【感想・ネタバレ】今こそアーレントを読み直すのレビュー

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Posted by ブクログ 2017年11月07日

今まで哲学にさほど興味もなかったワタシがハンナ・アーレントを読みたいと思ったのは仲正先生の話が本当に面白いと思ったから。この本は仲正先生がハンナ・アーレントをどういう風に捉えていて、それをワタシみたいな特別勉強をしたわけでもない普通の読者が読んでみて面白いと思えるようになっていて、そろそろ、ハンナ・...続きを読むアーレントの本にとりかかってみようかなと背中を押してもらった気がする。考えることが大切だから。

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Posted by ブクログ 2016年10月02日

彼女に関する本は何冊か読んでるし、他の本でも名前を見るし、何だったらTwitterのTLでも名前が流れていきます。でも、彼女の著作を読んだことはない。そろそろ読んでもいいかなまだいいかなみたいに、彼女の思想と僕は微妙な距離感があります。

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Posted by ブクログ 2016年03月24日

アーレントの著作である『全体性の起源』『人間の条件』「カント政治哲学講義」の議論を順に取り上げながら、彼女が説いた「人間」や「活動」という概念の持つ意味を、読者ができるだけ誤解しないよう、丁寧に説明してくれている。

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Posted by ブクログ 2015年02月08日

アーレントって誰かというと、師のハイデッカーと不倫関係に陥るも、全体主義を批判した本を書いて一躍有名になった人。

この人の政治というのは、どうも私が思っていたのよりギリシア哲学的なものが含まれている気がする。
しかも、その問われる場面が日常にありうるものだからなおのこと。

分かりやすく書かれてい...続きを読むる本。
ただ、私はもう1度読んだほうがいいかも。

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Posted by ブクログ 2014年08月19日

この本を読む前は、アーレントについて、ナチスの全体主義を糾弾した人、ということしか知らなかった。なので、バリバリの個人主義の人かと思ってたら全く逆だった。

物事を単純化し、画一的な思考に陥ることを嫌い、言論活動を重視した共和主義者。他者と意見を交わすことでヒトは「人間性」を身に付けていくという。...続きを読む

著者はアーレントの言説を援用しつつ、近年メディアやインターネットに蔓延する、複雑な事象の単純解釈や、短絡的で画一的な思考様式や、「傍観者」が自由に意見を言いにくい風潮に警鐘を鳴らす。

「複雑な物事を複雑なまま捉える」……なかなか難しいことではあるが、とかく物事を単純化して理解したがる自分への戒めとしたい。
多角的に思考できる冷静な「傍観者」でありたい。

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Posted by ブクログ 2014年02月14日

アーレントの哲学は、両端に偏らないが、かといってどっちつかずでもなく、複数性というものを主張しており、他を排除しようとする風潮を批判するもので、今の世の中では、ほとんど実現できていないが、今学ぶに値する哲学である。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年02月09日

面白かった。

 マルクス主義の理論では、「階級」という仕組みが生まれたことによる不自由から人類の本来的な価値を「解放」するという考え方なのに対し、アーレントは、「解放=自由」ではなく、自由とは本来、市民が物質的な制約に囚われずに「活動」している状態と考える。解放を目的とするのではなく、共同体の「共...続きを読む通善」を探求することにより自由が現れて来るのだ。

 貧困や障害という「不幸な人々」への共感を人間の「自然な情の発露」と見なして弱者を苦しみから救うことが政治だ、という論調は、「人間としての正しい在り方」を押し付ける排他的な価値観に繋がりやすい。

アーレントは、そういうヒトとして生まれたことよりも、人格=仮面を演じることを、人間の条件としてより重視している。公共における役割をきちんと演じることが、よりよい政治的共同体を形成していく。法的な差別は失くすべきだが、「社会での差別を廃絶することはできない」し、「強制すべきではない」ということだ。

 そうした共通善=公共善の構築のために市民が養うべきものとして、アーレントは「判断力」を重視する。そこには善/悪の道徳的判断力に加え、美的判断力がある。この判断力は伝達可能であり一般性がある。言葉にされる「美しい」という判断には、潜在的に他者のまなざしが入り込んでいる。それが共通感覚として、自分の感情や感性を調整する作用を持つというのだ。私達が思考を内=私から外=他者へと拡げることができるのは、この「拡大された心性」のおかげであり、それによって私達は、他人とお互いの考えを伝達し合いながら、共通の価値観や思考形式を形成することができるのだという。

