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デビュー作といわれる「あやかしの鼓」も収録された一冊。
「氷の涯」を読んでいるときは、それこそ中島河太郎の解説にあるような「大衆読物視された作品」にすぎないような気がしていたけれど、表題作「押絵の奇蹟」を読んでからはもう全然違って、やはりロマンと推理の複合的怪作を描かせたら夢野久作が一番、という感を新たにせざるをえない。
「押絵の奇蹟」にせよ、「あやかしの鼓」にせよ、それは『ドクラ・マグラ』に通ずる「出生の秘密」×「言い伝えの秘密」×「自我の秘密」をめぐる推理と夢想の境地であり、これを頭脳明晰、あるいは技能随一の登場人物が喝破看破しまくるところがたまらない。もちろん彼ら彼女らは終局的に、左記の「三密」にうなされ、惑わされ、自らの揺らぎに耐えられなくなるのだけれど・・・。
夢野久作文学に多い手記調の魅力は「語り手への信ぴょう性」をめぐる文学的「信頼」のおきどころだと思う。果たして主人公は、あるいは手記の書き手は、あるいは「神の視点」までも・・・、誰しもが本当のことを言っている(書いている)とは限らないから、自分の読みが正しいかどうかを終始疑わなければならない。そのことが敷衍していくと、自らの記憶、自らの思考体系、ひいては自らの存在意義までもが揺さぶられてくるというのが、夢野久作文学の醍醐味といえよう。
「『ドクラ・マグラ』を読むと精神に異常をきたす」というのは左記のような揺らぎから考えると至極当然のことで、僕たちはこの文学的ダイナミズムの対流に、そして人類が永劫のかなたに抱える「大記憶」のロマンに、全身全霊でぶちあたっていかなければならないのだ。「読み」という行為の髄の髄までためされるようなスリルと覚悟。それこそが、夢野久作を読むということなのだ。
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知らぬ間に角川文庫に追加されていたので読んでみた。短編3つでいずれも主人公の告白文のような形式で綴られている。
蠱惑的な女性の存在感は他の作品の方が強い気もするが、主観で語られる故の真実か妄想かわからないまま進む物語はドグラ・マグラに通ずるようで面白い
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高校時代に熱愛した怪奇幻想小説。
米倉斉加年の色っぽい表紙が魅力的だ。
久作の「押絵の奇跡」、「ドグラマグラ」、乱歩の「押絵と旅する男」、正史の「かいやぐら物語」「真珠郎」がドストライクの趣向だった。
これらの作品で、で自分の嗜好の方向性が決定付けられた。
「不義密通!」と叫んで妻と娘を斬り殺すところに江戸の残滓を感じたが、本当に不義密通があったのか、それとも胎教による影響なのか、結論を宙吊りにしたまま物語は終わる。
夢野は一人称語りを得意としているが、本作も手紙体の一人称語りだ。
夢野はこのスタイルをエドガー•アラン•ポーからの学び、多くの一人称小説を生み出していく。
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個人的に好きなのはあやかしの鼓
氷の涯はなんだろう…最後がめっちゃ良かった
「もし氷が日本まで続いていたらドウスル……」
これから心中するのに冗談言って笑ってるの、良い。
死ぬことに怖さを感じてないし生きることにも楽しさを感じてなさそうな感じがして…
押絵の奇跡は、あの…結局トシ子ちゃんと半次郎さんは決定的に「兄弟」って決まってるわけじゃないんだよね…?それなのにこんな手紙送ってるの狂気でしかない。すき。
あやかしの鼓〜ッ!!!妻木さんで私を破壊してきた。ストーリーもさることながら妻木さんよぉ〜いいキャラしてるぜあんた。
個人的な想像で妻木さんの見た目描いちゃおうかな
あやかしの鼓は全体的になんか暗くて(?)すんごい私好みだった
もっかい読みてぇよ…
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「氷の涯」
日本陸軍歩兵二等卒、上村作次郎がハルビンで起こした事件とは。舞台もわかるし話もドラマチック。だが、上村と一緒に逃げたニーナという娘の独白みたいなものが10数ページも切れ目なく。さすがに読み疲れた。
「押絵の奇蹟」
ピアニストの娘が自分の母と、ある歌舞伎役者にまつわる話を手紙に書き送る。なんという純愛、そう言ってもいいのかな。しかしこちらもかなり回りくどい。
「あやかしの鼓」
こちらも「あやかしの鼓」について書いた手紙。いわゆる呪われた鼓というものだろう。わかっているのにこの鼓に惹かれる周囲の人々とは。
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また読むのに時間がかかってしまった。ふるい本だから今と言葉遣いもちがうし、漢字も難しい。でも内容は素晴らしい。今では書けない、言ってはいけない言葉をバンバン使うのも現代だからこそ楽しめる。
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このシリーズの表紙が好きで購入したのですが、
3つのお話のうち2つは読んだことがあったという。
でも確か読んだのは5年くらい前か?
