【感想・ネタバレ】日本型モノづくりの敗北 零戦・半導体・テレビのレビュー

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良書。1990年代以降のDRAM半導体メーカーの凋落、今なお日系メーカーの強い分野とその背景の分析、総じて一番思うことはイノベーションとは技術と市場の結合であって、市場と結合しない独りよがりの技術は淘汰されること。これは多くの人が教訓として心がけ、明日の産業衰退の種にもう2度としないよう決意することだ。

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2020年07月26日

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電子立国日本の中核を担っていた半導体産業の凋落と、サムスンを始めとした新興国の隆盛。その渦中の中にいた、半導体メーカ技術者であった著者による分析と今後の日本の半導体産業への提言が本書。
目から鱗だったのが、半導体産業の凋落の理由。今までのメディア情報で、設備投資のタイミングが遅いことと、アメリカからの貿易不均衡が同時に重なったことだと思い込んでいた。しかし、その本質が職人気質という日本文化の影響で、全体最適を考える経営者が不在で、技術者は部分最適の技術レベル向上に固執するという、典型的な日本メーカの負けパターンだったとは。
しかし、半導体技術開発の困難さが初めて分かりました。その意味で、半導体技術の概要を解説した本書の第2章は、自分にとっては、次章以降を読み解くためには、大変有意義でした。

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2017年05月07日

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読み応え十分だった。半導体産業の歴史、日立、NECの半導体事業の衰退が筆者の経験を踏まえダイナミックに語られている。なぜ日本の半導体産業は衰退したのか、その理由も明かされ一気に読んでしまった。DRAM、CPUと来て今はセンサーへの活路を模索している半導体産業の現実がよくわかった。

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2017年03月10日

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1980年代に世界をリードした日本の半導体産業。ところが現在では日立とNECのDRAMの合弁会社エルピーダメモリーは経営破綻し、日立、三菱、NECのマイコンを経営統合したルネサスエレクトロニクスも倒産寸前まで追い込まれるなど、当時の面影はありません。
日本の半導体産業が世界一であった1980年代に日立に入社し、その凋落を目の当たりにしてきた著者が半導体産業の裏側とその凋落の理由を解説。
半導体とはどのように製造されるのか?、なぜマイコンの世界シェアNo.1のルネサスが赤字なのか?、東日本大震災でルネサス那珂工場が被災した時、代替生産がなぜできなかったのか?、日本が強い技術分野と弱い技術分野とは?、日本のテレビ産業の凋落の原因はなにか?、など興味深い視点からの解説は製造企業に身をおいた著者ならではの分かりやすさです。
述べられているさまざまな論点のなかでも「各工程の部分最適を求めるあまり、製造工程全体としての全体最適が実現できていない」という現象は大企業に限らず、中小企業でも忘れてはならない視点だと再確認させられました。

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2014年12月03日

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半導体業界で活躍した著者であるため,半導体に関する記述が多い.特に,コンソーシアム(セリート)や国家プロジェクト(あすか)での,日本のやり方の失敗について手厳しく批判している.

イノベーションは単なる高い技術ではなく,製品を作る以上は必要とされるものを作る技術でなくてはならない.マーケッティングをおろそかにし,不必要に品質の高い半導体(25年保証!?)を高コストで作り続けた日本はいろいろな視点を欠いていたのであろう.

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2014年07月13日

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元日立でエルピーダにも在籍した半導体技術者が、日本半導体の敗戦の原因をその内部にいた経験から分析したものである。まずは日本の技術は一流でそこは負けていないという神話の否定がある。少なくともコストパフォーマンスの面で劣っていたことは確かだろう。エルピーダで経験した事実の解説は負けるべくして負けた状況が理解できる。

日本には、イノベーションとマーケティングがなかった、と著者は言う。イノベーションは「技術革新」と捉えられ、本来の「新結合」という意味では捉えられていなかった。マーケティングも「市場調査」と捉えられ、本来の「市場創造」の思考が日本にはなかった。イノベーションとマーケティングはかの日本びいきのドラッカーが企業が成果を生む二つの機能として定義したイノベーションとマーケティングがなかったのだ。

また、政府主導のプロジェクトへの批判も強い。一度決めたことを変えられず、何もしないことが最善になっても止められない状況も発生していたようだ。官僚の無謬性の罠にはまった形だし、そもそも政府が誘導するべきではないのだ。

本当に当事者としてその戦いに参加し敗れた著者の言葉には説得力がある。腑に落ちるとはこのことかもしれない。

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2014年06月23日

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 DRAMから続く半導体ショックについて、内部最前線で働いていた著者による分析と提言。合弁会社、国PJ等色々テコ入れ画策するも、ことごとく潰れる状況とのこと。
 ニュースできいていた情報と大きくことなる内部事情に驚きながらもワクワク?しながら読む。これは半導体業界だけではない。機械系も同じかも。マーケティングが死命を制する、というのはまさに今の我社にもあてはまってたりして・・・。
 色んな分析本がある中で、直球でわかりやすい記述がされている点で出色。これは読んでよかった。

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2014年06月21日

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日本メーカー、特にソニー、シャープ、パナソニック、NEC、日立、三菱電機などの電機メーカーは、サムスンやアップルなどに敗退している。
なぜ、日本型ものづくりは世界で勝てないのか。その理由を考察した一冊。