 判断力→共通感覚→拡大された思考様式→活動→公共性というラインで、アーレントは活動者=役者(actor)の視点から政治を語った。この演劇的な視点での捉え方では、「公衆=観客」の立場がより重要になる。芸術作品が芸術として成立するためには、その美を判定する「観客」が必要ということだ。

 ここまで読んで、腑に落ちた。多くの人が政治に関心を失ってしまった理由は、政治に関わる有り様から「美」が抜け落ちているからだ。道徳教育の重要性を訴える人はいても、「美醜教育」の重要性などは議論もされないのではないか?
「美醜と善悪は分けて考えるべきだ」という人もいよう。しかし、例えば子供の価値観の形成において、この2つを切り離すことはできないだろう。「本物の美」を教えることは難しいし、それこそ自分で見つけるものだと思うが、「醜」を教えることは可能ではないだろうか?そういうことが社会から抜け落ちているような、そんな読後感を持った。

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Posted by ブクログ 2013年03月03日

 「複雑なものは複雑なままに…」の言葉に惹かれて購入。アーレント入門書だがどうも翻訳者自身による本のようで、やさしくアーレントの哲学に導いてくれる。私ももっと詳しく知りたいと感じた。全体主義がなぜ起こるのかが自分の思っているよりずっと容易なのではと思えた。そして、自由であるために個人とセカイ(社会、...続きを読む政治、他者など)がどう関わっていけば良いのか、そんな疑問に答えてくれているような気がする。再読せねば

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Posted by ブクログ 2024年05月04日

英では契約や慣習法の基本原理を確認する形で新たな制度が構築されていったが、日本では政権が交代するたびに大宝律令・御成敗式目・武家諸法度など、基本となる考えがどのように継承されてきたのか曖昧。日本で制度論的な保守主義を考えるのは困難。天皇制以外に守るべき制度がないため、日本の保守思想は、制度よりも精神...続きを読む論や文化論に力を入れてきた(例:西部邁・佐伯啓思)。ただし、細部を見れば、日本の法・政治にも慣習は見られる。日本の憲法には、政党の役割に関する規定はなく、政党が何のために存在するのかについて規定がないにもかかわらず、立法府は政党の協議によって運営されてきた。p.214『精神論ぬきの保守主義』★4

個人と共同体の境目。宗教・習俗・風習は生まれた時点で他者から与えられるもので、自分の意志だけで選択できるわけではない。徹底したリバタリアンでも、自分で選択したわけではない共同体の文脈の中で、共同体の中の他者と互いに制約し合いながら生きていかざるを得ない。p.181『不自由論』★4

現代思想が日本で急速に人気がなくなったわけ。構造主義・ポスト構造主義をけん引していた思想家が亡くなった後、仏でスターが現れなかった。日本の大学で第二外国語の比重が低下し、仏・独語を読める・読もうとする研究者が激減した。学生の間でフランスやドイツの文化に対する憧れが弱まった。哲学の業界で、英語圏の影響力が高まり、仏・独の影響力が低下した。p.284『現代思想の名著30』★3

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『悪と全体主義―ハンナ・アーレントから考える』★4
『いまを生きるための思想キーワード』★3

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Posted by ブクログ 2024年02月14日

ハンナ・アーレントの思想を、彼女の著作を軸に、現代にひきつけた問いから整理した書。少ない文章量の中で鋭くまとまっていて、読み応えがあった。

今回とくに面白かったのが、第二章「『人間本性』は、本当にすばらしいのか?」。

「アーレントは、そうした冷厳な現実を踏まえて、『人間性のすばらしさ』あるいは『...続きを読むヒユーマニズム』を無邪気に信じ、それを信じることによっていつかユートピアが実現できると思っている"良心的"な知識人たちに警告を発しているのである。無邪気な『人間性』信仰は、その理想に合わない者を排除する全体主義に繋がりかねない、と。」

私自身、思想や哲学の本も、新聞やテレビのニュースも、今の現状を見通す物語を期待して読んでいるふしがある。現実はそんなに単純ではない、冷静であれ、と釘を差された気がします。

