【感想・ネタバレ】稲盛和夫 最後の闘いのレビュー

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Posted by ブクログ

ネタバレ

わが師(とこちらが勝手に言っているだけだが)日下公人先生によれば、全職業の中で一番難しいのが経営者だそうである。何故なら経営者は事業計画を練り、銀行、出資者に頭を下げ金銭を出してもらい、社員を採用し、人材育成をして、営業をして、顧客からのクレームに対応して、利益が出たら節税し、内部留保を貯め、投資を行い、ゴーイング・コンサーンにするというスーパーマンでないといけないというからだ。

なるほどそうである。そうなると上記のようなことをしていると、当然寝る暇もないくらい働かないといけない。稲盛さんも京セラ(創業時は松風工業と言った)を起業した時は徹夜、徹夜の連続だったそうである。

そんな稲盛さんは、ご存知の通り「アメーバ経営」という経営手法で、京セラを売上高一兆円企業しただけではなく、第二電電(現KDDI)を立ち上げ成功し、ご存知の通りJALを再生した、日本の人間国宝のような方である。

この著書はそんな稲盛さんがJAL再生をした3年間をまとめた本である。読んでいて涙、涙の連続であった。この逸話は日本の宝だ。是非中学の道徳の教科書に載せて欲しい。馳浩文科大臣さん。

まずJALは会社更生法という道を選んだ。これは破産処理などとは違い、復活できると思われる可能性のある会社が対象となる。ところがこれが簡単にはいかないのだ。帝国データバンクが過去50年間にさかのぼって、会社更生法の適用を申請した後の追跡調査をしたところ、申請した138社のうち4割の企業が破産や生産の手続きを取っており、株式の再上場を果たしたのは9社のみ。「生還率7%」の闘いである。

著者は稲盛さんがJAL再建の仕事を引き受けたのは、日本という国に経営者としてのラスト・メッセージを遺すことだったという。

稲盛さんは言う。「JALという企業が腐っているということは、日本中の誰もが知っていました。再生は不可能だと思っていました。そんなJALを再生させると、日本中の経営者に「JALも出来たんなら、俺たちだってできるじゃないか」と奮い立ってくれる。そこから日本は変えられる。そう思ったのです」

自ら「航空業界の素人」と称していた稲盛さんは、会長になって最初の数か月、現場の社員の声を聞いた。本社では100近い子会社の社長、一人ひとりと面談して、JALや業界の事を学んだ。その間、経営にはあまり口を出さなかった。

しかし2010年の春、JAL本社25階の役員会議室で、10億円程度の予算執行について説明する執行役員の話を突然遮った。

「あんたには10億円どころか、1銭も預けられませんな」部屋の空気が凍りついた。
「お言葉ですが会長、この件はすでに予算として承認をいただいております。」
「予算だから、必ずもらえると思ったら大間違いだ」
稲盛さんカンカンになって怒った。そして
「あんたはこの事業に自分の金で10億円を注ぎ込めるか」
「いや、それは。。。」
「その10億円、誰の金だと思っている。会社の金か。違う。この苦境の中で社員が地べたを這って出てきた利益だろう」
「はい」
「あなたはそれを使う資格はない。帰りなさい」

その日を境に稲盛さんは、ことあるごとに経営陣の考え方を否定した。当時、執行役員運航本部長だった(植木義晴・現社長)は「カチンと来た」と言う。

それから少し経った2010年6月、リーダー教育が始まった。役員会議室で幹部社員を集め、稲盛さんはこう言った「あなたたちは一度、会社をつぶしたのです。本当なら今頃、職安に通ってるはずです」官僚的な思考が抜けないJALの役員に対して稲盛さんはあえて厳しい言葉を使ったのだ。

更生計画の期限が6月末に迫っていた中、それでも稲盛さんは「利他の心を大切に」「ウソを言うな」「人をだますな」とまるで小学校の道徳に出てくるような話ばかりをした。当時を振り返って稲森さんは「これを分かってもらわないと、部門別採算制(アメーバ経営)に進んでも会社は変わらない、と思ったからです」と述懐している。