筆者の湯之上氏は、日立製作所入社から16年にわたり半導体の開発に従事した、日本のものづくり現場を熟知した人物である。

湯之上氏は、日本企業の問題点は「イノベーション」の捉え方にあると指摘する。
イノベーションは「技術革新」と同義で使われることが多いが、経済学者シュンペーターの定義では、「発明と市場との新結合」であるという。
いくら革新的な技術が生み出されても、それが技術者の自己満足に過ぎず、ユーザに普及することがなければ、それはイノベーションとは呼べない。
湯之上氏は、「爆発的に普及した技術や製品」をイノベーションと呼んでいる。

「日本の技術力は高い」と日本人の多くは何の疑いもなく信じているが、そもそも、「技術」の定義はひとつではない。

日本は確かに「高品質を作る技術」は高いが、「低コストで作る技術」は韓国メーカーや台湾メーカーに負けている。
さらに、サムスン電子は専任のマーケッターを数多く配置し、市場の動きにいち早く対応している。

日本の中においても、例えば日立とNECでは「技術開発」の定義が異なるという。
半導体の開発において、日立の「技術開発」は、新材料や新構造を検討し新装置を開発することを指す。
一方、NECの「技術開発」は、試作ロットが流れるための最適条件を決めることを指すという。
エルピーダメモリにおいて、日立とNECという文化の全く異なる2社が合併したが、規模が大きくなったのみで、その中身においてはそれぞれ合併前から変わることはなく、混ざり合うことはなかった。

日立にしろNECにしろ、エルピーダにしろルネサスにしろ、半導体業界にしろテレビ業界にしろ、技術力の使い途を誤った日本企業は、世界の中で勝ち抜くことはできない。

日本企業は、欧米やアジアの後追いだけに終始するべきではない。
特にものづくり分野においては、先進者を模倣しながらも、日本企業が得意とする摺り合わせ技術を用いて、発明と市場との新結合であるイノベーションを起こすことで、新市場を創り出す「イモベーター」となるべきである。

湯之上氏は日本の半導体製造業界を熟知した人物であり、業界内部の暴露話的なものも書かれており、ルポタージュ的な読み物としても面白い。

ちなみに、サブタイトルに出てくる零戦については、日本のものづくりが特定の要求は完璧に実現するが(零戦の格闘戦性能や航続距離、DRAMの耐久性など)、ユーザのニーズを満たすものではない(零戦の防弾性能、DRAMのコストなど)ために、イノベーションとはならない説明の例として書かれているだけであり、半導体やテレビに比べると、あまりページを割いているわけではない。
ここ最近の「永遠の0」や「風立ちぬ」における零戦人気に便乗したものか・・・。

世の中は常に変化する。
パラダイムシフトが起こったときに、コスト的に対策するだけでは、日本企業は勝てない。
「あなたが世界をどう変えたいのか」という視点を持って現場へ赴き、「問題の発明」を行い、創造的模倣力を発揮すること。

私自身は自動車産業で働いていたことがあるが、日本の完成車メーカーや部品メーカーも、今でこそ世界で有数の技術を誇る企業は多いが、うかうかしていると他国にイノベーションを起こされかねない。
イモベーターとなり、常に変化していくことが必要である。

日本のものづくり企業だけではなく、すべての日本のビジネスパーソンが今こそ読むべき一冊。

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2014年05月26日

Posted by ブクログ

【ポイント】
23/イノベーションとは、シュンペーターの定義:「発明と市場の新結合」
  ◆「爆発的に普及した技術や製品」 と著者はしている。

55/半導体の量産技術
  量産移管の方法には、「コピーイグザクトリとコピーエッセンシャリ」がある。

89/エルピーダはなぜ倒産したか? 
  →低コストでDRAMをつくることがてきなかったその技術が問題。
   つまり、坂本社長の経営者として責任は、低コストでDRAMをつくる技術を
   向上させることができなかったことにある。

89/  30年間変わらなかったDRAM技術力 (25年の耐久性)

93/  開発と量産の境界がない組織(サムスンとの比較)

95/  装置を変えない、プロセスを変えない。

96/  歩留り100%はめざさない

98/  230人もいる専任マーケッター

99/サムスンは、一番優秀な人間をマーケッターに抜擢する。
   →自社の未来はマーケッターの双肩にかかっている。

  世界の動向からその国や地域での市場を予測し創造することが、
  マーケッターに要求される。

  この能力は、その人間が持っている「センス」である。教育できない。
 ★このセンスを持った人間を世界じゅうから探し、集めるのが経営者の仕事。

100/ 即断即決する極めて優秀な専務たち
112/玉ねぎの皮を剥いていったら最後になにが残る?

