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Posted by ブクログ
2008年にミステリーズ!新人賞を受賞した作品を含む5編からなる短編集。初めて読む作家だったが、その素晴らしさに驚いた。
ジャーナリストとして世界を旅する青年が旅先で殺人事件に遭遇する。思いもよらない動機に驚かせられる。
美しい文章で、各地の風景が心に浮かんでくるよう。
やはり、受賞作品の「砂漠を走る船の道」が一番よかったと思う。
2編目の「白い巨人」は、謎解きはあるものの他の作品に比べて軽い感じで、全体の流れの中で違和感があったが、最後の「祈り」でつながってきて納得。
兼業作家だそうで、作品数は多くないようだが、他の作品もぜひ読んでみたい。
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旅とミステリー。5つの作品がおさめられている。個人的にはこれらの物語そのものに魅力を感じた。そこにミステリーの要素が加わり、より深いものになっていると思う。
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読み終わって、思わず溜息をついた。それは話がつまらないだとか、とんでもないトリックにどっきりした、とかではない。純真たるミステリー小説において、ここまで文章を美しく書けるのかと驚く、感嘆の意である。
こういうとなんだか語弊があるような気もするので大前提としていうと、もちろんストーリーそのものも面白かった。後付のようで申し訳ないが、ミステリーはミステリーとして面白くなければ文章がいくら美しかろうとよい作品とはいい難い。なのでストーリーが面白いのはあくまで前提。そのストーリーを彩るスパイスとして、文章の美しさがある。それにしてもこの作品にはそのスパイスがとびっきり効いていた。
主人公は海外に関する雑誌を発行する出版社に勤めいている斉木。その彼が取材として訪れる国の先々において巡り会う謎が物語を形成する。
中でも砂漠のキャラバンに襲いかかる連続殺人の謎を描いた『砂漠を走る船の道』、死後250年経っても死体の腐らぬ修道女リザヴェータのいる修道院で起きた悲劇にまつわる『凍れるルーシー』。この2つは是非とも読んで欲しい。読み終わったらつい溜息が出てしまうだろうから。ただ読まなきゃわからない作品価値が魅力のほとんどを占めているので、ストーリー紹介はこんなとこにしておこう。
この作品の何が凄いって、作者の文章力が織り成す色彩の豊かさだ。計5つの話が入っているのだが、これら全部の色が違う。色々な国々での、という設定がこれほど生きた作品はない。登場人物たちと共に思わず色々な国を探検した気分になるのは、脳内にその豊かな色彩のおかげで無意識にでも情景描写が思い浮かぶからだろう。
さらに肝心のミステリーのテイストも全然違う。古典派謎解きものから叙述トリック、人間の精神からなるちょっとしたホラーテイストまで上手い案配で配置されているからズルい。これがデビュー作品だというのだから梓崎優、恐るべし。
残念ながら、2016年現時点において、梓崎さんの作品はこの『叫びと祈り』と『リバーサイド·チルドレン』の2つしかない。しかしこれだけの文章力を持つ作家だ。いつかミステリー界を唸らせる大作を引っ提げて来るに違いない。それまでに、是非ともこの作品を一読してみては如何だろうか。
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海外の動向分析の雑誌を発行している会社に勤務する男性の、海外で出くわした出来事の連作短編ミステリ
海外の動向分析を主な内容とする雑誌を発行する会社に勤務する青年 斉木
NPOや政府関係機関も一目置く情報誌の質を維持するためには相応の取材が必要なめ
多言語を操る彼は海外を飛び回る生活を送っている
年間百日以上を海外で過ごす彼が巻き込まれた、様々な出来事の謎解きのお話
収録は5編
・砂漠を走る船の道
・白い巨人
・凍れるルーシー
・叫び
・祈り
砂漠のキャラバンに同行した際の連続殺人事件
風車に入って消えた人の謎
朽ちない聖人の遺骸調査への同行
エボラ出血熱と思われる感染症で滅びかかっている南米の部族
