【感想・ネタバレ】服従の心理のレビュー

\ レビュー投稿でポイントプレゼント / ※購入済みの作品が対象となります
レビューを書く

感情タグBEST3

Posted by ブクログ

ネタバレ

個人の道徳観の力は、社会的な神話で思われているほど強いものではないっていう本。


この有名な実験について大枠しか知らなかったが、人や場所や状況等のパターンを変えてみたり、被験者の実験時の言動が細かく書いてあったりと、ミルグラム実験の詳細が知れる。
尚且つ元々の原文が良いのか訳者が良いのか最後まで飽きずに読める。



p.22〜p.23

道徳律の中で「汝、殺すなかれ」といった能書きはずいぶん高い位置を占めるが、人間の心理構造の中では、それに匹敵するほど不動の地位を占めているわけではない。新聞の見出しがちょっと変わり、徴兵局から電話があって、肩モールつき制服の人物から命令されるだけで、人々は平然と人を殺せるようになる。


p.67

あるいは過去には、物理的に近くにいる相手への攻撃的行動は、報復による懲罰をもたらし、それが最初の反応形態を打ち消したのかもしれない。一方、遠くにいる他人への攻撃は滅多に報復をもたらさなかったのかもしれない。

p.209

事前条件の中には、その個人の家族的な知見や、非人格的な権威システムに基づく一般的な社会環境、そして権威の遵守が報酬をもたらし、非遵守が罰につながるような報酬構想との長期的な体験がある。

エージェント状態

p.244

非服従の代償は、自分が信念を破ったという身を切られるような思いだ。
道徳的には正しい行動を選んだとは言え、被験者は自分が引き起こした社会的秩序の破壊に困惑したままであり、自分が支援を約束した目的を放棄したと言う感覚を捨て去ることができない。
自分の行動の重荷を感じるのは、従順な被験者ではなく、服従しなかった被験者なのである。

p.276


人は自分の独特な人格を、もっと大きな制度構造の中に埋め込むにつれて、自分の人間性を放棄できるし、また必ず放棄してしまう、ということだ。

p.303


いずれにしても、何か単一の気質面での性質が非服従と結びついていると思うのは間違っているし、親切で善良な人は反抗するが、残酷な人は反抗しないと思うのも間違っている。
目下のプロセスにはあまりに多くの点がありすぎ、またそれぞれに対して人格の各種構成要素が複雑な形で関係してくる可能性があるため、あまりに単純化しすぎた一般化はまったくできない。
さらに、それぞれの人が実験にもたらす成功は、行動の原因としておそらくほとんどの人が考えるほど重要ではないだろう。
というのも今世紀の社会心理学は大きな教訓を与えてくれるからだ。
その教訓とはつまり、しばしば人の行動を決めるのは、その人がどういう人物かと言うことではなく、その人がどういう状況に置かれるかと言うことなのだ、ということである。

0
2021年12月14日

Posted by ブクログ

実験のレポートと考察が丁寧に書かれていて非常に読みやすかった。

人が権威に服従するのは責任を権威のあるものに背負わせているからだと思う。
責任の及ばない範囲で人は行動している。
それが社会の仕組みなのかなと。
逆に自由になりたければ責任を負わなければならない。(起業して社長になるとか)

本編も面白かったけど、訳者の考察がとても良かった。

実験の前提と本質に疑問をなげかけている。
例えば、実験では人は性善説に基づいて行動している(根底には人を傷つけたくない心理がある)としているが、訳者は一般的にはそれは成り立つのか疑問を呈している。戦争なんかでは、略奪が目的だったりと、、、

作者のスタンレーミルグラムはスモールワールド実験でも有名だったのか。
6人介せば、誰とでもつながれるという実験。

0
2021年09月20日

Posted by ブクログ

読んでよかった。。。
NOに比べてYESという方が楽。しかし時として人を殺めてしまうレベルに簡単に達する。その時の「従っただけ」という無責任なエージェント状態と呼ぶ。

