【感想・ネタバレ】馬の世界史のレビュー

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Posted by ブクログ

馬の観点から世界史を捉えた作品。著者は競馬好きの古代史研究者。
ユーラシア北方の森林・草原地帯を原住地としたインド=ヨーロッパ語族の諸民族は、同じく草原地帯に住む馬を飼い慣らし戦車を引かせ、やがて周辺地域へ移動するにつれ、馬の家畜化・軍事利用が世界に広まっていったという流れ。
中世以降は弓や火器が戦場を支配し馬の役割は馬車などの運搬に移り、さらにそれも蒸気機関の発明により、今度は娯楽としての競馬へと移っていく。

匈奴やフン族といった遊牧民は文字史料が少ないため世界史における存在感は薄いように見えるが、しかし中国や中東、東欧との交流・侵攻が、それぞれの文化に与えた影響は大きかった。非常に面白く読めた一冊。

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2023年02月04日

Posted by ブクログ

もし馬がいなかったら、21世紀はまだ古代だったかもしれないという筆者のアイデアが衝撃的だった。社会のあらゆる分野で人に使われて、世界史を動かし続けた馬は健気で大好き。今度の有馬記念は、馬と人間の歴史の一つの到達点でもあると思うと、ワクワクする。

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2022年12月15日

Posted by ブクログ

 馬にフォーカスして世界史を捉え直す本。馬の家畜化から始まり、アケメネス朝ペルシアやらフン族やら中国北部の騎馬民族やら、世界史には馬を巧みに操った人々の影響が常に存在したことを書いている。これを読むと馬を見るだけで歴史に思いを馳せることができるようになるのでおすすめ。カウボーイが乗ってる馬を見て「アメリカ大陸では紀元前1万年頃に馬が絶滅してるから、あれはヨーロッパから移住してきた人が一緒に連れてきた馬の末裔なんだな」とか。
 著者は競馬好きらしく、そのせいか産業革命以後の話がかなり競馬に偏っていたのがもったいない。第一次世界大戦の頃にも軍馬が用いられていたが、そのことについては一切触れていなかったりする。

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2021年09月24日

Posted by ブクログ

面白いな、これ。
馬と人類の歴史的な絡みを通史だけでなく、独自の視点でまとめています。
何も全てを欧州の視点で世界史を俯瞰せんでもいいというのは、その通りと思うし、それに馬が果たした役割、という視点が面白いですね。

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2020年08月10日

Posted by ブクログ

「馬の世界史」本村凌二さん。2001年の本。中公文庫。



題名の通り、「馬」という断面で眺める世界史のお話です。前々から気になっていて、なんとなく読んでみました。

●どうやら、「馬」というのは、色んな似た生き物の突然変異のようで。人間と共生しやすく出来たので、繁殖して増えたそうです。従って、もしかしたら現存する全ての「馬」の先祖というのは辿って行くと、突然変異したただ1頭の「馬」に行きつくのかも知れない。ある意味、万世一系な訳ですね。(まあ、でも生き物は全部そうとも言えるのですけれど)
ちなみに、今現在「馬」というとほとんどがサラブレッドという種?な訳ですが、サラブレッドも辿って行くと、2~3頭の名馬の子孫たちだそう。

●馬は恐らく初期には「放牧業をするうえで、便利な道具」だったのではないだろうか。遺跡とかを見ていくとそのようだ。

●今のモンゴルとか中央アジアあたりの放牧系=騎馬民族が古くから巧みに馬を使って、強力な戦闘能力がありました。そして、この人たちは長い間「文字」を使わなかった。だから、今残っている歴史では、彼らはほとんど「悪=エイリアン」としてしか描かれていないけれど、それはかなり一方的な見方。

●ヨーロッパの歴史も、中国の歴史も、この騎馬民族との対立や融和が歴史の大きな流れを支配している。司馬遷の時代から「匈奴」と呼ばれた。いわゆるシルクロードや東西文化の混合というのは、彼らの活動に依拠しているし、「尊王攘夷」みたいな思想もそこから生まれている。世界史への影響力は巨大である。