療養施設らしき場所に入院させられている「男の子」とその子を見舞う「青年」とのちょっとした推理ゲーム
ミステリなので、フーダニット、ハウダニットも描かれているけれども
この作品の特筆すべきところはホワイダニット
海外を舞台にしているのにもちゃんと理由があり
日本とは異なる文化、その価値観でしか成立しない意外性
部外者には理解できない、内なる人だからこその理由
そして連作短編集たらしめている繋がり
完成度高いなぁ
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おもしろかった。「凍れるルーシー」では、明確な解明がされなかったのが残念。すべて説明がつくような話だと期待してしまった。
ストーリーが短く次々読める。最終話だけは予想が当たった。
Posted by ブクログ
ジャーナリストである主人公が、取材に赴いた世界各国で遭遇する謎を描いた連作短編集。
梓崎優さんのデビュー作です。
ミステリ要素のみに着目すれば、少々物足りなさを感じてしまうかもしれません。
でも、その土地に根ざした文化や価値観が、謎と深く関わっているところに、他のミステリ作品とは一線を画する斬新さがあるように思います。
それに加えて、風景描写と情景描写の巧みさは新人離れした印象で、他の国々を舞台にした作品も読んでみたくなりました。
10年以上前の作品とのことで、今更シリーズ化するのも難しいかもしれませんが、物語としての整合性の高さと、ミステリの新たな可能性を感じる一冊だと思います。
Posted by ブクログ
サハラ砂漠、スペインの風車、ロシアの修道院、南米の密林など、世界中を旅しているかのような感覚になった。
その土地の空気感まで伝わってくるようだった。
5つの短編小説のうち、最初のサハラ砂漠とロシアの修道院が面白かった。
Posted by ブクログ
何かすっかりお馴染みとなった書き出し(^ ^;
「一応ミステリに分類したけど」(^ ^;
一冊通して、何とも「高貴な」印象を受けた。
テーマ、ストーリー、推理、人間模様、
そして文体や繊細な感性がにじみ出る表現。
すべてが「俗」を超え、神々しく光っている。
一応殺人事件が起きたりもするし、
「探偵役」による「謎解き」もきちんとある。
が、それは決して物語の主流ではない。
日本人には馴染みの薄い、海外の特殊な環境の中、
価値観やものの考え方がまったく違う人々との邂逅と齟齬
みたいなものが大きなテーマかと。
高貴な文体ながら、ハンマーで頭を殴られるような
インパクトの強い内容が次々と現れる。
謎解きが済んだらすっきりおしまい、というような
凡百のミステリとは一線を画す作品となっている。
一応は「連絡短編集」であるが、一話ごとの関連性は
ほとんど無い、と言える。
それが最終話で「環が閉じる」ようにつながってきて。
読者が「あ、そういうことだったのか」と気づくも、
本文中に「あからさまな答合わせ」を書かない。
それもまた「粋」である、と思った。
ミステリの形態を取りつつ、純文学であり、
私小説的でもあり、またある意味詩的な側面も持つ。
読み手の力量を試されるかのような重厚な一冊。
これがデビュー作とは、本当に末恐ろしい(^ ^;
ちなみに、初めて読んだこの作者の作品は、
高校の同窓会を舞台とした全く毛色の違う一作で(^ ^;
もっと軽くて「読みやすい」感じではあったが、
意外な展開に驚かされ、再読してみると
周到な伏線に気づくという秀作で(^ ^
何という奥行きの深い人であろうか。
これからも是非追いかけ続けたいと思います(^ ^
Posted by ブクログ
5章立ての短編集で、同じ主人公を持つ以外、物語間のつながりは殆どなし。で、舞台となる国もそれぞれが異なる。更には、その文化に住まう人間ならではの事件が用意されていて、設定の巧みさに舌を巻く。さりげない情景描写も美しくて、無理なその世界観にいざなってくれる。最終章で、主人公自身が救われる祈りも素敵。うち3章では殺人も起こるし、広義のミステリであるには違いないけど、文学性の高いものだと感じました。