170/日本人は、技術者だけでなく、
  経営学者までも、イノベーションを正しく理解していない。

 ★経済学者のシュンペーターは、「イノベーションは、発明と市場との新結合」と定義
 ★ 「イノベーションとは、爆発的に普及した新製品」 
    ←技術が革新的かは一切関係ない。

   技術開発を行ってもイノベーションにならない。
    →その技術をつかった新製品が売れて初めてイノベーション。

176/「つくったものを売ろうとする間違い。

178/サムスンは、売れるものをつくろうとしているのに対し、

  日本は依然として作ったものを売ろうとしている。

  日本人が認識しているマーケティングとサムスンが考えるマーケティングが違う。
   ◆サムスンにとって、マーケティングはとは「市場創造」である。

180/日本企業が認識する「マーケティングとは、「市場統計・市場調査」だ。
    ←サムスンの「市場創造」ではない。
    ←日本では、マーケティングは質の低い人がつくと見做され、軽視されている。
181/マーケティングの本質とは?
  研究も開発も製造も営業も総務も経理も資材も人事も、関わるすべての組織と社員が
  ★マーケティングの感性★をもっていなければ、変化する世の中に対応できない。
   社員全員がマーケッターにならなければ、生き残れない。

183/サムスンは、液晶テレビの模倣容易性を理解していたからこそ、他社との比較優位を  持たせるために、世界の国ごとにマーケティングした。

   ←技術の模倣はできるが前提。

211/日本人の得意なことは何か?
 
   ?製造工程に競争力の源泉がある産業

   ?高度な擦り合せ(インテグラル)技術が必要な産業

   ?持続的技術が必要な産業

232/価値のほとんどは模倣者が得ている。→半導体産業とは大いなる模倣産業である。

234/科学における創造とは「二つまたはそれ以上の事実または理論を統合すること」

   経済学者のシュンペーターは、イノベーションを「発明と市場の新結合」と定義した。
   イノベーションとは、「新結合」である。

241/模倣能力を今一度甦らすことが再生への近道。
  再生した模倣能力を最大限に活用して、新市場創出するイノベーションを起こすこと。
243/新市場を作るために技術は一切必要ない。

  「新しい市場の作り方/三宅秀道」
   どんな技術も商品も誰かの幸せの役にたたなければならない。
   だから新市場ができる前にその幸せがイメージできなれればいけない。
   ★これを「問題の発明」という 
   ←発見(すでにあるものを見つける)ではなく発明(存在してない価値を生み出す)
244/技術開発が必要になるのは、「問題が発明」された後。

247/エジソンがウォシュレットを発明できなかった理由は?

  ←お尻を洗えない不幸を感じなかった。

 「お尻を洗うと気持ちがよいのではないか」という「問題を発明できなかった。

252/物理学は一神教、化学は多神教。

  物理学は基本原理を理解すれば、後は論理で解決できる。

  化学は、多面的なノウハウの蓄積が必要で、ある技術を習得するのに時間がかかる。

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2019年01月06日

Posted by ブクログ

今まで多くの日本脅威論を読んできましたが、その多くは製造業の実態をご存じない方が書いたものであり、一方で、日本のモノづくりがいまだ健在であるという本を読んで自分を安心させてきました。

特に、ものづくりにおいて、最終製品では外国勢に負けていても、材料や半製品、製造装置のシェアは高く、これが日本の強さであるという論調に私は日本の底力を見ていたつもりです。

この本は、それらを十分に揺らぐほど衝撃的でした。この本の著者は私より3歳程年上で、日立製作所で半導体研究や製造技術に拘った、中身を良く知った方です。彼がはぜ1980年代には世界一だった半導体行が、現在ではそれを思い出せないほど惨めな姿になってしまったのかを解説しています。

また半導体製造は、装置を買ってくればすぐにできるような簡単な技術ではなく、韓国・台湾勢が、当初はリストラされた日本人技術者を上手に使って学び改良したということも解説しています。

著者によれば、今の日本企業の姿は、太平洋戦争時のゼロ戦の栄光と転落と同じだとしています。現在では、日本に残されている優位性のある技術は存在しているものの、かなり少なくなってきているようです。

最後に日本が甦るための条件を示していますが、パラダイム変換をおこす必要があり、一度何かが起きて、現在の既得権益を握っている人達が退場しない限り難しいなと思いました。現在は、まさに戦争に突入していった頃に似ているようですね。

以下は気になったポイントです。

・世界最高品質、シェア一位の企業が凋落するには共通する原因がある、それは、パラダイムシフトに対応できず「イノベーションのジレンマ」に陥った、つまり、既存顧客の要求に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質に劣るが「安い、小さい、使いやすい」特徴を持った破壊的技術に駆逐されること(p13)

・技術力には、高位品質をつくる・高性能をつくる・低コストでつくる・短時間でつくる技術等、様々な評価軸がある、ひとつの評価軸において高いだけで「日本の技術力は高い」というのは大きな間違い(p22)

・創造とは「無から有を生み出す」のではない、「2つ以上の事柄を統合する、一種の模倣能力」(p25)

・AMAT(アプライドマテリアルズ)は、1992年以降、半導体製造装置で世界一、2013.9.24に世界3位の東京エレクトロンと統合発表した(p32)

・オバマ大統領の製造業輸出5倍計画は、再生エネルギーによるグリーン革命は失敗したが、3Dプリンター、ロボティックス、脳科学、サイバーセキュリティ産業は大進歩、シェール・オイル革命も追い風(p33)

・半導体製造には、多くの要素技術を精密にすり合わせるインテグレーション技術と、歩留まりを向上させる量産技術が必要である(p58)

・日本半導体メーカは、大型コンピュータ用に製造した25年保証の高品質DRAMを、PCに転売したが、明らかに過剰品質であった(p63)

・製造工程の洗浄液に互換性がないという事実、これがエルピーダのDRAMシェアを低下させた原因(p70)

