【感想・ネタバレ】罪の終わり(新潮文庫)のレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

中央公論文芸賞受賞作

直木賞受賞の『流』が面白かったので読みました。こちらも長いロードノベルですが、西暦2173年の小惑星衝突後の世界を未来の作家が描ているという斬新な設定で前作に劣らない傑作でした。
小惑星衝突により近未来の文明が終焉した時、動植物が失われ、食べ物が底をつき、生きるためには食人になることを迫られる。
絶望と恐怖の中で、いかにして人は救世主を創り上げ、罪悪感から逃れて自らを正当化していくのか、SF小説だと笑ってはいられないリアルなテーマに居心地の悪さを感じながらも最後まで惹きつけられました。
どんな過程で血も涙もない食人鬼になっていくのかが知りたいのに、読み進めるほどにナサニエル・ヘイレンが純粋なただの人間であることを思い知り、不憫な境遇に胸が痛くなりました。
最先端のVB義眼手術によって得られる能力、代償など未来に起こるかもしれない設定に興味津々で楽しく読めました。

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2023年10月16日

Posted by ブクログ

2173年、6月16日、小惑星がNASAの予測どおり、地球に向かってきた。核ミサイルで粉砕した余波で、世界は飛来した惑星のかけらで燃え、ビルは倒れ、灰が降り積もり、北米を中心に世界は崩壊した。
残った一部はキャンディー線と呼ばれる塀で囲い込まれ、そこはまだ残っている世界の物資で擁護され生き残っていた。外に住む人たちは残った物資や食料を奪い合い、それも尽きかけていた。

彼(ナサニエル・ヘイレン)は双子の弟に生まれた。母のピア・ヘイレンは田舎では稀に見る美人で、ニューヨークに出て女優になることを夢見た。だがヒッチハイクの途中で運転手に襲われ妊娠する。
ナサニエルは自転車の後ろに障害のある兄を乗せ、鉄くずを拾って暮らしていた。ピアは最先端のVB義眼手術をナサニエルに受けさせたかった。コンピュータが義眼を通して脳に繋がれ、その威力で彼の身が守れると思ったからである。母が保険金のために弟を梁に吊り上げているところに、帰り合わせたナサニエルは母を刺殺したが、瀕死の兄はもう希望がなく、彼はその死を手伝った。裁かれてシンシン刑務所に入った。そのときナイチンゲールと名づけられた惑星が地球に接近し世界は灰に埋もれた。

刑務所から逃げ出したナサニエルは、刑務所で助けたダニーと進が屑鉄屋の飼い犬カールハインツ連れて旅立つ。冷えこんだ地球、生きるために飢えた人々は人肉食というタブーにも慣れてきていた。彼を崇拝するダニーはそれを「罪を罪で浄化する」といった。しかし飢えを感じないかの様なナサニエルは食べ物を人々に分け与え、避難所で休息する間、人の心を平穏に導いた。いつか彼は黒騎士と呼ばれ、伝説が生まれ始めた。

白聖書派はイエスの教えから生まれた。食人行為は決して許されない。ヒットマンが放たれ、ダニーの追跡を始めた。そしてついにナサニエルも名前が付け加えられた。
彼は食人にはかかわらなかったが、それを罪とは認めなかった。罪にさいなまれる人々はその言葉に救われた。そしてニューメキシコを越えた荒野で、深い岩盤の亀裂の下に泉が湧いているのを知った。そのころにはナサニエルに従う人々も増えていた。深い谷底にある泉まで1571段の階段を作った。水を得て花が咲き作物が実り地熱を利用して酒も造った。人々は彼を囲んで踊った。そしてなナサニエルは伝説と共にヒットマンの銃に倒れた。

彼は自分が求めることは何も望まなかった、何も持たず望まず、全ての絶望を昇華した生の限りを生きた。
彼を追い詰めるネイサン・バラードによって20年後に書かれたという、ナサニエル・ネイサンの物語は、聖なる伝説というものがどのようにして生まれ語り継がれているか。まだナサニエルに関わった人たちは生きている。
彼はただ生きていることだけだった、死を超えたところで何が罪か何に価値があるのか、問いを残して死んだ。
若い彼が執着した唯一のぼろオートバイそれに彼は未来の夢を描いていた。80キロの道のりを自転車に弟を載せた籠をつけて走った、帰る途中で手に入れた喜びも夢も粉々に打ち砕かれた、人間の悪意に彼の心も砕けた。