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世界をまたにかける語学堪能なジャーナリスト。まぁたいがい日本人でバリバリ外国語をしゃべるって時点でなんかイラッとしますね。何故なのか。やはり日本人なら日本人英語をしゃべるべきではないか、という謎の先入観があるからでしょうなぁ。まさに出る釘を打つという日本人の精神。
しかしこの出木杉君みたいな男の行くところ行くところ、事件が起きる!コナンや金田一ばりのトラブルメーカーなわけですね。というか死神です。こういういけすかないやつには酷い運命が待っている、という神様はちゃんと見てるんだな、とほっとしますね。でもそんなひどい目にあってもイチイチ哲学臭いというか、あれですな、中二病?的な難しい話をすぐ持ち出すから、やっぱあいつは鼻持ちならないなって言われるわけですよ。
でもまぁ読書家たるもの、これくらいの御託を並べている本の方が読んだ感があって良いのです。
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このミスベスト10、2011年版3位、本屋大賞2011年6位。良質の小説。独自性の高いテーマ、意外性のあるストーリー、高尚な文学的表現、工夫を凝らした構成。連作短編集だけど全体が一つのストーリで構成されてる。お話も面白く飽きさせない工夫があるのですが、自分にとっては少しリズム感に乏しく、一気読みといった感じではない。こんなのが好きっていう人もいると思うけど、若干難解で読みにくい。読んでるときに意識を失ってしまうこともたびたび。村上春樹とかも毎年文学賞候補なるぐらい文学的だと思うんだけど文章はとても読み易いですよね。もう少し平易な文章で文学的な香りを出してもらえるとありがたい。まあ、こういった丁寧に作られた本は、読む方ももう少し落ち着いてきちんと正対して読めばまた異なる感想になったかも。細切れの隙間時間にバタバタと消費するような読み方ではもったいなさすぎるのかも。特に最近は何かとバタついてたし。
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異国ならではのホワイの種明かしと犯人絞り込みの過程が面白い。解説にある通り現地に行かずに読んでいて違和感を感じない舞台を作り上げる力が凄いなぁ。謎のアレコレは気になれどある男女のお話とスペインのとある街に伝わる昔話が交錯する『白い巨人』が好き
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学園ミステリアンソロジー『放課後探偵団』の「スプリング・ハズ・カム」がよかったのでこちらの短編集にも自ずと手が伸びる。
「砂漠を走る船の道」や「叫び」における限界状況におけるホワイダニットという切り口、視点というのはなかなかに面白いが、前者の解に感じた痺れるような切れ味が後者には感じられず、物足りなさがある。「砂漠を」のクオリティを期待していたが、ほかがもうひとつだったかな。「砂漠を」も、動機の部分はおもしろかったが、倒叙トリック的なものは不完全燃焼感が察せられてしまったこともあるけどそれを差し引いても今一つおもしろさに繋がっていないような。全体的に現実離れしているように思える異国の地を舞台にして幻想的かつ旅愁を誘う雰囲気は味わいがあるだけに期待値が高くなってしまった感がある。
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・砂漠を走る船の道
んんん、これはどうなんだろう。
意外性はあった、けれど。
最初の出だしが素敵だっただけに、残念な気持ちの方が大きいかもしれない。
・白い巨人
んんん!本当に素敵な文章!先が気になる話の進め方、雰囲気大好きなのに!
最後が残念すぎる。泣いてたから気づかなかったはさすがにない。
サクラの発想は素敵。ブルーのサングラスのせいか、斉木が妙にかっこよく感じる。
・凍れるルーシー、叫び
これは面白かった。いい意味でぞわぞわする。
・祈り
んんー。どういう状況なんだ?と先が気になって読み進めたけれど、最終的に特に驚くことはない。
全体的に世界観、描写、雰囲気は素敵すぎる。かなり独創的であるところはとても好き。
だけれど、ミステリーとしてはどうなんだろう。凍れるルーシーと叫び以外は、途中までが面白いが故に、結末に物足りなさがあった。