・日立、NEC出身者のほとんどが「経営、戦略、コストで負けた」と言ったのに対して、三菱出身者は、「安くつくる技術に問題があった」ことを認めていた(p82)

・後から考えると、日立が新技術の研究開発を行い、三菱がインテグレーション技術を担当、NECが量産工場の生産技術に専念すれば良かったかもしれない(p86)

・サムスン電子では、開発から量産へ、またはその逆がありチームが入れ替わる。最初から量産立ち上げを視野に入れて歩留まりを向上しやすい工程フローを構築する必要がある、日立では、研究所・開発センター・量産工場とヒエラルキーがある(p94)

・会社組織では、人間は能力の極限まで出世する、すると有能な平社員も無能な中間管理職となる、こうなるとあらゆる職責を果たせない無能な人間によって占められる。仕事は、まだ無能レベルに達していない者によって行われる。ピーターの法則(p101)

・東日本大震災の影響を最も受けたのは、トヨタ(特にプリウス)であった。茨城県にある那珂工場が直接被害を受けたから、トヨタのマイコン:ECU(機能の90%を制御)を作っていた(p148)

・ルネサスの那珂工場はラインの稼働率を上げるために、利益の出ないECUを作らざるを得なかった(p159)

・シュムペーターは、イノベーションとは発明と市場の新結合とした、つまり、爆発的に普及した新製品、普及が大事なのであって、技術が革新的かどうかは一切関係ない、ここが日本人が誤解しているポイント(p170)

・サムスンにとって、マーケティングとは「市場創造」である、これも日本では誤解されている、市場統計・市場調査と考えている(p179,180)

・インテルは iPhone用プロセッサ製造を断り、韓国サムスン電子が製造することになった、これによりファンドリービジネスで3年間で10位から3位に躍進した(p201)

・日本が弱体化した分野には共通要因がある、標準化・プラットフォーム化・モジュール化がしやすい分野(露光装置、ドライエッチング、検査装置、成膜装置)である、一方で、ハードウェアと液体材料の摺合せに必要な部分はドキュメント化ができない暗黙知が多く、標準化・モジュール化が難しい(p217,223)

・日本半導体メーカが、微細性・精度を強調するのに対して、韓国・台湾半導体メーカは、スループット(時間当たりウエハ処理数)である(p219)

・1台40-50億円もする装置を、導入から9-14日で製造に使うか、40日弱も無駄な性能試験をやるか、この差が高コストにつながる(p223)

・新市場の発明をするには、誰かの幸せに役立たなければならない、市場ができる前に、その幸せがイメージ(何をどうかえたいか)できなければならない(p243)

2013年12月15日作成

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2013年12月15日

Posted by ブクログ

JBプレスで連載している日本半導体・敗戦から復興へのシリーズが面白い。そこで10月発刊のこの本が反響を呼んでいると有ったので読んでみた。「失敗の本質」の産業版だなあというのが感想だ。

イノベーションを技術革新と訳すのがそもそも間違いじゃないか?経済学者のシュンペーターはイノベーションを「イノベーションとは発明と市場の新結合」と定義しており、著者はもっとシンプルに「イノベーションとは爆発的に普及した新製品」と定義している。まあ著者の定義だと中毒の山寨機もイノベーションになるのでそれはどうかと思うが、ある意味ではそれも正しい。個人的にはトヨタ生産方式など商品ではなくてもイノベーションと呼んでいいものはあると思う。

題名には零戦があがっているが三菱と中島飛行機では同じ零戦と言いながら互換性が無かったらしい。著者の定義ではこういう匠の技はいくら技術が優れていてもイノベーションにはならない。匠の技は爆発的な新製品は生まない。

サムスンの半導体開発チームは現行100ナノとして次世代は95ナノ、90ナノなどを同時並行で開発する。そして、開発が成功したチームがそのまま量産を担当する。このメリットは開発のときから量産化を見据えて開発する事と、強烈な競争原理が働くことだろう。100ナノチームは新たに微細化の開発を担当することになる。そして、競争に負けるとはじき出されるサムスンでは責任者は現場に詳しい現役の開発者に近い。

対するエルピーダでは量産には新技術を用いず、完璧主義の変わりに担当が細分化され技術者も多く、立ち上げに時間がかかるNECと新製品開発には能力があるが量産化ではなかなか歩留まりを上げる事が出来ない日立が組んだ。この時現場の技術者に最も評価が高かったのが三菱の技術者でこれはコミュニケーション能力と調整能力が高くうまくすりあわせができたからだ。著者はルネサスに対し新製品開発は日立、量産化前のすり合せと条件だしを三菱、量産化はNEC出身者が担当すればいいのではと提案したそうだが顧みられることはなかった。実際には日立、NECのたすきがけ人事が行われたのだ。

マーケティングの発想も日系企業と、サムスンでは全く違う。最も優秀な人を大量にマーケティングを担当させるサムスンに対し、日本のある大手メーカーではマーケティングに廻されるのは左遷と捉えられてたらしい。イノベーションの解釈の違いが最も顕著に出た例だと思う。サムスンはかなりグレーな事もやっており、普通には手に入らない資料やサンプルも入手できていると言うのだが、結局それは情報を流す元大手企業の社員がいると言う事だ。

