【感想・ネタバレ】不平等をめぐる戦争 グローバル税制は可能か?のレビュー

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Posted by ブクログ

世界の富は1%の超富裕層が握っており、中間層の総資産の4割を締めると言われている。これが上位10%になると世界の資産の8割にもなる。コロナ禍でさらに格差は広がったと言われるが原因は様々だ。中でも金融取引で富を蓄積するケースや、企業活動としての儲けを挙げて租税回避措置を講じた結果、組織の上位者に莫大な富が集中するケースが顕著だ。一時期はパナマ文書の漏洩事件でいかに税金を納めずに富を蓄積する人が多いかが世界中の人の目に晒された。そうした事もあってか、個人に限らず企業の多くが利用する所謂タックスヘイブンに注目が集まった。恐らく多くの方が自社に存在する海外子会社の中に、一体何をしているか判らないプロパー数人(役員と管理職のみのような)で構成される組織の存在に気付いたであろう。何となくはわかっていたものの、個人であれ企業であれ、資本主義社会において利益を追求する事と節税対策はセットの様なものだと納得してしまっていると思う。
然し乍ら、たまに眼にする前述の様な富の集中を書いた記事を読むたびに、果たしてこれで良いのか疑問を抱かざるを得ない。SDGsを誰もが叫びアフリカの貧困や国内の生活保護者のニュースを見るたびに、なぜそう言った部分にきちんとお金が再配分されないのか、誰しも疑問に思うことはあるだろう。あなたの周りに株で儲けてレクサスやらベントレーでコンビニに行く人が居るなら、内心そうした想いは強いと思う。
前述の租税回避地については難しい面もある。実体の全くないケースがほとんどであろうが、企業誘致の観点から税率を低く設定して呼び込むケースもあり、それであっても公平性はある程度失わざるを得ないからだ。とは言え本書が語る様に、そうしたインターナショナルなお金の動きに注目して税を課すと言う考え方には私も賛成だ。何故なら(自分が超富裕層でない事もあるが)世界には地球温暖化や就学すらままならない貧困層、内戦などで生きることすら容易ではない人々が多く居る。それを尻目に食べ切れもしない料理の山とシャンパンで好きなだけ贅を尽くす人間がいることに道義的に違和感を感じるからだ。
やり方は色々あるだろうが、本書に記載するグローバル税制にも基本的には賛成だ。記載の通り資本主義社会への挑戦的な側面も強いから、中々一気には進められないだろう。どこから手をつけるか以前に誰がその税収を負担する関係者となるか、また国家間の関係性など推進の壁はいくらでもある。まずは「税金を取られる」意識改革と税の使い道が支払ったものに対して納得感ある内容にならなければならない。技術的な実現性(本書はテクニカル・フィジビリティと記載)は高度にネットワークで繋がる世界ではかなり見えてきた。次に政治の実現性(同じくポリティカル・フィジビリティ)にかかっているのではないか。後はルールだ。税金の使い道がしっかりとわかっていて尚且つ成果までが具体的に見えなければならない。途上国への資金援助が一部の政府役人の懐に入る様な状態ではダメだ。それこそEUの様な国家を超えた国家、言わば世界規模の組織がしっかりとしたルールづくり(グローバルに公平性を担保した入札なども)が欠かせない。本書が書かれた2016年よりも可視化する技術や高速なネットワーク網は更に整備が進んでいる。後は世界をリードし超富裕層を大量に抱える先進国の力量次第だと思う。
本書を最後まで読むと、そうした取り組みへの期待感が高まり、少しでも貧困に喘ぐ子供達の姿が無くなる未来を想像したくなる。そして税金は取られるものではなく進んで納めると言う意識に変わっていく世界を期待する。

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2023年06月09日

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