0
2021年06月19日

Posted by ブクログ

暗黙のうちに権威に従ってることに気づけた。上からの命令に従っているサラリーマンに読んでほしい本。僕みたいに何か気づきがあるかもしれない。

0
2021年06月13日

Posted by ブクログ

人類必読だと思う。読まずには死ねない本

誰もが知っているミルグラム実験だが、電気刺激を与えるといったことや権威へ安易に服従してしまうことを示したくらいのことしか殆どの人は知らないだろう。

本書を読めばこの実験が多くの変数を設定していて、社会の根幹をなす権威と行動について、改めて多くの気付きを得られることだろう。

実験の解釈については、ありきたりで俗なものなので、時間がない方は、実験部分だけ読むことをお勧めする。

0
2021年02月06日

Posted by ブクログ

有名な「アイヒマン実験」。「服従の本質というのは、人が自分を別の人間の願望実行の道具として考えるようになり、従って自分の行動に責任をとらなくていいと考えるようになる点である」まさに、ブラック企業に蔓延るクラッシャー上司がこれにあたる。自ら考える(疑いを持つ)力が必要な時代である。

0
2020年03月15日

Posted by ブクログ

人間は人としての責任を忘れてしまう事がある。
誰かに服従した時、服従した人に対する責任を持ち、
自分自身の行動に一切の責任を持たなくなる。
それが、人を殺してしまう結果になっても。
これを、エージェント状態と言う。
そうならないために、何をすべきか、そして、
どうやってこの心理と上手く向き合っていくのか。
使い方次第で、人を幸せにすることもでき、人を不幸せに
することも出来るこの服従の心理、
あなたには使いこなせるか。

0
2020年02月29日

Posted by ブクログ

ミルグラムの電気ショック実験。
これは、ナチスのアイヒマン実験とも呼ばれ、権威者による命令が個人を従属させ、殺人のような重大な結果をもたらしかねないことをシミュレーションしたもの。

解答者(役者)、被験者、指示者において、
ある単語の問題に対し、回答者が不正解だった場合、その被験者は低い電圧から徐々に大きいで電圧(疑似)電気ショックを与えていく経緯について分析した実験。

それぞれが置かれた立場、ヒエラルキー、権威によってどのような結果となる傾向なのか分析した実験。
『典型的な兵士が殺すのは殺せと言われたからで、かれは命令に従うのが自分の義務だと心得ている。被害者に電撃を加える行動は破壊的な衝動から生まれるではなく、被験者が社会的構造に統合されてしまい、そこから逃げられないから生じるのだ。』
当時のナチスが特殊だったわけではなく、現代の組織に於いてでも大なり小なり、同様のジレンマ(責任転嫁)が発生しているのは明白である。

0
2020年02月24日

Posted by ブクログ

心理学の文献ではしばしば登場する「ミルグラム実験」について、ミルグラム教授ご本人が書かれた報告書。
「アイヒマン実験」とも呼ばれるこの本は2008年に新訳として再版されるまでは約10年は絶版だったそうだ。
2012年には文庫化されたが、357ページで1300円という価格となっている。高すぎるのではと思い読み始めたら、疑念はすぐに払拭された。実験の全貌、ミルグラム教授の分析等、事細かく書かれている。被験者を募集するための広告、役割や条件を変えての全18種類の実験内容、被験者のナマの声等、読み応えは充分。

更によかったのが訳者山形氏による「訳者あとがき」である。通常のあとがきに加え、「蛇足 服従実験批判」とのタイトルで本書の分析・考察に情け容赦ない根本的批判を展開する。訳者がこんなに批判しちゃっていいの?とも思ったが、権威からの命令が責任回避や思考停止に陥ってしまう危険性を検証した本書に対し、訳者自ら、ミルグラム実験という「権威」を否定することでオチをつけたのでは、とも考えてしまった。