2007年1月、同志社大勤務の著者を呼び出したルネサスのある幹部は講演と執筆活動をやめろと迫る。この幹部が言うには日経マイクロデバイスがさんざんDRAMをやめてSOC(システムオンチップ)へ舵を切れと言った事が日本の半導体産業をミスリードしたのだと。そして著者にもお前の正だと言うような事を言い、とどめがこうだ。「SOC最大手のTIが微細化をやめたと言ってるんだぞ、俺たちルネサスはどうしたらよいというんだ?この発表以来、ルネサス中が大騒ぎになっている。」護送船団方式に慣れ、自分で考える事が出来なくなってしまった人が幹部では従業員もたまったもんじゃないだろう。

この40年間売り上げランキングベストテンに入り続けた企業はTIのみ、そして20年間としてもこれに東芝とインテルを含めた計3社しか無い。最近ではインテルすらも危ないと見られている。PCではマイクロソフトと組んで無敵のインテルだったがスマホ/タブレットへの変化を読めず、この分野では出遅れている。2012年スマホ用プロッセサーのシェアはクアルコムが36%、アップルが20%、サムスンが11%でインテルのシェアは0.2%しかない。

では日本の半導体産業が全滅かと言うとそうではなく、すり合せの部分では相変わらず強い。標準化、モジュール化はうまくいかず、インテグレートはうまいと言う零戦以来の伝統でもある。液晶テレビなんかも似たような傾向があるが。
車載用半導体で圧倒的なシェアを持ちながら交渉力を発揮できず低利益に甘んじたルネサスもちょっと交渉力があればもっと利益が高くてもおかしくなかった。

著者の指摘で最も重要な点は、技術では勝ったが販売で負けたのではなく、低価格化や量産化(特にスピード、コスト面で)という技術面で日本がサムスンなどに負けたと言うところだろう。ニッチの世界では匠の技もいい。しかしイノベーションを起こすには大きな市場を相手にしないとできない。技術の捉え方が狭かったということなのだろう。

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2013年12月05日

Posted by ブクログ

類似テーマの名著、山本七平の「日本はなぜ敗れるのか」に引けを取らない面白さとリアルなインプリケーションの深さと普遍性からいうとどの業界にいる方に対しても「今個人的に一番おすすめしたい一冊」。
2013年秋から妙にサムスン凋落を囃し上げる快哉が鳴り響いてはおりますが、結果論としての生き残った、生き残っていない、勝った、負けたというところで溜飲を下げているようじゃなぁ、と危機感をよけい強めてしまいます。日本の産業がどういう戦略(あるいは「戦い方」)を選ぶにしても、何が弱みでライバル企業はどう分析し、具体的に何をどうしたのかくらいは目をそらさずにいる勇気の有無を問われる内容です。喉元過ぎて熱さを明日には忘れてしまうんじゃないかしらん、とつながった首の皮一枚が明日もつながっているのか、飛び散った返り血はどんな痕を残しているのか・・・為替レートが「修正」されただけで浮かれてないで脳に汗をかかねばいけないなと反省いたしました。

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2013年11月29日

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元日立の半導体設計者である湯之上隆氏の最新刊。何冊も読んだが今回も本当に面白い。星5つ。

半導体、電機をはじめとする日本のものづくりが敗戦したのは、世の中の変化パラダイム・シフトに対応することができず、顧客の注文に忠実に耳を傾けるあまり、性能や品質は劣るが『安い、小さい、使いやすい』などの特徴を持った破壊的技術に駆逐される、いわゆるイノベーションのジレンマに陥ったことが原因であると指摘する。今回は、これが当初はアメリカの戦闘機を圧倒していたにも関らず、海軍の言うとおりの仕様である軽さを追求し過ぎたて撃たれ弱いボディとなり、最終的にはアメリカの戦闘機に負けてしまう零戦と同じであると斬る。DRAMも、SOCも、マイコンも、メインフレームやトヨタから要求される過剰な品質を満たしつづけ、遂にはコスト競争で駆逐されていったからだ。

勝ち組サムソンとマーケティング力の違いを比較して、彼らが最も優秀な人員をマーケティング部門に配属し、世界のあらゆる地域に1年間済ませ、現地を調査させ、現地目線のマーケティング戦略を組むことは有名だ。一方日本の会社はマーケティングを軽視しており、単なる市場調査や市場統計に終わっており、市場創造には繋がっていないという。模倣の特性を進化させて活かす能力を持つ企業を、模倣を意味する『イミテーション』と革新を意味する『イノベーター』を融合して『イモベーター』というが、まさにこれがサムスンにピッタリという。単なる猿真似だけでは生き残れるはずは無く、著者はイモベーター、サムスンを高く評価する。

最後に日本が生き残るための提案がなされている。元々日本の強みは、製造技術に競争力の源泉があり、すり合わせ技術、持続的技術が必要な分野で成功してきた。模倣力を取り戻し、イモベーターとして稼げと檄を飛ばして締めくくっている。

世界の半導体の巨人についてもまとめられている・
インテルの全CEOオッテリーニが、スティーブ・ジョブズが初代iPhoneのプロセッサの製造を依頼した際、まさかそれほど売れると思っていなかったため断っていたようだ。結局代わりにサムソンが製造することになり、サムソンの半導体は膨大な利益をあげた。自他共に認める『ファーストフォロワー』であるサムソンは、ここで模倣力を発揮し、『GALAXY』で世界ナンバーワンの売上につなげた。もしインテルが引き受けていれば世界半導体のパワーバランスは今とは違うものとなっていただろう。しかし、さらなる模倣を恐れたのか、アップルはこのiPhoneのプロセッサの製造をサムソンから台湾のTSMCに切り替えた。インテルはその後FPGAのアルテラののファウンドリービジネスをとった。サムソンは台湾滅亡計画の最後の対象としてUMCの次にTSMCのファウンドリービジネスをターゲットとしている。今後の、この3者の行方は目が離せないが、日本半導体の名前がでてこない。

