が読みにくい。
あと、題名から想像できる内容とは若干違う。
世界史じゃ無くて、「人類史における、権力の発展と感染症との相互作用と、その歴史」とでもいうべきなのか、
まあ、「ミクロ寄生とマクロ寄生という概念を用いて、ミクロ寄生とは感染症であり、マクロ寄生とはあたかも感染症のようにある人間集団が別の人間集団に寄生している様」であり、興味深くはあるのだけれど。

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2020年06月05日

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実証的な裏付けをさほど重視していない点で時代を感じるところはあるが、それにしても40年前にこんなものが書かれていたとは。

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2020年05月01日

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ネタバレ

天然痘がインド生まれだなんて、よくわかるものだなと感心した。病気の伝染と人類史を絡めるという視点が新しいと思った。なおかつ、説得力もある。

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2020年04月23日

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著者のマクニール氏は当然歴史家ですが、これを読むと科学者でもあると思うのです。
この本では「世界史」で詳細に触れていない疫病について述べているのですが、数少ない古書を紐解くにしても医学や生物学などの自然科学の知識がないと、感染症ついては到底推測できないからです。グローバル化した現代社会では地球の裏側で発生した感染症が忽ち全世界を脅かす危険に曝されています。最近ではパンデミック寸前だったエボラ出血熱が記憶に新しいところです。今日の人間を脅かす感染症の元となる出来事は、人類の祖先がはるか昔、アフリカの大地から各地に移動していったことに寄ります。熱帯雨林での多様なミクロ寄生の網の中で他の生命体と絶妙なバランスを維持してきた環境から抜け出した人類は、各地で様々な特異な性質を現し、他の動物を圧倒し食物連鎖の頂点に立ちます。爆発的に人口も増えて行くのですが、これにより人体内部の寄生体(微生物)の多様性も失っていたのです。宿主と寄生体のアンバランスが病気を発症させるという基本的な考え方を思い出すと、脆弱なミクロ寄生の環境に身を置いた人類がその後、幾度も目に見えない病原体の侵入に曝され、急激な人口減少を繰り返したのも必然の成り行きなのでしょう。冒頭でアステカ帝国が少数のスペイン人により制圧された要因が疫病にあると推測していますが、これまでの歴史家が焦点を当ててこなかった部分で学際的で納得がいきます。疫病の流行がキリスト教や仏教の布教に影響したというのもなるほどね〜と思いましたし、以前に読んだ孔子の時代をテーマにした小説で南部の地方の医者が薬の処方や治療に長けていると言う記述があったのは理由があったことに気づきました。マクニール氏によると、天然痘の根絶に成功したとWHOが高らかに宣言したとしてもそれは「人類の手による生態学的な混乱のひとつ」であるから、われわれは「依然として地球のエコシステムの一部」であるという人間の本質的な条件に変わりはないといいます。微生物側からするとちゃんちゃらおかしいということなのかもしれません。下巻では 黒死病など具体的な疫病についての考察があるようなのでこれも楽しみです。ネイサン・ウルフの「パンデミック新時代」という本とこの本を並行して読むと尚理解が深まるのでお勧めします。、

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2016年08月05日

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ときどき日本語が変なんだけど、そこは仕方ない。
歴史を学んでいると、よほどでないと病気の話ってでてこなくて、この本を読んで震えた。
地政学を読んだ時、自然の境界を越えたとき、国は滅亡するってあったんだけど…これ、病気もあるんだろうなぁ。

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2015年11月03日

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経済雑誌のおすすめ。

決して難解な文章ではない。
ただ、あまりに膨大な情報量、
反語表現の多さ、
時空を超えた例示にキャパオーバーになってしまう。
自分がどこにいるのか、いつの何の話を読んでいるかを
見失いがち、とでも言うか。

そしてついつい、本筋を離れて、枝葉末節の話を拾ってしまう。
英国海軍が壊血病に効果のないライムジュースを飲んでいて、ライミィと呼ばれてたとか、
農業が始まってからよりも、狩猟時代の人類の方が、
健康的で余暇があったとか。

(下巻に続く)

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2018年02月08日

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世界中で長く読み続けられている中公文庫の「世界史」を書き上げたマクニールが、『疫病』という観点から歴史を紐解いた本。


