感情タグBEST3
Posted by ブクログ
獄中死した家族の無実を証明する人物がやって来たことから、一家の鎮まっていた生活が掻き乱される。では誰が真犯人なのか…。
終始根底に静かな憎しみが潜んでいるような感じを受けた作品。単なる謎解きではないけれど、真実を探りながら人間の深い心理が浮き彫りにされている。
Posted by ブクログ
無実はさいなむ
女性資産家の殺人事件。逮捕されたのは養子の息子(ジャッコ)。息子は獄中で半年後に亡くなり、しかしアリバイを主張していたが、確認されなかった。二年後、事件の起きたアジール家にキャルガリという学者が訪れる。彼は二年前の事件当日、屋敷から離れた場所で逮捕されたジャッコを車に乗せた事実を伝えにやってきた。
事件当時は交通事故に巻き込まれ、その後僻地での仕事の為、彼が逮捕されたことを知らず。せめて死後であっても彼が犯人ではないという事実を明らかにする為にアジール家を訪問する。
殺人の罪で逮捕された無罪の男。彼のアリバイを持ちながら不幸により証言できず、良心の呵責を持つ学者。犯人と思われていた人物の無罪がわかり、動揺するアジール家の人々と関係者。
そして当然、事件は再捜査になり、それを担当する陰気な警視のヒュイッシ。
この作品では主人公と言われる人物がいない為、様々な目線、心情から物語が明かされていく。アジール家の人々は子供達は全員養子で性質も異なり、全員が一癖、二癖もある人物達で、その他主人の秘書やお手伝い、娘婿等人物も豊富で一体どういう性質の事件で女性資産家が殺害されたのかが終盤までわからない。また、アジール家の人々は事件を掘り返す事を拒み、それでいてそれぞれがそれぞれを疑う様な状態になっていく。屋敷全体に不穏な空気が蔓延り、様々な物が崩壊していく手前にある。
当然、二年前の事件で警察が新事実や証拠を押さえる事も難しく、更にはアジール家の人々も非協力的だ。一方、キャルガリも自身の行動によりもたらした結果が更なる不幸の連鎖になる事に責任を感じ、独自に真相を追求する。
作品としてプロットはクリスティの中でも屈指では無いだろうか。現代のミステリーでもこの様な多角的な視点でのミステリーは少ない様に思う。真実を告げたキャルガリ学者目線、再捜査により何としても事実を明らかにしたいヒュイッシ警視目線、そして養子の婿であり屋敷に留まり事件の究明に好奇心を燃やすフィリップ目線が主な視点だが、その他登場人物達の目線から語られる章も沢山あり、かつ養子姉弟という関係性を考慮しながら進行する為、少し複雑になっている(探偵や語り手が固定されていない為、その部分が不満の人もいる様だ。しかし想像してみると多角的な視点から物語の本質へフォーカスされていく様子はとても見事でドラマチックだ)。
残念な事は、最後結末(犯人が判明してからエピローグに至るまで)がまるで手抜きの作文みたいに一瞬で終わってしまう事だ。犯人を究明するパート迄至高の流れだったのにいきなりトーンダウンどころかクリスティがどこかへ行ってしまったかの様だ。実はもっと話を長くした方が重厚感や様々な人間模様が見れるし(絶望感、愛情、信念、守秘、悪意、憎悪の全てがあるはずの作品なんだ)最後の陳腐なメロドラマオチも丁寧にまとめれば傑作の一つだったのではと思う。
しかしそれでも星は5なんだ(笑)。設定、犯人の意外性、動機、悪意。これだけでもこの小説が充分に面白いと思ってしまう!!
