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Posted by ブクログ
夏目漱石の作品を通してしか漱石を知らなかったが、俳人・久保より江さんを通して漱石の人物像を表現した作品。漱石の作品も身近な人を題材にして作られていたのも初めて知った。
しかし夏目漱石の話しがメインではなく、あくまでも明治の女・久保より江の話しでしたが、なんとなく温かくてノスタルジックな作品で良かったですね。
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面白い。明治という時代背景に、ほんわかとした面白さが満ち溢れている。
「おばあちゃんが化け猫だというんです」
「襖を手で開けるから気味悪いって」
「おや。確か猫は手で開けるよ。襖も障子も。重くなければ板戸だって横にすべらせるよ。器用に開けて外に出ていくよ。ちっとも変じゃないよ」
「でも」
「そんなことで化け猫は扱いは、そりゃちと、可愛そうだね」
「この猫、開けた戸を閉めて行くって言うんです」
「えっ?開けた戸を閉めて行く?」
「開けっ放しにしていくのではなく、きちんと閉めて行くって」
「猫が?この猫がかい?」
「開けて閉めながら、ニヤリと笑ったんですって」
「ニヤリと?二ヤァじゃなくて?」
「センセ。あたし、真剣なんです」
猪之吉がスカーフでなく、黒猫を抱いているのだ。そしてより江は、はっきりと黒猫の声を耳に聞いた。「ご主人は僕が守りますよ」と言っていた。
「お願いよ」より江は叫んだ。「頼みますよお」何度も叫んだ。
「ご安心なさい」猫がうなづく。
より江の眼から涙がほとばしった。
Posted by ブクログ
面白かったです。出久根さんは初めて読みました。
より江という少女の視点で、夏目漱石や妻の鏡子を描く…というより、メインはより江の成長でした。
より江と猪之吉とのあれこれがほとんどだったのですが、優しい目線でおおらかに読めます。
描かれる出来事は、どの登場人物にとっても結構おおごとなのですが、穏やかに素直に描かれているので良かったです。
鏡子夫人は悪妻でもなんでもなかったです。むしろ、漱石と付き合うにはこれくらいさばけていた方が良いと思いました。
漱石の著作のモデルとか、エピソードの元になったものも色々と挙げられていて、また読みたくなりました。
エピローグで、実際の久保夫妻が福岡にいたのを知っていきなり物語が身近になりました。