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2013年11月16日

Posted by ブクログ

ネタバレ

日経新聞のレビューの評価が高かったので買った。実に面白かった。粗筋を急いで追って斜め読みしたので。二周目はじっくり読みたい。

なぜ日本の半導体産業は凋落したのか?が日立の技術者としての筆者の経験を交えて語られ。読みやすく、スピード感もある。敗北の要因は多岐に渡る。しかし、際立つのは日本全体に蔓延る「病理」とも言うべきものだ。それは、世界のマーケットを無視したガラパゴス気質であったり、高度技術に拘泥した、戦略と決断の欠如でもある。冒頭、「半導体の敗北はゼロ戦の敗北に重なる」と著者は指摘する。しかし、読み進める内に、その敗北はむしろ、太平洋戦争の敗北それ自体とも重なってくるように思われた。「リーダーシップの欠如」「戦略なき組織」。メーカーが事業提携、統合を繰り返し複数の頭が衝突し合う様は、陸軍と海軍の抗争と重なる。日本軍は、空軍という新しい組織を作ることができなかった。陸軍と海軍がどんなに戦術や開発を進めても、空軍の設立という全体最適は生まれてこなかった。日立やNEC、東芝といった大企業が各々の開発を進めても、時代の要請に応える大胆な戦略は生まれてこなかったのはそれに似ているように思う。各々の強みを組み合わせれば勝てたかも知れないが、それは叶わなかった。各社が迷走する内に、サムスンの大胆な投資戦略の前に敗れたのである。

日本企業の迷走に纏わる挿話は、悲劇の極みだ。ルネサスは「絶対に壊れないマイコン」をトヨタに納めた。しかし、その無謀な要求に応えた対価は、価格と利益率の猛烈な下落だった。トヨタが完全に「価格決定権」を握っていたからだ。まさに、下請の構造である。猛烈なエネルギーが、全く収益に貢献しなかったのだ。あるいは、生産性の話。「歩留まり」と呼ばれる生産性の指数を日本メーカーは限りなく100にすることを求めた。一方で、サムスンは80程度で妥協し、別の開発エネルギーを注いだ。80を90に上げるのは、80まで引き上げる労力と比べ途方もなく労力がいる。企業の目的は匠になることではない。効率性の追求と、それに基づく収益の追求である。戦略などという言葉を持ち出すまでもなかったのかもしれない。それは、優秀な学生が、相対評価のクラスの中でA+を狙って潰し合う様にも似ている。そうした優秀な人々が、再び企業の中で出世競争と開発競争に凌ぎを削って潰しあっていたのかもしれない。狹い会社、日本のマーケットの中で壮絶な自滅合戦を繰り広げていたのだ。

マーケティングの話も面白い。サムスンがインドで販売したのは、「鍵付き、予備バッテリーつき」の冷蔵庫だった。盗難と、停電がインドで多かったからである。サムスンは、それを日本の冷蔵庫の半額で販売した。聞けばなるほど、そしてとても単純なアイデアである。技術も要らない。鍵とバッテリーを取り付けただけなのだから。日本が負けたのは、こうした戦場だ。戦艦ヤマトが大砲を撃ち合う決戦ではなく、山岳地帯のゲリラ戦である。太平洋戦争の構図と全く一緒だ。世紀の技術の結晶は、戦場に投入されるまでもなく敗れたのだ。

他にも興味深いテーマは尽きない。例えば、半導体復活のために立ち上げられた数々の国家プロジェクト。何十、何百億という国税が投入されたが、それは尽く失敗した。参加企業の貴重な人員が非効率なプロジェクトに費やされた。本書に寄れば、開発テーマ自体がグズグズだったという。予算が下りたがテーマが決まっていない。一度決めたら変更できない。茶番の極みである。

そうした失敗への反省もなく、ルネサスは再び経産相の手に落ちた。産業革新機構で有る。ルネサスのマイコン技術を流出させたくないトヨタを、産業革新機構が国税を投じて支援する構図だ。ある意味、仕方のないことなのかもしれない。故障しない神のマイコンが敵の手中に落ち、価格が上がったらトヨタの競争力は失われるに違いないし、それは、確実に日本の経済を悪化させるだろう。もう、あと戻りできないのかもしれない。執念の技術を易く買い続けたツケが、彼らの怨念が牙を剥いているのかもしれない。アイロニーである。そして、そのツケを払っているのは、トヨタのユーザーではない人々までもが知らず知らずの内に払わされているのだ。