稲盛さんは、話を終えるとその場で「コンパ」を始める。一人1500円の会費を徴収し、柿の種やスルメをつまみ、缶ビールを飲みながら議論するのだ。京セラでも第二電電でもやっていたことである。

しかしJALの役員はこれも気に入らない。更生計画の提出が迫っている中、缶ビールなど飲んでいる場合か。「お先に失礼します」「精神論に付き合っている暇はない」京セラから稲盛さんと一緒に乗り込んできた太田嘉仁さんも孤軍奮闘する稲森さんの姿を「見ている私の方が辛かった」と振り返る。

転機はある日、突然、やってきた。「私が間違っていました。稲盛さんのような経営をしたらJALはこうなってなかったかもしれない」という役員が一人出てきたのである。

現会長の大西が言う。「社長になって、私が社員に言ったのは「とにかく過去と決別しよう」ということでした。会社を根っこから作り替えようと言うことです」

「しかし、それは全くの白紙であり、そこに経営者として50余年の経験を持つ稲盛さんがいらっしゃった。教えてもらいたい、教わるしかない、と思いました」

そこでJALでは稲盛さんの考えを広める研修所を作ることになった。しかしリストラでオフィススペースを詰めるだけ詰めたJALには、のスペースがない。そこで羽田空港に空いている倉庫を使うことになったのだ。

もうこの時点からJALの社員の意識は変わっていた。休み時間に社員総出で、資材を片づけ、ベニヤ板で間仕切りを作った。もともとIQの高いJAL社員、物事の本質が分かると態度もポジティブな方向へ向かうのだ。

ところがJALにはもう一つ厄介な問題があった。労働組合だ。社員=組合と考えていた経営陣は、更生計画に従ってパイロットの人件費を4割カットしたが、それによって「ストの一発も覚悟する」ことを想定していた。

しかし、労組は暴れなかった。「後で役員の一人に聞いたのですが、パイロットの一人を育成するのに一億円くらいかかる。そんなに面倒を会社に見てもらっていて、自分たちの権利だけを主張するのは誤っている」と考えたのだ。

それまで会社に腫れ物のように扱われてきたパイロットは、こう語っている「稲盛さんに本気で怒られて、初めて経営者の本音を知った気がした」

稲盛さんが経営の要と考える月に1回の会議がある、業績報告会だ。約30人の役員が1人ずつ、その月の予定数値、それに対する実績、翌月の見通しを説明する。報告を聞きながら、稲盛さんは数字がビッシリ書き込まれたA3の用紙をなめるようにして読み、次から次へと質問を繰り出す。

執行役員運航本部長の植木(現社長)もやり玉に挙げられたことがある。
「(パイロットが使う)ヘッドセットの修理代が増えとるな。なんでや」
「....」植木は答えられなかった。
「それでよく1400人のパイロットを束ねられるな」
会議が始まった2010年5月には三日かかった。今でも一日半かかる。

他にはこんな具合だ。「粗々で50億円です」と説明すれば「粗々ってなんや」
「ざっくり8割と言うことです」と言えば「ざっくりではダメや」
これは、稲盛さんが一番嫌う「官僚的な」言い訳だ。

「商売人感覚を持った人があまりに少なく、八百屋の経営も難しい」稲盛さんに請われて会長補佐になった(後に副社長)としてJALに乗り込んだKCCSマネジメントコンサルティング会長の森田直行も同感だった。

しかし森田さんが「こういう数字が欲しい」と要求すると、JALの現場は即座にその数字を出してくる。森田さんいわく「JALの社員は優秀でした。どんぶり勘定をしてきたのではない。必要な数字は現場にはありました。しかし経営層がそれを使おうと意識がなかったのです」

このようにして試行錯誤を繰り返して部門別経営(=アメーバ経営)がJALに浸透していった。このアメーバ経営が定着してきたとき、現会長の大西は一つの事に気づく。それはコストを削っているのに士気が上がると言うことだ。

