【感想・ネタバレ】北風のうしろの国 (上)のレビュー

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Posted by ブクログ

ファンタジーの原点とされる作品。じつは読んだことがなかった。表題の国そのものが、ファンタジーの意味を語っているよう。ダイヤモンド坊やがまったくもって天使なんだよね。上巻でほぼ話が完結しているようにさえ思えるんだけど、下巻ではなにが起こるのでしょうか。

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2016年05月30日

Posted by ブクログ

今年の目標のひとつとして放置していた「岩波少年文庫を読む」を再開しようというのがありまして、手始めに冬っぽいタイトルのこちらを選んでみました。

まずタイトルが素敵です。原題は『At the Back of the North Wind』、1871年の作品。
コバルト文庫に小林弘利『星空のむこうの国』というのがありますが、あきらかに本作に影響を受けたものでしょう。

「北風のうしろの国」を旅するファンタジーかと思いきや、ファンタジーというよりはSF?宗教?のような設定もあり、「北風のうしろの国」がでてくるのはダイヤモンド少年が語る一部のみ、ストーリーの大半はロンドンで暮らす少年一家の物語で、これも雇い主が破産したり、ロンドンの貧しい子どもたちの話になったりとあっちにいったりこっちにいったり。

解説によると、1868年から69年かけて『Good Words for the Young』という雑誌に長期連載されたもので「しっかりとした構想のもとに書かれたとは言い難い部分もあります」とのことです。

ダイヤモンド少年が文字通り天使のような純粋無垢さでいい子すぎるし(解説にもありますが『みどりのゆび』のチト少年っぽい)、道徳的で説教臭い話もある一方で、全体的に哲学的で難しかったです。
岩波少年文庫は小学生向けと中学生向けで番号がわかれていますが、こちらは「小学5・6年以上」となっていました。
おそらく死のメタファーである北風、そして天国である「北風のうしろの国」。でもこうやってまとめちゃうとつまんないんだよなー。

「どうしてそれがわかるの?」
「あんたのほうこそ、自分にはどうすればわかるんだろう、ってたずねなさいよ。」
「いま教えてもらったから、わかったよ。」
「そうね。でも、教えてもらってわかった気になっても、わかったことにはならないでしょ?」
(上巻100ページ)

「これ、すてきじゃない、母さん?」と、ダイヤモンドは言った。
「ええ、きれいね」と、母さんは答えた。
「何か意味があると思うんだけど」と、ダイヤモンドは言った。
「母さんにわかるのは、さっぱりわからないってことだけよ」と、母さんが言った。
(下巻29ページ)

御者として馬小屋に住んでいるダイヤモンド一家、雇い主であるコールマンさん、泥濘を掃いてチップをもらっている少女ナニーなど、当時のロンドンの経済格差のある風景も示唆的に描かれています。

どうしてあたいは、泥んなかじゃなく、夕日のなかで暮らせないんだろう? どうして夕日は、いつだってあんなに遠いんだろう? どうして、あたいたちのおんぼろな通りには、全然来てくんないんだろう?
(下巻184ページ)

作中に出てくる『ヒノヒカリ姫』の物語は『かるいお姫さま』に少し似ているし、ダイヤモンドが「小さなお姫様とゴブリンの王子のお話」を読んでいたりするんですが、出版順としては
『かるいお姫さま』(The Light Princess, 1864)
『北風のうしろの国』(At the Back of the North Wind, 1871)
『お姫様とゴブリンの物語』(The Princess and the Goblin, 1873)
となります。

本作執筆中にマクドナルド一家が住んでいてダイヤモンド一家のモデルにしたと思われる「かくれが(The Retreat)」はその後、ウィリアム・モリスが購入し、現在は「ケルムスコット・ハウス」として公開されているそうです。先日、『アーツ・アンド・クラフツとデザイン』展を見たばかりなのでこのつながりにびっくり。


以下、引用。
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北風のうしろの国のことを話してあげる約束だったね。昔むかし、ギリシャのヘロドトスという人が、そこに住んでいる人たちのことを書いている。なんでもその人たちは、そこの居心地がよすぎるのにうんざりして、水に飛びこんで死んでしまったということだ。

20
冷たい空気の長い槍がヒューッと飛んできて、坊やの小さな胸に当たった。

29
「気にすることないわ。馬はいつだって、宝石よりずっといいもの。」

「でも、美しいものが悪いはずはないでしょ。あんたは悪くないよね、北風?」
「ええ、私は悪くないわ。でも、美しいものでも、ときには悪いことをして、だんだん悪くなっていくことがあるのよ。美しさがそのせいでそこなわれるまでには、いくらか時間がかかるわ。だから、小さい坊やたちが、美しいからというだけで何かについていくのは、まちがいのもとかもしれないのよ。」

36
この世界だって、ほんのときたまだけれど、まるで妖精の国みたいに不思議に見えることがある。

もちろん、小さな紳士の君たちなら、泣いたりはしなかっただろうね。でも、ほんとのことを言うと、私は、泣くのはちっとも悪いことじゃないと思っている。問題は、なぜ泣くのかということと、どんなふうに泣くのかということだ。淑女や紳士みたいに静かに泣くのか、育ちの悪い皇帝や根性の曲がった料理人みたいに泣きわめくのか、ということだね。なぜなら、皇帝だからといって紳士だとはかぎらないし、料理人だからといって淑女だとはかぎらないからだ。女王さまやお姫さまだって、おなじことだね。

