【感想・ネタバレ】甲州赤鬼伝(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

武田軍の最強の赤備えを率いた山縣昌景が設楽ケ原の戦いで敗死した後、その最強軍を率いることになった山縣昌満の短いけれど輝かしい勇姿を描いた大作。本作の素晴らしいところは、父・兄の死の克服・復活から功績を挙げ、真摯に軍・国の建て直しに奔走し、非情な運命の中でカッコよく死んでいく姿を、簡潔に、然れどもラストは涙を禁じ得ないほど感情移入をしてしまう作者の作力である。

昌満は父の遺言である「鬼となりて、名を、天下に」という言葉を自問し続ける。この意味を考える時、武田の没落の中にあっては、自らの戦功が却って虚しく響くことに気付く失意の場面は一つのポイント。最後の突撃において、その遺言、呪いと思っていた言葉の真の意味、戦いの根源を見つける展開は一つの成長物語として完璧なラストに思える(成長したのに死んでしまうのは歴史小説ならではであるが)。

改めて気づいたことは、私は、親子や兄弟のように互いを信頼し合う二者が武家社会の定めで敵対するという展開に、非常に惹かれるのだということだ。今回で言えば、昌満と木曾義昌。高橋克彦「炎立つ」における藤原経清と源義家の関係もそう。相手に対して武勇を見せる清々しさとその尊敬する相手を殺さなければならない無情さというのが心に響いてくるように思える。

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2020年05月06日

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