機長は2.5円代の紙コップ代を浮かすため、コックピットにペットボトルを持参する。修理工は以前は一回汚れたら捨てていた、手袋を洗って再利用する。これで会社全体で競争意識が生まれJALは生き返ったのだ。

鉱務部に所属していた入社3年目の川名由紀は「意識改革推進準備室」のメンバーの一人に選ばれた。「稲盛哲学」をJALに浸透させるのが仕事だった。川名は稲盛さんがリーダー教育で役員にする講義を、聞きながらこう思った。「こんな偉い人が、なんで当たり前の話をするんだろう」

役員に対して声を荒げることのあった稲盛さんだが、川名に対しては、ちっとも怖い人ではなかった。稲盛さんが多忙で昼食が取れない時、川名が1階にあるコンビニでおにぎりを買ってきたのだが、おにぎりを渡すと、稲盛さんは「いつもありがとう」と言って両手を合わせた。
稲盛さんはこう語った「経営の目標は社員の物心両面の幸福を追求することです。私はご覧の通り高齢ですが、皆さんの幸せを追求するため精一杯頑張るつもりです」

稲盛さんは「社員は悪くないですから、JALをつぶしたのは一部の経営陣。多くの社員は給料や年金を削られ、もう十分辛い目に遭っている。更生計画を立てた以上、それをやるのは社員だから、彼らがうつむいたままでは再建は失敗します」と言う。

このように経営者次第でどのような会社も上手くいくと言うことが、JALの再生で証明された。日本では100万部売れた稲盛さんの著書は中国では130万部売れたそうだ。経営に興味がある方、是非一度経営者をやってみたい方、この本でなくともいいから一度稲盛さんの著書を手に取って欲しい。

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2016年04月19日

Posted by ブクログ

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官僚的で腐敗した巨大組織を根本から立て直すために必要な思想と行動が凝縮されている。
・まずはリーダーのマインドから。1日3時間の研修を月に17回開催(全て内製)。稲盛はそこで「利他の心を大切に」「嘘をつくな」「人をだますな」といった精神論を話し続けた。少しずつ、言い訳ばかり上手かった幹部に、責任感が芽生え始める。最終的にはJALの3万2000人を変えた。
・従業員の幸福追求を目指すため、組合とも本気でぶつかる。
・利益と安全。両方を追求する。シーソーの支点を持ち上げる。
・アメーバとフィロソフィは車の両輪。アメーバは仕組み、フィロソフィは考え方。

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2022年03月14日

Posted by ブクログ

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経営破綻に陥ったJALの再建に挑んだ、経営者稲盛和夫の「最後の闘い」に関する取り組みから稲盛自身の考え、そしてなぜあの短期間でJALが黒字企業になることができたのか、稲盛が築き上げてきた集大成の一部始終が紹介されている本である。

JAL再建においては特に稲盛の「アメーバ経営」と「フィロソフィ」、そして企業再生支援機構による適切な融資、そしてアメーバ経営、フィロソフィによって動いたJAL関係者の3つすべてが機能したことによる見事な再建劇であったことがわかる。

特に「アメーバ経営」と「フィロソフィ」は、まさに稲盛の「動」と「静」を具現化したものである。
「アメーバ経営」によってJALの収支は見える化し、競争意識や当事者意識が生まれ、それを支える意識や考えの部分を「フィロソフィ」が補う。
まさにこの2つは両輪であり、揃って初めて稲盛の経営が動き始める。



経営に対して疎い私としては、敏腕を持つ素晴らしい経営者稲盛和夫の姿以上に、
彼が作り上げた稲盛哲学を説く思想家としての稲盛和夫の姿が印象に残った。

彼は会長となってはじめに役員に対して彼自身の考えを説き、役員の考えを改めさせた。説明に明確でない点があれば、徹底的に追及をした。
一方で、社員に対しては「経営の目標は、社員の物心両面の降伏を追求することです。」と語り、所々に社員への感謝と配慮が伺える。これこそが社員を家族、実の子供であるとする稲盛の考え方である。
だからこそ、役員に対してはより厳しく指導し、家族を守るというその責任を自覚させる。
京セラ、KDDIと2つの大企業を作り上げた経営者であるにもかかわらず、決しておごることなく、当事者の目線に立つことができる、そしてその哲学を持つ稲盛の哲学はいかなる立場の人であっても、生かすことのできる考えである。