52
厩とお屋敷をへだてる門の上では、沈んでいくお日さまが大きく真っ赤に燃えていた。その炎の上に広がる空は、緑の光をたたえた大きな湖のようで、そこに金色の雲がひとひら浮かんでいた。そのまた上には、藍色をした冬の空があった。ダイヤモンドは、自分の家はべつとして、これまでに見たどんなところよりも、この空に住んでみたいなと思った。家がどこよりもすてきなのは、母さんと父さんがいるからで、ぜいたくなものがあるかどうかなんて、関係ない。

55
それはプリムローズだった。とても小さいけれど、見事に整った形をしていて、この世の不思議というものの赤ちゃんみたいだ。

65
「だって、見たって理解できないものや、どう扱ったらいいのかわからないものを、見たってしかたがないでしょ?」と、北風は言った。「いい人はいいものを見るし、よくない人はよくないものを見るのよ。」

100
「どうしてそれがわかるの?」
「あんたのほうこそ、自分にはどうすればわかるんだろう、ってたずねなさいよ。」
「いま教えてもらったから、わかったよ。」
「そうね。でも、教えてもらってわかった気になっても、わかったことにはならないでしょ?」

175
「たとえ大好きな相手のためであっても、何もかもやってあげて、その人には何もさせないっていうのは、ちっともいいことじゃないわ。わかるわよね、ダイヤモンド、それは親切じゃなくて、自己満足というものよ。」

180
「北極じゃ、お日さまは夏じゅう眠らないって聞いたことあるよ。コールマンさんのお嬢さんが教えてくれたんだ。だったら、すごく眠いだろうね。だから光が、こんなに夢のなかみたいなんだ。」
「実際に役に立つ理解という意味では、それでちゃんと説明になるわね」と、北風が言った。

215
貧乏は人間を無価値なものにするわけではない。貧しくなったときのほうが、金持ちだったときよりも、ずっと価値のある人間になることだってあるものだ。しかし、不正というのは、人間をまるっきり無価値なものにしてしまいかねない。

306
父さんの話じゃ、人がお酒を飲むようになると、のどの渇いた悪魔がおなかのなかへはいこむんだって。
悪魔がもっと飲みたいって叫び続けるもんだから、その人はのどが渇いて、どんどんどんどん飲むようになって、しまいにそれで自分を殺すようなことになるんだって。

322
「でも、ぼく、わからないな、父さん。何かしてくれる人じゃないと、父さんの友だちじゃないの?」
「いや、そうは言わないよ、坊や。そんなことを言ったら、赤ちゃんを抜かすことになっちまうしな。」
「そんなことないよ。赤ちゃんは顔見て笑ってくれるし、耳に笑い声を届けてくれるし、幸せな気持ちにさせてくれるもん。それでも、何もしてくれないって言うの、父さん?」

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2024年01月22日

Posted by ブクログ

少年は北風と出かける。

少年ダイヤモンドは北風に呼ばれて夜の町や海へ出かける。北風のうしろの国の話を聞いたダイヤモンドはそこへ連れて行ってほしいと願う。北風のうしろの国から帰ってきたダイヤモンドは、貧しい中でも皆に愛される少年として育つ。

ダイヤモンドが見ている世界と大人たちの知っている世界は異なる。それがダイヤモンドの純粋無垢なところであり、頭の弱い子だと思われるところでもある。理想的な子ども像を描いているのだろうか。下巻を読むのも楽しみだ。

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2022年05月04日

Posted by ブクログ

ネタバレ

貧しい御車の息子ダイヤモンド坊やは、ある時から「北風」に誘われてあちこちの旅に連れて行ってもらうようになります。
ある日嵐を起こして船を沈めると言う北風から「北風のうしろの国」のことを聞かされたダイヤモンドは、自分もそこへ行ってみたくなり、北風に頼みます。
北風はそれを聞き入れ、彼は「北風のうしろの国」へ行きます。そこは穏やかな満たされた場所でした。
お母さんのことが心配になったダイヤモンドは自分の世界に帰りますが、そこでは彼は、病気で7日間も眠り続けていたのでした。
「北風のうしろの国」から帰った彼は、その後出会う人たちにたくさんのいい影響を与え、本物の「北風のうしろの国」に旅立っていくのでした。

「Good Words for the young」という、子どもたちに質の良い読み物を提供するための雑誌に長期連載されたこの作品は、その目的のためか、あまりにも教科書的で、物語としても冗長(特に前半、北風のうしろの国」に行くまで)です。
「北風の……」から帰った後、周りの人たちを動かしていく様子は頼もしく、おもしろく読めます。

上下2巻長い読み物なので、高学年向きなのでしょうが、現在の高学年が、この純粋無垢なお話を受け入れられるかどうかは疑問です。

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2016年02月06日

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