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Posted by ブクログ
太平洋戦争終結時に敵国日本がどのような態度に出るかを予想するために、アメリカ軍情報局が文化人類学者に指示し編纂された軍事報告書が元になっている本書。
当時、アメリカ軍は不可解な敵国「日本」に困惑していた。
最高の礼節を身に着けている にもかかわらず 思い上がった態度の大きい国民である など、これほど「~にも関わらず」という言葉が多用された民族は他にない。
極めつけは、戦争終結前に国民の大半が徹底抗戦を肚にくくっていたのに、戦争が終結するや否や、進駐軍に笑顔を振る舞いている。
この急激な態度の変化にアメリカ軍は面食らった。
以上のような状況を踏まえ、日本人がそのような態度を取るもしくは取り得る文化的背景を解明し、今後の占領計画に反映するというのが本書制作の背景である。
内容は
・戦時下の日本
・応分の場を占める事
・明治維新
・過去と世間に負い目があるもの
・万分の一の恩返し
・義理ほどつらいものはない
・汚名をすすぐ
・「人間の楽しみ」の領域
・徳目と徳目の板挟み
・鍛錬
・子供は学ぶ
・敗戦後の日本人
で構成されている。
ルース先生自身、日本に来ることなく本書を書き上げている。
よって日本人からするとさすがにそこまで社会的圧力によってばかり生きているわけではないよ。
と反論したくなる部分はあるものの、中にいるからこそ
見えない視点も多く、学ぶところの多い書だった。
70年近く前に書かれた本だけあって、現代日本人に当てはまらない部分も多いが、当てはまる部分もある。
私たち日本人は大きな変化を経験したが、完全に入れ替わったわけではない。
日本人という民族として連綿と続いていると改めて実感した。
だからこそ、悪習も残ってしまっているのだが。。
以下、簡単な論旨。
・日本は古来、階層社会である。
・侵略戦争を経験しなかったため、周りとうまくやり、役割を回すことが生き延びる上で最善であった。(だから土着信仰である神道が今に至るまで根付いている)
・社会構成員にとって重要なのが「義理」と「恥」である。
・社会的規範を遵守する外への義理がある。基本的には恩の授受をバランスよく行う事と、義務を果たすことである。
・もうひとつ、自分の名誉を守る内への義理がある。これは強烈な攻撃性を発揮してでも守らねばならない。
・以上の義理を守れないものは「恥さらし」「恥知らず」として最低位の非難を受け、これは母集団からの排除につながる。これは個人的な死より恐ろしい。
・このように制約ばかりであるが、人間的な楽しみで義務に反しない限りは大いに自由が認められている。
・ある義理が義務と対立するとき、注意深く両方の義務を全うするか、片方の義務を全うできなかった責務を受け入れる(自害)のが美徳とされた。
・目的が明確でない苦難を日本人は「修行」という見方で捉え、何をするにも役立つという見方をすることにより耐えている。
【ここが一番大事】
・日本人は幼少期に自由で奔放に育てられる。だから家族が大切な拠り所になる。
しかし家族は同時に義理や義務を強制する。それを放棄すれば居場所を失う。その恐れから困難な義務や義理を受け入れる。
・この自由奔放な幼少期と緊張と規律ばかりの青年期の大きなギャップが日本人独特の2面生を形成する元となっている。
以上の理屈を現実に応用すると、過去の振る舞いもだが、現代日本人の振る舞いにもある一定の説明が付く。
最後にしびれたのが表題。
菊から制約となる針金の輪を外す
錆に侵されやすい身内の刀を錆びつかせないよう
作者の一番の願いが表題に現れていました。