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Posted by ブクログ 2023年08月26日

やはり最後まで一気に読んでみて感じたことはただ一つ、解りづらいの一言である。それは本書がわかりづらいのではなく、ハンナ・アーレント自体の考え方が非常に中庸的というか、世の中のわかりやすい議論が白が黒か左か右かといった風潮の中で、極論はなくあくまで白と黒左と右の中間地点にいるからではないだろうか。これ...続きを読むはよく考えれば当たり前のことで、日本の政治を見ていれば感じることが多い。政党全体でまともな頭の人たちがあれだけ集まっていて、与党と野党の意見がすっぱり割れるなんて事はあり得ない。ましてや100人を超えるような組織の構成員が全員右か左かなんてあり得ないし、どっちつかず、よく言えば双方の良いところどりになって当たり前だからだ。アーレントは著書「全体主義の期限」において全体主義の成立を説明するが、確かにマルクスの様に労働階級が資本家の搾取から解放されるための闘争とするのに対して、大衆が深く考えずに明確な意見に迎合していく危うさを説いている。これくらいならまだまだ基本的なアーレント読者にはわかりやすいのだが、極端な状態を極力否定していくイメージが私の中では強い。
私生活においても恋愛などから多くの学びと影響を受けていたと思われるが、そうした背景には本書は触れずに、あくまでアーレントになり切った筆者が、彼女の主張を代弁していく形をとっており面白い。またその解説も「分かりにくい」「掴みどころがない」事を大前提に書いてくれているおかげで、アーレントの今まですっ飛ばして読んでいた世界から、立ち止まって考える時間をくれるものとなっている。
世の中そんなに、左も右もはっきりしておらず、自分の意思を示さずに、ただ大きな力に流されがちな我々一般市民に対して、責任持った発言と行動を強く呼びかけ、自分主義から公共の利益に考え方をシフトする。そんな本来社会ができて当たり前の事ができていない現代社会。改めてアーレントが再注目されている背景には、そうした政治や考える事を避ける国民に対して大きな警鐘を鳴らしてくれる。
ちなみに本書の構成はアーレントの人物性に先ずは若干触れ、その後「悪」とは何か、「人間の本性」人が如何にして自由になれるなか、そして実践・参加することの意義と意味という流れで、アーレントの著書である「イェルサレムのアイヒマン」や「全体主義の起源」「人間の条件」を引きながら筆者自身の解釈を展開していく流れになっている。新書のページ枚数に纏めるのはその選択も大変だったであろうが、我々読者がアーレントに触れやすい内容だと思う。

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Posted by ブクログ 2021年05月29日

アーレントの思想がますます分からなくなった(いい意味で)確かに彼女のイデオロギーや思想の立場を定義するのは非常に難しい。アーレントをよく知らなかった時は、リベラル論者だと思っていたが、一般的には右寄りの認知されている、しかし日本では左派から評価を受けることも少なくない。複雑な理論であるが故に、右・左...続きを読むの二元論で片付けるのは不可能なのだろう。

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Posted by ブクログ 2018年09月04日

読み終わりました。
改めてハンナ・アーレントを知ると、現代に通ずる問題提起を多分に含んだ発信をしていた人なのだと思う。全体主義や凡庸な悪というテーマは、現代だからこそ再びスポットライトが当たるべきだし、実際にそうなっている。
彼女はやや愚直で正直で素直すぎたところがあり、そこが「イェルサレムのアイヒ...続きを読むマン」出版後に仲間たちと断絶してしまう結果を招いたのかもしれない。ただ、そうまでして彼女が訴えかけたものは、現代人がさらに後世につないでいかないといけない。また悲劇的な戦争が起こらないために。

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Posted by ブクログ 2018年05月10日

勉強のための一冊として読む。うん、やっぱり理解できていなかったんだと思わされる。アーレントの著作を再読しなくちゃね。でもそのためにはもっと事前の準備が必要ですね。

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Posted by ブクログ 2018年02月22日

アーレントの思想の上に、著者の思想が乗っていることがはっきり打ち出されている。こういう本を好まない人もいるだろうと思う。読むタイミングによっては、著者の言い分に腹が立つ人もあるだろう。
ぼくにとってはちょうど良い、アーレントの著作への入門になったように思う。

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Posted by ブクログ 2018年02月04日

全体主義に陥らず、複眼的であり続けるためには、他の人との意見交換がなにより大事だ、ということだと理解した。
いろんな考えの人と話をするのも大事だけど、きっと、いろんな考えの本を読んで、自分の考えを調整し続けるのも大事なんだろうなと思った。

