【感想・ネタバレ】クリュセの魚のレビュー

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Posted by ブクログ

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地球歴の2445年には火星の開発がかなり進んでいる。
テラフォーミングがなされ、人が住むことができるようになり、都市ができた。
さらに、火星の技術力は地球を超えるまでになっている。

しかし、地球と火星間の移動には片道4日~1カ月を要し、それが交易の壁となっていた。
そのため、地球の国家の支配を受けることもなく、火星は地球の国際法上は国家として認められていないものの、独立した存在となっていた。

ところが、異星文明のワームホールゲートが発見された。
地球から火星に瞬時に移動が可能となるこのゲートを、地球と火星それぞれに設置する計画が持ち上がった。
火星の人々は危惧した。
地球人が火星に押し寄せ、火星の資源が奪われるのではないか?
そのため、抗議活動や独立運動が起こるようになった。

そんな時代に、11歳の葦船彰人は火星の開星記念堂で16歳の大島麻理沙と出会い、恋に落ちる。
それから何度か逢瀬を重ねていくが、麻理沙は謎めいた部分が多く、どこか神聖な存在だった。

16歳になった彰人は火星軌道エレベーターでボランティアを行っており、そこに麻理沙を誘う。
中継基地に接近する、火星の衛星であるフォボスを見るためだ。
このときも麻理沙は不可解な言動が多く、個人認証には偽名が表示されていた。
彰人はそれらから目をそらして、麻理沙と手をつなぎ、基地内の自分の居住区へと向かう。
「彰人くんが選ぶなら、それが運命だったんだよ―わたしたちの」
そうつぶやく麻理沙を抱き、朝を迎える。
彰人に背を向ける麻理沙は、窓から火星の赤い大地を見下ろす。
横顔は太陽にうっすらと照らされ、彰人にはその肩甲骨が羽をもぎとられた痕のように映る。
そして、麻理沙は「きっと戦争になるね」と呟く。
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この軌道エレベーターのシーンがたまらなくいい。
麻理沙のミステリアスな部分と、美しさと、「これから世界はどうなってしまうんだ!」っていうSFの壮大さが全部ぎゅっと押し込められていて、どきどきした。
2人の出会いのクリュセの魚のシーンも情緒があって、印象的なシーンをつくるのがうまい。

それだけに、ラストはもう少し感情的に仕上げてもよかったように思う。
盛り上がりに欠けるとまでは言わないが、どこか静かだった。
終盤にかけてSF用語が頻出するので、文章を読む流れが変わったことも影響しているかもしれない。

最終的な彰人の選択には脱帽だった。
てっきり、あの提案を受け入れるものだと思っていた。
これこそが、本来人間がもつべき力だと感じた。

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2020年10月07日

Posted by ブクログ

内容もさることながら、巻末の飛先生の解説が素晴らしすぎてうなりまくった。好きなテーマの作品なので楽しく読めたが、東先生の「弱いつながり」を読んでから読むと、更に理解が深まるしにやっとさせられる気がする。
必然という言葉は私はちょっと怖いので、苦しく感じる箇所もあったけど、人間の魂や意識について、民族離散や国家について、幅広いテーマで語られる火星SFで面白かった。

0
2016年12月01日

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