最近文庫化して中公文庫「世界史」の隣においてある「銃・病原菌・鉄」と似たテーマであり、病気というものが如何に人類に影響を与えてきたのかがよく分かる。


人類を最も多く殺したのは事故でも戦争でもなく「病気」であり、これが常に戦争の結果や文明の運命を大きく左右してきた。


スティルバーグ監督の映画「宇宙戦争」の最後に、酸素が原因で侵略者達が滅亡するシーンがあったと思うが、人類は他の地域から侵略を受ける度に、お互いの病原菌を運んで大打撃を受けてきたのである。免疫力というものが古来の戦争には非常に大きな勝因であるらしい。


よくも悪くも人口を抑えてきた疫病だが、最近はかなりの種類を滅してきたかのように思える。しかし、アフリカ大陸を考えてみるといい。未だに野生の動物が数多く暮らす彼の大陸は、動物が駆逐されない範囲で生態ピラミッドが成立していることを表す。つまり疫病が人口増加の制約として機能しているということだ。


人口が多くなるほど、新たな疫病が広がる確率が高くなる。少し前に起こった鳥インフルエンザもその一つだ。人類の未来を考える上で、唯一の天敵を学ぶことの有意をこの本は教えてくれる。

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2012年05月06日

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ウイルスや細菌などによる疫病と人類は切っても切れない関係にありますが、その疫病の蔓延が歴史に及ぼした影響を、ときに少々強引とも思える論により展開されてゆきます。
それにしても内容は幅広く、人類の黎明期から現代、しかも全地球規模にわたって丹念に述べられています。日本もちょっぴり。
「ミクロ寄生」「マクロ寄生」といった独創的な捉え方も興味深いです。

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2011年06月06日

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疫病と人間との関係、さらに疫病が歴史に及ぼした影響まで考察した好著。「マクロ寄生」と「ミクロ寄生」の概念は非常に面白い。

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2011年05月19日

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ネタバレ

 人類に寄生、感染発病する疾病、捕食者を地域と時系列で追った社会学的著書。現生人類の誕生前の樹上生活時から、世界各地に文明が栄える12世紀までを上巻で取り上げている。

 著者は寄生を広義にとらえ、ライオン・オオカミなどによる捕食、ヒトによる寄生(略奪・支配)をマクロ寄生とし、微生物についてはミクロ寄生と定義した。さらに気候、統治、農耕による影響を加えて検討している。一例で言えば、ヒトの移動や都市の形成にともない新たな寄生を受けた当初は劇症を発するが、寄生主も生き延びるために変態し、慢性化をして定着していくといった具合である。

 読者が印象的であったのは、戦争の必要性(人口、食糧)、風土的疾病による見えないバリア、宗教発祥の地域性など、単なる道徳やイデオロギーでは解し得ない生き物としてのヒトという観点だ。

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2020年04月25日

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初稿1974年。本書は疫病がいかに世界史に大きく影響し続けてきたのか、その可能性を提示するものであり、それを裏付ける証拠については、筆者自らが語るように十分ではない。

疫病による世界への影響が改めて確信された2022年現在においては、その主張の全てを受け入れてしまいそうになるが、『熱帯アフリカからの人類進出に大きな影響を果たした』『都市で保持されていた感染症が農村に輸出され、文化圏の確立に影響した』など、本書だけでは判断ができない論説も多く、特に『キリスト教も仏教も、感染症の影響で浸透した』という主張は、あまりにも力点を感染症に置きすぎているように思える。

そもそも1974年の本を正しく評価するには、当時の状況と最新の研究を知らずには判断できそうにない。下巻の題材はAD1200年以降であり、まだ古代よりは証拠が残っていそうなものだが、注意深く読み進めたい。

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2022年12月31日

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人類と疫病について。
人類発症の地アフリカは長く人類と疫病が共存することで均衡に達し、人類の人口を爆発的増加を抑止する強力な風土病が多いという視座は興味深い。
本書のテーマだから仕方ないかもしれないが、歴史の流れを全て疫病で説明しようとしているため、どこか論理的な無理を感じる。