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Posted by ブクログ 2016年04月19日

アーレントの主張を読み解こうと思ったけども、
難しかったので入門書的なこの一冊を購入。
分かりやすさの危険性を主張するアーレントを
分かりやすく解説するというちょっと矛盾した本書。
【個の喪失】に繋がることには徹底して警鐘を鳴らす。
というアーレントの主張がわかりやすく書かれていました。
空気には絶...続きを読む対流されないその強い意志が、
アフガン戦争の時期にまだいてくれたのであれば、
アメリカの方向性も多少は違うものになっていたのかもしれないなー。
入門書から始めないといけないなーと思ったのはアダム・スミス以来。
彼女が書いた本もちゃんと時間かけて読んでみようと思います。

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Posted by ブクログ 2016年10月10日

映画『ハンナ・アーレント』を観て、川崎修の『ハンナ・アレント』とともに読んでみた。

いずれも彼女の主著の『全体主義の起源』や『人間の条件』で議論された事柄を中心に拾っているが、違うところもありそうだ。でも、うまく言えない。著者は、「「もどかしさ」こそがアーレントの魅力である」という。解説本でそう言...続きを読むってしまうのは無責任も甚だしいと思うのだが、全体としてやはりそういうことなのだろう。あえて政治思想のステレオタイプを避け、思考停止を避けることこそが、全体主義に取り込まれない姿勢であるというかのようである。

著者はアーレントのことを「戦略的なKY」といい、そこに共感したという。アイヒマン裁判の論争は、確かに意志をもったKYだというように思われる。そういった現実の論争だけでなく、著作の中でもそういう主張を行っているんだろうなと思う。

「匿名のおしゃべりに公共性はない、自らの発言に対して責任を持つことで初めて公共性が形成される」とアーレントは書いたらしいが、なるほどこの辺りは現代のネット空間に対する分析にも応用が利きそうだ。自由意思に関する分析も面白そうだ。このような汎用性のある思想こそが哲学と呼べるのだろうね。いや、まだ著作は読んでないけどさ。

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Posted by ブクログ 2015年03月04日

アーレントの持つ「分かりにくさ」を受容する精神が大切だとということを「分かりやすく」解いています。『人間の条件』などを読む前に是非読むべき書。

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Posted by ブクログ 2014年11月26日

読み直したさ:★★☆
わかりやすい。まとまりよし。アリストテレス的「実践」の手助け。弁証法,複数性,活動,共同体,アリストテレス,カント他。
〈感想〉
「あとがき」を読んで後悔した(それ以外は良かった。)。子離れのできない親のように感じた。同族嫌悪的なものだが。

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Posted by ブクログ 2014年09月21日

仲正先生の本。

アーレントの解説本。アーレントの著作を順に紹介し、仲正先生が噛み砕いてアーレントの思想を紹介してくれるんですが、さすが仲正先生。わかりやすすぎる。
アーレントってこんな分かりやすくて良かったっけ、って拍子抜けするぐらい。

複雑なものを複雑なまま受け止める姿勢というか、
議論し続け...続きを読むる姿勢というか、
そういうところがアーレント的であることの主なところというイメージがあったんだけど、
その本質のところを改めて知れたのは良かった。

単に議論し続ける姿勢、というとちょっとずれてしまう。
アーレントが捉える「政治」というものが、現在の利益代表による利益調整の場である政治とは違うものであるから。
アーレントのいう政治の本質とは、経済的な利害調整でも、特定の世界観の元での善への邁進(全体主義など)でもなく、(共同体にとっての)「善」をめぐる果てしなく続く「討議」である、というもの。

で、ここから進んでいくところの「活動的生活」については、仲正先生の解説をもってしてもなかなか腹落ちさせるのは難しい。簡単に腹落ちできる分かりやすさを求めるのがダメなんでしょうけども。
活動=actとは自分を発露し他人に働きかけることであり、それは舞台上で「演じる」ようなものでもある。演者がいるということはそれを傍観する観客もいるということで、そうした複雑な構成の中で自分の立ち振舞を考え実践していくことで人間性を、獲得していく。

利益的生活が超複雑に絡まりまくってしまっている現代社会でこうした営みを期待していくのは、なかなか難しい。むしろ全体主義の起源で語られるような分かりやすいストーリーによる危険性の方が現実近くて恐ろしくなります。