0
2019年08月12日

Posted by ブクログ

 通称「アイヒマン実験」の報告にあたる本著。ここで得られた実験報告は人は権威に対して服従する生き物であるという、目を背けたくなるような結果だったということ。厳密にいえば、この実験で行われた手法の正確さについて異論等もあるようだが、いずれにせよ確実なことは、権威という目に見えないパワーの強大さ。そして人間がそれに対して、社会システムの構造上指示に従わざるを得ないところにいるという点は否定しにくいのではないだろうか。
 日々、家庭、学校、会社、社会・・・あらゆる生活の場に権威は存在しており、その権威に服従して生きている。こう考えると、自分はさも奴隷かのように感じてしまうが、そうではなくて視点を変えてみれば、相手への信頼にほかならないとも言えなくもない。
 ただ、なんというか、協調や空気を読むことを大事と見ないしている日本においては、この実験を行ったらかなりの率で服従する人が多いような気がしてならないし、私自身、服従してしまう側なんだろうな・・・と思いながら読んでいたら、背筋がゾッとした。

0
2018年09月23日

Posted by ブクログ

このアイヒマン実験について著者のミルグラムは、参加者の良心と権威に対する服従についての葛藤の場として見ている。一方で日本語訳者は、参加者の社会に対する信頼の度合いと、なにがより高位の規範であるかについての判断の場として見ている。これら実験に対する向き合い方の違いは、人の理性について理解しようとする際の方向性の違いだけでなく、アウシュビッツの存在がそれぞれに与えた衝撃の受け止め方の違いのように感じた。
前者の考え方の落とし穴は、人の良心を信じる者がアイヒマン実験の結果を知ったときに、その結果を人の性悪説の証明であるかのように感じ、実験のプロセスを含めて強い拒否反応を示すことにある。また後者の考え方の落とし穴は、その思考にのみ拘泥していてはアウシュビッツを防ぐための倫理的な防波堤を構築しえないことにある。人の本質を性善と性悪に簡単に分類できるものではないだろうし、また、倫理的判断を各人の判断や時代の判断にまる投げできるものでもないだろう。
正常と異常の判断または、優位と劣位の判断はその定義からして、あくまでも正常な側や優位な側が行わざるを得ないことを肝に命じながら、前者の考える倫理と後者の考える法規範をもって、人の行動に制約をかけることの大切さをあらためて教えられる。

0
2018年06月06日

Posted by ブクログ

人間が社会的な生物だからこそ権威への服従という性向は進化の過程で要請されたのだろう。またこの実験の詳述を見るに改めて観察とは対象への影響を及ぼさずにはいられないということを感じる。
人格とは真空状態で観察できるものではなく、
人間関係のネットワークにリンクする関係体としかありえないのだなあ

あとがき訳者の「蛇足」のミルグラム批判、一番クリティカルなのはやはり人間にはそもそも攻撃的性向があるのでは?という点。
非人道的な行いができるのはまさに攻撃対象たる他者が
もはや人間とは認識されていないゆえなのだろうか。

0
2015年12月19日

Posted by ブクログ

組織や経営の研究、または大学で学生が獲得すべきスキルとして権威や服従のシステムを理解し、社会に出た中で、役立てられるような教育の仕組みを考えられるのかもしれない。紛れも無い名著であると感じた。

0
2015年05月29日

Posted by ブクログ

ミルグラム実験についての詳細な報告。長らく読み継がれてきた報告ですが、新訳&文庫落ちにより手に取りやすくなりました。

ミルグラム実験は非常に著名な実験でありご存じの方も多いと思いますが、そのうえでなお本書は必読。実験デザイン、結果、解釈という繰り返しにもかかわらず、一気に読み進めてしまう力を持ちます。

権威の中に位置づけられた人間がいかに容易く非人道的行為を為し得るか、そしてそのような行為を為したことをいかにして弁護するか。この二点には衝撃を受けることになるでしょう。
個人的には、かつてハンナ・アーレントが述べた「悪の陳腐さ」を想起しました(順番としてはアーレントが先なのですが)。

なお、訳者による「服従実験批判」もまた必読。ミルグラム実験の価値を認めた上で、全く異なる解釈を提示しています。その解釈の妥当性をどう判断するかは読者に委ねられていますが、「同じ結果から違う解釈を引き出す」実例としても参考になるものと思われます。