Posted by ブクログ
友人に勧められて読んでみました。
登場人物の心理描写が巧みに表現され引き込まれる作品でした。人に与えすぎる事が時として人の自由を奪うことにもなるという作者の痛烈なメッセージも感じられました。
Posted by ブクログ
冒頭から怪しい様子で、これから殺人が起こると思った。
主人公が向かったのは、2年前に殺人事件が起こった家。そこに住む子供のいない夫人が殺されていた。夫人は、戦争孤児を引き取り夫と共に暮らしていた。解決していた事件が冤罪だったことによる家族のもつれを描いている。最後まで犯人はわからず、読み応えありでクリスティのミステリーの良さを再認識した。「そして誰もいなくなった」と同等な満足度だ。
Posted by ブクログ
ある人物が、無罪であるということは、
別の人物が、有罪である可能性があるかもしれないということだ。
ある人物が、無罪であるということは、
よい知らせだと思い込んでいることがある。
利害関係者にとっては、利は害と背中合わせである。
利があるところには、かならず害もあるのだということが、本書から理解できた。
世の中は、うまくいかないものだ。
ps.
解説には、本書がある意味で失敗作だと書かれている。
小説としては、いろいろな複線が有効に働いているので、成功作だと思う。
Posted by ブクログ
一族の汚名を雪いだはいいものの、それによって歯車が大きく狂い、様々な苦悩を生んでしまう。
Ordeal by Innocence というタイトルがそれをよく表している。
レイチェルによって「人為的な方法によってつくられた」一家。レイチェル自身は本当の家族になれると信じて疑わなかったのだろう。でも、最後の各人のその後を見るに、やはりそれはうまくいかなかったということだと思う。
慈善事業と家族の在り方、児童虐待の根深さなど昨今の社会問題に通ずるテーマが盛り込まれている。
「そのくらいにしとかないとクリスティに殺されるよ」と多くの読者が思ったことだろう。正義を貫こうとするキャルガリが報われて何より。
Posted by ブクログ
ストーリーは5人もの養子をしたお金持ちの老婦人が殺された事件、養子の一人が逮捕有罪となり(獄死している)2年が過ぎたころ、その犯人養子のアリバイを証明する人が遺族たちの住む館に訪れて、終わったことなのにいまさらどうなのと、事件蒸し返しのさざなみが立つ。
ミステリー的には遺産相続をめぐってではない肩透かしはいいけれど、結局犯人も平凡のよう、しかしそこじゃなかった。相変わらずの人間観察力秀逸なクリスティーなのだった。
経済力の豊かな女性に、様々の劣悪な環境から救われて清潔で立派な住居、栄養の行き届いた食事、潤沢な教育環境など、何不自由なく育てられ、いまや大人になった養子たちの心理状況はどうあったかが丁寧に描かれ、子供たちと義理母親との感情のやり取りは、実子ではないという残酷な現実も、また、その殺された女性と夫との関係がどうだったのかも解き明かされ、人間模様の複雑難儀なところは、なかなか読み応えある。人間は正しいことだけでは生きられない。
Posted by ブクログ
英BBCのドラマが面白かったので、原作も読んでみようと思い手に取った。
初期設定やフィリップが殺される部分は小説とドラマはほぼ同じなのに、結末(真犯人・動機)は全く違っていて、最後まで楽しめた。
ドラマを見てからだと多くの場合はトリックや犯人が分かってしまっていて、面白さが半減するけど、この作品は原作から入っても、ドラマから入っても、どちらでも大丈夫。
ポアロやミス・マープルといった名探偵は出てこないが、かえって新鮮な感じだった。
Posted by ブクログ
あー!また犯人はずれたー!