さっぱり内容を覚えてなくて、楽しめたっていう。
いいんだか悪いんだか。
もっと読みたいぞ。夢野久作さん。
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数年振り、夢野久作ワールドを堪能(?)いたしました。
『氷の涯』『押絵の奇蹟』『あやかしの鼓』全3編。
全て、遺書(『押絵の奇蹟』は微妙ではあるが)の体をした書簡体。論文、記事等引用形式もあり、後の『ドグラマグラ』の片鱗も見え隠れするのも…。
個人的に気に入った順に、簡単に触れます。
イヤミス的な読後感の『押絵の奇蹟』。でも、弱ってる時ほど、とりとめのない話しに没頭したり、誰かにしたくなったりする、っていうのはわからないでもない。
ミステリー、ホラー、あやしさ(←あえて、平仮名で)、様々な要素二転三転する『あやかしの鼓』。解説にあるように、オーラス前が少し急ぎ足の感は確かに…。『瓶詰の地獄』を漫画化した、丸尾末広先生にコレも漫画化していただきたい。
『氷の涯』は仕掛け自体は面白い。ただ、舞台が第一次対戦後の旧満州ということで、自分には、ちょっと映像喚起しにくい部分もあった。ラストは「そんな〇〇あり?」的な…。
そして、同時期に文庫本の整理をしていたら、夢野久作作品は『少女地獄』しか手元になく、ガックリと肩を落とす自分がいた。
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『氷の涯』
正直よくわからなかった。ただ、ラストがよかった。
『押絵の奇蹟』
最後の最後まで真相が明かされない所が良くもあり悪くもある。話の内容はとてもよかった。運命・神秘・可能性みたいなものを感じた。
心の中の想い人ににてしまうというのはあり得るように思う。女独自の感覚かもしれないが。一種のテレゴニーのようなものか。
『あやかしの鼓』
まず強く感じたのは“因果”。
あらすじは割とよくある感じではあるが、作者らしいしつこさが素晴らしく出ていた。
しつこさも体良く全てが繋がりだすと退屈な話になり得るのだなと感じた。
Posted by ブクログ
夢野久作の中篇3作が収められた本書は、
全て書簡形式で遺書という面白い組み合わせでした。
時代背景や地域は様々ながら全作を通して死際に打ち明ける秘密であり、様々な愛の形が散りばめられていました。
「氷の涯」は戦時下の露西亜を舞台にしており様々な思想や主義などの背景が描かれる中、所謂ヒロイン的でも悪女でもなく(今時の表現で大変失礼かとは思いますが)まさにキルビルの如く強く生き生きとしたニーナはとても格好良かったです。
夢野久作の作品に登場する女性はどこか妖艶で陰のある人物像が多いので、意外に感じつつとても好きになりました。
「押絵の奇蹟」は押絵そのものの繊細な描写が非常に美しく純愛を彩っていました。
探偵小説のような事件のトリックはないのですが、今現在に於いて昔の出来事がどのように関係してくるかというトリックを美しく仕上げる手腕は見事だと改めて感じました。
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氷の涯は、最後がすごくいい。恐ろしいんだけど、幻想的で綺麗な最期。
押絵の奇跡は純愛で、何がほんとかわからないけど、綺麗な愛だった。
どの話も描写がおどろおどろしくて綺麗。
Posted by ブクログ
夢野久作の中編三篇を収録した作品集。彼の作品の特徴を為す主題が描かれている。
「氷の涯」 (1933)
疾走というのは、いつも desperate であって、行く宛先の無いものだ。男女二人の終末の後ろ姿には、そうした何処か乾いた美しさがある。
「押絵の奇蹟」 (1929)
夢野久作らしい、伝奇的にしてロマンティシズム漂う凄絶な恋物語。夢野はしばしば、人間の精神と肉体の拠って来たる所を闡明せんとする近代の技術的学知たる精神医学と遺伝学が却って垣間見せるところの、人間存在の否応無き深淵の底知れなさを剔抉する。 「・・・、場合によりては男女間に於ける精神的の貞操の有無をも、形而下の諸現象、・・・によりて、具体的に証明され得るに到るべく、・・・」 夢野の筆は、民俗的な土着性とモダニズムとが混淆した――いや、モダニズムを通過したればこそそれと同時に土着性なるものも見出されたに違いない――、奇妙な舌ざわりのロマンティシズムを帯びた作品世界を描き出す。
「あやかしの鼓」(1926)
上に加えて、夢野の作品に繰り返し現れるもう一つのモチーフは、性・女への抗い難い暗い力、それへの畏れだ。女に魅せられながら同時に女を畏怖している、そんな ambivalence が透けて見える。 女が放射している(と男が勝手に思い込んでいる)暗い性愛の芳香によって否応なしに自我が翻弄されてしまう男は、女に対して一面では憧憬を他面では憎悪を、しかしその根底には何よりも恐怖を、抱いているのではないか。「……彼女は暗黒の現実世界に存在する底無しの陥穽(おとしあな)である……最も暗黒な……最も戦慄すべき……。……陥穽と知りつつ陥らずにはいられない……」(『瓶詰の地獄』所収の「鉄槌」より)。それが何より現れているのが、あの「ホホホホホホホホホ」というやつだ。
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「しかし私はこんな一片の因縁話を残すために生まれて来たのかと思うと夢のような気もちにもなる」(「あやかしの鼓」より)