やはり歴史的な一冊です。是非。

0
2014年09月26日

Posted by ブクログ

人がいかに権威に服従しやすいか、そして権威に服従した個人は、その本人の善良さに無関係に、権威に支持されるがままに、驚くほど残酷な行動をとれる、ということを心理学実験により示しています。

別名「アイヒマン実験」と呼ばれるこの実験は、非人道的な行動を取るのは、異常なごく一部の人間だけでなく、ごく普通の人間(つまり我々自身)でも、十分にありうることだということを示唆しています。むしろ、容易に権威に服従し、いとも簡単にそういう行動を起こしてしまうとすら読み取れます。

この本の著者スタンレーミルグラムは、この権威への服従に関する実験のみならず、ソーシャルネットワーク関連でよく言われる6次の隔たり(どんなにつながりがなさそうな2人の間でも、6人の知人を介せば繋がりが見いだせる、という仮説)の提唱者である、というのも興味深いです。
おそらく、相当に嗅覚の効く研究者だったのでしょうね。

また、本書の末尾の、本当の末尾に翻訳者の山形浩生氏が書いている「蛇足」がとても興味深い批判を提示しています。
本書をもとに読書会をやるのであれば、この批判をスタート地点にするのもよいかと思います。

ロバート・チャルディーニの「影響力の武器」とともに、現代人必読の書だと思いました。日頃気づかない、自分の内面をレビューするきっかけにできます。

0
2012年08月28日

Posted by ブクログ

俗に言うアイヒマン実験をまとめた本。実験の全体像をちゃんと読んだのは(恥ずかしながら)初めてであり、豊富なアイディアとシステマティックな実験計画、そして揺るぎなき実行力に圧倒されました。ミルグラムすごい。批判者への回答、参加者からの手紙を載せた補遺も必読(心理学者にとっては、むしろココこそが読まねばならないところかも)。

0
2012年05月03日

Posted by ブクログ

ミルグラム実験については名前しか知らなかったが、近所の書店のフェアで表に出ていて気になったので購入して読んでみた。気持ちの良い話ではないが、とても興味深くて自分の場合はどうだろうかと考えさせられる本だった。

権威に服従するモードに入ると普段のその人がするとは思えないような残酷な行為でも命令に従って実行できてしまうという心理学実験。権威に服従するというとナチスなどを思い浮かべやすいが、学校で起きるいじめとかでも同じようなことが起きていると思うと、明確な命令がなくても容易に服従してしまうのではないかという気がする。訳者あとがきの批判にあったように人間は残虐性を社会規範という権威によって抑えるようにしているだけなのかもしれない。

集団を作って生きていく上では服従の全てが悪というわけでもないが、会社でも、社会でも、自分が自律して行動できているのかどうか、服従モードに入っていないか、自分に問うていきたいと思った。

0
2022年06月29日

Posted by ブクログ

異常に興味深い。
組織で言われる主体性が必要だ云々という話を前提からひっくり返す話でもある。
そもそも人は権威に従属するものであり、そういった進化を辿ってきている。
それは進化の過程で必須の要素であり、進化を経て強化された。

自律モードと、組織モードがあり、組織モードを「エージェント状態」と言い、
自身の価値観に関わらず盲信的に権威に従ってしまう状態で、これは社会的な動物としての生存有利性から発生していると。

一方道徳心・良心などといった個人に属するもの(と筆者はいい、訳者はそれも社会的な権威であるというし、それが正しいと思う)は、2次的なものになると。

訳者が権威をそもそも定義していないという話はその通りで,自身の感覚も含めると、権威とは「自分が知らないもっと上段の崇高な目的を知っていて状況に合わせて正しい判断ができる。またイレギュラーな決断においても責任が取れる」ということのみであり、単純に白衣を着てればおkということでもないと思う。