●この遊牧民たちは、経済生活上、「巨大な国家というグループ」を作る必要が無かった。だからそういう仕組みがなかなかできなかった。チンギスハンなど、個人としての強力なリーダーが発生すると、イッキに想像を絶する武力集団になり、向かう所敵なしで世界を制覇してしまった。でもそのリーダーシップが無くなると、また元に戻る(笑)。

●一方で、ローマ、ギリシャなどは地中海=船舶の文化であり、馬に大きく依存しなかったようだ。

●ところが、馬=騎馬民族の影響は避けようがない。4世紀ごろの「ゲルマン人の大移動」が世界史のベースになっているけれど、これはもともとはゲルマン人の縄張りに騎馬民族、フン族が襲ってきて、まったくかなわなかったから。

●ハンガリー、という地名は「フンの国」という意味が元々あった。

などなど...それなりに「へええ」と面白かったです。

馬という武力を手に入れたものが権力を握ったり、「馬車」というものが交通や流通や情報網を作ったり。
いかにどれだけ、近世まで「馬」が大事だったか。名馬が貴重だったか。

みたいな、よもやまと薀蓄が、なかなか冷静に俯瞰的に語られています。誘われ、頭の中を騎馬民族と馬車が走り回っている間に、原始時代から20世紀までの概略が走馬灯のように、パラパラ漫画のようにスピーディーに進む、不思議な読書でした。



本村さんという学者さんは、どうやら古代ローマ辺りが専門だそう。専門の方の本も一度読んでみたいものです。
それにしても、やっぱり馬が好きなんだろうなあ、と思っていると、末尾にご本人が「とにかく学生時代から競馬に魅せられて...」と熱い思いを吐露されていて、素敵な感じでした。

こういう、「とにかく好き!」という情熱って、私心が無いというか(笑)。チャーミングだなあ。

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2017年08月14日

Posted by ブクログ

世界史において馬が果たした役割と、その中で人が馬を如何に活用し変えていったかに着眼した「馬」切り口の世界史。

著者は言わずと知れた古代地中海史の大家だが、無類の競馬好きでもあるらしい。(冒頭からネアルコ、リボーという競馬ファンなら誰しも知っている名前がちらほら)
そこから想を得ての著作らしいが、大変に興味深い。

まず、馬が家畜化されたのはいつからか、そして初期に飼いならされた馬はどのように活用されたのかを説くところから始まる。
次第に騎乗の技術や戦車を発明した騎馬遊牧民が活躍する時代になり、人々の歴史に「速度」が持ち込まれる。
情報や文物は今までにない速度で伝播し、人々の活動領域も広がる。文明は急速に広まりを見せ、今まで不可能だった範囲での活動を可能にしたし、より遠くへと人々の探究心を刺激した。
そして騎馬遊牧民の脅威に対するカウンターとして、都市や国家、帝国や軍隊の発展が誘発される。
そのうちに馬は、農耕や軍務だけでなく、娯楽や日常生活の友としても活躍するようになる。
しかし、遠洋航海技術が発展を見せる15世紀ごろから次第に馬が果たす運搬や軍事における役割は縮小し始め、火砲の出現によってその方向は決定的になってゆく。
上記の流れの中で、馬種の改良にも人々は意を砕き、それぞれの時代に求められる役割に応じた品種改良を重ねてきた。
この努力からか、軍事や運搬における役割が縮小した後も、イギリスを中心に競走馬(サラブレッド)の熱心な改良を経て、今現在も世界中で競馬は愛され続けている。

このように馬は人間の歴史に如何に巨大なインパクトを残したか。著者は、馬がいなかったなら21世紀の現在も我々は古代のような生活を送っていたに違いない、とさえ言ってのける。

世界史の通史を中央アジア中心に眺められるし、「馬」という切り口の世界史が思いのほかに示唆に富んだ見方であるという発見もあるし、何より著者の馬に対する無上の愛に溢れた生き生きとした筆致が、実に楽しい読書体験を約束する秀逸な一冊。