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短編ですが、どの話も重厚で文章が綺麗です。
どれから読んでも大丈夫ですが「祈り」だけは最後に読みましょう。
個人的には「白い巨人」がおすすめです。
Posted by ブクログ
作者のデビュー作らしく、表現が固く描写に技巧を使い過ぎ、非常に読み難く場面をイメージしにくい。5作とも舞台が世界中の各地(中東、スペイン、ロシア、ブラジル、)となっており、余計知らない世界の描写のためイメージできない。
ただ第5回ミステリーズ!新人賞を受賞し、綾辻行人や有栖川有栖から激賞されたという一番最初の『砂漠を走る船の道』や『白い巨人(ギガンテ·ブランコ)』は、読んでいて自分が勝手に思い込んでいた想定を見事にひっくり返され、やられた感はあった。
また最後の『祈り』は、前4作に登場する斉木が精神病院(?)で、自分が世界中で経験したジャーナリストとしての体験を失われた記憶として記録したものと言う意味でまとめているようだが、やっぱりよく分からない。
Posted by ブクログ
砂漠を行くキャラバンを襲った連続殺人を始めスペインの風車の丘、ロシアの修道院などひとりの青年が世界各国で遭遇する数々の異様な謎を解き明かしていく。
なんとも不思議な雰囲気の話。
最初の「砂漠を走る船の道」はミステリーとしてとても面白かったが他は微妙。
謎解きというより異国文化を描いた作品。
Posted by ブクログ
結局は最初の引用文に尽きるのかな。
"だいじなのは、お話の裏にこめられた意味なんだよ"
まず連作とは知らずに読み始めたので、「砂漠を走る船の道」の舞台に感動して、重厚な話であるといいと期待して臨んだら、割と早くに終わってしまい、気持ちがちょっと萎んだ。
メチャボも犯人も手がかりをたくさんくれていたので「!!」となることはなく、とにかく読後の印象はラクダと砂漠である。それは凄くいい。もっと読みたかった。
「白い巨人」のサクラもあからさまだし、彼女が生きてるのもかなり示唆してくれてたし、何よりフェイクの話で冒頭の引用文の存在感が増した。わかりやすいのはデコイで裏があるのかな、と。
「凍れるルーシー」「叫び」からタイトルが気になりだして「祈り」で森野が出てきてヨースケなんだろうなと思ったときに、いよいよわからされてる感がして、洞窟クイズのように現実は正解がなく、フェイクに動機がどうの解明にあーだこーだと言ってることへの皮肉なのかな?と思ったけれど、よくわからなかった。
情景の描写が綺麗で連作もきれいに纏めた印象だけれど、結局裏の意味は私にはわからなかった。
「叫びと祈り」は斉木の心情ではなく作者さんの心情なのかな。
時を置いてまた読めばわかるかな?
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連作集。最初の仕掛けは面白い。これもある種の密室、そしてミスリード!しかしその後、ちょっと雰囲気に凝りすぎて、ミステリの部分はむしろ意味不明、読後モヤモヤする話が続く。最終話に少し揺り戻しがあり、紀行ものとしてファンタジーを楽しんだことにする。
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先の気になるストーリーも相まって、とても読みやすい。
日本ではないどこかの、文化や風土に基づいた謎解きということで、
非常に面白く読んだ。
しかし、最終章”祈り”の位置づけは、とあるサイトの解説を読まないと理解できなかった。
この1冊が、最初は探偵役であった主人公が、自分の理解できない何者の存在に心情を打ち砕かれていく
という構成だったとのことで納得。
Posted by ブクログ
ミステリーの醍醐味って、やはり自分で犯人やトリックを推理する事だと思うのだけど、そういう意味ではこの短編集は不親切というか、「そらわからんわ…」という話が多くて…。まず話の前提が特殊(ほぼ海外、しかもその土地の文化に根ざす動機)で、さらに一人称の叙述トリック的な要素もあり…考えることが億劫になるミステリーだったなぁと。「そうだったのか!」というアハ体験が無いというか。ミステリーとして読まなければもっと楽しめたかも?