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2013年11月09日

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少し前にシャープが経営破綻したのは何故かということを調べるために、関連の本を数冊読んだ。シャープの場合には、液晶の事業経営の失敗が会社の破綻に結びついた。本書で取り上げられているのは、同じく電機業界であるが、主に半導体である。
かつて、日本の電機メーカーは、DRAMの分野で世界シェアの80%を占めていた。メモリーをやっていた会社も、東芝・富士通・NEC・日立・三菱電機と多く、日本の半導体事業はこのまま高収益が続くと考えられていた。
ところが、今や日本の電機メーカーのDRAMは壊滅状態であり、その後に参入した、別の種類の半導体、SOCでも日本メーカーは存在感を示すことが出来なかった。
日本の半導体でDRAM分野で負けたのは、DRAMの主な用途がメインフレームコンピューターからPCに変った時である。メインフレームとPCでは、DRAMに求められるものが異なる。メインフレームでは、性能であり、品質で、コストの優先順位は相対的に低い。ところが、PC用のメモリーはコストが最優先となる。日本のメーカーは、メインフレーム時代に製造していた、高品質・高性能、しかし、高コストのDRAMをつくり続け、負けていったのである。
DRAMから撤退した日本は、SOCという分野の半導体に進出した。これは、ASICと呼ばれる、アプリケーション・用途を特定したカスタムLSIであり、事業に必要なものは、マーケティングとシステム設計力であったが、ここでも、高品質・高性能の半導体づくりにこだわり、結果を出すことが出来なかった。
こうして考えると、シャープの液晶と同じように、結局は、マーケットの変化を事業に取り込むことが出来なかった、あるいは、もっとひどい言い方をすれば、市場を知らなかったことが敗戦の原因ではないかと思う。韓国のサムスンと、日本メーカーの違いを筆者は、「サムスンがマーケティングを何より大事にして、売れるものをつくるのに対して、日本メーカーはマーケティングを軽視して、つくったものを売る」と書いている。鋭い指摘であり、その通りではないかと思う。

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2022年11月14日

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ネタバレ

日本企業のDRAM全盛期時代に日立製作所に入社、その後エルピーダメモリに出向、日本の半導体産業に警鐘を鳴らし続けている湯之上隆氏の著書。

一言:サムスン強え(いろんな意味で)。ヤクザかよ…。
おもしろかった。以下学び↓

・日本の「イノベーション」=「技術革新」という認識が、イノベーションのジレンマに陥ることにさらに繋がる。
・サムスンは「売れるものを作る」。日本企業は「作ったものを売る」。
・インテルはイノベーションのジレンマに陥り、iPhoneの市場拡大を見誤り、iPhone用のプロセッサへの投資を断った。

サムスンは模倣で伸びた企業。NECからDRAM、iPhoneからスマホのノウハウ。そこにはグレーな点もあるが…。

はじめて知ったんだけど、サムスンとAppleは訴訟沙汰になってたのね。

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2020年09月12日

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日本の電機、半導体がどうしてここまで落ち込んでしまったのか、この本読んでよく分かりました。イノベーションは技術革新と訳すのは間違い、という出張も納得。テクノロジー>ビジネスという日本にありがちな価値観もこういう流れを助長していると思います。

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2016年07月26日

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日本には低コストでものを作る技術者はなく、過剰品質、生産の結果が今日の状況を作り上げたと感じた。またサムスンとの比較のなかで顕著だったことはマーケットインの志向が強いということ。優秀なマーケッターが各国にいることで、その先の顧客の生活習慣まで把握できる。マーケッターの数も桁違いであることや、意思決定が速いことも挙げられる。不良品ゼロ神話もなく、開発量産品体制も日本にはない。

その上で日本の強みは、製造工程の改善や、総合的な擦り合わせ技術、連続的な技術。例えば洗浄装置など暗黙的なノウハウの蓄積を要する分野。

模倣力も大切だと言えるのではないか。

イノベーションは技術力ではなく、マーケットへのインパクトで描画されるべきである点は教官した。

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2016年04月16日

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一方こちらは現場サイドのお話から。恨み節が多々含まれているものの、NECも日立も商売を気にせず自己満足の道に突っ走った結果終わるという心温まるストーリー。

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2016年03月13日

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自分の会社は半導体とは縁もゆかりもないが、妙に納得できて興味深かった。
・パラダイムシフトに付いていけなければ負ける。
・技術力とは単に高性能な商品の開発能力でない。
・イノベーションとは爆発的に普及した新製品。技術革新とは無関係。
・サムスンのマーケティング重視=売れるものを創る姿勢が成功の要因。
 一方で日本企業は作ったものを売ろうとする。
・価格支配権がなければ高シェアでも低利益
・無駄な性能追求が日本メーカーの弱点
・日本企業の強みは摺り合わせと継続的改善

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2014年06月14日

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日立製作所で半導体技術者として従事していた筆者が、創造的模倣能力を取り戻すことによりイノベーション(発明と市場との新結合)を起こすことの重要性を主張する一冊。メモ。(1)日本の成功パターンには以下の3つの特徴がある。①製造工程に競争力の源泉がある産業。TQCやカイゼンにより製造効率が向上し、競争力となる産業。②高度な摺り合せ(インテグラル)技術が必要な産業。多くの要素技術を組み合わせて総合的な摺り合せを必要とする産業。③持続的技術が必要な産業。(2)日本の半導体製造装置産業において共振化(共退化)が分野がある、日本が強い分野、大日本スクリーンの洗浄・完走、東京エレクトロンのコータデベロッパ、CMPの荏原製作所等、ハードウエアと液体材料のデリケートな組み合わせが求められる分野、目標が明確かつ繊細な摺り合せが必要な技術では強い。(3)イモベーター。対比するイノベーターは自ら生み出した現在価値の2.2%しか獲得していない。(4)模倣は起床で複雑な戦略能力。イノベーションそのものを生み出すのに必要な能力。(5)どんな技術も商品も誰かの幸せの役に立たねばならない。だから新市場が出来る前にはその幸せがイメージできる、問題の発明が出来ねばならない。…半導体と電機産業の再生の田縁には、経営者と技術者のエースが海外、新興国に滞在して問題を発明し、創造的模倣を発揮すること。