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2020年05月12日

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疫病の観点から、世界史の因果関係に補助線を入れようとする野心的な試み。歴史は人為的な営みだけでなく、時に細菌やウィルスといった目に見えないものが動かすこともある。一つの文明の栄枯盛衰、宗教や文化が受容される背景にも、疫病があるかもしれない。ただ、こうした分野の先行事例や文献が極端に少ないため、大部分は著者の主観や推測。この限界は著者自身も認めている。
新型コロナウィルスが広がりを見せる中、たまたま手に取った一冊です。

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2020年03月04日

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医療の歴史より、疾病の歴史の方が面白い。医療の歴史の主人公が 強い人間なのに対して、疾病の歴史の主人公は 弱い微生物が多い

ヒトは 食べられて進化してきたことを実感した

他のレビューにあるように 読みづらい。

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2016年05月12日

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異文化の邂逅は病原菌の交換でもある。人々が新しい病を克服するまでの抵抗がそのまま中世の停滞だとする。図版を使った解説本があればもっとすんなり頭に入るのだが。

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2015年09月20日

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アフリカでは、焼畑農耕が熱帯雨林に広がり始めると、雑草を好む蚊の繁殖場所となり、マラリアが猛威をふるうようになった(p.94)。中央アフリカと東アフリカで、19〜20世紀にヨーロッパ人が農地を広げた際も、ツェツェ蝿が増加して睡眠病を流行させた(p.96)。

インドのカースト制度は、侵入者のアーリア人は南部と東部の高温多湿の風土病を避けるために、土着の人々はアーリア人が持ち込んだ天然痘などの文明に伴う病気を避けるために、互いの疎隔意識から発生したのかもしれない(p.161)。

BC30年までの地中海では、油や葡萄酒などの輸出向きの余剰生産物が生産できる場所であれば、どこでも都市的中心地が形成されたため、その結果として農民は土着の権力者と国家の二重の支配を免れたが、長期的な政治的不安定と戦争が繰り返されることになった(p.167)。

ヨーロッパも中国も紀元後数世紀までは新しい病気によって社会体制が破壊されるほどの打撃を受けかねない状態だった。ローマでは、165〜180年、251〜266年、542〜543年に疫病が流行し、750年まで間歇的に繰り返した(p.192,202)。

モンゴルが勢力を拡大すると、アジア北部の草原地帯の交通が発展した。草原地帯に生息するげっ歯類の小動物は腺ペストを保菌していたと考えられる(p.12)。中国の人口は、モンゴルの侵略が始まる前の1億2300万人から、モンゴルを追い払った1世紀後の6500万人へ激減した(p.28)。北西ヨーロッパでは、14世紀までに人口が飽和状態に達し、気候が次第に悪化して不作が増えたため、黒死病が襲う1世紀前から人口減少が始まっていた(p.32)。1340年代にペストが流行してから、イギリスでは1世紀以上も人口が減り続けた(p.37)。14世紀以降に西ヨーロッパで毛織物生産が発展し、人口が減ったため厚い衣類が出回るようになったことによって、皮膚感染によるハンセン病の患者が減少した(p.50)。悪疫に対して教会は硬直した対応しかできなかった一方で、行政官は素早く対処したため、ドイツやイタリアをはじめとした都市国家で世俗的な生活と思想が広がっていった(p.61)。バルカン半島では、町に住んでいたイスラム教徒が人口を減らし、田舎の農民は昔ながらの信仰を守っていたために、19世紀のキリスト教民族解放運動につながった(p.66)。ペストの流行によってモンゴルの隊商交通路も破壊され、16世紀には農耕民が西部草原地帯に入り込み始めた(p.70,71)。

16〜17世紀の間に世界の交通が密になると、すでに確立しているヒトの病気は破壊的に流行することがなくなり、小児病となっていった(p.115)。1850年以降になると、医学的治療が人類の平均寿命と人口増に大幅な変化をもたらした(p.139)。

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2020年04月09日

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疫病が世界史に与えた影響について壮大なスケールで書かれていて、世界史の見方としておもしろい。本当かどうかわからないあやしい説明も含めて楽しめた。 
18世紀以降を描いた6章は具体的で、瘴気説・細菌説の論争や、軍事医学の進歩や、ハンブルク市・アルトナ市の上水道の例など、科学で感染症を克服していくさまがよくわかった。著者は病原菌と人類の戦いはずっと続くとしているが、科学という武器を手に入れたらやはり人類の勝ちになるのではないか。

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2013年09月02日

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