かなり示唆深いし、とくに「エージェント状態」の言語化は俊逸以外の何者でもない。

0
2022年05月29日

Posted by ブクログ

実験報告みたいで読んでいて面白かった。
何も考えず権威に服従してしまうのは怖い。状況ごとに自分の意思で選択したいと思った。

0
2021年11月20日

Posted by ブクログ

服従は、人間が本能的に持っている心理かもしれない。
さまざま実験を通して、服従の限界を探る中で、個々にある倫理観が、組織の服従より、強いものになる時もあり、どちらを選択するかで、人間社会が大きく変わる感じがした。
常に個々の倫理観も、意識して持ってるべきだと思う。

0
2021年07月28日

Posted by ブクログ

 ミルグラムの社会実験とそれにおける分析をまとめたもの。実験概要は、被験者は先生役を与えられ、実験者である指導役に、学習者が問題を間違えるごとに電流を流すよう指示される。また間違える度に一段階ずつ電流のボルトを上げるよう指示され、電流のショックに呻く学習者にどこまで強い電流を流し続けるか?というもの

 実験は色々なパターンを変えて行われたが、概ねの結果としては多くの人は実験者の指示に逆らえず最高レベルまで電流を流してしまうということだった。被験者は特別サディスティックな性質を持っているわけではなく、至って普通の人たちである。それでも指示されると服従してしまう、という怖い結果だった。

 そもそも服従とは個が権威システムへ組み込まれることによりエージェント(代理人)状態へ移行することだという。権威システム自体は家族、学校、会社、どこにでもあるし、その組織を安定させ秩序を保つためにはある程度必要かと思うが、その権威システムがイデオロギーを持って本来なら許されない物事にまで正当性を与えてしまうと、エージェント状態へ移行した際に暴走してしまう。そこには責任感の喪失、守るべきルールの変更があり、善良で平凡だったはずの人たちはその新たなルールのもとで感覚が麻痺していく。
 またどれだけ自分の行為は許されないことだと思ったとしても、それを途中でやめることは今までの自分の非を認めることであり、集団の和を乱すことでもあり、その集団から報復される危険性があることでもある。なのでやめられない。エスカレートするしかなくなる。
 そうした上記の一連はある種の"緊張状態"であるが、その緊張を解消する手段は大まかに2通り、1つは責任を回避する(命令に従っただけ、学習者が間違えるのが悪いetc)、もしくは学習者=被害者から徹底的に目をそらす、見ないようにすること。2つ目は、いよいよ非服従の選択をとることである。ただし後者はかなり精神的コストが高い。もうここまでくると服従する方が楽だ。服従する快楽はここにあるのだなと思う。とにかく"思考停止"の状態、権威者の言われた通りにしただけ、自分では何も考えない、これがその場を切り抜ける最もコストの低い選択なのだと思う。

 そういう意味では、ミルグラムの実験にあるように、とある権威のもとで服従の態度を見せ残虐なことをしてしまう危険性をどんな人間も孕んでいるということだ。では、どうすればできるだけそのような事態を避けられるのか、と考えると、「自分がそういう危険性を孕んでいる」ということを「知っている」ということではないか。この実験で比較的早い段階で非服従した被験者やその際に責任転嫁せず自分の非を全面的に認めた被験者がいたが、彼らは欧州出身でファシズム政権を目の当たりにした人であった。

 ただやはり、人間がある環境下において残虐な命令に服従してしまうことについては、その権威システムの強さだけではなく、生来からの「弱いものいじめ」欲がその権威のもとで正当化されて爆発している、という側面もあるのではないかと思う。歴史を遡ると弥生時代以降、いわゆる貧富の差が生まれて以降ずっと階級システムがあって、人は自分よりも下の者がいることで自らを保ってきた、と言うと露悪的だろうか。その気持ちが強大な権威システムによって正当性を与えられ最大利用されたのがファシズムでは…?なので「服従」という心理の一側面だけではないのではないか、とは思った。