だからこその「今こそ」なんでしょうかね。良い本です。

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Posted by ブクログ 2014年08月16日

ハンナ・アーレントについての、伝記的な入門書。彼女の一生を時系列で追いながら、彼女の思想(思考)について、紹介しています。。
映画『ハンナ・アーレント』が昨年、日本でも公開されて注目度も高まっている折、彼女に興味を持たれる方も多いと思うけど、いままで彼女のことをまったく知らなかったという人であればこ...続きを読むの本から入るのがお薦めです。非常にわかりやすく概略が示されています。
僕は、学生時代に(若干ではあるが)アーレントに触れたことがあったのですが、忘れていることの方が多かったので、再確認の意味で、この本は重宝しました。

この本を通して、著者が訴えたかったことは次の一文に集約されるのではないかと思います。

「アーレントと誠実に向き合うということは、彼女の思想を教科書とするのではなく、彼女の思考に触発されて、私たちそれぞれが世界を捉えなおすということだろう。(p229 あとがきより)」

ただ、この本だけで触発され世界を捉えなおすところにはいきません。まだ入り口に立っただけです。一歩進めて、他の本を読んだり、当たり前のことですけど最終的には、アーレント自身の著作に踏み込まないと「誠実に向き合う」ことにはなりません。

アーレントの思考は、いまの日本の状況に多くの示唆を与えてくると思います。僕は一歩も二歩も進めるつもりでいます。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年04月25日

『全体主義の起源』の構成に即して、全体主義発生の過程をもう一度簡単にまとめておくと、反ユダヤ主義によって全体主義のための物語的な素材が準備され、国民国家の生成と帝国主義によって大衆社会が醸成され、その国民国家の経済的・社会的存立基盤が大きく変動し、大衆が動揺し始めた時、そうした大衆の不安を物語的に利...続きを読む用する世界観政党・運動体が出てきたわけである。p54

私の理解では、アーレントが古代のポリスに西欧的な「人間性」の原型を求めたのは、別に、そこに立ち返ったら、素晴らしい「人間性」を回復できると素朴に信じているからではない。彼女の関心はむしろ、「ヒューマニズム」に基づいて万人に普遍的な人権を付与し、民主主義の範囲を拡大してきた西欧の市民社会が、大衆社会的な状況に陥って"政治"的に不安定化し、全体主義の母体になった原因を、「人間性」という理念の起源にまで遡って探求することにあった。遡って考えた結果、「人間性」を育んだ古代の「ポリス」における理想の「政治」の前提として、「公/私」の厳格な区分が想定されていたことを再発見ーもしくは、そのように装丁されていたと想像ーしたのである。しかし、それは現代においては、失われてしまった区分であった。全ての人に市民権を認め、経済を社会全体として組織化するようになったがゆえに、「公/私」の区分が流動化している現代の市民社会(資本主義社会)では、特殊ポリス的な環境の中で形成されてきた「人間性」をそのまま保持し続けることはほぼ不可能なのである。p115

【(仲正流に再構成した)カント=アーレントの政治哲学の中心的テーゼ】p203
[判断力→共通感覚→拡大された思考様式→活動→公共性]というラインで、カントの三批判とアーレントの政治哲学、観想的生活(精神の生活)と活動的生活(政治的生活)とが繋がっているのである。

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ネタバレ

Posted by ブクログ 2014年02月10日

「政治」における「分かりやすさ」の危険性を指摘したハンナ・アーレント。彼女の政治哲学思想には、曖昧でよく分かりにくいというイメージがつきまとう。それもそのはず、「政治というものは、二項対立構造などを用いて分かりやすくすればよいという単純なものではない」という論旨と、それにあいまって巧みな哲学的・比喩...続きを読む的な文章を駆使する彼女の著作は、難解に見えるだろう。
本書は、「そうしたアーレントの政治哲学を論旨明快に解説…」というような新書ではない。逆に、「よくわからない、ということがよくわかる」ように書かれている。そこがいい。

・「活動」=「(物理的な暴力によるのではなく)言語や身振りによって他の人(の精神)に対して働きかけ、説得しようとする営み」=「『世界』には自分一人がいるわけではなく、複数の人格が存在していることを理解したうえで、(直接的に知覚することのできない)お互いの人格に影響を与え合おうとする営み」

・全体主義の問題=「自分たちと考え方が違う異なったものを抹殺することによって、『活動』の余地をなくし、『複数性』を消滅させようとしたことにある。『複数性』を喪失した"人間"は、他者との間で本当の意味での対話をすることができなくなる。」

