【感想・ネタバレ】大江健三郎全小説 第1巻のレビュー

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Posted by ブクログ

本書には、1957-1959年に執筆された19編の小説が収載されている。
1957年に「奇妙な仕事」で東大の五月祭賞を受賞し、それが「東京大学新聞」に掲載されたのが、大江健三郎の実質的なデビューである。1958年1月の芥川賞では「死者の奢り」が候補となり、同年の7月に「飼育」によって、実際に芥川賞を受賞している。
当時がどういう時代であったかと言うと、1955年には保守合同・社会党統一による「55年体制」が始まり、1956年の経済白書には「もはや戦後ではない」という言葉が登場する。1990年前後の東西冷戦の終焉やバブル崩壊までの間の、いわゆる高度成長期を含む、日本の発展がまさに始まろうとしていた時代であった。
しかしながら、本巻に収められている、大江健三郎の初期の小説は、そのような明るさとは無縁である。五月祭賞に選出された「奇妙な仕事」は、「現代の最も若い世代の、やや虚無的な心情をつかみだし、それを一つの事件としてまとめあげた手腕に敬服したい」と評価され、あるいは、作中に書かれた犬と学生は、「そのまま占領下の日本の全人民のシンボルではないか。こういう"壁のなかの人間"の状況を、執拗に追求するところに、若い作者はその文学的出発点を持った」という評論もなされている。さらに、大江健三郎自身も、「死者の奢り」のあとがきで、「監禁されている状態、閉ざされた壁のなかに生きる状態を考えることが、一貫した僕の主題」と書いている。
私が初めて大江健三郎を読んだのは、高校生の頃だった。当時、自宅にあった、河出書房が出版していた「現代の文学」という文学全集の中の「大江健三郎集」を読んだのが、最初だ。「大江健三郎集」は1964年の発行なので、やはり大江健三郎の初期の作品、12編が収載されている。その内、「われらの時代」「奇妙な仕事」「見るまえに跳べ」「人間の羊」「戦いの今日」「飼育」「死者の奢り」「他人の足」「芽むしり仔撃ち」の9編が、本書に収載されているものである。
私が高校生だったのは、1974年から1977年までであり、実際に本書に収載されている小説が書かれた時期からは、時代も変わっている。大江健三郎が芥川署を受賞した1958年以降、日本は順調に経済成長を続けた。1973年以降の2度のオイルショックにより、成長は減速したが、それでも、世界の先進国の中での日本の経済のパフォーマンスは良好であり、「ジャパン・アズ・ナンバーワン」という本が書かれ、ベストセラーとなる時代が訪れる。そのような時代に、私は大江健三郎の初期の作品を初めて読んだのである。
河出書房の「大江健三郎集」の最初の作品は、「われらの時代」であったと思う。読後感は、強烈であった。娼婦と暮らす大学生、大学生の弟とその仲間たち、学生運動のリーダーとアラブ人、等、私の周囲には絶対に存在しない人物たちが、私の周囲では絶対に発生しない事件・出来事を起こしていく。彼らの行動原理は私には理解不能であったし、また、「監禁されている状態、閉ざされた壁のなかに生きる状態を考える」という大江健三郎が語ったテーマについても理解できたわけではないが、ただただ、小説の異常な迫力に一気に読んでしまったような記憶がある。
今回、高校時代から40年以上ぶりに、あらためて大江健三郎初期作品19編を読んでみた。戦後10年強しか経過していない時代の天皇陛下や在日米軍の位置づけ、日米安保条約、朝鮮戦争、等の歴史的事実関係は、高校時代よりも今の方が知識は豊富かもしれない。しかし、「こういう"壁のなかの人間"の状況を、執拗に追求するところに、若い作者はその文学的出発点を持った」とか、「監禁されている状態、閉ざされた壁のなかに生きる状態を考える」とか、ということについて理解は至らなかった。それは、やはり同時代にリアルタイムで作品を読まないと感じないことなのだろう。しかし、一方で、「われらの時代」は、今回も、ほぼ一気読みしてしまった。それは、やはり、この小説の、説明しがたい迫力によってであった。

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2023年01月14日

Posted by ブクログ

 読み終えたとか言ってますが、正確には、今回読み終えたのは「芽むしり仔撃ち」だけです。
 初期の大江作品を読むのは、40年前の自分と出会うようなところがって、懐かしいとか面白いとばかり言っていられない、なんだかめんどくさい作業です。ああ、それから、この第1巻に収められているほどんどの作品が、20代の自分にはリアルだったことを思い出して、ちょっと不思議でした。
 しかし、それでも大江健三郎について「そうだったのか!」という新たな発見はあります。そこがこの作家のすごい所なのでしょうね(笑)
 

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2023年06月11日

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