0
2021年01月16日

Posted by ブクログ

話に聞くだけではどこまで信用できるのか分からないような印象を持っていた実験だが、こうして細部を知るとなかなか説得力がある。でもなお、この実験での「服従」の度合いが驚くべきものではあるとは言え、その絶対的な水準からあまり多くを汲み取るのも勇み足である気がある。巻末の山形解説もその点、面白い。引き換え、いろいろ条件を変えて服従度合いへの影響を探るあたりは興味深い。

また、ミルグラムがベトナム戦争でのソンミ村虐殺などに極めて強い問題意識を持っていたこともはじめて知った。山形氏によれば、それがミルグラムの視野を狭めているということで、たしかにその側面は否定できないが、単に心理学の実験というだけではなく、社会的な強い問題意識がバックグラウンドがあるゆえ、これだけ人々の耳目を集める実験にもなったのだろう。

0
2018年11月05日

Posted by ブクログ

見ず知らずの人に「殴って下さい。」と言われて実際に手を出せる人はまずいない。
だが、実験室を用意し、実験参加の求人広告に応募してもらい、白衣の指導者が参加者に実験の概要を説明し、
簡単なテストに間違える仕掛け人と電撃発生装置を用意したならば、その電撃の強さを最大値まで設定できる人間は多い。

本書は各所で引用されるミルグラムの服従実験を、スタンレー・ミルグラム自身が語る一冊。
驚くような新事実が載っているわけではないが。
実験室の様子、与えられる役割、種々の条件設定、結果データの数値など、引用では省かれる詳細がよくわかる。

だが、本家だからといって実験に対する考察が十分にされているとは言い難く、それは訳者による解説にて補完される。
この実験から得られる教訓とは、『人は権威への服従により残酷な行動をとりうる』ということではない。
現代戦争における虐殺や捕虜虐待などは、むしろ体制が厳しく禁じているにもかかわらず発生しうるが、
その原因を一つに限定することはできない。

対象との心理的距離の乖離、
厳しい環境におけるストレス、
強すぎる共同体の結束と反抗者への敵愾心、
多段の命令系統による責任の希薄化、
その中の一つが、本書で語られる進行し続ける状況への服従だ。

学校でも会社でも遊びでも、始まってしまった状況へたった一人で反抗することの難しさは、誰しも感じたことがあるだろう。
では、服従さえ克服できれば人類は進歩できるのだろうか。
手持ちの紙幣の価値を疑い、書籍に記されている歴史を信じず、皆が従う法律を認めず、全ての状況に抗う。
そして全ての事実を確かめるために世界を巡る。

そう、状況への服従とは、現代の繁栄の根幹である分業すなわち他者への信用と表裏一体だ。
歴史への服従・信用があってこそ、2,000年以上を費やした学問の利益を得ることができ、
社会への服従・信用があってこそ、突然斬りかかられることを心配せず往来を歩ける。

服従と信用の違いが他発的か自発的かだとすれば、現代社会に生まれた時点で服従を強いられるのは間違いない。
そうやって生きるためのコストを他者にゆだねて得られた時間を用い、
信用できる領域をそれぞれのペースで広げてみよう。
人間社会はそうやって進歩してきたのだから。

0
2018年10月20日

Posted by ブクログ

ミルグラム「服従の心理」 権威に対する服従心理を紐解いた アイヒマン実験の報告書。なぜ 普通の軍人が 非人間的なユダヤ人虐殺や原爆投下をできたのか わかった気がする


服従の本質=自分の行動に責任を問われない→自分を権威に委ねる→自分の義務を果たしただけ

0
2017年11月03日

Posted by ブクログ

ヒエラルキー、権威のもとでは、服従してしまう、自分の責任を「権威」に転嫁しがちであるということが示されていました。

こんなにも従ってしまうものなのか、と驚きました。置かれている状況が、その人の行動や判断力に影響を与えるというお話、ソーシャルワークにとってはとても大切な内容でした。