最大の山場をいくつも越えて物語を十分楽しんだ。
作者は背景も人物造形も読者をひきつける技に優れていて面白く読み応えがあった。

「ザ・ロード」には救いがあった。だがこの物語は、まるで異界のような終末の地球で黒い意志から生まれた伝説と、おぞましくも悲しく短いナサニエルを巡る生涯を描いていた。

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2019年12月26日

Posted by ブクログ

ぐっときた要素はみっつ。

1.ポストアポカリプスの描写。
小惑星の墜落による局地的な壊滅と、都市部の囲い込み→それ以外の無法地帯化。

2.伝説的人物の成り立ち。
はっきりとイエスになぞらえられるが、食人をせねばならない状況を赦してくれる人物を待ちわびていた、人々の思いこそが、黒騎士という伝説を生む。

3.偉大さとは対照的な、少年っぽさ。
オートバイを直したら、みんな幸せな場所に行けるんだ。
もちろんそこには兄も母も連れて行きたい。→彼なりの罪悪感はずっと続いている。
常に兄を内面に感じているからこそ、飢えている人を目の前にして、食べ物をあげてしまう。
「まったく俺ときたら、常に誰かの腹具合を気にしてやってるんだもんなっ」という少年時代の生き方を、ずっと続けるのは、素朴だが貴いことだ。
そして犬。

あとは小説の技法にもつながるが、時系列そのまんま、にはあえてしない作りも、つまずきつつ立体的に物語を把握する読者の認知に寄り添っている。
神の視点からナサニエルを描くのではなく、ナサニエルを追っていたスカウトマンのわたしが、十数年後に自己治療も目的にして書いている、という設定。
だからこそ、わたしの私生活、わたしが取材した相手の語り、わたしがナサニエルの主観を想像しながら書いた一人称的記述、が混在していく。願望とも改竄とも。
「ブラックライダー」では少しこういう技法があった。「流」はこの技法が推し進められていた。本作はさらに進んでいる。
カメラの置き所が多様になっている、ともいえるし、語り手やカメラが寄り添う相手を敢えてすっきりさせない、ともいえるか。
視点の置き所が、ダマになって、こんがらがった玉留め(裁縫の)のようになって、読者に渡される。
読者はちょっとだけ解きほぐすのに難渋しながら、それをも読書の楽しみにできるのだ。よき技巧派。

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2019年01月22日

Posted by ブクログ

宗教が生まれるまでの過程をフィクションで描く小説。フィクションでありながら、キリスト教など
納得できる部分も多くある。
何かを得るには犠牲と代償がいる。口走ればそれが呪いとして取り憑く。ナサニエルが変容していく過程をエピソードを交えて丁寧に描いている。
そして、私が最も魅力を感じたのはレヴンワース夫妻ことダニー・レヴンワース。彼の言葉、行動はナサニエルの行動として誤解され、ナサニエルの神格化へと繋がっていく。頭のネジのハズレたサイコパスだが、彼の存在が物語を面白くしている。

「人間というものは、罪悪感を覚えたときには、すでにその罪悪感を受け入れている。」このフレーズが妙に心に残った。買ってはいけないけど欲しいと思ったら、もうそれを買うまで忘れられない。

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2021年01月24日

Posted by ブクログ

フィクションではありながら、キリスト教とか信仰とか、罪と償いの関係性だとか、人はなぜ生きるのかだとか、社会秩序の生まれ方とか。人の生の歪みだとか、先進技術のあり方、必要性、人の生活において根源的に必要なものはなにかだとか、本当に色んなテーマを内包していた。深かった。
課題図書だったから、読んだけど、そういう接点がなかったら、たぶん一生読むことはなかったんだろうなと思った。

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2020年01月09日

Posted by ブクログ

読み終えて、解説で「ブラックライダー」の続編、前日譚と知る。神格化される伝説の実話とはこういうものかもしれない。切ない。

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2019年10月22日

Posted by ブクログ

宗教の成り立ち。
神もあくまでも人が作るもの。
故に必ず原因と結果がありますよね。
それを思い出させてくれました。

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2018年12月03日

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