【感想・ネタバレ】いまかこ(1)のレビュー

いなくなった人たちを思い出にできない、それでも生きることを選んだ人たちを描く濃密な物語。

“場所の幽霊”と呼ばれる今はもう無い風景が視える男。
死んだ人の“音”が聴こえる少女。
ふたりの出会いは、救いをもたらすのか、それとも…。

幽霊と聞くとホラーやオカルトマンガのように思えますが、怖いのが苦手な方、ご安心ください。
この物語は幽霊そのものよりも、大切な人が亡くなり自分は残されたという苦悩を描くヒューマンドラマです。

美術系予備校の塾講師・鶴見也徒は恋人である渦子を洪水で亡くします。
彼女の遺体は見つからず、それ以来鶴見は彼女が流されたであろう場所に2人で暮らしていた家の“場所の幽霊”が視えるように。
渦子がいない世界でどう生きていけば良いのか解らず喪失感に苛まされる鶴見ですが、あるとき登校拒否の女子中学生・早淵今に絵を教えることになります。
彼女もまた震災をキッカケに死んだ人の音が聴こえるようになり、誰からも理解されず苦悩する日々を送っていたのでした。

はじめて自分を理解してくれた鶴見に、早淵は次第に心をひらいてゆきます。
そんな彼女に対し鶴見は、“場所の幽霊”が視える場所で音を聴いてくれないかと頼みこみます。
「渦子は本当に死んだのか、彼女はその場所で自分を待っているのかどうかを知りたい」と言われ、早淵は一度は断ったものの、鶴見の気持ちが痛いほど解るため音を聴くことを承諾します。

そこで彼女が聴いたのは鶴見を呼ぶ鈴の“音”。
しかし彼女は「何も…聴こえない。ここには何もいないよ」と鶴見に嘘をついたのでした。

震災や人の死を描く本作、ただ「死」に対する恐怖や悲しみを描くのではなく、「死」を受け止める人の弱さや強さを描いているのだと思います。
愛する人がいない世界で生きることがその人にとって本当に幸せなのか…痛烈に考えさせられます。
亡くなった人を置いて、自分だけ前へ進んでいいのか。進んでも許されるのか…。
「ただ平穏に暮らすことがうしろめたく感じる。」というセリフがずっしり心にのしかかります。

『累』の松浦だるま先生最新作。
掲載当初は短期連載だったのですが、好評につきシリーズ連載となったのも頷けます。

喪失とそこから先を生きる人間の“音”に耳を澄ましてみてください。

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感情タグBEST3

購入済み

悲しみ

2020年12月21日

場所、幽霊、音…どれも幽霊でもって思う気持ちがわからんでもないな。。。

1
ネタバレ購入済み

忘れられない

2020年03月20日

残された者は、逝ってしまった人の心を知りたい。
それができたとして、人はそれをどう受け止めるのか…。
奇しくも3.11にこの作品の存在を知り、突然人生を強制終了させられた人の思いと、大切な人と何の前触れもなく二度と会えなくなり、自分だけが生きていかなければならなくなった人の未来について考えさせられま...続きを読むした。
ズンと心にのし掛かってくる作品です。

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Posted by ブクログ 2020年02月25日

"場所の幽霊"という今はない風景を見てしまう美術予備校の教師、鶴見と死んだ人間の"音"を聴いてしまう少女、早淵を中心に近しい人物を亡くした者たちがそれぞれの喪失と向き合い、亡くなった者への思いを馳せる話であると思った。早淵が聴く"音"の描写...続きを読むが不気味で恐ろしいのが印象的だった。

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