パワーバランスと影響力、現場でもしかと見ていかねばです。

0
2015年11月06日

Posted by ブクログ

心理学上有名な、通称アイヒマン実験の原本。
被験者のインタビュー、諸条件を変えてみての実験等、この実験の詳細が述べられている。

0
2015年05月01日

Posted by ブクログ

世紀の実験論稿。社会性生物である人間のシステムは、権威への服従と同調を基礎に持つ。実験は、服従への抵抗を確かめるため、道義に反する、他者への電撃行為を、仕事だということで従わせるもの。抵抗し、電撃を与えなくなるまでが服従とする。様々な手法を取り、完璧な実験を仕上げる。成果は、上々だ。

だが、抜けがある。この実験は、予め、身体に影響が無いと通知されたものだ。被験者は、やや懐疑的になりながらも、自分の仕事をしたに過ぎない。自らの意思を超越し、権威に服従したのではない。この結果が本著が提起するような、アイヒマンのユダヤホロコーストやベトナム戦争での虐殺の免罪符には決してならない。考えても見てほしい。身体に影響の無い仕事への服従と、必ず相手が死ぬ仕事への服従。同義では扱えないだろう。それでも、人は服従するというのか。

試験項目を変えてみれば良い。一時的に死刑執行人となり、それを遂行する仕事に。何人が服従することか。勿論、権威が試験機関ではなく国に代われば、服従度合いは変わるかもしれない。つまり、権威の形の問題だ。誰も平気な顔で核のボタンやガス室のボタンは押せない。ナチス党を当選させた民衆のユダヤ殲滅運動には、社会的正義が成り立つし、戦争も自国の理論での正義だ。本著がいうような権威への盲従ではない。時代の空気、プロパガンダ、正義の仕事の遂行に過ぎない。自らの意思を超越した権威に、嫌々服従したわけではないのだ。

では、罪はどうなるか。戦争自体の罪は、戦争行為に加担していないものに対する加虐、残虐行為を裁けば良い。その対象からは、ただ命令に従っただけだから許されるという事を無くせば良いのだ。戦勝国の無秩序な違法行為が、許認される事は許されない。その意味で、時代が正義だろうが、命令だろうが、アイヒマンは罪人。北九州の通電殺人を命令された女性も罪人である。勿論、抵抗できる状態にあったかという定量評価や自己防衛の度合いの査定は要るだろうが。

0
2018年04月09日

Posted by ブクログ

「道徳的に正しい行動を選んだとはいえ、被験者は自分が引き起こした社会的秩序の破壊に困惑したままであり、自分が支援を約束した目的を放棄したという感覚を捨て去ることはできない。」

人がいかに権威に服従するのかについて、実験をもとに考察された本。その実験は、参加者が学習者に電撃を流すように依頼されるものである。”強い電撃を流す事は非人道的であり、そのような電流を流すのはナチスやサディストしかいない”という考えを覆し、”普通の人”が抗議する学習者に電撃を流した。特に、11章以降の実験の解説からがさらに面白い。

親が子に何か命令するとき、それは二つの観点から正当性の根拠が発生する。1つは、道徳。もう1つは、親だから。道徳が何か普遍的な基準がない以上、学校教育や社会の中で正しいとされるのは、それを言う人物が権威を持っているからほかならない。

自分が同じ実験に参加していたら、多くの参加者と同じように、少しの抗議を唱えながら電撃の最大まで行っていただろう。組織に対抗するのは、組織しかないとい訳者の提言は参考になる。

補遣2も、自身の実験を正当化するための権威付けの一つだと思われる。

0
2014年03月19日

Posted by ブクログ

本編を読んで、補遺を読んで、訳者あとがきを蛇足まで読んで
そして自分なり歴史的事件の背景や、心や社会との関係に考える。
ここまでがセットメニューの本。
実験の概略と結論を聞いたことがあっても実際に何が行われて
どうしてその結論に至ったかを知るによい。

0
2013年09月27日

Posted by ブクログ

実験についての論文と言うか調査記録の様な感じ。実験内容と結果については様々なパターンで試すので研究者じゃないと面白くないだろうが、参加者の追跡調査については実に興味深かった。

0
2017年06月26日

「学術・語学」ランキング