でもあのひととこのひとが結ばれるのは早い段階でわかった!クリスティはこういうのすきだよね(^^*)
無実であることの証明は難しい。これにつきる。
Posted by ブクログ
アガサクリスティー。愛すべき未完全作。らしい。ちょっとおしい!っていう作品。でも、これは推理小説というよりも、心理小説。ということで、まぁ、良いとしよう。犯人の動機とか、ちょっといやだけど。もうちょっと犯人にびっくりさ加減がほしかった。まぁ、推理小説=エンターティメントな私にとってはOK
Posted by ブクログ
アイツが犯人だと思っていた頃に戻れたら。
ある家族のもとにもたらされた知らせ。それは母を殺したのはジャックじゃない、というアリバイの成立。ジャックじゃないなら、誰なのか。疑心暗鬼に陥る一家、犯人を探そうとする者、隠そうとする者、庇おうとする者、確実に崩壊の足音がしていた。
BSで一度ドラマを見たはずなのに、犯人もすっかり忘れていたおめでたい頭。なんだか坐りの悪い話。むずむずするのは、登場人物が皆「良いことをしようとしている」のに、どんどん不幸を招いているからか。クリスティーは相手を損なう善意をここまで書くのが素晴らしい。はっきり言って免罪を知らせにきたキャルガリは、この一家の問題にここまで首を突っ込む必要はない、執着しすぎではないか。殺された母レイチェルの愛情は、母の愛だったのか。メアリの、下半身の自由を失った夫への愛情は、愛情か。気持ち悪さを感じながらも、ありそうと思う。この歪んだ人たちは身近にいそう。
人間関係のもつれだったり愛憎だったりが殺人の動機になるというなら、クリスティーが描くのは自己中心的な人間の業。ぞくっとする鋭さで読者に問いかける。それは愛なのか。愛は尊いものなのか。
Posted by ブクログ
久々に再読。途中まで読んだら犯人と動機を思い出した。
資産家の義母を殺害したとして逮捕されたジャッコは、無実を主張したがかなわず獄中で死亡した。その後、ジャッコのアリバイを証明する人物が現れたことで事件は振り出しに。彼が犯人でなければ誰なのか‥
ジャッコの冤罪が証明されたことで家族が疑心暗鬼になっていく描写がうまいのはさすがクリステイ。ノンシリーズでミステリというより登場人物の心情が読みどころだが、個人的にはこういうのも好き。
Posted by ブクログ
NHKで同名の海外ドラマとして放送された作品の原作。
殺人事件というのは往々にして、エゴイズムの塊であるが、本書はそんなエゴイズムが、悲劇を巻き起こす。
資産家の女性、レイチェルが殺された。
殺人犯とされるのは、彼女の養子である、今は亡きジャッコ。
なんと、「おまえはもう死んでいる」状態の設定。
話、終わりじゃん。
しかし、第三者であり、本作の探偵役のアーサー・キャルガリが現れたことで、事件が蒸し返され、改めて真犯人探しが始まる。
解説にもあるが、めでたし、な終わり方は妙な唐突感があるし、真犯人が判明するのも、なんとなく取ってつけた、感はある。
その意味では、ドラマ版の方が、私は鮮やかで面白かったと思うし、登場人物たちの育ちの背景や心情が補足されていて、面白かった。
ただ、そちらを先に見ていたからこそ、本作が分かり易かったし、読みたいと思ったきっかけであるので、優劣をつけるつもりはない。
登場人物たちにあまり感情移入ができなかったが、自分勝手さは誰もが持つ心の動きであろう。
母親との関係も、よく問題になる。
愛したのに、その愛は帰ってこないし、良かれと思っても疎まれる。
愛は自己満足に過ぎない。
それでも、愛を持って解決したのは、著者の心のうちに、愛を信じたい気持ちがあったからではないか。
何とも陳腐な憶測ではあるけれど、私も、それでも愛を信じたいと思う。
Posted by ブクログ
なんてこったー!から落ち着くべき所へ落ち着く手腕が相変わらずすごい。
殺されたお母さんが「死との約束」のお母さんとかぶる。
ぱっと見は違うんだけどねぇ。怖さの質がそっち方面。
Posted by ブクログ
アガサクリスティー本人がベスト10に選んでる作品らしいけど、私の好みではなかったです。
ま、推理小説として読まなければ良かったのかも…
いつも読みながら推理はしないんですが、これは珍しく犯人途中で解かっちゃったし。
でも登場人物のキャラも魅力的だったし、ジャッコの無罪が明らかになり「では誰が犯人なのか」と動揺する家族の心理描写はさすが。
Posted by ブクログ
クリスティお得意の心理ドラマ。
南極探査から戻ってきた男が絶対有罪だと思われて死刑となった男は無罪だと男の家族へ報告しにいく。
犯罪者だと思われていた男が無罪だったなら、本当の犯人は家族の身内にいる、とどんどん疑心暗鬼に陥っていく。
そうして、人間関係は崩れ、新たな殺人がおき始める・・・。
ティナとフィリップが好きだ〜。
何がすごいって、動機のみが焦点で最初から証拠(心因的な)が提示されているのに気づかない(お馬鹿)。