・「『活動』が可能になる環境」=「ポリス」の基本構造=「『公的領域 public realm』と『私的領域 private realm』の分離化」

・ポリスの「政治」は、経済的な利害関係(interests)から自由な「市民」たちによって営まれていたので、ポリスの理想とか、市民が共通に求めるべき「善」についてオープンに議論することができたが、近代市民社会ではむしろ「経済」の運営などが、議会で行われる"政治"の主要な関心事(interests)となった。現在ではほとんどの場合、各人の関心は個人的な利害と全く無関係とは言えない。

・「アーレントの限界」
1.人文主義的教養(フマニタス)の必要性を説き、大衆を啓蒙する知識人や哲学者などの言論活動を生業としている者たちこそ、「複数性」を増幅させる純粋な「活動」をしにくくなっているかもしれない。
2.学者も給料をもらって仕事をしている限り、経済的利害から全面的に"自由"になることはありえないし、引きこもって思索するばかりだと「活動」する能力はかえって低くなる。
3.かといって、街頭演説で反権力を叫ぶ人の方が人間的「活動」力が高いとも言えない。複眼的な視点を生み出す討論なしに、集団で"一つの大きな声"を上げ続けることは、人と人の「間」を失わせることになる。
4.引き籠もるだけでも派手なアクションをすることだけでもダメ。複眼的視点を生み出す討論が重要だが、時間と場所とお互いに自由な人格として認め合っている仲間がいなければ、本当の意味で討論することはできない。
5.現代社会には、経済的利害から完全に切り離され、全市民が対等な立場で自らの意見を開陳できる「公共領域」など存在しない。
6.ポリス的共同体の伝統を持たない文化圏に属する人々にはそもそも、彼女の想定する「人間性」が与えられていないことになってしまう。
7.西欧圏でも家長の身分を持たない人、特に女性は、アーレントのポリス・モデルでは、ポリスの公共の場に「現れる=登場する appear」ことができない。現代では女性も市民的公共圏に参加できているが、「経済」的な関心が支配的になっている現代の「社会的領域」には、本来的な意味での「公共性」は成立しえない。
8.アーレントの理想の「ポリスの政治」は、現実にあったとされるポリスの政治とはかけ離れている。物質的な利害から完全に解放されて"自由"に思考できる「市民」など、現実の歴史には存在しなかっただろう。

・アーレント自身、上記の矛盾がもたらす冷厳な現実に気付いていただろう。その上で、「人間性の素晴らしさ」あるいは「ヒューマニズム」を無邪気に信じ、それを信ずることでいつかユートピアを実現できると盲信している"良心的"な知識人たちに警告を発している。無邪気な「人間性」信仰は、その理想に合わないものを排除する全体主義に陥りかねない。

著者は彼女のことを、「人間性」に過剰な期待を寄せるヒューマニズム系思想を一旦解体したうえで、全体主義につながる危険性のある「思考の均質化」だけは何とか防ぐというミニマルな目標を追求した控えめな政治哲学者ではないかと考えている。

・「活動的生活 vita activa」と「観想的生活 vita contemplativa」

人が「活動」の表舞台からいったん引き下がって物事を静かに見つめることの必要性も指摘。「活動」を通して他者の視点を知ることで「観想」の視野が広がるし、「観想」を行うことで「活動」における言論の中身も洗練されていく。

・「観想的生活」について述べたアーレントの未完の著作『精神の生活』より

カントの『判断力批判』からアーレントが注目したのは、「一般伝達可能性」「共通感覚」「拡大された思考」の3つ。

[判断力→共通感覚→拡大された思考様式→活動→公共性]のラインで、カントの三批判とアーレントの政治哲学、観想的生活(精神の生活)と活動的生活(政治的生活)が繋がっている。

・「観客=注視者」の重要性。問題の当事者であるからこそ判断できないこともある。局外中立的な位置にあって、事後的に政治的・歴史的出来事の価値を判定する観客のことを、アーレントは「公平な=非党派的注視者 impartial spectator」と呼ぶ。

各人の内なる"公平な注視者"は、厳密にはどこか偏っている=党派的(partial)なのは仕方ないが、各人が経験を積み、且つ、他者と意見を交換することで、それぞれの内なる"公平な注視者"が次第に相互接近していくはず。そうして社会全体が「公平な注視者」を共有することが社会的正義の基盤になる、と考えた。