一方で、連合艦隊司令長官である山本五十六の言葉、「やってみせて、言って聞かせて、やらせてみて、ほめてやらねば人は動かじ」。これを20代から実践していたとされている稲盛であるが、Twitterでは「やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、やっぱダメだわ 俺が動くわ」というツイートに3.2万ものいいねがついていることを考えれば、これをすることがどれほど困難な道であるのかがわかる。

読んで素晴らしいと感じることは誰でもできる。多くの人は既にそれを実践している、しかし挫折している。綺麗ごとではなく、言葉の裏に隠れた我慢、忍耐こそが稲盛の本当のすごみであると私は感じた。

「動」(独占を嫌いKDDIを作り上げ、再建の手本とするためのJAL再建)と
「静」(独自に作り上げられた自身の哲学)は、ほとんどの場合両立することは難しく、「動」があれば「静」は失われ、「静」があれば「動」は失われるとされている。
私は大きな人生の目標として「動」と「静」の両立を掲げたいと思う。

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2021年12月12日

Posted by ブクログ

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自分が目的としていた本ではなかった。
池井戸潤の「銀翼のイカロス」を読み、JAL再建の歴史的背景、時系列に沿って展開されていく本にて勉強していたいと思っていたが、残念ながらその目的にぴったりと合う本ではなかった。

しかし、思わぬ収穫があった。
それは「稲盛和夫の哲学」に出会えたことである。

フィロソフィ、アメーバ経営等、名前は知っていたが、その内容は全くと言っていいほど知らなかった。
稲盛和夫がどのような経緯でその手法を編み出していったか、そしてJALの再建に関し、今までの稲盛氏の経験則をどのように活かしていったか、紆余曲折があったかが描かれている。
稲盛氏は拍子抜けするほど当たり前のことしか言っていない。
例えば、「嘘をつくな」「動機善なりや、私心なかりしか。私は毎日、自分に問いかけています」等。
稲盛氏のこれまでの功績を考えて、JALの従業員はもっとすごい、琴線に触れるような言葉を期待していたはず。

しかし、特別なことなど必要なく、この当たり前だと思えるようなことを実践するのは経営の中では一番大切だと説く。
自分の日々の生活でもこの言葉を落とし込んで考えてみる。たしかに、先週決意したことができていない、仕事でも言い訳する‥誰にでも経験はあるはず。確かに難しい。
この「当たり前」のことを当たり前にできる人とできない人との間に差は必ず生まれ、将来的に複利的に差異が出てくるのだと思う。
特別なことなどいらない、自分の心に、道徳心に尋ね、常に自分の行いが正しいか問いていきたい。

稲盛和夫の名著である「生き方」「実学」を読んでみたいと思えたことも、この本を読んだ収穫であった。

気に入った言葉を最後に。
「人間が生きていくのに一番大切なのは、頭の良し悪しではなく、心の良し悪しだ。」
「独占は悪。」
「社員全員、経営者感覚を持つ。」
特に最後の言葉だが、当事者意識を持って物事に取り組むべきだ!と昨今声高に言われているが、ではその当事者意識を持つためには?そもそも当事者意識って?
ということの、稲盛氏なりの解が書かれている。
ぜひ読んでほしい。

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2020年05月29日

Posted by ブクログ

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JAL再生のスキームの中で稲盛氏がどのように関わり、そして同時にJALの社員、会社の体質がどう変わっていったのかを記録した書。稲盛氏の話がメインなのでもう少しJAL再生のストーリーを知りたかったので少し消化不良。ただ、旧JALのいわゆる大企業病は自分に置き換えたときに心当たりがある部分がないわけではないので、少し意識していきたいと思った。

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2017年01月19日

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