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2015年10月27日

Posted by ブクログ

馬を切り口にすると、世界史の流れがより鮮明に見えてくることに驚いた。アメリカ大陸はウマ科の化石の宝庫だったが、1万年前に氷期が終了すると絶滅した。旧大陸でも、家畜化される前の馬は狩猟の対象でしかなく、絶滅しかけていた。

ウクライナのドニエプル川西岸にあるデレイフカで52頭の馬の骨が発見されており、BC4000年頃には馬が飼育され、騎乗されていた可能性もある。その西にあるトリポリエでも、BC3000〜BC1700年頃まで家畜馬の骨が発見されている。BC2000年以降は南ロシアや西アジアが乾燥化して草原が広がったため、家畜の中で馬の占める割合が増えた。

メソポタミアでは、BC3000年紀からロバが使役され、荷車が用いられていた。西アジアにおける馬の出現は、インド・ヨーロッパ語族の人々の進出と重なっている。BC2000年紀初頭にはアナトリアやシリアから出土する印章に戦車が登場しており、ミタンニ人が用いたと考えられている。東アジアでは、BC3000年頃に始まる竜山文化の頃から馬の家畜化の形跡が見られる。殷の後期(BC14世紀〜BC11世紀)から車両が出土しており、西アジアから伝播したと考えられている。

最古の騎馬遊牧民が記録に登場するのは、インド・ヨーロッパ語系のキンメリア人で、前8世紀にスキタイ人に追われて南ロシアからアッシリアに侵入し、アナトリアに移住した。前6世紀に成立したペルシア帝国は、早期にネサイオン馬の産地のメディアやアルメニアを領有し、騎乗が普及したことにより「王の道」と呼ばれる国道と駅伝制が設けられた。

東方ユーラシアでは、前4世紀頃に匈奴、月氏、サカなどの騎馬遊牧民が姿を現す。中国では、戦国時代を迎えた頃から騎兵が戦場に現れた。秦は、周王朝が東方に遷都した時に助けた?(えい)に由来し、馬や家畜の飼育に携わる部族だった。モンゴル高原から中央アジアには、鮮卑、柔然、突厥、ウイグル、契丹(キタイ)、西夏、金などが現れ、中国を圧迫したり征服したりした。13世紀に建国されたモンゴル帝国は、馬を集めた駅を全土に1万以上設けて交通・通信網ジャムチを敷いた。

ヨーロッパでは、馬は多くの穀物を必要としたため農作業には用いられなかったが、11世紀頃に三圃農法が導入されて穀物生産が増えてから馬が農耕でも使役されるようになった。

日本では、高句麗の積石塚の墓つくりが長野や山梨に多く見られ、牧も多いことから、高句麗系の人々が馬の飼育文化を持ち込んだ可能性が高い。

馬は、ジャレド・ダイアモンドの「銃・病原菌・鉄」でも、文明に果たした役割が強調されている。家畜化は比較的新しいから、容易ではなかったことがわかる。「新大陸」をヨーロッパ人が占領できたのは、馬もひとつの要因だった。アメリカ大陸で馬が絶滅せずに家畜化されていたら、あるいは、ユーラシア大陸で家畜化が断念されていたら、世界史は全く違ったものになっていただろう。馬に限らず、動物が人間の生活に大きな影響を与えてきたかを改めて学ぶことができた。

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2018年10月31日

Posted by ブクログ

なるほど科学と統計抜きで世界史を語るとこうなるのか。第1章の書き出しからして「この一万年間に、地球には4000種ほどの哺乳類が棲息していたという。」なんだから程度が知れる。

馬の進化の系譜や他の哺乳類との比較もないが、いかに戦争で用いられ、いかに騎馬民族が世界を席巻したのかが物語として語られる。

学ぶためではなく、楽しむための一冊としてであれば、悪くない一冊ではある。

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2018年10月20日

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