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惜しいかな、最初の『砂漠を走る船の道』なんかミステリーを超えたゾクゾク感があって、期待値が一気に上がってしまったけれども、その後の収録作がもうひと押し足りない感あり。
でもデビュー作ということを考えれば十二分なのかもしれない、異邦の地の設定が無理ないし。惜しむらくは微妙に言葉選びに違和感があったかな。特に「蓋然性」。砂漠の民の生きた表現ではないよね、流石に。
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受賞作がやや作為が目立ち、「白い巨人」が好きなタイプでなかったので途中で放置していたが、「凍れるルーシー」と「叫び」は評判通りとてもよかった。
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旅小説とミステリの融合。乱暴に言ってしまえばそうなるんだけど、短編として一つ一つのクオリティが高い。
連作として、「叫びと祈り」に見事に収束する素晴らしさ。
衝撃的というより、じわりと胸にくる。
文章が洗練されているからでしょうか。
ただ、ストーリーにあんまり厚みが感じられない。
本格好きにはいいのでは。
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「斉木」という青年が世界各国で遭遇する異様な謎について書かれた4つの短編と,その後日談が書かれた短編集。文章が詩的であり,好きな人にはたまらないんだろうけど,あまり肌に合わなかった。
「砂漠を走る船の道」,「凍れるルーシー」及び「叫び」は,動機に焦点が当てられた作品。いずれもその異様な動機は,心に残る。「白い巨人」は,日常の謎風のミステリだが,スペインが舞台であり,叙述トリックにより主人公がスペイン人であることが伏せられている。「白い巨人」は,サクラと表記されているスペイン人男性とアヤコという日本人女性の恋の話で,読後感がよい秀作。
白眉は,「凍れるルーシー」。生ける聖人だった修道院長であれば死体となっても腐らないと考えて殺害したという動機も驚愕だが,聖人リザヴェータの腐らない死体が消失したのは,聖人リザヴェータが復活したという真相がなんとも…。ジョン・ディクスンカーの火刑法廷を思わせるラストが秀逸。
ただ,5作目の「祈り」がイマイチ。読解力があれば名作なのかもしれないが,詩的な文体の読みにくさも相まって,なにが言いたいのか分かりにくく,楽しめなかった。トータルでは★3かな。
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世界一周異文化交流ツアーみたいな設定 新鮮感がある。
砂漠の物語は自分なりに一番好き、特に動機の部分がすごく衝撃を受けた覚えはあった。
他のは少し物足りないような気がするけど、どうかな・・・
Posted by ブクログ
連作短編集。
ジャーナリストの斉木が各国で出会う謎を、旅情感たっぷりに魅せています。
異国の文化が思わぬ展開と結びつき、驚きとともに人間の奥深さを感じる良作。
文学的な良い雰囲気の作品だったのですが、トリックの技巧を意識しすぎている印象もあります。同じようなパターンが何度も続いてちょっと食傷気味にもなりました。
ネタバレ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
【砂漠を走る船の道】砂漠という厳しい環境下での旅の最中、突如起こった殺人事件。なぜ今、この状況で殺人が起こったかというのが一番のポイントになっています。
取材で同行していた日本人・斉木の混乱しながらの推理と、砂漠の旅の過酷さが相成って緊迫した雰囲気が良いです。
真相に驚き、更にピンチから一転する展開に興奮、ラストには爽快さも味わえました。
この状況下ならではの動機はかなりインパクトがありおもしろいです。
しかし、単に目印ならば一番親しくない斉木をまず殺害するのではと思いました。説得できないことを見越して手強い相手からやっつけたのかな?
【白い巨人】「キオクニゴザイマセン」の使い方が上手いです。とぼけた棒読みの表記かと思いきや。
過去の兵士と女性の消失事件と、サクラの傷心を語りながらのスペイン散策の描写が切なく美しい。
兵士パズルの推理合戦と相成って消失事件が語られますが、こっちの方はちょっとイマイチ。
【凍れるルーシー】突如明らかにされる殺人事件にびっくりしました。
とはいえ、猫の鳴き声だけで殺人と決め付け問いただすのは性急な気がします。
オカルト要素を残したラストのその後が大変気になります。
【叫び】エボラ出血熱により壊滅状態となった村で、さらに起こった連続殺人事件。感染病の恐怖の中で殺人事件まで起こるという混乱と緊迫感には身の毛がよだちます。
斉木の常識・良心・倫理が揺らいでいく様も怖いです。
アシュリー医師と斉木の推理合戦の内容も凄まじい。どちらも返り血を防げるという点で推理していましたが、それが返り血を気にする必要はなかったという真相に行きつく流れがおもしろい。
この動機を文化の一言で片づけられるのかは疑問ですが、斉木とアシュリー医師の成す術もなくうなだれる姿には胸が痛みました。
【祈り】これだけ凄まじい事件を経験していれば、精神が病んでしまうのも無理はないかも。
これまでも叙述トリックが多用されているので、斉木と森野の正体には気づきやすいものの、斉木の病みと森野の友情がよくみえます。
「祈りの洞窟」の解釈によって心情を映し、これまでの事が斉木にどう影響を与えたのかの総括になっています。
旅情ある雰囲気とは裏腹に凄惨で衝撃的な内容の本作ですが、最後には文化の違いを超えた人間の本質を見つめる希望ある締めとなったと思います。