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2014年05月11日

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面白かった!
半導体の話が8割なものの、日本企業がなぜ海外企業に負けてるのかを的確にとらえていたと思う。
特に装置メーカーシェアと標準化、モジュール化の話は、半導体業界だけの
話ではなく、他業界にも良く当てはまる。
また、NEC系と日立系の技術開発の認識の違いや、担当工程割の違いなど、普段そちらの企業の方と一緒に仕事をする関係上、妙に納得する点が多々あった。

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2013年11月27日

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著者は、日立の半導体設計の担当だった人で、日本の半導体の衰退がなぜ起こったかを分析して、その理由を明確にしている。

産業のコメといわれた半導体(DRAM)は、成長が著しい分野だったが、過剰な品質の高耐久性のある半導体を出してある間に、低コストの安い製品に駆逐されてしまったことがよくわかる本だった。部分最適化は得意だが目的が不明確で全体最適化が不得意なことや、技術だけに特化した哲学をもつことは零戦以来の日本の伝統だとも言える。その意味では、これからどうするべきかの指針にもなると思う。

ただ、題名は零戦、テレビなども載っているが、内容は半導体のことが8~9割占めているので、そのつもりで読むとよいと思った。

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2013年11月26日

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日本のものづくりの凋落についての分析は説得力ある。いつも、湯之上さんの説は面白い。
無理に対策まで考えることなかったと思う。イノベーション(新結合)を模倣と言い換えてもな、、、。

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2013年11月05日

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エルピーダの話は、いくつかの合併を経験した僕の勤める会社にもあてはまる。異文化の融合って簡単じゃないものだ。日本企業はかつては自分たちも模写を通して成長してきたのに、今や模写される側。自身の強みを理解して、積極的に国際展開しないとダメですね。うちにこもっている場合じゃない。

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2014年05月02日

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ネタバレ

冒頭に著者の経歴が披露されている。京都大学大学院を卒業後、日立製作所で半導体の開発に従事し、その後日本の半導体産業の崩壊により、日立を希望退職した。
本来の自分の能力からしてこんなハズではなかった。自分は優秀だが、半導体に関わる経営者・政府がバカだから、こんな結果になってしまったという出だしに、違和感を感じるが、その後の話の展開はそれなりに面白い。
サブタイトルには「ゼロ戦・半導体・テレビ」となっているが、殆ど著者の体験に基づく半導体の話が中心である。

日本の半導体企業は高性能大型コンピュータで養われた高品質のモノづくりに、こだわり過ぎて、安価に作る事を忘れた。
サムソンは高品質を追究するのではなく、パソコン対応の汎用製品を安価に作る事を追究し、その結果が現在の日韓の差になっていると。

面白かったのは、半導体の製造工程について詳しく述べている箇所でした。
半導体製造装置は、よりミクロンの世界へ行くにしたがって、同じメーカーの製造装置でさえ機差(機種による差異)がかなり出るので、設計行程と量産工程との機種が違っていると、量産に移行するのにかなりの時間を必要とし、また歩留まりに影響する。

日立とNECの合併会社のエルピーダメモリは、それぞれ製造装置のメーカーが違っていたので、現場では大混乱を起こして、歩留まりが全然上がらなかったというのは、現場にいた人間ならではのレポートです。
また、半導体製造装置の露光装置で機差が少ないのはオランダのASMLで、今や完全にニコンに代わりトップシェアだそうです。

ただ、半導体各社がいくら発注者(この場合トヨタ等の自動車業界)の要求とは言え、コストや歩留まりを無視して、赤字でも欠陥ゼロにこだわったというのは、本当にそうなのだろうかという疑問が湧く。製造業に携わった者であれば、コストダウン・歩留まり向上は必須の命題で、著者の説明には納得がいかないのではないだろうか。

私は歴史的な円高が汎用製品でのコスト競争力をなくし、高付加価値ではあるが、汎用品のように大量生産出来ない分野へ行かざるを得なかった悲劇ではないだろうかと思うのだが・・・

では、これからどうするか?
著者はサムソンのように模倣に徹して安価なものを作ることに専念せよと。
過去の日本企業がそうであったし、マイクロソフトや過去にはローマ文明しかり。人類の発展そのものが、模倣であった。
そんな単純だろうかと、疑問を感じるが、「模倣で成功した企業は、オリジナルを凌ぐ解決策を見つけ出している」というシェンカーの言葉の引用が印象的であった。

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2013年12月26日

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日経の書評で見て。半導体のプロだけあって、その解説は面白い。が、他の部分は『イノベーションのジレンマ』をはじめとする他の本の受け売りが多い。サマリーとして何冊分もの知見が一冊で読めるのはいいが、それぞれの本に良さがあり、オリジナルを読んだ方がいいような。入門としてはいいかな。

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2013年12月01日

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