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Posted by ブクログ 2013年09月25日

これは必読だと思う。
ひとつに、とても「わかりやすい」。
ふたつに、読んでるとすごくモヤモヤするし、考えさせられるということ。
アーレント・仲正はおそらく遂行論的矛盾を犯しているけれども、それでも読む価値がある。

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Posted by ブクログ 2013年04月22日

ハンナ・アーレント本を読んで、仲正先生ならばどのように解説するかと興味をもって読んでみた。

ハンナ・アーレントの生涯や著作について、仲正先生なりの理解や解釈を加えつつ、この日本の文脈等で説明してくれる。ハンナ・アーレントの著作によれば、悪人がいるわけでもなく、環境や思想が人の行動を変化させていくと...続きを読むいう面については、誰にでもあてはまると思った。

さっと読めて、アーレントの本質がわかりやすい本だと思う。

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Posted by ブクログ 2022年05月17日

[第1刷]2009年5月20日
わかりにくいアーレントの思想が、こんなにわかりやすく解説されるとは驚きでした。ただ、筆者の文章は、読みにくさと読みやすさが同居し、慣れるまで少々読み疲れしましたが・・・・
本書により、アーレントの思考が多少なりともわかったので、何度も挫折した「人間の条件」を読み進めら...続きを読むれそうです。
現在の政治には(特に民主党政治)には、アーレント的な感覚が必要ですね。

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Posted by ブクログ 2017年11月07日

『全体主義の起源』『人間の条件』『革命について』そして最晩年の『精神の生活』とそれを補完する「カント政治哲学講義」をとりあげ、その思想の「もどかしさ」がもつ魅力を、著者自身の明快なことばで解説しています。

「序論」には、「アーレント理論の“忠実な解説”は放棄して、アーレントの思想の中で特に重要だと...続きを読む私が思っている内容を、現代日本でもお馴染みの政治・社会問題にやや強引に引き付けながら紹介していくことにしたい」と書かれていますが、そこまで強引な解釈をおこなっているようには感じられず、むしろ現代社会のなかに具体例を探しながら、わかりやすく解説している本だと思います。

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Posted by ブクログ 2015年07月10日

政治や人間性というのを「読み直す」為の本になっている。
特に人間とはペルソナを付けてはじめて人間として想定される本性に近づくという論点は重要なものだろう。
ならば、仮面そのものともなりうる言葉とは人間性の概念において中心となるものだ。ただ、空間のベクトルについてはこのままでは未整理のままだとも思う。

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Posted by ブクログ 2014年02月23日

昨年末…映画『ハンナ・アーレント』を観に行って驚いた。いつもは客席もまばらな単館映画ばかりをかけるハコが満席。用意された補助席も足らず、床に敷かれた座布団に腰をおろして観たのだった…アーレントの言説のなにに、今の日本の人たちは惹かれるのだろう…?

映画はアイヒマン裁判の傍聴からなされたアーレントの...続きを読む言説による、世間からのパッシングを軸に、その人生を俯瞰して見せてくれた…映画を観たあと、アーレントの思索をたどろうとして、主著である『人間の条件』を買ったのだけれど、数ページめくってみて、とても読める代物ではない…と諦めた…で、概説書が欲しくて手にしたのが本書だった。

ーアーレント理論の“忠実な解説”は放棄して、アーレントの思想の中で特に重要だと私が思っている内容を、現代日本でもお馴染みの政治・社会問題にやや強引に引き付けながら紹介していくことにしたい。
…と冒頭でうたわれた本書は、ボクのような読者にとって格好な指南書だったのだ。

少なくともアーレントの思索の変遷を大づかみにとらえることができた。さらに、現代日本において、なぜアーレントの言説が顧みられているのかも、おぼろげながらつかむこともできたような気がする…たとえば、こんな一節があった…

ー「経済」的利害を中心に画一的に振る舞うようになった市民たちは、思考停止し、自分にとっての利益を約束してくれそうな国家の行政機構とか世界観政党のようなものに、機械的に従うようになっていく。それはまさに、『全体主義の起源』でアーレントが描き出した、全体主義の母体としての大衆社会の在り方に他ならない。

本書によって、ようやくハンナ・アーレントの原著の入口に立てたような気がする…扉を開けたいと思う。

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