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水木先生、大変なインテリ読書家である。
第1章の出征前手記は難解かつ送り仮名の使い方が変で読みにくい。常々「なまけものになりなさい」と説いていた先生が二十歳の時点では「怠惰」を厳に戒めている。どういうことだ?と思ったら、それについて弟子 荒俣宏による解説があった。
第2章は、戦前の読書事情、日本人と日記の関わりについて知るところが多かった。
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水木しげるが20歳やそこらの青年であり、
戦地へ赴く直前の手記に荒俣氏が解説を加えた一冊。
世間一般に知られたる水木氏のどこかとぼけたような達観は感じられず、
日々自分の価値観が変わっていっているような葛藤がそのまま記されている。
それにしても現代視点で見たときには、とても20歳が書き記したとは思えないような深い思索の跡がみてとれる。語彙も大変に豊かである。
これが往時の標準的な青年の姿であるならば、
現在の若者が幼稚化しているという論に逆らうことはできない。
荒俣氏の、手記の解説に留まらず「日記」という形態についての研究や水木氏がなぜゲーテを愛読していたか、を時代背景をもとに読みとく第2章も読み応え抜群。
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その飄々としたお人柄に加えて"両親が心配して一年遅らせて小学校に入れた"などのエピソードから想像しがちなのんびりした少年時代、でもそれは水木サン一流の照れ隠しであり実の姿は凄まじい天才少年であったことを裏付ける貴重な書簡集。
その出征を前に懊悩たる思いを書き綴った手記や戦地からの手紙は哲学そのものであり死を前にして生とは何かを自らに問いかける手法は時代を超えて心に強く響く。
愛弟子荒俣氏の解説も良く出来ており戦争と言う狂気の現場に立たされた若者の心の拠り所としての「読書」の意義がつぶさに書き表されている。読書の幸せ…この言葉を今考えなければ
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仏教もやる。博物もやる……いじけるな、自分を小さくするな、俺は哲学者になる。21
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自分と言ふものにびつくりした。俺なる実在は、俺の思考がとうてい及びもつかない程、複雑怪奇だ。ひとつ一生涯をこのものを観察しつゝ暮さうか。24
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芸術品を造るものは何よりも人にならねばならぬ。25
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仏教のような唯心論には反対だ。人間は心と肉とよりなる。27
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一たらんと欲すれど本性が多なる以上、死する決意あらざる限り、一とは成り得ない。30
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宗教には情熱があるけれども道徳にはない。だから道徳はいやだ。32
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「習慣でない限り自分のものではない」とは真理だ。43
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一分でも一秒でも自分になつて行く事だ。自分の中にある自分を進ませまいとするものに一分でも一秒でも心をゆるしてはならぬ。
キリストを見よ。彼は全身を以て、そして一生を以てつ彼自身と戦つたのではないか。油断は禁物だ。48
人生と言ふ広い所での隣人は、努力し、努力し、自分の思ふものを造る人達だ。48
そう言ふ人がキリストの友だ。熱心に人間になろうとする人が友だ。
釈迦でもキリストでも、その教団の凡人共より、漱石やニイチエやそんな人を愛する事を欲したのだ。49
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「学問は分かれて科学と哲学となる。科学の対象は現象であり、哲学の対象は価値である」119
河合は本題の「読書の意義」を次のようにまとめるのです。読書とは自己教育であり、自己とは何であり、何であるべきかの内容を与えるのが読書である。ここに読書の第一の意義がある。121
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「漱石の語を否定する程俺は自惚がない。それは損んだ。こんな時代で一番ものを言ふものは自惚だからな――」
自分を自分にする最大の力は「自惚だ」と語っています。184
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戦時、若者の心の拠り所として、読書があった。宮沢賢治やゲーテを持ち歩いていたという。死と隣り合わせの環境下、死ぬ事を強制され、権力に服従せざるを得なかった時代。どのように事態を昇華し、気持ちを落ち着かせたのだろうか。服従を奉仕という思想に置き換えたり、哲学や物語りに夢想したり。水木しげるも、その一人だった。そして戦後、その事を伝える立場を得た。
読書は救いである。知識を得、自らや事物を再定義し、その設定で妄想に生き、かつ現実に生きる。
戦時の読書について綴られた貴重な一冊だ。